223 戦争 3


「「ア゛ァァーーーー!!」」


 突如耳につんざくパンダの【咆哮ほうこう】。口に集まった魔力が辺りに放出された。


 しばらくして、パンダの声が聞こえなくなると、アンブロワーズ王は叫ぶ。


「皆は無事か!?」



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 オンニサイド



 オンニ達は四つ脚で【咆哮】を放つパンダに駆け登り、頭に攻撃を加えている。


「くそ! 止まれ!!」


 オンニは連れて来た四人の騎士と共に、パンダの背中に何度も何度も剣を振り下ろす。


「こうなったら……副官。あとは任せる」

「何をなさるのですか?」

「顔に直接、剣を喰らわしてやる」

「き、危険です!」

「そうだな。だが、これ以上時間を掛けると、クイスマ達が持たない」


 オンニの覚悟の目に、副官は目を逸らさずに言葉を掛ける。


「御武運を……。我々は直ちに離脱! その後、残った脚に攻撃を仕掛ける!」

「「「はっ!」」」


 オンニは、副官達がパンダから飛び降りるのを見つめながら呟く。


「頼んだぞ……さあ、行くぞ!!」


 全ての騎士がパンダから降りるのを見送ると、オンニは自分を鼓舞して、頭から鼻先に向けて飛び上がる。


「喰らえ~~~!」


 そして魔力を流した黒い大剣を、自重を加え、鼻先に振り落とす。するとパンダの【咆哮】は下に向き、地面に穴を開ける。


「「「「オンニ様~~~!」」」」


 その姿を見ていた騎士達から、悲鳴のような声があがる……



「ふう……ギリギリ斬れたか」


 オンニの放った剣はパンダの鼻を斬り裂き、剣にぶら下がる形で、オンニは【咆哮】に呑み込まれずに助かった。

 オンニが額に浮かぶ汗を拭っていると、パンダは痛みに悲鳴をあげて、【咆哮】が止まる。

 しかし、パンダは大きく顔を振り、ぶら下がっていたオンニを振り回す。オンニは剣を離さずに耐えるが、パンダから剣が抜けてしまい、空に放り出された。


「オンニ様~~~!」


 副官は部下を残し、地面に打ち付けられたオンニに駆け寄ろうとする。だが、オンニは大剣を杖にして立ち上がり、制止を求める。


「すぐに戻る。少し休憩させてくれ」

「はっ! お任せを!」


 オンニ達の戦闘は続く……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 イサベレサイド



「【エアブレード】!」


 イサベレは【咆哮】を放つパンダに、怒濤どとうの攻撃を繰り出す。【咆哮】に耐えているリータとメイバイを、早く救出する為にだ。

 しかし、剣や魔法で傷は付けられるものの、止まる気配が無い。イサベレに焦りはあるが、それでも冷静にダメージを積み重ねる。それがいま、出来る事だからだ。


「はぁはぁ。少し飛ばし過ぎた。でも、急がないと!」


 イサベレは地に立ち、一息つくと、再び攻撃に移ろうとする。だがその時、声が聞こえて来るのに気付く。


「にゃ~?」


 リータとメイバイの声だ。

 リータ達はイサベレと別れた直後、【土壁・四角】に隠れ、【咆哮】を耐えていた。しかし、【咆哮】は力強く、土の壁は徐々に削られ、リータの盾に届いた。

 しばらく耐えていたリータだったが、一歩ずつ進み、メイバイに押してもらいながら【咆哮】の中、走ってパンダに向かっていたのだ。


「「にゃ~~~!」」


 声を張りあげ進んでいるが、何故「にゃ~」と言っているのかは謎だ。


 リータ達は盾を前にして走っていると、ついにパンダの【咆哮】の圧力が消える。


「あ! メイバイさん。パンダの懐に入れました!」

「よくやったニャー! でも、どうしようかニャ?」

「攻撃ですよ! 前脚を潰してパンダの攻撃を下に逸らしましょう!」

「わかったニャ! 右脚に行くニャー!」

「はい!」


 二人は走り、パンダの右前脚に拳とナイフを力いっぱい振るう。パンダは少しぐらついたが、潰れるにはまだダメージが足りないみたいだ。


「手伝う」

「イサベレさん!」


 そこにイサベレも加え、三人での集中砲火。その甲斐あって、早くもパンダの右前脚はくじける。【咆哮】も照準がズレ、地面に穴を開ける事となった。


「やったニャー!」

「まだです! 顔が地面に近いから、顔を攻撃しましょう!」

「ん。わかった」


 メイバイの喜んでいるところにリータが指示を出すと、イサベレが頷いた。


「あ……私なんかが指示を出して、すみません」

「いい。いまからリータの指示に従う」

「え……」

「考えてる場合じゃないニャー。いまは動くニャー」

「そうですね。行きましょう!」


 三人の攻撃を顔に受けたパンダは悲鳴をあげ、【咆哮】は止まる事となった。




  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 王サイド



 集団魔法【ハリケーン】は、中央に集められた気球を巻き込み、制御不能となった気球は次々と墜落する。

 そんな中、パンダの【咆哮】が放たれ、両翼がさらされる。だが、しばらくすると、【咆哮】は止まった。


「パンダの攻撃、止まりました! さらに空、地上の敵部隊も、【ハリケーン】によって壊滅的被害。驚異は去ったと言っていいでしょう!!」


 伝令兵の嬉しそうな声に、アンブロワーズは険しい顔を崩さない。


「うむ。被害状況はどうなっている?」

「両翼共に、【ウォールシールド】が間に合い、被害状況は軽微との事です。しかし、イサベレ様達の状況はわかりません」

「わかった。下がれ」

「はっ!」


 アンブロワーズは伝令兵が下がると、土魔法で作った台に登り、望遠鏡を構え、イサベレとオンニを探す。


(イサベレは……シラタマの仲間と共に攻撃をしているのか。こちらは大丈夫だな。オンニ……半数の騎士しか動いていない)


 アンブロワーズは状況を確認すると、指示に移る。


「オンニの部隊に応援を送れ。回復魔法使いも、数人連れて行け。急ぎだ!」

「はっ!」

「残った兵はゆっくり前進。パンダは無視していい。街を取り囲め!」

「はっ!」


 アンブロワーズの指示を聞いた伝令兵は走り、軍は前進するのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマサイド



