315 マスコットのお出掛けにゃ~


 天孫降臨で猫の国に混乱が生じたが、どうにか落ち着くと、わしは女王に謁見する為に家を出る。

 今回の目的は外交なので、一人で羽を伸ばしてやろうと思っている。


 ガシッ!


 リータとメイバイには笑顔で送り出されたが、コリスとワンヂェンに尻尾を掴まれてしまった。どうやら、一人で遊びに行くと思われたみたいだ。

 転移魔法で行くつもりだったので、ワンヂェンを置いて行こうとしたら、引っ掻かれた。もう一度、王都に行ってみたいんだとか。

 なので、ワンヂェンにはきつく口止めして王都近辺に転移。


 教えても使えないよ? そんなに「にゃ~にゃ~」言うなら、もう連れて来ないよ?


 転移魔法を見たワンヂェンはうるさかったので、少し脅して王都の門兵に挨拶する。いつもの半分男に馬車に乗って行けと言われたが、なんとなく断って門を潜った。

 もちろん、マスコット三匹の登場で騒ぎが起きるが、気にせず大通りを練り歩く。


 どれが好み? 抱き心地で決めたい? お触り禁止です。

 どれが一番高値で取引されるか? 黒猫は安い? ワンヂェンが悲しむから、売らないでください。

 抱きつきたい? みんなで抱きついたら怖くない? 元々怖くないので、赤信号みたいに言わないでください。


 王都の住人の声を聞きながら歩いていたが、妖しく目を輝かせる婦女子に危険を感じ、わし達はダッシュで城に向かう。

 城ではアポイントを取っていたので、女王の待つ執務室に直行。コリスとワンヂェンはさっちゃんに預け、城の案内をしてもらうので、わしだけ女王に文句を言われる。


「まったく……馬車を用意していたのに、なんで使わないのよ」

「まぁまぁ。普通に歩いていたら、街の者も慣れるにゃろ? わしの時もそうだったにゃ~」

「そうだけどね~……」

「それより、本題に入ろうにゃ」

「……わかったわ」


 とりあえず話を変え、説教を早めに打ち切って、お茶を飲みながら話し合う。


「にゃにから話そうかにゃ?」

「何からも何も、光の件よ。わからないって言っているのに、他国からも問い合わせが多くて困っているのよ」

「この国にも被害が出たにゃ?」

「ええ。急に眩しい光に包まれたかと思ったら夜になって、馬車の事故が多数起きたと聞いているわ」


 夜? あ、山の影に入ったのか。東の国は、高い山が近いからな。しかし、西からの太陽の光さえ打ち消すなんて、さすが神様じゃのう。


「わしの国も、森から獣がわんさか出て来て大変だったにゃ~」

「それは御愁傷様。こっちでは、そこまでの被害がなかっただけマシね」

「それで光の件にゃんだけど、話す前に質問させてくれにゃ」

「ええ。なに?」

「女王は神を信じてるにゃ?」

「神? この国には宗教が無いから、そこまでは……」

「じゃあ、神様が地上に降り立ったと言ったら信じるにゃ?」

「……無理ね。そんなわけ、あるはずがないじゃない」

「そうにゃんだ……」


 双子王女と同じ反応か……。宗教が無いから、信じるのは難しいのかな? 双子王女もわしが神様に会ったと言っても、ぜんぜん信じてくれなかったしな。まぁあんな説明では、わからんのは頷ける。とりあえず、事実だけ説明しておくか。


「いちおう、いま言った事が、光の一件の真相にゃ」

「嘘でしょ?」

「まぁ信じられないにゃら、それらしい嘘でも考えようかにゃ?」

「……本当なの?」

「信じるか信じないかは、女王しだいにゃ~」

「う~ん……もう少し詳しく説明してちょうだい」


 女王のお願いにわしは説明するが、要所要所で言葉が詰まり、上手く説明が出来ない。わしの転生は言う気はないのだが、アカシックレコードや大戦の事になると、言葉が出なくなる。

