660 アメリカ横断旅行終了にゃ~


 東海岸で行われた祭りは、夜通し踊り続けて死者大多数。アメリヤ国民も原住民も関係なく、砂浜に横たわって寝ている。

 わし達は宴もたけなわにキャットハウスとバスに入って眠り、空が明るくなったら後始末に駆け回った。


 わしはゴミ拾いに走り回り、猫ファミリーは寝ている人を起こして回る。ジョージと東の国組は、わし達が働いているのにアメリヤ産バスに乗って城に逃げ帰りやがった。


 まぁ居ても役に立たないだろうから許してやる。でも、ベティ家族は送って欲しかったな~? あ、王様と一緒は嫌なんですか。じゃあ、炊き出し手伝ってくんない??


 ベティ家族は、これからベティの旅支度と仕事があるから忙しいので、泣く泣く帰した。なので、ここは頼りになるオオカミ族を呼び出して手伝ってもらう。

 料理は白ロブスターの串焼き。多少ナマでも味は格別にうまいので、表面に焼き目がついたら配ってしまう。

 そうしていたら、食べた者から手伝うと言ってくれたので早くに全員に行き渡ったけど、コリスはわし達と朝ごはん食べたじゃろ? 何周並んでおるんじゃ??


 普通の人間には一本で十分なので、食べ終えたアメリヤ国民は帰るように指示を出し、原住民には部族事に固まって座らせた。


『え~……昨夜は楽しかったにゃ~』


 わしの言葉は通訳されて全ての原住民に伝わる。


『みにゃさんが感じた通り、アメリヤ国民のみんにゃがみんにゃ悪い人ではないんにゃ』


 原住民は頷いている人が大多数なのでわしも頷く。


『みにゃさんの受けた苦痛は、どんにゃに謝られても受け入れる事は出来ないと思うにゃ。みにゃさんはそれでいいと思うにゃ。でも、その恨みは子供に受け継がないでくれにゃ~』


 わしのお願いはすぐには「うん」と言えないとわかっているのでそのまま続ける。


『ジョージ王はみにゃさんに、謝罪の品を多く用意してくれると言っていたにゃ。そんにゃ物で許せにゃいって人が大多数だと思うにゃ。でも、あまり多くを要求しないでやって欲しいにゃ。ジョージ王を困らせないで欲しいにゃ。彼以外、みにゃさんの為を思って動いてくれる人間は居ないんにゃ』


 ジョージの名前が出ると、原住民から「ジョージ、ジョージ」と言っている声が聞こえて来たので、多少は信じてもらえているとわしは受け取る。


『みにゃさんの体調が良くなったら、ジョージ王が責任を持って元に住んでいた場所に帰してくれると言っていたにゃ。もしもここに残りたい人は、言葉の勉強や職業訓練を無償でしてくれると言ってくれたにゃ。どこで暮らすかは、あにゃた達の自由にゃ意思で決めてくれたらいいからにゃ~』


 皆、ざわざわしているところを見ると、滅んだ住み処より、最先端の王都の暮らしのほうがいいのではないかと悩んでしまっているようだ。


『最後に……みにゃさんがどこで暮らそうとも、部族は死なないにゃ。歴史は死なないにゃ。風習は死なないにゃ。みにゃさんが生きているから受け継がれるにゃ。どうか、ジョージ王を信じて生き残ってくれにゃ~』


 わしの最後の言葉に、原住民はざわざわ何か喋っていたが、ポツポツと拍手の音が聞こえ、合わさり、大きな音へと変わった。


『さあ! いまは仮住まいに帰ろうにゃ~!!』


 原住民にどんな未来が待っているかわからないが、おそらく明るい未来だろう。原住民もわしと同じく明るい未来を心に抱き、アメリヤ王国の門を、自分の意思で潜ったのであった……



 原住民を公爵低に送り届けたわし達は、侯爵低に移動して猫軍魔法部隊と面会。進捗状況を聞いたら、毎日奴隷紋を刻んで悲鳴を聞いているから疲れているようだ。

 なので、三日に一度は休みを入れるように指示を出し、ジョージにも命令しておくと言っておいた。特別報酬のお金も渡したので、明日の休みはアメリヤ観光を楽しんでもらおう。


 猫軍魔法部隊は一週間の派遣となっているが、アメリヤ王国が落ち着くまでは残ってくれるように頼んで侯爵邸をあとにする。

 バスに乗り込むと、リータ達がチヤホヤしてくれる。どうやら今日のわしは難しい話をしていたから立派に見えたそうだ。

 珍しく褒められたのでわしは鼻高々。ただ、いつも通りの撫で回しなのでゴロゴロ。あまりにも気持ちいいので気絶し掛けた。


 バスで向かっていた場所は、球場。スタジアムと言うより運動場みたいなので、スタンドがない。客もホームランゾーンやファールゾーンから少し離れた辺りの地べたに座るらしいので、スリリングな観戦が出来るらしい。

