639 議会での策略にゃ~


 教会の地下施設にて、わしが作業台を作ってトウモロコシをほぐしていたら、涙ながらに喜んでいた原住民がチラホラ集まって来たので作業に加える。

 そうして解したトウモロコシは、高級薬草と少量の焼きメガロドン肉と一緒に風魔法のミキサーに入れてペーストにしたら、牛乳の入った鍋で煮る。

 あとは塩で味を整えれば、わし特性、栄養満点コーンスープの完成だ。


 これは栄養状態の悪い者に固形の物は吐いてしまうと思っての配慮。明日にはモリモリ食べれるはずだ。

 しかしコーンスープを少量ずつ飲ませたら効果があり過ぎて、弱った胃腸も完全回復。飲んだ者から順に、大きな腹の音が鳴り出した。


 うん。もっと欲しいのね。でも、これは薬の一環でね。そこのオオカミの人は、わしを見てヨダレを垂らさないでくれる? いちおう命の恩人じゃぞ??


 人狼の目がちょっと怖いので、次の料理を急ぐ。適当な黒い獣を取り出して、あっちゅうまに解体。焼き場と塩を用意して、適当に焼いて食えと言っておいた。


 オオカミの人は焼かなくていいの? 血が滴ってうまいのですか……他の人みたいに焼いて食べなよ~。わしはデザートじゃないからな?


 ここでも人狼は別行動。生肉をモリモリ食ってちょっと怖い。わしのこともチラチラ見ていて気持ち悪い。なので、少し距離を取ってコーヒーを飲んでいたら、向こうから近付いて来た。


「あの……」


 人狼は裸でも男か女か見分けがつかないが、たぶん男だと思われる大きな人狼がわしに声を掛けた。


「にゃに?」

「まったく状況がわからないのだが、助けてくれたのか??」

「にゃ? 他の人から聞かなかったにゃ??」

「簡単な言葉はわかるが、俺達とは言葉が違っていて……お前は何故か頭の中で聞こえるから……」


 ああ。だからわしをチラチラ見ていたのか。そりゃ言葉が通じないなら状況が把握できんわな。


 わしは納得して状況説明し、自己紹介なんかもしておいた。


「あ……有り難う御座います!!」

「「「「「有り難う御座います!!」」」」」


 ビジジルと紹介を受けた人狼以外にも、いつの間にか三人の人狼とケモミミの集団も集まっていて、わしに礼を述べた。


「てか、どこまでがオオカミ族にゃの??」

「毛皮がある者と、耳や尻尾がある者だ。どうも容姿が違うから、ここに集められていたようだ」

「にゃるほど」

「ところで……あの者達はどうするのだ??」


 ビジジルは、教皇達を指差しながらわしに問う。


「わしの獲物にゃからわしが食うにゃ」

「マジで? 人間だぞ??」


 探りを入れる為にボケてみたら、オオカミ族全員にドン引きされた。どうやら見た目はオオカミだが、人食は御法度のようだ。わしの事は飢えたオオカミみたいな目で見ていたクセに……


