659 キャンプファイヤーにゃ~


「うそ……あたしのほうが年下じゃん……」


 ベティがわしに対して敬語で話せとキレるので、わしの魂年齢を教えたら負けを認めた。


「さっきからお母さんがこっち見てるけど、指示が欲しいんじゃにゃい?」

「あっ! こんなことしてる場合じゃなかった!!」


 ちょっとベティが面倒になったので、調理の途中だった事を思い出させたら走って行った。やはりベティはエミリのお母さん。エミリと同じように楽しそうに料理の指示を出している。

 なんだかその姿がエミリと母親が料理をしている姿に重なって、うるっと来てしまった。歳は取りたくないもんだ。

 ただ、白ロブスター料理の完成品を味見したベティ家族はめちゃくちゃ叫んで倒れた。どうやら白い生き物を初めて食べたみたいだ。


 とりあえずベティ家族を起こしたら、わしはベティに襟首を掴まれてしまった。


「あれって本当にロブスターなの!?」

「たぶんにゃ。伊勢海老のハサミがおっきい版がロブスターにゃろ?」

「そうだけど……ところで切り身しかないけど、殻はどこに行ったの??」

「大きくて邪魔にゃからしまったにゃ。ハンターギルドで売れば高く付くだろうにゃ~」


 ハンターギルドと聞いて、ベティは何かに気付いてしまったようだ。


「え? もしかしてだけどもしかする??」

「その通りにゃ。白いロブスターで、大きさは50メートルオーバーにゃ」

「うそ~~~ん!!」

「驚いているところ悪いんにゃけど、女王達を待たせてるから、早く盛り付けてくんにゃい??」

「あとで詳しく聞かせてもらうからね!!」


 大きさを聞いてベティはのけ反って叫んだが、お客を待たせるわけにはいかないのか調理の指示に戻って行った。


「シラタマ君! 持って行って!!」


 そして、わしをウエイターに使う始末。「これでも王様なのに」とブツブツと言いながら皿を運び、女王達のテーブルに並べる。


「こちらは、白ロブスターのカクテルサラダになりますにゃ」

「うん。色合いがいいわね」

「取り分けさせていただきますにゃ~」


 ベティからは料理名とよく混ぜてからサーブするように言われていたので、わしはよく混ぜてから小皿に盛って人数分配った。


「んっ! ドレッシングがロブスターと凄く合っていいわね。不思議なドレッシング……」

「シェフからトマトを使ったカクテルソースと聞いていますにゃ~」


 一品目を運んだわしは、自分の皿を摘まみながらベティの元に戻ったら、次の品を渡されたので運ぶ。そして、鍋から皿にスープを注いで配った。


「こちらは、白ロブスターのスープとなってますにゃ。お熱いので気を付けて飲んでくださいにゃ~」

「うん。これもまた美味しいわね……濃厚でいいわ」

「諸事情でフルコースが大皿料理になってしまうことを深くお詫びしていましたにゃ~」

「ええ。気にしてないと伝えておいて」


 そしてまた次なる料理を取りに行こうとしたところで、わしは三回転して女王達のテーブルに戻った。


「にゃんかおかしくにゃい!? これ、侍女さんとウサギさんの仕事にゃろ! にゃんで一緒に食ってるにゃ~~~!!」

「「あ……」」

「「「「「あははははは」」」」」


 そりゃわしだって怒ることがある。こんな美味しい物を、王様のわしが歩きながら食って、女王の侍女とメイドウサギが優雅に食べていたらツッコミどころ満載だ。


 わしがツッコムのが遅いっていうツッコミはいらん!!


