638 人の成せる業にゃ~


「そのまま待機にゃ。いいにゃ?」


 怪我を治してあげた原住民達はどういう顔をしていいかわからず、わしの念話の質問にウンウン頷いていたので離れ、気絶している拷問官や見張りの男達は、全員奴隷紋を入れる。

 この奴隷官の二人を連れて、土魔法で足を縛られた教皇の前に立ったわしは、さっき撮った写真をチラつかせながら口を開く。


「ほれ? よく見ろにゃ。これが、お前の顔にゃ。人を拷問に掛けて、喜ぶ顔にゃ。これでよく聖職者だと言えたにゃ」

「なんで私の顔がこんな所に……」

「質問に答えろにゃ。醜悪な顔にゃろ?」

「拷問なんてしていません! これは全て、邪教徒を救う為にやっているのです。この試練に耐えたその時、しゅが許しを与えてくれるのです!!」

「ふ~ん……拷問じゃないんにゃ。じゃあ、お前が見本を見せてくれにゃ」

「はい??」

「全てを耐えたらキルスト教になれるんにゃろ? それにゃら、キルスト教の信者は耐えられるってことにゃろ?」

「いえ……我々には必要ない試練です……」

「連れて行けにゃ」

「「はっ!!」」


 拷問官二人に指示を出すと教皇の脇に手を入れたので、土魔法を解除。教皇は石のテーブルに張り付けられてわめき散らしている。


「なっ……なんでお前達があの猫の言う事を聞いているんだ! 試練を受けるのはあの猫のほうだ!!」

「にゃに? 見本を見せられないモノを人にやらせていたにゃ??」

「だから、これは邪教徒用だと言っているだろ!!」

「やれにゃ」

「「はっ!!」」

「ぎゃああぁぁ~~~!!」


 グシャッ、グシャッと四肢を潰され、気絶してしまった教皇には、水をぶっかけて起こしてあげる。


「次は~……ユタの揺りかごだったよにゃ? 連れて行けにゃ」


 ピラミッドのような物の隣でガチャガチャと拘束具をつけられる教皇。準備が済むと教皇は、ピラミッドの上に体が下を向いた状態で吊るされtた。


「まっ……待って……」


 教皇から弱々しい待ったが掛かったので、落とすのはストップ。


「にゃんか言ったにゃ?」

「腕が……足が……痛い……」

「そんにゃの大好きにゃ主とやらに言ってくれにゃ。落とせにゃ」

「待て! たす……ぎゃああぁぁ~~~!!」


 ピラミッドの先端に腹から落ちた教皇は、腹に穴が開いたようだが、すぐに救出して回復魔法。腹の穴と両足だけ治して、適当に選んだ拷問、鉄の処女に教皇をセットする。


「も、もう無理です! 助けてください!!」

「それって……拷問を受けている人に、いつも言われてにゃかった? お前は助けてあげたにゃ??」

「はい!!」


 ノータイムで助けたと言う教皇から視線を外すと、原住民に念話で事実かを質問してみた。


「あの人達は助けてもらった人を見たことがないんにゃって」

「う、うそだ!」

「嘘じゃないにゃ~。そもそも、わしに助けを求めるのは筋違いにゃ。お前の主に助けてもらえにゃ」

「そ、それは……」

「主は助けてくれないんにゃ~……じゃあ、被害者に聞いてみたらどうにゃ? 誠意ある謝罪をして許してくれると言ったにゃら、拷問をやめてやるにゃ」


 教皇は一瞬躊躇ためらうような顔をしたが、原住民に涙ながらに謝罪していた。


「にゃはは。お前の言葉じゃわからないみたいだにゃ」

「つ、通訳してください!」

「にゃんでわしが……と言いたいところにゃけど、今回だけしてやるにゃ」


 わしは教皇の謝罪の言葉を原住民に伝え、拒否するならあるポーズをしろと言ったら、全員一致のポーズをした。


「あ、アレはどういう意味ですか?」

「親指が下に向いているから、イエスの逆にゃろ。その前に首を切る仕草をしたってことは~??」

「ち、違います! 何かの間違いです!!」


 教皇は意味がわかっているのに否定するので、わしが正解を述べる。


「地獄に落ちろにゃ」

「ぎゃああぁぁあぁぁ~~~~~~!!」


 わしもポーズを決めると、無数の針が付いた鉄の扉が閉められ、教皇は穴だらけになる。それで死ねるほどわしは甘くない。完璧に治して拷問を続け、教皇は死ぬことも許されず、全ての拷問器具にて悲鳴をあげるのであった……





