316 出発進行にゃ~
天孫降臨から数週間、猫の国には平和が訪れ、わし達は楽しくわいわいと暮らしている。
猫の街も産業やお店が稼働し、お金も流通し始めた。最初は使った事のない者が大半だったので問題だらけだったが、いまでは元奴隷の猫耳族も、子供達も使えるようになった。
これにはふたつの要因が大きかったと言えよう。
ひとつ目は、子供達を寮生活に変更し、文字の読めない猫耳族も希望者は寮生活に変更した。ここで、トウキン校長率いる教師陣が、寮で移動教室を開き、文字と簡単な計算を教えた。
ふたつ目は、商店主が懇切丁寧に価格とお金の枚数を説明し、利益を求めず騙す事を禁じていたので、お金初心者でも安心して買い物が出来た。
商店には優遇措置で、開業費用を街で持っているのだから不満は言わせない。完全に慣れるまでの辛抱だ。
この商店、産業、寮長、教師には、猫耳の里から来た留学生が、一人ないし二人がついて学んでいる。将来的には猫耳の里に戻って、各種開業を目指してもらう予定だ。
これら全ての事をまとめるのが双子王女の仕事。事務処理と人員管理は有能なのだが、発案に関しては苦手みたいだ。
なので、わしが街の発展に案を出すのだが、認証には消極的なので「にゃ~にゃ~」喧嘩する事が多い。
わしから発案すると喧嘩になるので、街の者からの要望を聞く目安箱を設置してみた。その要望を見て、話し合いをする事で喧嘩は減ったが、早く二人で解決できるようになって欲しいものだ。
猫の街は、ある程度は軌道に乗ったので、わしはソウの街にお出掛けする事が多い。今日も、リータ、メイバイ、コリスを連れてやって来た。ソウにお出掛けする理由は、国の新規事業の模索と、リータ達のレベルアップだ。
新規事業は、わしがホウジツのアドバイザーになり、外貨の獲得方法の伝授や、新しい乗り物の実験を行っている。
現在猫の国は税金の取り立てをストップし、帝国の貯め込んだお金で賄っているので有限だ。だから外貨を獲得し、国の運営に回したいので大事な仕事だ。
リータ達のレベルアップは、わし直々に体の作り方、魔法の使い方、戦闘訓練を行っている。リータとメイバイは、せめて白い獣と戦っても足を引っ張らないぐらい強くなりたいんだとか。
コリスは体が出来ているので別メニュー。魔法の訓練と、言葉や文字の勉強をしている。勉強は嫌がるかと思っていたが、絵本が読めるようになって嬉しいみたいだ。
この様なメニューをこなす為に、今日もわし達はソウの宮殿、地下空洞にこもっている。
「シラタマさん。魔力は、ほぼ使いきりました!」
「私もニャー! 昨日より多く【鎌鼬】が撃てたニャー」
「わかったにゃ。じゃあ、少し吸収魔法で回復しておいてにゃ」
「「はい(ニャー)!」」
「モフモフ~。わたしもけっこう使った~」
「じゃあ、吸収魔法を使いにゃがら、絵本でも読もうかにゃ」
朝のメニューは魔法の訓練。得意な魔法を、わしの作った【土壁・四角】に撃ち込ませ、魔力が減るとコリスはお勉強。リータとメイバイはわし特製、重力魔法を入れた魔道具を付けてランニングだ。
この地下空洞なら、キョリスの巣並みに魔力がみなぎっているので、わしがやっていた練習メニューを行えば、簡単に強くなれる。……と、思われる。
正直、人間に当て嵌まるかわからないので、ぶっつけ本番だ。まぁ皇帝が強くなっていたから、あながち間違いではないだろう。
リータとメイバイは、わしの作った訓練メニューをこなす為に、地下空洞に作ったアップダウンのあるトラックを走り、お昼になると休憩する。
「ほ~い。ごはんにゃ~。そこまでにするにゃ~」
「はぁはぁ……もう少し」
「まだ動けるニャー……はぁはぁ」
「ダメにゃ。適度な休憩も、訓練の内にゃ~」
まだ訓練をしようとする二人を強制的に休ませて、渋々席についた二人は、焼おにぎりに手を伸ばす。
「あれ? いつもよりおいしくないですか?」
「エミリちゃんも、料理の腕が上がったニャー。私も負けてられないニャー」
「ああ。これは、今までの醤油モドキじゃなくて、本物の醤油だからにゃ」
「あ! ついに出来たのですか!?」
醤油は大豆が手に入り、収穫も終わったのでエミリと猫耳族の協力の元、ようやく作り上げた逸品だ。
元々、猫耳族は味噌を作っていたので、醤油作りは似たような工程。ただ、薄口醤油は作り方がわからないので、今回は実験を兼ねて溜まり醤油を作ってみた。
問題の熟成や発酵での時間は魔法で短縮。醤油と味噌の為に、寝る間を惜しんで発酵魔法を探してやった。わしの食に対するやる気をナメるな!
