314 天孫降臨の余波にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。大衆食堂のオヤジではない。

 現在わしは、オオゲツヒメの膝の上で撫でられ、スサノオの愚痴を聞かされておる。アマテラスが嘘ばっかり吹き回るとか、時の賢者ケンジが好き放題やったとか、わしに言われてもしらんがな。

 お茶漬けを出したんじゃから空気を察して、いい加減帰って欲しいもの……


「聞いているか?」

「はいにゃ!」


 ちょっと回想をしておるんじゃから、少しは止まってくれ。スサノオの愚痴は、まだ続くのか……


「だから、ここの救済措置でケンジを送り込んだのに、よけい悪化したんだ」

「あ~。わしもビーダールでの話を聞きましたにゃ。時の賢者ケンジは、巨大な象にかわいそうにゃ事をしていましたにゃ」

「そうなんだ。せっかく徳があり、博識で、ここの発展に役立つと思ってスカウトして来たのに裏目に出てしまった。この世界でも生きやすいように恩恵を多くやったのに……まさかあそこまで人が良く、頼み事はなんでも聞くとは思わなんだ」

「聞くところ、ケンジは若い魂だったようですにゃ。それじゃあ、あまり考えて行動しなかったんじゃにゃいですか?」

「そうだな。若いほうが行動力があると思ったが、思慮深くない者は、ここには合わなかったようだ」


 いや……神様なんだから、そこは予知して! と、ツッコんでいても、愚痴は続くよ。オオゲツヒメの撫で回しも続くし……そろそろ止めようか? たまにアマテラスの事で殺気を放つから、寿命が縮みそうじゃしな。


「それでな……」

「あの~……もう日が暮れそうにゃし、そろそろ帰りたいですにゃ~」

「もうか? まだまだ話し足りないんだが……」

「スサノオ様。ここは死後の世界ではないのですから、時間は有限ですよ」

「そうか……」


 なんかガッカリしてる? 愚痴ならオオゲツヒメに聞いてもらえばいいのに……


「時間を取らせて悪かったな。それで、姉も迷惑を掛けたようだから、何か詫びの品を贈ろうと思うのだが、欲しい物はあるか?」

「いえ。アマテラス様からは、魔法書にゃど、分相応にゃ物をいただきにゃしたので、間に合っていますにゃ」

「姉は魔法書を贈ったのか! 大戦を遅らせた褒美もあるから、俺もそれをやろうと思っていたのに……」


 なんか張り合ってる? 仲が悪いのは古事記通りじゃな。ここで何か貰ってしまうと、また会いに来そうじゃし、断るのが吉じゃろう。

 しかし、大戦を遅らせたって事は、火種はまだくすぶっているという事か……近日ではありませんように!!


