364 イサベレの救出にゃ~


 イサベレが眠らされ、神輿のような乗り物に揺られて南に運ばれているとは露知つゆしらず、わしとリータ、メイバイ、コリスは、リンリーの案内で北に向かっていた。

 内壁を出てしばらく歩くと多くの住人が農作業をしている姿が目に入り、何を栽培しているかと質問していたら、外壁に到着する。

 そこから外に出てもリンリーのあとに続き、何があるのかリータ達と喋りながらひたすら歩く。リンリーは昨日とは違って口数が少なく、見飽きた森の光景もあって、なんとなく探知魔法を使ってみたら賑やかな反応があった。


 はて? 進行方向に人がいっぱいおる……。外壁からも続々と人が出て、わし達を囲むように追っておるんじゃけど、なんでじゃろう?

 何かサプライズ的な事でもしてくれるんじゃろうか? フラッシュモブとか? う~ん……いきなり歌って踊られても、どう反応していいかわからん。出来ればやめて欲しいのう。


 そうしてわしが暢気のんきな事を考えていると、大勢の住人が待ち構える場所まで連れて行かれた。


「にゃあにゃあ?」


 そんな光景を見たならば、さすがのわしでもリンリーに質問しなくてはならない。


「ど、どうしたの?」

「人が多いけど、ここでにゃんかするにゃ?」

「何かすると言えばするんだけど……」

「にゃ~~~?」


 わしがリンリーに質問すると口ごもり、その少しあとに後方からも住人が現れて、完全に囲まれてしまった。


 なんだか緊張してる? 皆の緊張がわしに突き刺さって痛い。やはり歌って踊り出すのか……


「ごめんなさい……」


 わし達が、何が起こるのかとキョロキョロ周りを見ていると、リンリーは小さな声で謝罪し、仲間の元へ駆けて行く。すると、リータとメイバイも不思議に思いながら、わしに話し掛けて来る。


「みなさんどうしたのでしょう?」

「険しい顔をしてるから、初日に戻ったみたいニャー」

「にゃんだろうにゃ~? 理由を聞いてみようにゃ」


 取り囲んで動かない住人の数人に、わしは念話で問い掛ける。


「にゃんか、わし達が失礼にゃ事をしたのかにゃ?」

「………」

「悪い事をしていたにゃら謝るから教えてくれにゃ~」

「………」

「リンリー? にゃんか言ってくんにゃい?」

「………」


 誰も返答をくれない……。やはり、わし達が何かしてしまったのか? 特に怒られるような事はしてないはずなんじゃが……。致し方ない。


「わかったにゃ。一度帰るにゃ。また来た時は、話をしてくれにゃ。みんにゃ、行くにゃ~」


 わし達がきびすを返して里に戻ろうとすると、住人が帰り道に立ちはだかる。


「帰るって言ってるにゃろ? どいてくれにゃ~」


 わしのセリフに、ようやくリンリーが重たい口を開く。


「ダメ。ここでおとなしくしていて」

「にゃんで~?」

「言えない……」

「それじゃあ納得できないにゃ~。せめて理由を聞かせてくれにゃ~」

「わかっているわ。事が終われば説明するし、私の命……里の者の命も差し出すから、お願い。動かないで」


 なんじゃ? 命を差し出すって、物騒な……。わしは生け贄なんて所望しておらんぞ?


「いま教えてくれにゃ~」

「だから出来ないの……あなた達はいい人……いい猫だから、傷付けたくないの」


 別に言い直さなくても……猫じゃけど。でも、わし達が動けば攻撃をするってのはわかったな。となると、イサベレが危険っぽい? 一人にさせているのはマズイかも?


