365 ヂーアイの実力は如何に?にゃ~
「きえ~~~!!」
奇声を発したヂーアイの跳び蹴りがわしを襲い、後方に跳んで難を逃れる。
うお! 地面に足が減り込んでおる。よぼよぼのババアのくせに、元気すぎるじゃろう!
「よく避けたさね」
「足は大丈夫なのか?」
「ハッ。敵に……猫に心配されるほどヤワじゃないさね」
いやいや、さっきまで車イスに乗っていたじゃろう。なんか足を地面から抜いたら踊ってるし~! ……あの遅い動きは太極拳か?
なんてツッコむところの多いババアじゃ。あ! 猫って言い直したのをツッコむの忘れてた。
わ! 来た!!
ヂーアイは緩やかな動きをしていたと思ったら、わしの間合いに急に現れて、手の平を上にした抜き手を放つ。わしは慌ててしゃがんで避けると、その延長線上にある黒い木が貫かれた。
なんじゃ今のは? わしの目には、尖った魔力の塊が手に
わしがしゃがんだ事によって、ヂーアイはわしの顔目掛けて
驚いているばかりのわしであったが、スピードを上げれば簡単に避けられる。蹴りに合わせて後方宙返りし、着地と同時に距離を取った。
マジか……このババア、さっきの四人より強くね? たしか、四凶とか物騒な名前で呼ばれていたはずじゃ。そんな奴等より上って……うわ! 今度はなんじゃ!?
「もらったさね!」
突如わしは、見えない何かに足を
「チッ……変な避け方しやがって……」
あっぶな……尖った魔力を喰らうとどうなるかわからんから、避けるしかないな。
てか、変な攻撃してるのはそっちなんじゃからな! また踊ってやがるし……
いまの内に、さっきの謎解きをしておこうか。なんだかババアの服が不自然にパタパタしてるように見えるんじゃよな~……と言うか、風を纏っているのか? そう言えば、ババアは車イスを土魔法とは違う力で動かしていたか。
仮説を立てるなら、風魔法で加速したり、遠距離に体の一部を再現させているってところか。
ならば簡単! それより強い力で吹き飛ばせばいいだけじゃ!!
「よく避けたと褒めてやりたいところだが、決着を急がせてもらうよ」
「奇遇じゃな。わしも同じ事を考えていたところじゃ」
「そうさね……だが、何もさせない内に終わらせてやるさね!」
ヂーアイはそれだけ言うと、
たぶんこのタイミング! 【突風】じゃ~!!
おそらく一瞬で前に出て来ると読んで、強風を放ったら、ヂーアイは半分ほど進んだところで腕を振っていた。
ふふん。あんな遠い距離で空振っておる。少し力が弱かったが、仮説通り進めなかったようじゃな。
それからヂーアイは、何度も瞬間移動を使おうとするが、わしの強風に自分の風は止められて、同じところで踊り続ける。
「くっそ……これならどうさね!」
あの動作は……こうしておくか。
先ほどわしを倒そうとしたヂーアイの攻撃は、遠距離からの掛け蹴り。わしの足のアキレス腱辺りに風の足を作り、掬い上げる事でわしを倒した。
なので、ヂーアイの足が前に大きく出た瞬間に、わしはアキレス腱辺りに
「にゃはっ、にゃはっ、にゃはははは」
あまりの無様さに、わしはゲラゲラと笑ってしまった。
「く、くそ……」
「もう終わりか? わしに何もさせずに殺すんじゃろ? さっさと掛かって来んか!」
「ぐっ……」
わしの念話に、ヂーアイはぐうの音も出ないようだ。なので、わしからゆっくりと歩いて近付いてやる。
わしとの距離が詰まる中、ヂーアイは腕をバババッと回し、両手を前に出して構える。
「何をしようと無駄じゃぞ?」
「わたすの肩には、里の命運が賭かっているんさね! 負けるわけにはいかないんさね!!」
「はぁ……バカじゃな……」
「なんとでも言うさね!」
わしは近付きながら、
「なっ……動けない……」
ヂーアイのしわが伸びてつるんつるんになる中、土魔法で包み込んで拘束し、わしはさらに歩み寄る。するとヂーアイはついに諦めたのか、叫び出した。
「ハッ! 殺せ!!」
「この里の者は、なんでわしの話を聞けんのじゃ……」
「猫なんかに話す事はないよ! これであいつを追い出せないんだ。生きていても仕方ないさね。さっさと殺しな!!」
あいつ? この里の者は、何かと戦っておったのか? たしか南に獣の巣があるような事を、リンリーが言っていたか……
「……わかった」
わしは考え事を打ち切り、返事をすると、ヂーアイにも見えるように刀を遅く走らせて、終わりとする。
そうしてわしが刀を鞘にカチャリと戻した瞬間、土の拘束具は、ガラガラと崩れ落ちるのであった。
「え……? 生きてるさね……」
ヂーアイは拘束具が外れると、両手を見て、信じられないと言った顔を見せる。そのヂーアイの顔を真っ直ぐ見ながら、わしは怒鳴る。
「こんな事をしでかす前に、なんで相談してくれんのじゃ!!」
わしのひときわ大きな念話の声に、ヂーアイはビクッと体が跳ねた。
「里の命運じゃと? 言ってくれたら、わしが協力したんじゃぞ!」
「え……」
「わしはいつだって、話し合おうと言い続けていたのは知ってるじゃろ! 何故、それが出来んのじゃ! ババアは長じゃろ! 判断を見謝るな!!」