「冗談にゃ。でも、お前達には、指一本触れさせないからにゃ」

「それでは俺達の怒りは……」

「抑えろにゃ。お前達が怒りをぶつけると、必ず返って来るにゃ。一族郎党皆殺しにゃ。だから責任は、この国に取らせるにゃ。わかったにゃ?」

「うっ……ううぅぅ。死んで行った者に、俺は何も出来ないのか……」

「にゃにも出来ないにゃんてことはないにゃ。一族が居るにゃ。仲間が居るにゃ。オオカミ族が永遠に繁栄できる未来が待ってるにゃ。にゃ?」

「はい……うぅ……ワオォォ~~~ン」

「「「「「ワオォォ~~~ン」」」」」


 オオカミ族の遠吠えは悲しく聞こえ、いつまでも続くので、いたたまれなくなったわしはある行動に移す。


「やりすぎでは……」


 奴隷にした教皇達に、拷問フルコースを代わる代わる自分達の手でやらせたら、オオカミ族だけでなくここに居た原住民は、わしにドン引きするのであったとさ。



 原住民は、拷問フルコースを見て少しは気分が晴れたようだが、三周目に入ったら気分が悪くなったらしく、今日はお開き。

 この地下で一番清潔なお楽しみ部屋で、全員一夜を明かす。その時、オオカミ族のエサドワという女性がせめてもの感謝とか言って、わしを抱いて寝ていた。


 モフモフの毛皮に包まれたわしは、心地良い眠りに誘われるのであった……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 公爵邸の朝……


 イサベレ達は、出掛ける準備をするように言われ、いつもの服に着替える。イサベレの刀以外の装備はリータの収納袋の中。これだけ小さいと、ジョージ13世との面会で武器を持ち込んでいるとは思われない。

 イサベレは特使の代表という事になっているから、おそらく携帯ぐらいは許されるはず。それに銃より弱いと思われているから、いざとなっても対応できると勘違いされるだろう。


 ゆっくり準備してシラタマを待っていたイサベレ達だが、戻って来る気配もなかったので、言われるままに部屋から出た。


 公爵邸から発車したバスは、イサベレ達を乗せて城へと向かう。城に着くと武器の有無を聞かれたが、思った通り検査は緩かったので、支度したままの姿で議員の集まる議会場へと通される。