 リータ達に説明した時は、難しいかと思って言わなかったが、双子王女に詳しく説明しようとしたら、同じ現象が起きた。

 おそらく、スサノオが喋っていい内容を調整していると思われる。そのせいで、しどろもどろに聞こえて信用してもらえない事態になっている。


「だから~。神様が邪魔してるんにゃ~。ゴロゴロ~」

「言い訳が下手ね。何を隠しているのよ!」

「ゴロゴロ~。信じてくれにゃ~」


 結局、女王は信じてくれず、わしが「にゃ~にゃ~」言い続ける事で、諦める事となった。でも、わしの口から危険は無い事は聞けたから、一段落はついたようだ。


「もうそれでいいわよ。これで呼び出した用件は終わったわ。あとは、時間まで撫でるわね!」

「ずっと撫でてたにゃ~。ゴロゴロ~。こっちには、まだ言いたい事があるにゃ~。ゴロゴロ~」

「言いたいこと?」

「賠償金にゃ~。全額、耳を揃えて持って来たにゃ~」


 わしの発言に、現金な女王は撫でる手が止まった。なので、どこに出したらいいかと聞くと、麦の貯蔵庫があるからと案内され、担当者と手の空いている者も集めて、数量の確認をさせている。

 わしも数量の抜けがあってはいけないのでその場に同席し、嘘がないかを確かめ、最終的な麦の量を女王と共に確認する。それが終わると執務室に戻り、話の続きをする。


「これで賠償金は、完済でいいにゃ?」

「……ええ。でも、少し多いわね」

「まぁこれからの友好の為のサービスにゃ」

「そう言う事なら、有り難くもらっておくわ。それにしても、これほどの量の麦を、時期外れにどうやって用意したの?」

「それはトップシークレットにゃ~」


 双子王女には秘密にしているように頼んだけど、本当に秘密にしてくれたんじゃな。意外と口が堅いのか? それとも、食糧難だから見逃してくれたのか?