「このデザートもおいしいです~」
「お米から出来てるニャ?」
「お米はお米にゃけど、もち米にゃ。これはみたらし団子と言って、さっき食べた醤油も使われているにゃ」
もち米は生産されていなかったのだが、何度か米を食べている時におこわになっている回があって、もち米に気付いた。
残念ながら、ほとんどの米に混ざり込んでしまっていたので、寝る間を惜しんで仕分けした。わしの食に対するやる気をナメるな!
次回からは分けて植えるように指示を出したので、もち米も安定的に確保できるようになった。ちなみに、もち米を粉にした物を白玉粉という事は、恥ずかしいから皆には秘密じゃ。
「おなかいっぱいです~」
「こんなに食べたら動けないニャー」
「にゃ~? 軽めに用意したつもりだったんにゃけど」
「そうでしたか?」
「う~ん……たしかに前より少ないかもニャ」
「あ! そう言えば、キョリスも少食だったにゃ。ここの空間が、食事量を減らしていると思うにゃ」
「じゃあ、ずっとここに居たら、食事はいらないのですか?」
「休憩せずに動き続けられるニャー?」
「休憩は大事にゃ! そんにゃ無茶な訓練をするにゃら、訓練は中止にするにゃ!」
わしが語気を強くすると、二人は顔を曇らしてしまった。
「あ……すみません」
「ごめんニャー……」
「わかってくれたらいいにゃ。わしは二人が強くなるより、いつまでも健康でいてくれるほうが嬉しいからにゃ~」
「シラタマさん……」
「シラタマ殿~!」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
ちょっと言い過ぎたかと思ってわしが優しい顔をすると、二人は抱きついて撫で回す。
「モフモフ~!」
「「「にゃ~~~」」」
そして、コリスも仲良くしているのが
そうこう遊んでいたら、ソウの代表ホウジツが地下空洞に入って来て、わし達の元へ叫びながら駆けて来た。
「お猫様~! お猫様~! あれ? コリスさん。お猫様はどこにいるのですか?」
「ホロッホロッ」
ホウジツはわしの姿が見当たらないらしく、コリスに質問する。だが、コリスは念話を繋いでいなかったようなので、ホウジツの言葉はわかったが、声を伝えられなかったようだ。
なので、わしはコリスの下から顔を出して答える。
「ここにゃ~」
「わ! リータ様やメイバイ様まで!? 大丈夫ですか?」
「にゃんとかにゃ。それでどうしたんにゃ?」
「あ、えっと……そうです! 試作機が完成しました!!」
「にゃ!? よくやったにゃ~」
「これから試運転をしようと思っているのですが……」
「コリス~。どいてくれにゃ~」
わし達はコリスから脱出すると、揉み手のホウジツの案内で馬車に乗り込み、街の外に出る。するとそこには、三両編成の列車があった。
「お~。思ったより早く出来たんだにゃ」
「それはもう、お猫様の教えが良く、鍛治職人も効率よく作業してくれたからです~」
この列車製作には、わしも苦労した。
地下空洞で魔道具の魔力補給が簡単に出来るのならば、車と同じように、土魔法の入った魔道具で車輪を回転させる事が出来る乗り物があれば、安価な移動手段になると思って製作が始まった。
最初に作ったのはミニカー。魔道具に車輪が回転するイメージを付与して走らせてみたが、失敗の連続。
同じ魔法、同じ魔力量で作ったつもりでも、若干の違いがあるのかまっすぐ走らないし、速度も安定しない。何度も失敗を繰り返し、発想の転換をせざるを得なくなった。
そこで思い出したのが、雷魔法と電球。魔道具に伸ばした鉄線で電気がつくのだから、モーターを作れば回転するのではと、モーターの制作に取り掛かった。
幸い、元の世界でおもちゃのモーターを作れないかと実験をしていたので、知識もあったから、雷魔法で磁石と電力、鉄魔法で軸や外装、銅線とその他を作り、完成する事が出来た。