 皆に笑われてしまったが、侍女達が本来の動きになったら、わしもテーブル席でベティの料理を堪能する。さすがは日本の転生者と言う事もあり、出て来る料理は目に映え、めちゃくちゃうまい。

 ただし、女王ですら知らない料理ばかり並ぶので、城であのベティ夫婦を雇いたいとか言っていた。まさか幼女が指示を出して作っているとは思っていないようだ。



 白ロブスターのフルコースが終わったら、一同お腹をさすって動けなくなる。あの女王ですら、料理のうまさのせいで食べ過ぎてしまったようだ。

 ちなみに女王は、一皿につき三口ぐらい食べてはコリスに譲っていたから、そこまでの量は食べていない。

 わしたち猫パーティは次の皿が出るまでに、白ロブスターの刺身や串焼きを摘まんでいたからお腹パンパン。コリスは頬袋もパンパンなのだ。

 ベティ家族はと言うと、料理を作りながら味見というていでガツガツ食ってたっぽい。だから三人ともお腹を押さえて引っくり返っている。


 わしはお腹が少し収まると、原住民の通訳を集めてルシウスキャット号の穂先に飛び乗った。


『もう日が落ちるのは時間の問題にゃけど、祭りはこれからにゃ~! キャンプファイヤー……いってみようにゃ!!』


 わしが小さな【火の玉】を飛ばしたら、最初に組んであった積み木に火がつき、燃え上がった。


『さあ! 部族のみにゃさ~ん。喜びの舞いにゃ~! 笑って踊れにゃ~!!』


 オオカミ族が炎を囲んで口を叩きながら踊り出すと、他の部族はその楽しそうな舞いに手拍子や足踏みで応え、いてもたってもいられなくなったら自分達も踊り出す。

 部族によって踊りは違うようだが、炎の周りに人の輪が何周にも増えて行き、全ての部族は楽しそうに踊っていた。


『にゃははは。いいにゃいいにゃ。アメリヤ国民のみにゃさんも、見よう見マネで踊れにゃ。踊らにゃそんそんにゃ~。にゃははは』


 わしが笑ってこんな事を言うと、遠巻きに見ていたアメリヤ国民が一人、また一人と加わって、さらに踊りの輪が膨らむ。

 原住民は自分達をさげすんで見ていたアメリヤ国民が部族の踊りを踊り出した事に少し困惑していたが、しだいにジェスチャーで踊りを教えたりして、双方に笑顔が見て取れた。


 これぞ、人間の底力。

 楽しい事をしていれば、敵味方なんてない。

 笑い声の絶えないお祭りだ。


 しばらく皆を煽っていたわしであったが、もう必要ないと信じて、女王達の元へ戻るのであった。



「シラタマ君。ちょっとちょっと~」


 わしがトコトコと歩いていたら、腹を押さえて座っているベティに手招きされた。


「またいっぱい食べたにゃ~」

「もうここ数日食べ過ぎて、確実に太ってるわ」

「まさかわしの渡したお米とかは……」

「ペロリと食べちゃった。てへ」


 ベティはまたかわいこぶりっこしているが、わしはかわいく感じないのでジト目で見るしか出来ない。その目に気付いたベティは慌てて話題を変えやがる。


「それよりさっきの話よ! 50メートルのロブスターって……そんなの倒せるの??」

「ああ。わしって白い猫にゃろ? 鍛えれば鍛えるほど強くなれるんにゃ」

「たしかに白い獣は強いけど、50メートルはありえないわ~。あたしだってそこそこ強いと思ってたけど、10メートルぐらいの白い獣に瞬殺されたのよ?」

「50メートルにゃんて小さいほうにゃ。わしが倒した獲物で一番は、500メートルの白いメガロドンにゃ~」

「うっそ……」


 ベティはハンターとしての経験があるので、わしの強さが桁違いと感じているようなのでダメ押し。


「数日前に、巨大な猫や火の鳥、空一面の火の玉を見たにゃろ?」

「うん……」

「あれ、全部わし一人の魔法にゃ」

「んなアホな……」

「にゃはは。わしこそが、最強の猫王なんにゃ~」


 ベティが驚きまくっているので小説をどこまで読んでいるのかと聞いたら、一から読まずに日ノ本の巻を読んでいたからわしの強さはわからなかったようだ。

 ヤマタノオロチもフィクションだと受け取っていて、本人から聞いて事実だったとようやく受け入れたそうだ。


「あ、そうにゃ。猫の国行きはどうなったにゃ?」

「いちおう許可は下りたわ。小まめに帰って来れるのが事実ならって話だけど……」

「じゃあ決定だにゃ。お試しに一週間ぐらいで帰るってのでどうにゃろ? それにゃら事実ってわかるにゃろ」

「フフ。簡単に言うのね。わかったわ」


 わしの言い方に嘘がないと感じたベティは両親の元へと向かうので、わしも挨拶して明日の夜に立つ約束を取り付ける。嘘をついていたら金貨百枚払う契約にしたので、金に目が眩んだ両親は快くベティを送り出していた。