 ここでイサベレ達は、国王であるジョージ13世の座る壇上の前まで真っ直ぐ連れて行かれ、自己紹介をしていた。


「うむ。が、ジョージ13世である。こちらこそ、お会いできて光栄だ。もっと近くで顔を見たい。壇上に来てくれ」


 イサベレは近くに居るアメリヤ王国の者へ確認を取ると、猫パーティ全員で壇上に上がる。そうしてジョージに差し出された右手を握った。


「やはり美しい……余の妃になってくれないか?」

「え??」


 シラタマの話では、ジョージから何かしらのアクションがあると聞いていたが、まさかプロポーズされるとは思っていなかったイサベレは聞き返した。


「一目惚れだ。余と婚姻を結べば、東の国ともより良い関係を築けると思うのだ。どうだろうか?」

「……これは作戦のうち??」

「いや、本気……」


 イサベレが問うが、ジョージの返事は議員からの大声で掻き消される。やれ何を言っているんだとか、やれ計画が違うだとか、議会は紛糾する。

 しかし、いつもは声を荒らげないジョージは凄い剣幕で吠え出した。


「うっせぇ! 人の恋路を邪魔するな!! お前らの計画なんて知るか! 俺は東の国に付く! この人を一生守るからな!!」

「「「「「なっ……」」」」」


 唖然呆然。女一人に国王がうつつを抜かし、議会の決定を覆したならば、開いた口が閉じなくなっても仕方がない。


「だからこれって、こっちの計画なの?」

「そうです! 結婚までが、シラタマの出した計画です!!」


 シラタマの計画はこうだ。ジョージは残すべき人物なので、議員を排除したい。なので、これから起こる事件を完全に拒否し、東の国側に付く事を明言すること。


 だからジョージが言っている事は、半分大嘘だ。


「私にはダーリンが居る。だから結婚できない」


 もちろん空気の読めないイサベレは拒否。王妃の椅子より、シラタマの愛人のほうが魅力的らしい……


「ダ、ダーリンって?」

「ジョージ陛下は会ってるはずだけど……」

「会ってる? ……あの猫!?」


 ジョージがシラタマの顔を思い出した瞬間、大声が木霊こだました。


「もういい! 陛下はご乱心だ!!」

「ここは我等が仕切る! 銃を構えろ!!」


 公爵と侯爵だ。痴話喧嘩に呆気に取られていたが、強引に計画のレールに戻そうとしている。

 その二人の声で、二階席に隠れていた十人のスナイパーが一斉に現れてライフルを構えた。


「や、やめろ! 撃つな!! 戦争になったら滅ぼされるぞ!!」


 ジョージはイサベレ達の前に出て怒鳴り付けるが、公爵と侯爵は聞き入れようとしない。


「何を馬鹿なことを……我が軍に敵うわけがない」

「まったくお父様と違い、自信がないところは困ったものですな」

「お前達は何もわかってないんだ! いいか? 絶対に手を出すな。これは、最高責任者の王の言葉だ。銃を下ろせ!!」


 二人には話が通じないと思ったジョージがスナイパーを説得しても、公爵と侯爵が割り込む。


「下ろすな! 陛下の前に剣を持った女が居るのだ!!」

「まずはあの女リータの肩に当てて、こちらの戦力を見せ付けるのだ! それですぐに白旗を上げる!!」

「よく狙え! どうせ向こうは何をやっているかわからん!!」

「やめろ~~~!!」


 ジョージが叫んで止めようとしても、時すでに遅し。公爵の子飼いのスナイパーが一発の凶弾をリータに向けて放つ。


 パーン! ドスッ……


 リータの肩口にヒットした弾丸は、皮膚を貫通し……


「なに当たってるニャー」

「ダーリンには避けるように言われてた」


 いや、服すら貫けていないので、メイバイとイサベレが文句を言ってるよ。


「いや~。どれぐらいの衝撃があるか気になりまして。あははは」


 議会の考えた策略は、まずはリータの肩に銃弾を当ててビビらせるとなっていたので、シラタマの作戦では避けて逆にビビらせるとなっていた。

 しかし作戦外の行動をしたリータは、頬をポリポリ掻いて空笑い。議員は銃で撃たれても笑っているリータを見て、時が止まっている。


「この程度なら、私達の服だけで命は守られそうですね。たぶん頭に当たっても痛くないんじゃないですか?」

「それはリータとコリスちゃんだけニャー」

「さすがに頭に喰らう勇気はない」


 リータが銃の驚異について分析結果を述べるが少しズレているので、メイバイとイサベレが修正する。そうしてキャッキャッと喋っていたら、アメリヤ側で一番先にジョージが復活した。


「お供の方にお怪我がなくて何よりです。申し訳ありませんでした! 無礼を許してくれとは言いません! 俺の命と議員全員の命を差し出しますので、せめて国民の命だけでも……何卒なにとぞ、何卒……」


 特使に引き金を引いたのはアメリヤ王国だ。東の国が各上だとわかっているジョージならば、命乞いしても仕方がない。しかし、上層部の命を持って命乞いしては、目の前の議員が納得いかないと叫び、公爵と侯爵も復活した。


「何かのトリックだ!」

「まやかしに騙される国王などいらん!」

「巻き込んでもかまわん! 撃て撃て~~~!!」


 かなり物騒な事を言ってスナイパーに指示を出し、議員も大合唱となる。


「コリス、オニヒメ。時間稼ぎお願い」

「「わかった~」」


 そこに、イサベレからの指示で二人の【光盾】。スナイパーからの銃弾は、四枚の光の盾で完全に遮断される。この間に皆は装備を整えていた。

 本当はリータ達には必要ないだろうが、ジョージが近くに居るので守ってあげたようだ。


 放たれた弾丸が突然現れた光の盾に当たって床に落ちても、スナイパーや議員は何が起こっているかわからない。しかし、公爵と侯爵が撃つように命令し続けてるので、スナイパーは狙いを定めて撃ち続けている。


 その時、入口の大きなドアが吹き飛び、人を担いだ猫が飛び込んで来た。


「にゃんか騒がしいと思ったら、もうおっぱじめてたんにゃ~。もうちょっと待ってくれてもいいにゃろ~」


 シラタマだ。ドアの破片が壇上にまで届いていた事に議員が驚いている内に、姿を現したのだ。


「「「「「猫!?」」」」」


 当然、立って喋る猫を見た議員は、さらに混乱の渦に突入するのであったとさ。

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