661 最高のお土産にゃ~
アメリヤ王国の城から三ツ鳥居を潜ったわし達は、猫の街三ツ鳥居集約所に到着。
景色が庭から壁に囲まれた景色に変わるとベティとケラハー博士達が騒いでいたので、説明はリータ達に丸投げ。わしは女王達を東の国への三ツ鳥居から追い返した。
「ここが猫の国の首都、猫の街にゃ~」
三ツ鳥居集約所から外に出ると、のどかな風景。ド田舎とか言うベティ達に「そっちは農地だから」と言いながら全員バスに乗せると、キャットタワーまで直行した。
「わ~お。この世界に来て、初めてビルを見たわ」
「にゃはは。最先端のお城にゃ~」
ベティは驚きの連続でわしに質問が多い。ケラハー達もどんな建築技術で建てられているのかと盛り上がっているが、魔法で建てたから永遠に謎解きは出来ないだろう。
その時、ベティから相談を持ち掛けられたので、わしは面白そうだからその話に乗って、リータ達にもお願いしておいた。
キャットタワーに入ったら、一階の会議室で会議中だった双子王女に帰りの挨拶。今回の土産は、幼女と白衣姿の老人と中年男性だったので、モフモフは居ないのかと言われてしまった……
「居たっちゃ居たんにゃけどにゃ~」
「「どうして連れて帰らなかったのですの?」」
「夜にでも話してやるにゃ~。それより紹介するから聞いてにゃ~」
モフモフを連れて来いとうるさい双子王女には、ケラハー達の家と仕事を準備してもらう。ただ、仕事は思い付かないらしいので、わしがこれから考えると言っておいた。
「「そちらの震えている幼女は? ま、まさか……」」
「誘拐にゃんかしてないにゃ~。震えているのも双子王女が怖いからにゃ~」
王女オーラに当てられてベティは震えているだけなのに、双子王女はわしを疑って酷い。リータ達が見てるのに、そんな事が出来るわけないじゃろう。
「料理長候補としてキャットタワーで働いてもらうにゃ。給金を用意してやってにゃ~」
「「はい?」」
「家もここで大丈夫だからにゃ」
「そんな子供にお金を払えるわけがないでしょ」
「どうしてもと言うのなら、シラタマちゃんの財布から出しなさい」
「そこをにゃんとか!!」
わしの訴えは却下。ベティの実力を知らない双子王女では、わしが幼女を連れ込んだとしか思われていない。もうこれは夕食時にでも実力を披露するしかないかと思ったが、時差の関係でまだ朝だった。
「それでお母様はどうしたのですの?」
「バカンスを満喫したから帰ったにゃ~」
「ちょっとぐらい私達に顔を見せてくれてもいいですのに……」
本当はわしが追い返したのだが、女王も急にさっちゃん達に仕事を押し付けたから心配で帰って行ったのだ。それに双子王女とは行きしに会ったし、わしの報告を毎日聞いているだろうから、女王は会う必要がないと感じたのかもしれない。
「じゃ、博士達の家だけお願いにゃ~。わしはガイドに話を通して来るにゃ~」
双子王女は忙しそうなので、そそくさと撤退。職員にケラハー達を預け、猫耳ガイドを派遣させる。それからベティはエレベーターに乗せて、二階の職員食堂に併設されてあるキッチンの入口まで連れて行った。
「エレベーターまであるのビックリなんだけど……それにウサギがエレベーターガールしてたし……」
「そんにゃことより、あそこで働いているのがエミリにゃ」
まだ驚いている最中のベティには、料理人と一緒に昼食の準備をしているエミリの横顔を見せて話を逸らす。
「アレがエミリ……大きくなって……うっ……グスッ」
「わしが出会ったのは四年前にゃ。たしか今年で13歳になるのかにゃ? もう、立派にゃレディーだにゃ~」
「あの子をここまで育ててくれてありがと~う。え~~~ん」
「話す前に泣くにゃ~。グズッ」
ベティが泣き出してしまったので、わしももらい泣き。このままでは話もままならないので一時撤退。キャットタワー屋上の離れの縁側で気持ちを落ち着かせる。
しかし、わしは長旅の疲れが出て眠ってしまったので、ベティも釣られて眠ってしまったようだ。リータ達も時差があるので、少し眠っておくことにしていた。
目が覚めたのは三時頃。コリスがお腹すいたと噛んで来たので餌付けして、わし達もお腹に少し入れておく。それからまた二階キッチンに移動したら、片付けを終えてウサギや料理人達と楽しそうにお喋りしていたエミリに、ベティを紹介する。
「へ? こんなちっさな子が私の代わりをするのですか??」
わしがベティは料理長候補だと説明したら、エミリは首を傾げてしまった。