「フンッ……あんたに何が出来るんさね……」
「まだ強がるのか! 助けてくれと一言いえば、わしが悪いようにしなかったんじゃ! それはお前のプライドか? そんなくだらないモノ、住人の命より重いわけがないじゃろう!!」
「………」
わしの叱責を受けて、ヂーアイは黙り込んでしまった。その姿を見て、今度は冷静な口調で語り掛ける。
「敵はどこじゃ? その首、必ずわしが持って来てやる」
「なんだと……」
「聞こえないのか? わしがお前達の敵を倒して来てやると言っておるんじゃ」
「わたすは、お前達を殺そうとしたんだぞ?」
「誰も死んでないから許してやる。さっさと言え」
「なんて、なんて心の広い……うっ…うぅぅ」
突然泣き出したヂーアイの顔を見たわしは、先ほどまでのテンションが、一気に下がってしまった。
あちゃ~……言い過ぎたか? 泣かせてしまった。怒りに任せて女を泣かせたなんて、子供のとき以来じゃ。あの時は、じい様かオヤジにぶん殴られたな~。相変わらず、どっちだったか思い出せんが……
しかし、ババアの泣き顔は見てられん。すんごい顔じゃから、笑ってしまいそうじゃ。ここは落ち着くまで、イサベレの様子を見に行くか。
わしは笑いを
「イサベレ、イサベレ~。起きるにゃ~」
「ん、んん……」
こいつ……絶対起きてるじゃろ? 口を尖らせてるし……
「……キスしたら起きるにゃ?」
「ん。起きる」
「やっぱり起きてるにゃ~!」
「あ……バレた。それなら!」
「にゃ!? くっつくにゃ! ほっぺにチューするにゃ~!!」
抱きついてわしにキスをしまくるイサベレを引き離し、何が起きたかを問いただす。
「ふ~ん……一服盛られたんにゃ。それで、いつから起きてたにゃ?」
「最初から」
「最初からにゃの!?」
「ん。あれぐらいの薬なら耐性がある。だから罠に嵌まった振りをしていた」
「にゃんでそんにゃ事を……」
「目的を調べていた。でも、一番の目的は……」
「一番にゃ?」
「ダーリンが、かっこよく助けてくれるのを待っていた」
「そんにゃに余裕があるにゃら逃げてくれにゃ~」
わしの意見は聞く耳持たず、イサベレはわしの腕に絡み付いて離れない。て言うか、浮いてるから降ろして欲しい。
それからヂーアイが泣きやみ、四人の男が復活してから里へと走る。里に戻るとヂーアイに、リータ達の元へついて来てくれと言ったら断られた。気功で無理矢理体を動かしていたようで、無理が祟って身体中が痛いんだとか。
なので、一筆書いてもらってわしとイサベレはリータ達の元へ走る。人だかりを見つけたわしはイサベレと共に大ジャンプ。
「にゃ~~~!!」
そして恐怖に叫びながら、風魔法でふわりと着地した。
「シラタマさん。おかえりかさい」
「ただいまにゃ~」
「イサベレさんも、無事でなによりニャー」
「ん。心配かけた」
リータとメイバイの出迎えに、にこやかに会話を交わすわしとイサベレとは違い、住人達はざわざわと騒ぎ出す。そんな中、わしに話し掛けようとしているリンリーと、他の住人にも念話を繋いでみる。
「猫さんが増えた……」
あら。わしが増えて驚いておるのか。その他は、ババアの心配をする声が多いな。とりあえず、リンリーに反論しておくか。
「増えてないにゃ~」
「え……でも、ゴロゴロ言ってたわよ?」
ゴロゴロ? リータ達がバレないように、腹話術でもしておったのか……
「これは、ただのぬいぐるみにゃ。欲しかったらあげるにゃ~」
「あ、それは私の……」
「何個も持ってるんにゃから、一個ぐらい良いにゃろ~?」
「……はい」
リータはぬいぐるみの着物だけ脱がし、リンリーに渋々手渡す。着物は
ぬいぐるみを受け取ったリンリーは、本当に生き物じゃないかと確認して、嬉しそうにぬいぐるみの胸に顔を押し付けていた。
「それでにゃんだけど、見ての通り、ババアの策略は失敗したにゃ」
「モフモフ~……あ! そうだわ! 大婆様はどうなったの!?」
ぬいぐるみを嬉しそうに抱いていたリンリーであったが、現状に驚いてそれどころではなくなった。周りからも、殺気がこもった声が飛んで来る事態になっている。
「まぁまぁ。落ち着くにゃ。これ、ババアから受け取って来たから、読んでくれにゃ」
「……
わしの懐から出した木簡を読んだリンリーは、険しい顔から安心したような顔に変わり、住人にも木簡の内容を説明し、解散を指示していた。
ふ~ん……あの木簡に書かれた文字、ちゃんと読めるんじゃな。めちゃくちゃ汚い字じゃと思っていたけど、達筆じゃったのかな?
そうして、住人の帰る姿を見送っていたわし達も里に戻ろうとしたが、コリスがお腹すいたと言って来たので、ここでランチ。テーブルを取り出すと、住人の中でたた一人、リンリーだけが残ってテーブルの席に着く。
「……食べるにゃ?」
「はい!」
あまりにガン見して来るから、勧めざるを得ないわしであった。どうやらわしが、敵意がない証明の為に、いい
ずうずうしく、おかわりも要求して来るし……
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