224 戦争 4


 オンニサイド



 五人の騎士がパンダに攻撃を繰り広げている中、オンニが休憩していると、アンブロワーズ王が送った兵士達が駆け寄る。


「オンニ様! 応援に参りました」

「ああ。助かる」

「怪我をなさっていますね。回復魔法使いも連れて来ましたので、すぐにお呼びします」

「いや、俺はいい。クイスマの部隊に使ってくれ」

「しかし……」

「これぐらい大丈夫だ。パンダの魔法に直接さらされた者を優先しろ。急げ!」

「はっ!」

「残りは俺に続け!」

「「「「「はっ!」」」」」


 オンニは応援に来た兵士を引き連れ、戦線に復帰する。元から居た騎士は息を切らしていたので退かせ、新しい部隊で攻撃を加える。


「よし! 左後脚も潰した。一時離脱だ!」


 パンダは先に受けていた攻撃が大きかったのか、オンニ達が攻撃を加えると、すぐに悲鳴をあげて膝を突いた。


「あとは前脚だ! 左前脚から行くぞ!」

「オンニ様!」


 オンニがパンダに突撃しようとしたその時、後ろから声が聞こえて止まる。


「クイスマ……無事だったか?」

「はい。盾役の騎士に助けられました。おかげで、軽傷で済みました」

「そうか。これから左前脚を潰す。ついて来れるか?」

「それなんですが、両方一気に攻めませんか?」

「どういうことだ?」

「現在、盾役が不足しています。なので、攻撃を分けたほうが得策だと思います」

「なるほど……なら、右前脚を俺とクイスマで引き付け役、左前脚を残りであたらせよう」

「いいですね」


 元ハンターのクイスマならではの助言を聞き入れたオンニは、兵士を鼓舞する。


「残りわずかだ! 一気に攻めるぞ!」

「「「「「おお!!」」」」」


 オンニ達は、右の部隊がパンダの攻撃に集中されれば、左の部隊が攻撃し、左の部隊が攻撃されれば、右の部隊が攻撃をする。

 その繰り返しで着実にダメージを加え、人数の多い左の部隊がパンダの左前脚を潰し、右前脚に集中攻撃を行うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 イサベレサイド



「パンダの魔法は止まったけど、頭が上がってしまいました」

「そうね」

「どうするニャー?」


 パンダはそこそこのダメージがあるのだが、白い獣とあって生命力が高い。その点を踏まえて、リータ、メイバイ、イサベレは、次の攻撃について話し合っている姿があった。


「いま、シラタマさんが魔法陣を解除している最中ですし、解除されるとパンダがどんな行動を取るかわかりません。ですから、確実に動きを止めると言うのはどうですか?」

「ん。四肢を潰す。それでいい」

「リータ……ありがとうニャー」

「何を言っているんですか。これがベストな選択です!」

「ん。動きを封じればトドメは刺しやすい」

「……そうだニャ」


 リータの作戦にメイバイが感謝するが、リータとイサベレは受け取ろうとしない。これは、メイバイが自分のせいだと思っている節が強いので、関係無い事をわからせようとしているのだろう。


「では、私達は前脚を担当。イサベレさんは残りの後ろ脚。後ろ脚を潰したあと、速やかに合流です」

「ん。わかった」

「行っくにゃ~!」

「「にゃ~~~!」」


 何故、皆がシラタマの口調をマネしているのかはわからない。きっとシラタマが嫌がっている事は、無視しているのだろう。

 だが、三人の火力は強く、イサベレがパンダの後ろ脚を潰す間に、リータとメイバイがコツコツダメージを与え、イサベレが合流すると、リータがパンダの牙から二人を守りながら、右前脚も潰す。


 こうしてイサベレ達は、オンニ達よりも早くに、四肢を潰す事に成功したのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 王サイド