「さて……もう一周にゃ」


 水を掛けて目覚めた教皇は、地獄が続くと聞いて涙ながらに訴えて来た。


「も、もう……こんな酷いことはやめてください……助けて…助けて~~~!!」

「こんにゃ酷いことにゃと……」


 教皇の言葉に、わしはキレる。


「誰がやっていたんにゃ! お前がやったんにゃろ! 神がこんにゃ酷いことをしろと言ったにゃか! 違うにゃろ! お前が……人の意思がやってるんにゃ!!」

「しゅ……主のため……」

「まだ言うにゃか! 神はただ人を見守るだけの存在にゃ! お前は神の名を借りて、享楽にふけっていただけにゃ! この顔を見ろにゃ! わしの顔を見ろにゃ! 拷問にゃんかしてたら、笑えるわけないにゃろ!」

「………」

「連れて行けにゃ!!」


 写真に映し出された教皇は恍惚こうこつの表情。逆にわしは険しい表情。いまにも泣きそうな顔で怒鳴り付けるわしの剣幕に押された教皇が黙ったら、拷問官二人に拷問の再開を命令する。

 そうして教皇は泣き叫んでいても逆らえず、拷問器具に張り付けられた。


「あ、悪魔……悪魔だ~! 主よ、この悪魔に天罰を与えてください! 主よ! 主よ~~~!!」


 一周目の拷問で死ぬほどの苦痛を受けたのだ。これから同じ苦痛を受けると知った教皇が錯乱したり、わしを悪魔と呼んでも致し方ない。

 だが、その言葉はわしの怒りを膨らませるしかなかった……


「お前がやっていたんにゃろ……」


 ゴゴゴゴゴゴ……


「な、なんだ……地面が揺れ……ヒッ」


 突如起こる揺れに、この場に居る教皇や原住民だけでなく、アメリヤ王国に住む全ての人間が恐怖を抱く事になるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 時を同じくして、公爵邸にて寝ていた猫パーティは、揺れを感じて全員飛び起きた。そして、バルコニーに出て同じ方向を見ている。


「シラタマさんが怒っています……」


 リータは物々しい雰囲気を感じて、ボソッと呟いた。


「リータはよくわかるニャー」

「あ……あの時、メイバイさんは寝ていましたか」

「あの時ニャ?」

「あまり詳しく言いたくないのですが……フェンリルの時です……」


 リータはメイバイのトラウマを刺激するような事を言いたくないが、少しだけ出して様子を見る。


「フェンリル……そうなんニャ。シラタマ殿は、こんなに怒っていたんニャ……」


 メイバイは自分から、数十人の猫耳族がフェンリルを操る為に命を捧げた事を皆に伝え、リータに補足を頼んだ。


「あの時は地面は揺れていませんでしたけど、似たような圧力がありました」

「似たようニャ?」

「今回は、なんだかいろいろ錯綜さくそうしているような……怒り、悲しみ、苦しみ……それを必死に押さえ付けているような……」

「うんニャ。なんとなく言いたいことがわかるニャ……」


 リータの説明に、メイバイだけでなく全員同じ印象を持っていたらしく、胸を締め付けられるような気持になっていた。


「シラタマ殿が心配ニャ……」

「ですね。でも、私達がそんな顔をしては、シラタマさんも辛くなっちゃいます。いつも通り接しましょう」

「うんニャー!」


 皆が頷いたその時、地震が収まった。


「シラタマさんは、まだ時間が掛かるかもしれません。私達は明日の為に寝ましょう」

「そうだニャ。忙しくなるニャー」


 皆はベッドに横になったが、やはりシラタマが心配なのか、なかなか寝付けないまま時間が過ぎて行くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 地震が起きた同時刻、アメリヤ王国に住む誰もが目を覚まし、意味もわからず恐怖に震えていた。