「止まって!」

「またにゃ~?」


 わし達が屋敷の中に入ると、何度も罠のような魔法に遭遇した。


「ん……もういいわよ」

「敵陣の屋敷の中なのに、にゃんでこんにゃに魔法があるんにゃ?」

「さあ? それだけ重要な施設って事じゃない?」

「にゃるほど」


 この魔法のせいで、急ぎたいのになかなか進めん。かと言って、ギリギリまで見つかりたくないし……


「あ! あの部屋、かなり怪しい」

「どういうことにゃ?」

「部屋の壁全体に魔力が見て取れる。あそこが目的地じゃないかな?」


 目的地……猫耳族が壁の向こうにいるのか。部屋の間取り的に、屋敷の中央。全てが壁に囲まれている部屋じゃ。忍び込むのは難しいな。


「どうするの?」

「強襲するしかないにゃ」

「……そうね。でも、ちょっと魔力を回復するわ」

「わかったにゃ。ほい。【土玉】にゃ」

「ありがとう」


 ノエミがわしの魔力を吸収する間、魔法陣について質問する。


「ところで、魔法陣は解除出来るにゃ?」

「たぶん出来るわ。一部、この国でも使われている術式があったの。そこを狂わせれば、解除出来るはずよ」

「たぶんにゃんだ……」

「そうね。やってみないとわからないわ。使用者の命もどうなるか……。でも、確率がゼロじゃないだけマシでしょ?」

「そうだにゃ。頼むにゃ~」

「ええ。少し時間が掛かるから、私の命は守ってね」

「任せるにゃ!」

「じゃあ、扉の罠を解除するわ」


 ノエミは扉に手をかざし、呪文を呟く。


「いいわ。いつでもいける」

「カウントするにゃ」

「ええ」

「スリー。にゃ~。ワン……ゼロにゃ!」



 わしはカウントに合わせて【白猫刀】を抜き、ゼロで扉を斬り刻み、部屋に飛び込む。すると、魔法陣に立つ猫耳族達と、兵士風の男五人、軍服を着た男が目に入る。


「何者だ!」


 軍服の男が叫ぶが、わしは応えない。すぐさま【風玉】を、剣に手を掛ける兵士五人にぶつける。


「ノエミ。いまにゃ!」

「オッケー!」


 兵士が倒れ行く中、ノエミは魔法陣に走り、外周を眺め、解除できそうな術式を見付けるとしゃがみ込む。

 そんなわし達を見ていた軍服の男は、再度、声を荒らげる。


「何者だと聞いているんだ!」

「わし? 見ての通り、猫だにゃ~」

「ふ、ふざけるな!」

「ふざけているのはお前にゃ! 人の命を使って獣を動かすにゃんて、人間のやる事かにゃ!」

「人だと? そんなのどこにいる? ここにいるのは家畜だ!」

「………」


 わしは男の言葉に、目をつぶって黙り込む。そうでもしないと、いまにも怒りで爆発しそうだからだ。


「ハッ。何を黙っている? お前も家畜にしてやるよ。いや、お前のような奇妙な生き物は、ペットにしてやってもいいか」

「……もう喋るにゃ」

「ああ? ペットが何を言ってやがる」

「………」


 わしは【白猫刀】をだらりと構え、男に近寄る。


「歯向かおうって言うのか? それなら、ペットはやめだ。死ね!」


 男は剣を抜き、わしに振り下ろす。


「へ?」


 突然起きた事態に、男は気の抜けた声を出す。そして、みるみる顔を青くする。


「ギャーーー!」


 男は叫び声をあげ、のたうち回る。何故そうなったのか……男の振り下ろした両腕を、わしが切り落としたからだ。


「もう喋るにゃと言ったにゃ」

「ぐぅぅぅ。こうなっては仕方がない……皇帝陛下、バンザー……」

「【小土玉】にゃ!」

「むぐっ」