 まぁ女王に知られていないのだから、話す必要もないな。


「植物の成長が早くなる水を使っているとは聞いてるけどね~」


 バレテーラ。


「にゃ、にゃんで知ってるにゃ?」

「西の村で何かやっていたじゃない? 私が知らないとでも思っていたの?」


 どうやら、女王はとうの昔から知っていたようだ。村長がご丁寧に減税されていた麦を納税し、領主に時期も違うのにどうやって作ったのかを問いただされる。

 しかし、わしが秘密にしてと頼んでいたので、領主と板挟みにあった村長は、猫に聞いてくれと言ったようだ。

 そこから、女王の親友の猫を思い出した領主が、女王に一報を入れたらしい。さすがに村長も、女王の使いには口を割るしかなかったようだ。

 だから双子王女も、わざわざ報告する必要はなかったのだとか。


「村長もバカだにゃ~。黙っていれば、バレにゃかったのににゃ~」

「そうね。言われなければ、誰も気付かなかったわね。でも、そんな事をすれば重罪だったから、言わざるを得なかったのでしょ」

「いんにゃ。あの村長は人が良すぎるにゃ。誰かの恩恵を受けたら、配ってしまうんだと思うにゃ。悪い奴に騙されないといいんにゃけどにゃ~」

「そう……それはそうと、その栄養材?譲ってくれない? 捕虜の支払いにしてくれたらいいわ」

「あ~。あれはもう残りが少ないにゃ。これ以降は、わしも使う気がないからにゃ」

「本当~? まだ持っているんじゃないの~?」

「ゴロゴロ~」


 女王みずからのハニートラップにあったわしは、洗いざらい喋る。実際、巨象の血は残り少ないので、喋ったところで問題ない。さらに、危険性を話すと素直に引いてくれた。


「あの二人に殺され掛けたなんて……」

「わしじゃなかったら、確実に殺されていたにゃ。にゃははは」

「はぁ……よく笑っていられるわね」

「終わった事だしにゃ。もう、うちもめったに使わないし、不作の時にとっておきたいから譲れないにゃ~」

「それなら、その時に売ってもらったほうがいいわね」

「多少は援助してあげるから、先払いで捕虜のおまけしてくれないかにゃ~?」

「無理!」


 チッ……いまの流れなら、ぜったい首を縦に振ると思ったんじゃがな。


「じゃあ、これをプレゼントするから、割引をお願いしにゃす!」


 わしは、次元倉庫から大剣を取り出す。その大剣は、柄まで白魔鉱で出来ており、オンニの大剣とほぼ同じ大きさをしている。


「凄いわね……」

「いい物にゃろ? オンニの持つ国宝にゃんて、目じゃないにゃ」

「たしかに……これ一本で、捕虜百人分に匹敵しそう……」

「にゃ~? でも、これはプレゼントにゃから、割引してくれたらいいにゃ」

「どれぐらい?」

「タダにゃ~!」

「出来るわけないでしょ!!」


 結局、タダにはしてくれなかったが、割引は考えてくれるようだ。話し合いが終わり、女王に撫でられているとお昼が来たので、コリス達と合流して城のメシをゴチになる。


 さっちゃんは艶々つやつやした顔になって、ワンヂェンは逆にゲッソリしていたけど、なんでじゃろう?



 お昼を食べ終わると城をあとにして、キャットランドに向かう。なんでも二人とも、ここが目的だったようだ。

 しかし、笑顔の悪魔達が多くいるので、変身魔法を使って時間制限をするしかない。それに大人が遊んでいるのもおかしいので、ワンヂェンにはヤーイー子供バージョンに変身させる。

 二人はそれで楽しく遊べるが、わしはマスコットのままなので、子供達に取り囲まれてしまった。

 わしが犠牲になっているので、コリス達のコースアウトは助けられない。なので、孤児院の子供数名を二人に張り付かせ、監視をさせる。


 それでも二人は楽しく遊んでいた。コリスは友達がいっぱい出来たように楽しそうだ。ワンヂェンは子供に戻ったように楽しそうだ。わしはぬいぐるみ扱いされて悲しそうだ。


 しばらく子供達の相手をしながらその光景を見ていたが、コリスに限界が来たらしく、ボフンッと元のリスに戻る。その直後、ワンヂェンも元の黒猫に変わり、子供達が固まってしまった。

 わし達は撫でられる前にそそくさと逃げ出し、広場に走る。



 そうして広場で買い食いしていたら、仕事帰りのスティナにからまれた。


「またコリスちゃんを連れ出してるの? 陛下に怒られても知らないわよ」

「もう怒られたから、へっちゃらにゃ~」

「怒られたんだ……相変わらずこりないのね。あ、そうだ。先日の光の正体って、シラタマちゃんが何かしたの?」

「にゃんでわしがした事になってるにゃ?」

「だってあんな事をしでかすのなんて、シラタマちゃんしかいないじゃない」


 いくらなんでも、わしでもあんな光は出せん。買い被り過ぎじゃ。


「わしじゃないにゃ~」

「じゃあ、何があったの? シラタマちゃんが関係してるんでしょ?」

「言っても信じにゃいから、言いたくないにゃ」

「え~! 教えてよ~」

「近いにゃ~」


 スティナはわしに胸を押し付ける。わしは手で押し返すが、胸を揉んでいるみたいに見られてもアレなので、なすがままに受け入れる。


「ギルドマスターとして、知っておきたいのよ~」

「それにゃら女王に報告したから、そっちにいってにゃ~」

「当事者から聞いた情報のほうが確実じゃない? わかったわ。ポケットマネーで買うわ。コリスちゃん。おやつ買ってあげる~」

「ホロッホロッ」

「にゃ!? それはコリスを買収しているだけにゃ~」


 コリスはおやつの言葉に反応し、嬉しそうに屋台に連れられて、串焼き十本を手に持ち、頬袋を膨らませて帰って来た。すでに口の中に入っているモノもあるので、わしは情報を売るしか出来なかった。


「神様と会った?? シラタマちゃん……それは嘘の情報ね。返金しなさい!!」

「だから信じないって言ったんにゃ~~~!」


 スティナは信じてはくれなかったが、コリスが嬉しそうな顔をしていたので、返金は許してくれた。


「今日は泊まって行くのよね~? ふぅ~」

「いえ、帰らせていただきにゃす!」


 その後、エロイお姉さんの誘いを振り切って……いや、仕事を終わらせたわし達は、猫の国に帰るのであった。

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