ただし、わし一人で作ってしまうと、この国の産業として発展、大量生産が出来なくなるので、鍛治職人にはモーターのパーツ、銅線や鉄線の作り方を教える。
雷魔法は知られたくないので、ホウジツと終身奴隷の魔法使いにしか、その存在は教えていない。この奴隷に、磁石と雷の入った魔道具を作らせている。
列車の肝となる部分だ。情報漏洩は、極力減らしたいってのが本心。これでマネする者も現れないので、独占販売が実現するだろう。
動力が完成すると、列車への設置。列車自体は一両だけわしが見本を作ったので、試作機の車両は、見本と設計図を見ながら職人達が頑張って作ってくれた。
もちろん、全車両サスペンション搭載。その一両目と三両目にモーターと、電池となる雷魔道具が設置してある。
モーターへの電圧の増減に苦労したが、職人達とわしの、何度もの失敗で作りあげた。五段回でスピードが上がり、弱い獣ならば、ぶっちぎるだろう。
列車なのだからレールは必要だと思って開発を指示してみたが、どうやらレールは交通の妨げになるらしい。馬車を使う世界だ。たしかにレールなんて張り巡らせると、毎度毎度、乗り上げるので邪魔になるのであろう。
なのでレールは無し。列車の走る道を土魔法で硬く整備し、その中央には脱線防止の魔法を付与する。
この魔法は、わしのマーキングと似たような効果。ただ単に、マーキングしている線を離れずに辿るだけの魔法だ。
列車にも同じ魔法を付与した魔道具を中央に設置しているので、整備した道から離れず、運転手もハンドルを握らずに楽に運転できる。
線路は片道しか無いので、行きは一両目のモーターで動き、帰りは三両目のモーターで走らせる予定だ。予想では、徒歩五日の距離を、二周できる。ただし、そこまでのスピードが出ないので、目的地までは半日以上かかってしまうだろう。
何故、片道しか動かないのに、それほど移動距離が長いのかをホウジツに聞かれたが、故障した場合と答えた。一両目が故障しても、もう一両が動けば引いて帰る事も、そのまま目的地に向かう事も出来る。
それに遠い他国で、どの様に使われるかわからないので、長く動くに越した事はない。
こうして、様々な知識と力、職人の協力の元、魔導列車が完成した。……ほとんどバスだけど……
わし達は揉み手のホウジツの案内で一両目に乗り込み、続いて乗り込んだ職人達と共に前方を見据える。
「ささ、お猫様。出発の号令をお願いします~」
「わかったにゃ! では、『魔導列車』初号機、出発進行にゃ~~~!!」
「「「「「にゃ~~~??」」」」」
わしの号令に、何故か乗り込んだ全員から、疑問の「にゃ~~~??」で返された。さすがにずっこけたわしは、立ち上がりながら怒った声を出す。
「にゃんで出発しないんにゃ!」
「えっと……。正式名称が違っていましたので……」
わしの質問に、ホウジツがこんな事を言う始末。わしは顔を青くして、リータとメイバイを見る。
「せ、正式名称って、にゃんですか?」
「それは、シラタマさんに似合った名前ですよ」
「それ以外、考えられないニャー!」
「いや、いつの間に変わっていたにゃ?」
「では、正式名称を知らないシラタマさんの代わりに、
「にゃ!? ちょっと待つにゃ!!」
「「せ~の!」」
わしの制止を聞かず、リータとメイバイは、発車の号令を掛ける。
「「キャットトレイン、出発進行にゃ~~~!」」
その声に運転手は頷き、レバーを前に倒す。するとキャットトレインは、車輪を回し、ゆっくりと動き出す。
同乗者が歓声をあげ、我が子を見つめるように目に涙を溜めると、さらにレバーが前に倒され、スピードが上がって行く……
その感動的なシーンに、わしはと言うと……
「にゃんでにゃ~~~~!!」
「にゃ~にゃ~」と文句を言い続け、皆を乗せたキャットトレインは走り続けるのであった。
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