 わしは念話をリータ達にだけ繋いで指示を出す。


「ちょっとイサベレを見て来るから、ここを頼めるかにゃ?」

「はい。でも、攻撃して来たらどうしましょう?」

「なかなか強いからにゃ~……いざとなったら、自分の命を優先してくれにゃ。二人の武器だけ、そこの草むらに出して行くからにゃ」

「わかりました」

「あとは影武者も用意して行くから、それで時間を稼いでくれにゃ。あ、そうそう。攻撃を喰らうとマズイからにゃ」

「はい……」

「それと、コリスを……」

「わかったから、もう行くニャー! イサベレさんが心配ニャー!」


 ちょっと心配症を見せてしまったわしであったが、メイバイに言われて直ちに行動に移す。

 リータ達にわしを隠すように立ってもらい、リータの胸にわしは抱かれて、すぐに姿を見せる。そして光の玉を空に放ち、住人が上を向いた瞬間に次元倉庫からリータ達の装備を草むらに出して、ダッシュで移動。

 目にも留まらぬ速さで木に登り、枝伝いに飛び交って、住人の包囲を突破する。


 リータ達に隠してもらった瞬間に、ぬいぐるみと入れ替わったので、気付かれずに楽々逃げおおせたと言うわけだ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 残された里の者達は空を見上げていたが、すぐに視線をリータ達に向けて問い掛ける。


「何をしたの!」

「にゃにって、魔法を見せてあげただけですにゃ~」


 リンリーの問いに、リータは念話で答えて、ぬいぐるみの手を上げる。


「さっきと雰囲気が違うような……」

「そんにゃ事ないニャー。気のせいニャー。ゴロゴロ~」


 メイバイは、シラタマのマネをして喉を鳴らしている。


「また変わったような……」

「あ! シラタマさん、おネムなようですね。よしよし~」

「ゴロゴロ~」

「あなたも念話を使えるのね……」

「はい! シラタマさんに教えてもらいました。よしよし~」

「ゴロゴロ~」

「私達は動いていないんですから、何もしないでくださいね?」

「……動かなければね」

「では、そこで座って待ってます」

「ゴロゴロ~」


 こうしてリータとメイバイの三文芝居は続き、草むらに寝転んだコリスに体を預け、シラタマの帰りを待つのであった。


「「ゴロゴロ~」」

「いま、二人がゴロゴロ言わなかった?」


 たまに失敗しながら……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 リータ達が住人を引き付けてくれている間に、わしは最速で走り、壁を飛び越え、屋根を飛び交い、白い屋敷に飛び込んだ。


 ダメじゃ。派手に音を出しても、なんの反応もない。もうすでに、イサベレはどこかに連れて行かれたのか? 外を探そう。


 わしは白い屋敷の屋根に飛び乗り、キョロキョロと辺りを見ると高いやぐらがあったので、そこに移動する。梯子はしごを駆け上がり、鐘に触れないように気を付け、目視と探知魔法を使って辺りを探す。


 さっきと変わらず、里の中には数人動いているだけじゃな。あれか? いや、男っぽい。やはり室内か?