 「そんなんでいいのか?」とわしは思いながらも、身売りされたみたいなベティを連れて猫ファミリーにご挨拶。当然ベティは変わった見た目の者に驚いていたが、わしが妻帯者である事が一番驚いていた。


「てか、コリスちゃんって、キョリスのこと?? 尻尾が二本のリスだし……」


 あと、いまだに白い獣恐怖症があるらしく、コリスには恐怖心があるようなので安心させる。


「それ、情報が古いにゃ。キョリスは10メートルの巨体で、尻尾は三本にゃ。んで、コリスはキョリスの娘にゃ~」

「うん。よけい怖いわね。泣かせたらキョリスがやって来そう」

「キョリスともわしは付き合いあるから大丈夫にゃ。怖がる必要ないにゃ~」


 わしがコリスに飛び付いて撫で回すと「ホロッホロッ」と嬉しそうにする。これでちょっとだけベティは恐怖心が和らぎ、コリスのお腹を撫でて顔を埋めていたから、もう大丈夫そうだ。

 あとはジョージにも面会させて、不平等条約にベティの名前も書き加える。


「なんでそんな子を??」

「才能あるからにゃ。それより例の貴族達の、無茶にゃ税金取り立ては改善したにゃ?」

「はい。あいつら俺の知らないところでやりたい放題していたので、権利は全て白紙に戻しました。まぁ売上から税金は取りますけどね」

「その税金が高いんじゃにゃいかにゃ~?」

「まさか……適性ですよ。あいつらと一緒にしないでください」


 ジョージがムッとしているのでわしは笑いながらベティの頭を撫でる。


「にゃはは。冗談にゃ。ベティちゃん。聞いたにゃ~? ジョージ君はめっちゃいい奴なんにゃ」

「はい! ありがとうございます!!」


 ベティは幼女らしくペコリと頭を下げてから両親の元に走って行った。それを見送ったジョージは、しっかりした子だなと微笑ましく見ていたが、わしに言いたい事があったようだ。


「それにしても、よく国民と部族の人達をひとつにまとめましたね。あんなに楽しそうにしてるなんて信じられません」

「うまい物を分け合ってお腹いっぱいだからにゃ。そんにゃ時にケンカしたがる奴にゃんていないにゃろ」

「そんなものですかね?」

「さあにゃ~? 適当に言っただけだからにゃ~」

「あはは。せっかく王様に見えたのに~」

「にゃははは」


 ジョージは笑いながらキャンプファイヤーに目を移し、うっすらと涙を浮かべて見ている。


「この時間がずっと続けばいいんですけど……」

「それはジョージ君しだいにゃろ。わしからもお願いしておくから、頑張るんにゃよ~?」

「はっ! 部族の皆さんの笑顔を取り戻せるように、粉骨砕身いたします!!」

「にゃはは。堅すぎるにゃ~。ジョージ君もあの輪に加わって笑えにゃ~。行くにゃ~。にゃははは」

「はい!!」


 ジョージと共に走り出し、わし達はキャンプファイヤーの輪に加わって踊りまくる。ただ、ジョージは下手くそだったから笑われていたので、わしが通訳して部族の者から教えてもらった。

 その時、王様のジョージが謝ったり笑ったりと様々な顔を見せていたので、原住民は同じ人間だと感じたそうだ。


 きっとジョージ13世は信じるに足る人物だと原住民の目に映ったのだろう。


 この日のお祭りは、アメリヤ国民、原住民、他国の者、関係なく、笑いながら夜通し踊り続けたのであった……

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