「そうだな……よし! 俺はお前の願いを、何かひとつだけ、なんでも叶えてやろう。さあ、言ってみよ!」

「急にそんにゃ事を言われましても……にゃにも思いつかにゃいので、辞退させていただきにゃす」

「欲が無いやつだな。気に入った! 何か思い付いたなら、俺を呼べ。叶えに来てやろう」

「はは~。有り難き御言葉ですにゃ。その時が来たにゃらば、お力添えをお願いしますにゃ~」


 わしの返事に気を良くしたスサノオは、笑いながら立ち上がり、オオゲツヒメもやっとわしを膝から降ろして解放してくれた。


「あ、ひとつお聞きしたいのですが、スサノオ様がアマテラス様を怖がらせた逸話って、本当にゃんですか?」

「ほとんど嘘だ。俺が織女おりめを驚かして殺すわけがないだろう。姉が、俺をおとしめる為に人間に吹聴していたんだ」

「ですよにゃ~? 畑のあぜを壊したり、食堂でうんこにゃんてするわけにゃいですよにゃ~」

「それは本当だ。あの時は、俺も若かったからな」

「にゃ……」

「では、さらばだ!」

「猫ちゃん。抱き心地が良かったわよ。また会いましょう」


 別れの挨拶を済ましたスサノオとオオゲツヒメは、光に包まれると、跡形も無く消え去った。そうして残されたわしはと言うと……


 うんこは本当でも隠そうよ~。


 ツッコミを入れながら、笑顔で手を振り続けたとさ。




 神々がこの地を去ると、わしはリータ達の看病を始める。まず最初に目覚めたのはリータ。その後、コリス、メイバイが目を覚まし、恐怖心をぬぐう為に、アニマルセラピー。

 スリスリと頬擦りし、お茶を飲ませて皆の気持ちが落ち着いたら、光の正体を教えてあげた。


「やはり、あの方々は神様だったのですね」

「リータも会った事があるから、みんにゃより気絶が遅かったんだにゃ~」

「いいニャー。私も見たかったニャー」

「メイバイは信じてくれるんにゃ」

「シラタマ殿の言う事は、全部信じるニャー! それに、あんなに近くで神様を感じたんだから、嘘だと言われたほうが信じられないニャー」


 たしかに……巨象より遥かに圧力があったんだから、信じる材料にはなるか。


「モフモフが無事でよかった~」

「心配してくれてありがとにゃ。わしも、みんにゃが無事で嬉しいにゃ~」

「シラタマさん……」

「シラタマ殿……」

「モフモフ~。おなかすいた~」

「にゃはは。そうだにゃ。ちょっと早いけど、晩ごはんにしようかにゃ」


 こうしてスサノオショックから立ち直った皆は、巨象フルコースで腹を膨らませ、笑顔が戻る事となった。



 その後、川の近くにマーキングだけして、猫の街近辺の森に転移する。そこからわしはリータを抱いて、コリスはメイバイを乗せて、小走りに外壁まで走る。

 すると、猫の街は物々しい雰囲気に包まれ、獣の死体が転がっていた。わしは何事かと思い、東門まで急いで走る。

 東門に辿り着くと、わし達に気付いたケンフとシェンメイが外壁から飛び降りて走り寄る。


「シラタマ陛下! ご無事だったのですね」

「いったいにゃにが起こっているにゃ?」

「凄い光が辺りを包んだでしょ? それに驚いた獣が、森から出て来ているのよ」

「あ~。ここまで届いていたんにゃ」

「何かあったの?」

「またあとで話すにゃ。それより、現状を聞かせてくれにゃ」

「でしたら俺が……」


 ケンフから説明を聞くと双子王女に通信魔道具を繋ぎ、指揮をお願いする。その時、わしと連絡が取れなくて、何度も掛けたとキレられて平謝り。

 ラサのウンチョウと連絡をこまめにとって、国のどこかに被害が出る場合は、すぐに連絡をするようにお願いする。


 そして、コリスにも猫の街を守ってくれるようにお願いし、あとの事はリータとメイバイに頼むと、わしはワンヂェンを背負って猫耳の里に走る。

 猫耳の里でも獣が多く押し寄せていたらしく、獣の死体が多数転がっており、コウウンと合流して詳しい話を聞く。

 怪我人も出ていると言うので、そちらはワンヂェンに任せ、わしは探知魔法を使って獣を狩りまくる。

 そうこうすると、獣の反応が無くなったので、コウウンにソウを見て来ると言って、ワンヂェンを置いて走る。



 ソウまでは離れているので、魔力のストックを使って転移。ソウにも獣が押し寄せていたので、獣を倒しながら壁まで近付く。

 そこでガクヒ将軍を発見し、少し話をしてからホウジツに連絡をとる。どうやら初めての経験で、いっぱいいっぱいになっていたようだ。だが、ウンチョウに励まされ、ガクヒ将軍が指揮をとってくれているので、後手には回っていないようだ。

 ここでも探知魔法を使って獣を狩り、辺りに反応が無くなれば、ウンチョウに連絡をとる。


 村の現状を聞くと最北の村が緊急事態だと聞き、急いで向かう。村には村人の姿は無く、獣が入り込んでいたので一匹残らず倒すと、わしがプレゼントした避難所をノックする。


 村長が顔を出したけど、獣ではなく、猫です!