 外壁の外は……南に向かう神輿があるな。婆さんが乗っているのかと思ったが、車イスもある。婆さんがどちらかに乗っているじゃろうし、これを追ってみよう。



 わしは櫓から飛び降り、行きと同じく最高速で移動して、あっと言う間に追い付くと、神輿の進行方向に土の壁を出現させる。


「な、なんだい!?」


 突然の出来事に、ヂーアイ達は驚いて止まり、辺りを見回す。


「誰かいるのかい!?」


 辺りには人影は無く、ヂーアイ達が警戒を続けるが、いくら探したところで気付くわけがない。


「わしにゃ~」


 なので、声まで出して教えてあげたら、神輿を見てくれた。


「猫!? あんた……」


 神輿に座るイサベレの膝に乗って、くつろいでいたわしを見たヂーアイは驚いているが、猫だからではないはずだ。


「さてと……イサベレが寝ている理由を聞かせてもらおうか。返答によっては、どうなるかわかっているじゃろうな?」


 わしは猫を被るのをやめて、元の口調で念話を送る。すると、わしの脅しに屈したのか、神輿はゆっくり地面に下ろされた。


「お前達……やっちまいな!」


 いや、戦うのに不便だったから、下ろしただけのようだ。

 そのヂーアイの声に、四人のスキンヘッドの男が神輿を囲み、指をボキボキと鳴らしている。

 わしも肉球をぶにぷに合わせ、神輿から降りて距離を取る。これはイサベレの息は確認が取れたので、安全の為に離れただけであって、かっこをつけたわけではない。


 四人の男はわしが神輿から離れると、一斉に襲い掛かって来た。

 一人の男のパンチを避けると、すぐに二人の男が前蹴り。これもさっと避けたが、男達の間を通って避けたので、すぐさまエルボーが降ってくる。

 なので大きく避けようとしたら違う男二人に回り込まれ、パンチ、キックと放たれた。だが、わしは冷静にギアを上げ、紙一重で避けてやる。

 それからも、四人の男による、息をつかせぬ攻撃が続く……


 わしにダメージを与えた攻撃の謎解きをしてやりたいんじゃが……。若干、手や足に魔力が感じ取れるか。こんな時は、ノエミに教えてもらった【魔力視】!

 おお! よく見える。なるほどのう。手と足に、グローブのようなモノが見て取れる。理屈はわからんが、これが当たると、内部破壊のような効果があるのかな? 痛いから喰らってやらんけどな。


 わしが四人の攻撃をかわし、手足を注視していると、ヂーアイは大声で怒鳴る。


「何をやってんだい! そんな弱っちいヤツ、あんた達、四凶ならすぐに殺せるだろう!」


 殺す気で来ておったのか……全員素手じゃから、てっきり意識を奪うだけじゃと思っておった。いや、前にわしを殴った奴は、攻撃が当たった瞬間、どうして死なないのかと聞いて来たな。

 これがこいつらの武器なんじゃな。ん? 魔力のグローブが尖った……


 わしは危険を感じ、パンチ、キックを大きく避けて、一気に距離を取る。すると、ヂーアイ達は驚きの表情を見せる。


「何故、避けられるんだい……」


 驚くヂーアイに、わしは答えてあげる。


「見えてるからじゃ。そんな小細工で、わしを殺せると本気で思っておるのか?」


 まぁ……たまたま【魔力視】を使っていたからじゃけど……


「そんなわけ……あんた達、さっさとやっちまいな!!」


 四人の男はヂーアイの声で一斉に動き、わしに徒手空拳……いや、鋭い魔力の塊を手足にまとっているので、徒手空剣を放つ。縦横斜め、振り降ろされる斬撃に、わしは通り過ぎてから、刀のつばをカチンと鳴らした。


「なっ……」


 その直後、わしの後ろで、四人の男はドサドサと倒れた……


 当然わしが、かっこよく斬ったからじゃ!


 全ての斬撃に刀を合わせ、根元ギリギリで斬り裂き、戻る刀で峰打ちを腹に入れてやったので、この始末となったわけだ。


「何が起きたんだ……」

「見えてなかったのなら、教えてやる必要はないじゃろ。さあ、わしの仲間に危害を加えたんじゃ。老婆であっても、許しがたし。死んで償ってもらおうか……」


 わしは刀を抜きながら、ヂーアイを脅すように歩み寄る。


 斬り倒した事もそうじゃが、いまのセリフもかっこよかったんじゃなかろうか? 猫の口じゃないから締まる!!

 婆さんの護衛は倒れたんじゃから、これなら脅しが聞いて、謝って来るじゃろう。さあ、寛大に許してやろうじゃないか……頭を下げるがよい!



 わしが近付く中、ヂーアイは車イスから立ち上がり、腰を落として両手を開き、左手をひっくり返して手の平を空に向ける……


 ……はい? それが謝るポーズなの??


「これでも昔は、里一番の美人拳士と呼ばれていたんさね。歳をとっても衰えぬ技をとくと見よ! きえ~~~!!」


 天高く跳び上がったヂーアイは、奇声をあげながら蹴りを放つのであった。


 しゃ……謝罪は~~~!!??

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