「ほら、エミリって東の国でお店を出すのが夢にゃろ? そろそろ準備をする頃合いかと思ってにゃ~」
「そうですけど……急に言われても困ります!」
「急じゃないにゃ~。一年とか二年とか先の話にゃ~。ゴロゴロ~」
「捨てないで~~~」
別にクビにするわけでもないのに、エミリはわしを撫でまくるので困ったものだ。若干撫でるのが目的な気もするけど、居心地のいい職場を離れるのが寂しいのだと思われる。
「エミリって言ったっけ? シラタマ君はあたしの料理に惚れ込んでいるから、あなたに出て行ってもらいたいのよ」
わし達が揉めている……わしが揉まれていると、ベティがいきなりエミリを挑発した。
「なっ……こんな小さい子の料理なんて高が知れてますよね! ねっ!?」
「ゴロゴロゴロゴロ~!!」
エミリは自分の料理が侮辱されたと感じたのか、さらに撫で回しが酷くなったので返事も出来ない。
「ほら? エミリはお払い箱って言ってるわよ??」
「そうなんですか!? 猫さんもなんとか言ってくださ~~~い!!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!?」
わしはそんなことは言っていないと言いたいところだが、エミリにわしゃわしゃされているから伝わらない。ベティもなんだか黙っているように目で言っているので、ゴロゴロ様子を見ることにした。
「じゃあ、あたしと勝負してみる? エミリが負けたら、ここのキッチンはあたしがもらうわ」
「ええ! いいですよ! どこから来たか知らないけど、私の料理で追い返してやるわ!!」
審査委員長のわしはルールを決めないといけないらしいので、渋々決める。と言っても助手は一名までと決めたのだが、エミリはハンデでいらないとのこと。
料理もベティが決めていい事になったので、肉とジャガイモを合わせた料理と決まった。
食材は10階のキッチンにある食材を使っていい事になっているのだが、ベティは足りない食材があるとの事で、審査委員長、兼、助手のわしが買い出しに連れて行かれた。
「にゃんでいきなり喧嘩するかにゃ~?」
エミリにネタバラしをするのは、ベティのタイミングでやりたいと言われていたのだが、険悪になってしまっているのでわしは心配だ。
「あはは。巻き込んでゴメンね。なんかエミリが情けないこと言ってたから、発破を掛けたくなっちゃったのよ」
「それにゃら名乗ってからでよかったにゃ~」
ブーブー……「にゃ~にゃ~」文句タラタラで食材が売っているお店を紹介したら、ベティは真剣に選んでいる。
「そんにゃ安物の肉を使うにゃ? エミリは高級肉を使うと思うんにゃけど……勝つ気あるにゃ?」
「まぁね~……勝ち負けが意味する勝負じゃないし」
「にゃ~?」
「うん。これにしよっと」
ベティは質問に答えずに食材を買い込んでわしに支払わせる。食料店から出て歩き出したら、またさっきの意味を聞いてみようとしたが、ベティからの質問が先に来てしまった。
「ところでさあ~……ここのどこが猫の国で、どこが猫の街なの?」
「言ってる意味がわからないんにゃけど……」
「猫なんてシラタマ君しか歩いてないじゃない! ウサギばっかじゃない! ウサギの街の間違いでしょ!!」
ベティのツッコミが的確すぎて、わしはたじたじ。だが、ちょっとは反論してみる。
「あそこのケモミミが猫耳族と言ってにゃ。けっこう居るにゃろ?」
「だから猫の街なんだ~……って、なるか~い! 見た目、人間と変わらないじゃないの!!」
「ウサギ族は最近移住して来たんにゃ~」
納得がいかないと噛み付くベティには、猫の街の成り立ちを説明。猫会議の話をしたら鼻で笑われ、リータ達の策略に負けと説明したら、また鼻で笑われた。
「バカにしてるにゃ? わし、こう見えて王様なんにゃよ??」
「そのわりには権力ないよね? 王女様方にも頭が上がらないみたいだし」
「だって怖いんにゃも~ん」
「それでこの国大丈夫なの??」
大丈夫かどうかわからないが、民主的にやっているからわしなんてお飾りだ。その旨をこんこんと説明していたら、おんぶをせがまれた。
「わし、王様だと言ってるにゃろ?」
「あたし、かわいい幼女って言ってるでしょ? もう歩けな~い」
「こんにゃ時だけ幼女になるにゃよ~」
ベティが駄々っ子演技をしているので、王様
「モフモフ~」
「後頭部に頬擦りするにゃ~」
わしをナメきっているベティにブツブツ言いながら……