 驚く村長から話を聞き、怪我人はいたけど命に別状はないようなので、ソウから兵と回復魔法使いを送るから、しばらく避難所に隠れているようにと指示を出す。


 日が完全に落ちたところで、村での危機を乗り越えると、もう一度ウンチョウに繋ぎ、兵と回復魔法使いを送るように言ったが、すでに手配済みとのこと。

 他に急ぎの所はあるかと聞くと、南の村には偶然奴隷兵が固まっていたから、なんとかなるようなので、ソウに走り、ちょっと獣を狩って、猫の街に走る。



 猫の街は高い壁とお堀があるので獣は入り込まないが、森から出て来る獣を片っ端から狩っていたので、皆に疲れが見える。

 なので、一時休憩させる為に中に入れ、夜食の手配を頼む。その時、最終兵器シユウを投入。月明りの中、猫の国最強タッグで獣を狩りまくり、短時間で辺りの獣を狩り尽くす。

 ここは、シユウとコリスがいるので、解決と言っていい。なので、外壁の中に入って小休憩。


 おにぎりを何個も頬張ると、もう一度、猫耳の里へ走る。案の定、獣が集まっていたので、わしも戦闘に参加。そしてソウに飛び、北の村へ走り、猫耳の里を守り、ワンヂェンを背負って帰った頃には、太陽が高くなっていた。




「お疲れ様です!」


 外壁の中に入ると、リータとメイバイが駆け寄って来た。


「お疲れにゃ~。それで、被害はどうにゃ?」

「怪我人は出たけど、街は大丈夫ニャー」

「外壁に少しヒビが入ったようですけど、軽微なようです」

「軽症にゃら治療院で間に合うかにゃ。ヒビも直すのは先でいいにゃろう。あとは、シェンメイ姉妹を呼んでくれにゃ~」


 わしはシェンメイ姉妹に会うと、二人に労いの言葉を掛けて、しばらく猫耳の里を警備するように頼む。シェンメイは、ウンチョウからわしの護衛を頼まれていたようだが、本来なら必要ない。

 猫耳の里が落ち着いたらすぐに呼び戻すから、我慢するように言って、猫耳族の戦士も後発で向かわせる。二人なら、走ればすぐに辿り着くだろう。



 一通りの処置が終われば、双子王女に帰宅の挨拶。一晩中走り回ってくたくただ。少し仮眠をとらせてもらう。


 ガシッ!


 その前に、双子王女に尻尾を掴まれてグンッとなる。


「にゃに~?」

「光の正体を聞いていないですわよ!」

「何が起こったのよ!」

「あ~……言っても信じないにゃ」

「お母様からも、何度も連絡が来ているのだから聞かせてもらいます!」

「え~! 話せば長くなるにゃ~。とりあえず、女王には危険はない事と、近々顔を出すって言っておいてにゃ~」

「あとで話すのですよ?」

「わかっているにゃ~。おやすみにゃ~」


 双子王女の追及を軽くいなしたわしは、一時の睡眠をとって、獣の湧き出しが落ち着く二日間、睡眠時間を削って働いた。



 ようやくゆっくり休めるとリータとメイバイの間で寝るが、アマテラスがわしの夢枕に立ち、それに気付いたスサノオが乱入。

 どうやらわしの魂の記録に、書き換えられた箇所があったから調査していたようだけど、しらんがな。


 姉弟喧嘩なら、他所でやってくださ~い!!


 わしの夢の中の世界は二人の大喧嘩で、地が揺れ、空は割れと、てんやわんや。こうして、わしの安眠は邪魔されるのであったとさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る