 その大半はキルスト教の聖典をブツブツ呟いて恐怖をやり過ごそうとしていたが、たった一人、国王のジョージ13世だけは少しだけ正解に近付いていた。


「ま、まさか……イサベレ様があのことを聞いて怒っているのか? あんな巨大な生き物を殺すイサベレ様なら、地面を揺らせるかも……」


 シラタマがイサベレをよいしょしまくっていたから、ジョージの答えは大ハズレだったが、揺れの正体はこの国の者ではないので半分正解にしてやろう。


「これだけの力がありながら、我が国を一方的に攻撃しないのだ。シラタマを信じて、ぬかりなく事を進めよう。アメリヤ王国の為に!!」


 こうしてジョージは明日のプランを思い描き、国民は恐怖に震えながら時間が過ぎて行くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「はぁ~~~はぁ~~~……」


 怒りのあまり隠蔽魔法が解けてしまったわしは、深呼吸をしてから隠蔽魔法を掛け直す。


 やっちまった……教皇だけでなく、原住民まで気絶してしまった。


 こんな密閉された場所でわしの殺気が漏れてしまっては、常人には耐えられないと反省する。


 ま、怒りのままに教皇を殺さなかったんじゃから、よしとするか。さすがはわし。ブチキレていても、止められたな。いまさらじゃけど、わしって正気を無くしたら、世界が滅ぶんじゃなかろうか? ……こわっ。

 今回は貧乏揺すりだけで済んだけど、今度からリータかメイバイについて来てもらおっと。あの二人と一緒なら、必ずわしを止めてくれるはずじゃ。撫で回して……


 この場に居る者は気絶しているので、いまの内に地下室探索。オオカミがなぜ寝転んでいるのかは気になったが、鉄格子や扉を見付けては写真に撮り、生き残りが居たならば回復魔法で治療。怒りはリータ達の写真を見てなんとか逸らす。

 その過程で、ベッドと女性だらけの部屋を発見し、ボロボロの全裸の女性を回復魔法で治してあげた。


 リータ、メイバイ、コリス、オニヒメ、さっちゃん、イサベレ、エミリ……


 また怒りが湧き上がって来たが、アルバムの中の笑顔を見ながら名前を呟き、冷静さを取り戻す。


 はぁ……あいつらは、邪教徒とか言いながら、どうしてレイプなんて出来るんじゃ。やりたいなら殴る必要もなかろう。女性をなんだと思っておるんじゃ……

 それにしても、ケモミミと尻尾のある女性が居るけど、これがオオカミ族か? あと、さっきも見たけど、このオオカミはなんなんじゃろうか??


 わしは二匹の寝ているオオカミをちょっとだけ調べる。


 なんか手足は人間っぽい……。胸は……柔らかい。ふたつ付いてる……。ワンヂェンやつゆみたいなもんか? いや、二人の胸とか触った事はないぞ。あいつらが勝手に風呂とか入って来て、胸とか押し付けて来るから知っているだけじゃ。

 てか、このオオカミ女もオオカミ族なのかも?? そう言えば、ジョージが立って歩くオオカミが居るとか言ってたような……あっ! さっき、鉄格子の所にもオオカミが居た!?

 てっきり人間と一緒に入れる拷問かと思っていたけど、あれも人間かも~~!!


 焦って戻ろうとしたが、女性は裸だったので全員にタオルや毛皮を掛けたら、ダッシュで鉄格子の場所へ戻る。

 先ほどは生死を確認していなかったが、オオカミの口に手を持って行ったら、二人は息をしていたので、慌てて回復魔法を使った。



 全員の治療が終わったら、拷問部屋に戻ってここに居る全員を起こす。ここで拷問を再開してもよかったのだが、教皇達には寝ていろと命令して、原住民には他の原住民を起こして連れて来てもらった。


「え~。今まで、辛い日々をよく生き抜いたにゃ。もう拷問にゃんてやらせないから安心してくれにゃ。てか、腹がへってるにゃろ? 料理を作るの手伝ってくれにゃ~」


 わしの言葉は通訳され、この場に居る全ての原住民は涙ながらに抱き合って喜ぶ。わしはそれを横目に見つつ、一人で料理を作り始めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る