「王殿下。ノエミからの通信です」

「繋げ」

「はっ!」


 兵が通信魔道具に魔力を流すと、アンブロワーズは音に耳を傾ける。すると……


『魔力を流したけど、これで繋がってるにゃ?』

『ちゃんと強く流した? 足りないと繋がらないわよ?』

『そうにゃの?』

『何で知らないのよ』

『だって、初めてだったにゃ~。そういうのは先に言ってにゃ~。だから、ちびっこは……』

『なんじゃい! わっちのどこがちびっこじゃい!!』

『えっと~』


 通信魔道具から聞こえて来たのは、シラタマとノエミの言い争う声。そんな声を聞いたからには、アンブロワーズは大きなため息が出てしまう。


「はぁ~~~」

『にゃ!? 繋がってるにゃ!』

「そうだ。バカな会話が筒抜けだ」

『バカって言うにゃ~!』


 シラタマの怒りのこもった声に、アンブロワーズは相手にするのは面倒だと感じて、用件を問う。


「そんな事より、報告があるのだろ?」

『あ、そうにゃ。魔法陣は解除できそうにゃけど、そっちの状況はどうなってるにゃ?』

「街の外に出ていた獣、空からの攻撃は無力化した。残るはパンダと街の制圧だ」

『パンダは弱っているにゃ? 魔法陣を解除したら、パンダがどう動くかわからにゃいから、ちょっと心配にゃ~』

「たしかに……。イサベレのほうは、四肢は潰しているからいつでもいけるが、オンニのほうは……もう間も無くだろう」

『念の為、オンニのほうも、四肢を潰すの待つにゃ?』

「そうだな……」


 アンブロワーズがシラタマと話をしていると、通信役の兵士が参謀に耳打ちし、その内容が急ぎだった為、参謀はアンブロワーズに何やら手信号を送った。


「いや。ちょうど潰した! 私の合図を待ってくれ」

『ノエミ。聞いたにゃ?』

『ええ』


 アンブロワーズは戦況を確めて、次なる指示を出す。


「両翼、精鋭騎士は、パンダの制圧に向かわせろ! これより速やかにパンダのトドメを刺し、街を奪還する!」

「「「「「はっ!」」」」」


 通信役の兵士は各所に通達し、準備が整うと、アンブロワーズはノエミ達に声を送る。


「やれ!」

『はい!』



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 オンニサイド



「なんだ?」

「急に寝た?」


 パンダの行為を不思議に思ったオンニとクイスマ。しかし、作戦の概要を思い出したようだ。


「操っていた魔法が切れると、パンダは動きを止めるのか……」

「精鋭騎士も集まって来ています!」

「猫がやったのか。よし! このまま総攻撃を行う! 寝たまま逝かせてやろう」

「「「「「おおおお!!」」」」」



 オンニ達騎士はパンダに群がり、次々に剣を突き刺し、さらに応援に来た精鋭騎士も攻撃に加わった事で、パンダは完全に沈黙する事となった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 イサベレサイド



「あれ?」

「寝たニャー!」

「これは……」


 いきなり動きの止まったパンダに、リータ、メイバイ、イサベレは、すぐに答えを導き出す。


「「「シラタマ(殿ニャー)(さん)だ!」」」

「集中砲火です! 一気に決めるにゃ~!!」

「「にゃ~~~!」」


 相変わらずシラタマのマネをしている理由はわからないが、三人の集中砲火によって、パンダはすぐに沈黙する。

 そのせいで、アンブロワーズに派遣された精鋭騎士は間に合わず、ガッカリする事となった。どうやら美少女三人に、いいところを見せたかったみたいだ。




  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 王サイド



「よし! パンダの驚異は無くなったぞ!」


 各所から報告を聞いたアンブロワーズは、通信魔道具の先にいるシラタマに伝えた。


『こっちもメイバイの一族は、全員生きてるにゃ~!』

「そうか」

『ありがとにゃ~。グズッ。にゃ~~~』

「猫でも礼を言ったり、泣いたり出来るんだな」

『うぅぅ。ありがとにゃ~~~』

「くっ。調子が狂う。あとは好きにしろ。通信は終了だ」

『わかった、にゃ~~~』



 シラタマの泣き声が聞こえる中、アンブロワーズは通信魔道具を切ると、兵士を操り、攻城戦に移るのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマサイド



「うぅぅ。ありがとにゃ。ありがとう、にゃ~~~」

「もう切れているわよ」

「にゃ~~~」

「あんなに非道な拷問をしといて、何を泣いているんだか」


 わしは猫耳族の命を救えた事に安堵し、号泣してしまう。すると、その泣き声に反応する者が次々と現れる。


「ご先祖様?」

「その姿は、ご先祖様だわ!」

「ご先祖様が我々を助けてくれたぞ!」

「「「「「ご先祖様~~~」」」」」


 パンダを操る事に使われていた猫耳族だ。猫耳族がわしをご先祖様と口にするので、泣いていたわしであったが、その言葉で涙がピタリと止まった。


「ご先祖様じゃないにゃ~」


 わしが違うと言っても、猫耳族の女性は異を唱える。


「いえ。その丸い姿、尻尾の数は増えていますが、ご先祖様で間違いないです!」


 このやり取り……メイバイの時と一緒! またここからか~。


「わしはまだ二歳で、昔話はおっかさんから聞いたにゃ。だから、ご先祖様じゃないにゃ~」


 うん。今度はざわついておるな。どうしてご先祖様は生きていると信じられるのに、否定したら受け入れられないんじゃ?


「では、我々を助けに来た、救世主様ですか?」


 うお! 新たな神話が始まりそう。ご先祖様みたいに神話になってしまうと、後々受け継がれて恥ずかしい事になりそうじゃ。


「救世主でもないにゃ~」

「「「「「え……」」」」」


 取って食おうとしている訳でもないのに、その絶望的な顔はやめて!