 いまのところ遊んでいる選手は居ないのでわしはガッカリしていたが、用具置き場に野球道具一式を発見。皆でちょっと遊んでみようとルールを説明してみた。


 配置は、ピッチャー、オニヒメ。キャッチャー、リータ。ショート、メイバイ。ファースト、コリス。バッターはわしだ。


「いくよ~?」

「ゆっくりでいいからにゃ? 強く投げたらバットが折れるからにゃ?」


 ピッチャーのオニヒメは軽く投げたが、わしは見送り。リータのミットに凄い音を出して突き刺さった。


「もっとゆっくりにゃ~」

「うぅ……むずかしい」


 そりゃ、キャッチャーミットを焦がすような豪速球を打ったら、確実にバットが折れる。ド真ん中でも見送るしかなかった。

 とりあえずオニヒメには下手投げで山なりに投げるようにお願いしたら、わしは飛んで来たボールに、バットをゆ~~~っくり振って、カキンと鋭い当たり。なんとかバットは折れずに、三塁線を抜ける強烈な当たりとなった。


「よっにゃ! ナイスバッティングにゃ!!」


 これならミスターも捕れないと喜んで走り出したが、ショートを守っていたはずのメイバイが横っ飛び。ワンバウンドでキャッチされてしまった。


「コリスちゃん。いくニャー!」

「うん!」


 そしてレーザービーム。メイバイの強肩で投げられたボールは、目にも留まらぬ速度でコリスのグローブへ……グローブはコリスの手に合わなかったので素手で受けていた。


「ズルイニャー!」


 そんな人智を超えた高プレーでも、もちろんわしはセーフ。一塁ベースに乗り、腕を頭の後ろで組んで口笛を吹いていた。だってわしって足が速いんじゃもん。

 しかしメイバイがグローブを叩き付けて乱闘勃発。めっちゃモフられてリスタートとなった。



 配置を変えて、ピッチャー、わし。キャッチャー、コリス。ショート、オニヒメ。ファースト、メイバイ。バッターはリータだ。


「いいところに投げるから、コツンと当てるんにゃよ~?」

「はい!!」


 わしの絶妙の力加減のピッチングは、打ちやすいド真ん中に飛んで行くが、リータは空振り連発。あれだけ素早い攻撃に対応できる目を持っているのにかすりもしない。いまだに不器用さは直っていないようだ。

 なので、リータは徐々に苛立って来て、スイングが速くなって来た。「もうやめようか」と言ったら「ラスト一回」と言うので「ゆっくり振ってね?」って投げたボールにリータはフルスイング。


「ホームランじゃないですか!?」


 リータの手には会心の当たりの感触が残っていて、ボールは場外に消えたと思っているようだが、わしの目は誤魔化せない。


「バットもボールも木っ端微塵になったにゃ~」

「え? あれ??」


 そう。ボールは場外に消えたわけではなく、物理的に消えただけ。リータのフルスイングの衝撃に、物質は耐えられなかったのだ。

 久し振りに野球をやって楽しみたかったわしであったが、わし達には出来ないスポーツと認識して、野球は終了。もしもボールが原形を留めていたら、街が壊れたり死人が出るかもしれないから……


 皆から野球の感想を聞いみたら、見るのは面白かったが、やるのは面白くなかったとのこと。見るとやるのと大違いって言葉はあるけど、こんな使い方ではなかったはずだ。

 超人には無理だと話をしていたら、いつの間にか観客が居て、わし達に寄って来た。どうやらスカウトしたいらしい……


 年棒を聞いたら、バットとボールとグローブ代ぐらいの料金を提示された。どうやらわし達の壊した物を弁償してもらいたいが、こんな変わった集団とからむのは怖いので、遠回しにスカウトとか言ったみたいだ。