キャットタワー10階キッチンに戻ると、エミリが薄ら笑いを浮かべて黒い包丁を研いでいたのでちょっと怖い。ベティを置いて行くと何をするかわからない恐怖心があるので、おぶったまま猫ファミリーを呼んで来た。
食堂とキッチンに鍵を掛ければ準備完了。エミリは双子王女にも立ち合って欲しそうだったが、いまから大発表があるのだ。「エミリなら楽勝だろ?」と言ってゴリ押した。
「さてと……料理対決の始まりにゃ~」
わしの開始の合図でエミリは料理を作り始め、リータ達はどんな料理が出て来るのかとわいわい喋っている。
わしはと言うと、審査委員長と助手を兼任しているのでベティの隣に移動した。
「わし、あんまり料理が得意じゃないんにゃけど大丈夫にゃ?」
「いいのいいの。タイミングと火加減だけ気を付けてくれたらいいよ」
「それが難しそうにゃ~」
「そう? 火加減なんて、魔法でなんとでもなるじゃん」
「にゃ? 考えたことなかったにゃ……」
「シラタマ君ほど魔法が得意なら楽勝よ」
ベティは乗せ上手なので、わしはノリノリ。肉やジャガイモを指示通り切っただけで褒めてくれるので、料理が楽しく感じる。
ベティの仕事は調味料や素材のさじ加減。かなり多くの種類を使い、投入する順番や時間に気を使っているように見える。
ベティの指示は、わしがコンマ数秒で対応。火加減も魔法で完璧に調整しているので、ベティは自分で作っているのと変わらないほどだと言って、フライパンを振れるようになるまで助手になってくれとお願いして来た。
煮ている時間に再度「王様だぞ?」と断ったりしていたけど、ベティは雑談していても鍋を気に掛けて急に指示を出すのでわしは応える。
そうこうしていたらエミリから完成し、わしが指示通り盛り付けてベティの料理も完成した。
「
二人が作った料理は肉じゃが。エミリは驚いているが、ベティは笑みを浮かべているので、おそらくベティの筋書き通りだったのだろう。
「じゃあ、実食にゃ~」
エミリの料理からリータ達の前に並べて食べさせると、高級食材をふんだんに使っているので高評価。エミリは勝ちを確信したようだ。
しかし、ベティの作った肉じゃがを並べると、色鮮やかな盛り付けにエミリは固まっていた。たぶん、見た目に関しては負けたと感じたのだろう。
だが、リータ達が口に入れるとその考えは払拭される。誰もがエミリの料理のほうが美味しいと言っていたからだ。
「それじゃあ、リータから勝者の札を上げてにゃ~」
一人ずつ札を上げてもエミリオンリー。コリスが少し迷ったぐらいで、猫ファミリーは全てエミリを支持した。
「え……なんで猫さんは私じゃないんですか!?」
そんな中、わしだけベティを支持。何かの間違いじゃないかとエミリはわしに詰め寄る。
「これ、凄いんにゃ~。エミリも食べてくれたらわかるにゃ~」
「皆さん私のほうが美味しいって言ってくれてるじゃないですか!」
「騙されたと思って食ってくれにゃ~」
わしに諭されたエミリはベティの肉じゃがを一口食べて目を見開き、二口食べて目に涙を浮かべ、食べる手が止まらなくなった。
ビックリした~。醤油を手に入れる前の肉じゃがのレシピなのに、本物と
エミリの感想はどうなんじゃろう……お袋の味か? それとも腕前に感動しているのか? まぁどちらにしても、尊敬しているのは、あの顔を見ればわかる。
わしはエミリの食べる姿を見ていたら、ベティがエミリの肉じゃがを食べて感想を言い出した。
「うん。美味しい。でも、素材頼りの味になってるわね。それにちょっと無駄な調味料が入ってるな~……って、あたしのせいか。料理は足し算とか言ってたもんね。本場の醤油があれば引き算も教えてあげられたのに……エミリ、ごめんね」
「え……なんで……」
ベティが謝るとエミリは涙を流しながら声を絞り出す。
「なんでこの料理を作れるの……ママの味なのに~~~」
「そ、それは……グスッ……エミリ。一人にしてごめ~~~ん」
エミリが座り込んで泣き出すと、ベティは答えを言えずにエミリに抱きついて泣いてしまった。なので、わしが答えを代わってあげる。
「わしが転生者だと話したにゃろ? カミラさんはエミリが心配で、この地に戻って来たんにゃ。少し遠くに輪廻転生しちゃったけど、自力で東の国に帰ろうとしてたんにゃ~」
「ママ~~~」
「エミリ~~~」
答えなんか必要ない。肉じゃがを食べただけでエミリはわかっていた。
こうしてエミリとベティは再会を喜び、いつまでも涙が止まらないのであった……
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