 男は舌を噛み切って自害しようとするので、わしはそれをさせまいと大口を開けた男の口に、土の固まりを押し込む。


「自殺はあとでさせてやるから、ちょっと待ってるにゃ」


 男は腕を口に持って行くが、先の無い腕では、口に入った異物は取り除けない。そんな男を横目に腕を拾い集め、男と腕を回復魔法でくっつける。ついでに男の

胴体を、土魔法【ホッチキス】で床に張り付けた。


「ほれ。治ったにゃ。どんにゃ自殺方法にするにゃ? 舌を噛むにゃ? 剣を使うにゃ?」

「むぐ~~~!」

「ああ。喋れないかにゃ? 絶対に治してやるから、気兼ねなく自殺するにゃ~」


 わしは男の口の中に入っている塊を吸収魔法で消すと、剣を握らせる。すると男は首に剣を当て、一気に引いた。


「それは北の街で捕まえた奴もやってたにゃ。面白味に欠けるにゃ~」

「ハッ。アイツも死んだか……」

「生きてるにゃ。勝手に殺したらかわいそうにゃ」

「え?」

「ちにゃみにだけど、魔法陣を解除してくれないかにゃ?」

「死んでも解除なんかするか!!」

「そうにゃんだ……。て言うか、そんにゃ浅い傷では死ねないにゃ。もっとズバッといくにゃ」


 わしが男の傷を指摘すると、震えた手に持つ剣を首に持っていく。


「うっ……うぅぅ」

「どうしたにゃ? お前の知り合いは何度も自殺したにゃ。出来ないにゃら、わしが手伝うにゃ」

「フッ。ひとおもいにやれ!」

「わかったにゃ」


 わしは男の右腕を再度切り落とす。男は悲鳴をあげるが、回復魔法で元に戻す。今度は左腕を切り落として元に戻す。次は左足を切り落とそうと刀を振り下ろす。


「ま、待て! ギャーーー!」


 男の叫びと制止の声をわしは聞かずに、足を切り落とし、くっつける。そして黙ったまま右足に近付き、刀を振り上げた。


「あ、にゃにか言ったかにゃ?」

「待ってくれ! そんな事をせずに、ひと思いに殺してくれ!」

「……はぁ。お前は猫耳族を人として見てないんにゃろ? わしもお前を人として見てないにゃ。だから、なぶり殺そうとわしの自由にゃ!」

「待って……ギャー-ー!」


 わしは振り上げた刀を振り下ろす。すると足は切断され、ついに男は気を失った。それを見て、わしはいそいそと男の足をくっつけ、猫耳族の元へ近付く。


「もう大丈夫にゃ。助けに来たにゃ~」

「「「「………」」」」


 わしの言葉に誰も応えない。


「ノエミ。誰も返事をしてくれないにゃ~」

「この魔法陣か、奴隷に使っている魔法のせいでしょうね」

「にゃるほど。それで、魔法陣は解除できそうにゃ?」

「ええ。あと少しよ」

「やったにゃ~!!」


 わしは喜びのあまり笑顔を見せるが、ノエミは険しい顔でわしを見ている。


「解除する前に、その返り血をなんとかしなさい。怖がられるわよ」

「にゃ? わかったにゃ~」

「まったく……恐ろしい猫だわ」

「にゃはは」


 ノエミの言葉に苦笑いで返したわしは、水魔法をぶっかけ吸収魔法で水を消し去り、綺麗さっぱりとなる。まだノエミは時間が掛かりそうだったので、部屋の中に転がっている敵兵を拘束しながら待つ。


 しばしノエミの背中越しに魔法陣を見ていると、ノエミが「バッ」と振り向いてわしを見た。


「よし! いける。いつでも解除できるわよ。どうする?」

「ちょい待つにゃ。通信魔道具貸してくれにゃ」


 わしはノエミから受け取った通信魔道具で、王のオッサンに連絡を取るのであった。

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