 それならそうと早く言ってくれと謝罪し、きっちり耳を揃えてお金を支払うわしであったとさ。



 無駄な支払いを済ませたわし達は、買い食いしつつベティをピックアップしようと露店に顔を出した。


「にゃ? フィシュアンドチップスの店になってるにゃ」

「あ、言ってなかったわね。最初はフィシュアンドチップスやってたの。原価が安いからボロ儲けだったから……じゃなくて、お客さんから食べたいって声が多くて戻したのよ」

「じゃあ、わしも十人前を……いま、ボロ儲けとか言わにゃかった?」

「ママ! 10セットはいったよ~!!」


 ベティは悪どい顔から幼女の顔に戻って話を逸らす。でも、揚げ時間があるからネチネチと追及してやった。

 どうやらアメリヤ王国では魚と油が安いので、フィシュアンドチップスは利益率が高いとのこと。揚げ物なんてベティしかやっていなかったら、辺りの店と同じ値段設定にしても、物珍しさからめちゃくちゃ売れたそうだ。


「さすがだにゃ~。でも、にゃんでそんにゃにお金を貯めてたにゃ?」

「武器と船を買う為には必要だからよ」

「ま、まさか……国家転覆を企んでいたにゃ?」

「なに馬鹿な事を言ってるのよ。それは最終手段よ」

「やる気はあったんにゃ……」

「シラタマ君はわかってるから冗談で返したんでしょ~」

「にゃはは。ま、東の国を探す前に会えてよかったにゃ。海にゃんか出たら確実に死んでたにゃ~」

「ホント、女王にでもなって軍事力をめちゃくちゃ強化する前に会えてよかったわ~」

「やっぱり乗っ取ろうとしてたにゃ!?」

「きゃはははは」


 ベティの考えはこうだろう。最初は武器と船でエミリを探す旅をしようとしていたけど、海には化け物が居るから心許ない。

 お金だけでは解決しないと考えている矢先に、貴族に暴利を吹っ掛けられてイラついたから、いっそ革命を起こしてアメリヤ王国を乗っ取ってから、大船団でも作って海を越えようと計画を立てていたのだ。


「あ、そうにゃ。いちおう持ち物はチェックさせてくれにゃ」

「別にたいした物は入ってないからいいでしょ?」

「うち、重火器の持ち込みは禁止にするつもりなんにゃ。リュックを開けろにゃ~」

「アタシ、ワカラナイ」

「持ってるにゃ!?」


 ベティは出し渋ってカタコトの幼女になっていたからリュックを奪い取ってやったら、小さなピストルが出て来やがった。


「にゃにこれ??」

「やだな~。ただの護身用だよ~」

「いや、これはおもちゃにゃ~」


 わしが疑問に思っている理由は、ピストルの形はしているが、軽石みたいにスカスカの石に黒く色を塗っていたからだ。


「だってここ、魔法を知らないんだもん。ビビらせるには、この形がいいのよ」

「つまり、ピストルの先から魔法を出すんにゃ」

「ご名答。土の塊でも雷でも、なんでも出せるよ」

「にゃんかベティが重火器に見えるにゃ~」


 いちおうピストルはおもちゃなので持ち込みは許すが、ベティをお持ち帰りするほうが危険なのではないかと思ってしまうわしであったとさ。



 ベティと両親との涙の別れを見届けたわし達は、バスで公爵邸に寄り道。ケラハー率いるアメリヤ最高頭脳の博士達をバスに乗せたら城に直行する。

 待ち合わせ場所の城の庭の端っこでは、何やら女王に無理難題でも突き付けられてゲッソリしているジョージと面会して、別れの挨拶をする。


「長いこと世話になったにゃ~」

「いえ、こちらこそです。汚職にまみれた議員を排除できたことは、アメリヤ国民にとって素晴らしいことですよ」

「ま、わしはこの土地の人が幸せに暮らせるなにゃら、それでいいけどにゃ」

「この土地ですか……大きな話ですね」

「そうにゃ。アメリヤ王国はこのアメリカ大陸を引っ張るリーダーとなるはずにゃ。ジョージ君……頑張るんにゃよ?」

「はっ! リーダーに恥ずかしくない国にしてみせます!!」


 ジョージのやる気に満ちた顔を見て、わしは笑顔を見せる。


「もしも間違ったことをしていたら、またネコゴンが現れるからにゃ~? にゃははは」

「あはは。それは怖い。もうアレは、後世に引き継がれる歴史ですよ~」

「やっぱ記憶から消してにゃ~。恥ずかしいにゃ~」


 ちょっとした脅しのつもりだったのに、歴史に刻まれると知ったリータ達が「必ず歴史書に載せるように」と言っているので食い止める為には逃げ出すしかない。


「そんじゃ、ちょくちょく顔を出すから、その時は接待でもしてくれにゃ~」

「その時は相談に乗ってもらいますからね~」


 わしとジョージの別れの挨拶はスレ違っていたが、笑顔で握手を交わす。


 こうしてわし達のアメリカ横断旅行は、新しい国家発見という土産を持って終わりを告げるのであった……

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