「みんにゃを助けただけの、ただの猫にゃ。助けたのも、わしの仲間に頼まれたからした事にゃ」

「あなた様の仲間とは人族ですか? それとも猫ですか?」

「う~ん。どっちも違うかにゃ? みんにゃと同じ猫耳族の者にゃ。山を越えて来たにゃ」

「あの山を……」

「わしの名はシラタマにゃ。みんにゃの命はわしが保障するにゃ。だから、信じてこれまでの経緯を教えてくれにゃ」

「でしたら私が……」


 一人の女性が代表して、わしの質問に答えてくれる。

 名前はズーウェイ。ボロ布を羽織っているだけなので、かなりエロく見える。ちびっこノエミと違って大人の女性だ。ノエミににらまれた気がしたが、無視してズーウェイに抱かれて撫でられている。


 最初に質問した事は、何故、わしを抱いて撫で回しているかだ。答えは、何もお礼が出来ないから、せめて体で返すと言われた。もちろん断ったが、また絶望した顔をされたので、抱かれたまま経緯を聞く事となった。


 ズーウェイ達は山向こうの帝国首都で、奴隷として、厳しい生活を送っていたらしい。そんなある日、山にトンネルが出来たという噂が聞こえて来る。

 その噂の後、奴隷が招集される事態となった。奴隷達は何が何だかわからないまま山に連れて行かれ、そこでパンダを操る魔法の生け贄にされたらしい。

 わしは生け贄と言う言葉にいきどうりを感じながら、どれほどの死者が出たのかと聞くと、それほど多くは無いと答えが返って来る。

 どうやら、交代で魔法を使えば死ぬほどでは無かったみたいだ。だが、生命力が弱っている者は、魔法の影響で何人も死んだらしい。


 その後、操るパンダの引く荷馬車に乗って、トンネルを抜け、この国にまでやって来たらしい。


「そのトンネルは何処にあるか覚えているかにゃ?」

「土地勘が無いのでなんとも言えませんが、行けばわかると思います」

「にゃら、ズーウェイさんを連れて行くから、案内してくれにゃ」

「お任せください」

「それと、降ろしてくれにゃ」

「いえ。これしか私共に出来る事が無いので、やらせてください!」

「もう十分受け取ったにゃ~。ゴロゴロ~」


 話している最中も、女性陣に交代で抱っこされて撫で回され、何度か撫でたいだけじゃないかと聞いてみたが、これしか返す物が無いと悲しい顔をされた。


「むぅ。他の仲間は何処に居るにゃ?」

「屋敷の地下牢に幽閉されています」

「まずはそこに連れて行ってくれにゃ」

「はい。では、運ばせていただきます」

「自分で歩くにゃ~。そうじゃにゃいと危ないにゃ~」

「あ……わかりました」


 そこまで残念そうな顔をしなくても……やはり撫でたいだけではないのか?


「残りはここで待機にゃ。外は危ないから絶対に出るにゃ。ノエミ、行くにゃ~」



 わしは二人を連れて地下牢に向かう。罠のような魔法があるかと思っていたが、幸い術者が気を失ったせいか、ノエミの出番は無かった。

 地下牢には、猫耳族はかなりの人数が居て、座る事も出来ずに幽閉されていた。またわしの怒りが湧き上がるが、全員を連れて広いダンスホールに移動する。

 簡単な説明をしている間に、ノエミとズーウェイには、魔法陣の部屋にいる者を連れて来てもらった。


 総勢百九人。皆、わしの言葉に耳を傾ける。


「これから奴隷紋の解除を行うにゃ。刻まれた時、かなり痛かったと思うにゃ。みんにゃを自由にしたいから、もう一度だけ我慢してくれにゃ」


 わしの言葉に一同困惑する。『自由』……それは奴隷として生きて来た者には憧れであり、その後の不安がある。わしが簡単に使った言葉に、ここまで困惑するとは思わなかった。

 そんな中、一人の女性が立候補する……


「シラタマ様……私がやります」


 ズーウェイだ。


「ズーウェイさん。ありがとにゃ。痛いけど、すぐ終るから我慢してくれにゃ」

「はい!」

「ノエミはわしの魔法のやり方を見て、覚えてくれにゃ。この人数だから、わし一人じゃ辛いにゃ」

「わかったわ。新しい魔法が知れるのは、嬉しい限りよ!」


 ノエミ……大丈夫か? 目が爛々らんらんとしておる。魔法マニアなのか? ズーウェイさんも、気のせいかうっとりしている気がするが……気のせいじゃろう。


 わしは土魔法で仕切りを作ると、二人を連れて皆から姿を隠し、ズーウェイには全裸になってもらって土のベットに寝てもらう。

 ズーウェイにまたがると、背中に触れながら頭の中で呪文を呟く。これは、猫の口では「にゃ」が付くので詠唱出来ないからだ。ノエミには念話を繋いでいるので問題なく聞こえている。

 メイバイの時には魔力を多く込めて快感を選んだが、今回は魔力を少なくして激痛を選ぶ。これはノエミでは行えないかもと考え、他の者と差別しないためだ。

 ぶっちゃけ、女性にあんな卑猥ひわいな声をあげてもらいたくないのもある。なのに……


「ぐっ……あぁ! いい! いいわ~~~」

「痛いって言ってにゃ~~~!」



 どうやらズーウェイは、特殊な趣味の持ち主だったみたいだ。

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