208 誕生日にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。猫耳マントは返品したい。


 スティナからエミリの母親、カミラさんの最後の依頼を聞いてから、本来仕事をする時間を割いて探索をしている。

 カミラさんが最後に受けた依頼は南東の最前線であったため、幸いオフシーズンでもあり、狩りと探索を出来て丁度良かった。

 最初は街や村に聞き込みを行い、向かった先の森を重点的に探索をしているのだが、探索範囲が広く、難航している。


 探索や断れない仕事、たまに農業、暇な日はリス家族やさっちゃん、わしと関係の持つ人と遊んだり、デートしたりを繰り返していると、あっと言う間に月日が過ぎ、二月二十二日。わしの誕生日となった。



 誕生日当日……


 その日もいつものように、リータとメイバイの間で目を覚ます。


 ん、んん~。また昨日は飲み過ぎた。リータとメイバイも、アダルトフォーも、誕生日の前夜祭とか言って、日が変わるまで寝かせてくれないは、その後もドンチャン騒ぎじゃったからのう。

 二人も夜遅くまで起きていたし、寝坊かな? わしも寝足りない。しかし、下半身に違和感が……まぁいっか。二度寝しよう。


 わしは二人の温もり感じながら、まぶたを閉じる。瞼を閉じて、数分、数十分、一時間と時が過ぎ、二人がわしを撫でている感触で再び瞼を開く。


「おはようございます」

「おはようニャー」


 そこには満面の笑みの二人。わしも笑顔で返す。


「おはようにゃ~」

「「誕生日おめでとうございます(ニャー)」」

「うん。ありがとにゃ」


 わしの言葉に、二人はわしを抱き締める。


「幸せです~」

「私も幸せニャー」

「そうだにゃ~」


 う~ん。そうは言ったものの違和感が……。二人に尻尾を握られている感覚があるのに、余っている感覚もある。なんじゃろう?


「ずっとこうしていたいです」

「今日はシラタマ殿の誕生日だから、一日中ゴロゴロするニャー」

「ゴロゴロ、いいですね~」


 う~ん。このやり取りよく聞くんじゃけど、誕生日限定のゴロゴロがあるのか? それはそれで、わしの息子さんが心配じゃ。違和感の正体は息子さんか? う~ん。まだ大丈夫っぽい。反応は極少数じゃ。


「ゴロゴロ~。それもいいけど、お腹すいたにゃ。ゴロゴロ~」

「たしかにそうですね」

「腹ごしらえしてから、ゴロゴロするニャー」


 うん。メイバイはブレないな。今日は逃げられなさそうじゃ。



 そうしてわし達は起き上がり、乱れた着流しを直してから、わしを先頭に歩き出す。だが、リータとメイバイがある事に気付き、歩みを止めた。


「あの……シラタマさん?」

「どうしたにゃ?」

「増えてるニャー!」

「にゃにが?」

「し、尻尾ですよ!」


 尻尾? わしの尻尾は後ろに二本、前に一本。前の一本は、特に大きくなってないから見えない。大きくなってないじゃろ? うん。大丈夫じゃ。増えてない。


「増えてないにゃ~。変にゃこと言うにゃ~」

「いや、増えてますって!」

「にゃ~?」

「だから、増えてるニャー!」


 さっぱりわからん。万が一、前の息子さんが、大きくなっていれば尻尾は三本となるけど、いまは冷静そのものじゃ。


「いいですか? 私が一本の尻尾を握りますよ?」

「にゃ? それがなんにゃ?」

「私がもう一本握るニャー!」

「うん。握られたにゃ。で?」

「もう一本を握ります」

「どうニャ?」


 どうって言われても……握られている感触がある。あるけど……え??


「尻尾が三本あるにゃ~~~!」

「なんでシラタマさんが、大声あげるんですか!」

「私達はずっと言ってたニャー!」

「ど、どうなってるにゃ?」

「知りませんよ!」

「シラタマ殿の体ニャー!」


 えっと……整理すると、わしに尻尾が三本生えているんじゃな。前を合わせると四本になるわけじゃ。違う! この際、前は忘れよう。

 キョリスは百年、人間から消えたと思われていて、再登場した際に、尻尾が増えていた。わしの魂年齢も百歳で猫又に進化したから、百年周期で尻尾が増えるんじゃないのか?

 わしの尻尾が増えているところを見ると、百年縛りの条件ではなさそう……と、言う事は……強さか? または魔力量?

 どっちかわからんが、そのどちらか。または両方でレベルアップしたって事か?

 嘘じゃろ? 尻尾が増えるなんて、てっきり百年先の話じゃと思っていたわ。アマテラス、違うのか?


――違いますよ――


 わしの思考にピンポイントで、割り込まないでください。


――あら、やだ。それでは失礼します――


 おい! 答えを言ってから消えろ!! ……クソッ! 切りやがった。


「どうしたニャー?」

「いや、にゃんでもないにゃ」


 神と話をしていたのが顔に出ていたか。アマテラスの奴、たまに女房と一緒に夢枕に立つんじゃよな~。とうとう、夢の外でも現れやがったか……

 それはそうと、答えを教えてくれなかったのは、自分で答えを探せってことかな? おそらく、強さか魔力で増えるのじゃろう。

 二本も生えてる時点で、すでに妖怪じゃし、尻尾が増えたぐらい気にする事もないか。角が生えなかっただけマシだと思おう。それよりも、二人がどう思うかじゃな。


「変かにゃ? 気持ち悪いかにゃ?」

「いえ。少しビックリしただけです」

「尻尾が増えても、シラタマ殿はシラタマ殿ニャー」

「ありがとにゃ~」


 わしは嬉しくなって、リータとメイバイに抱きつく。二人はそんなわしを撫で回す。そうしてゴロゴロ言っていると、全員同じタイミングでお腹が鳴り、笑いながらダイニングに移動する。

 昨日からエミリは泊まり込みで来てくれていたので朝食を出してもらい、舌鼓を打つのだが、エミリもわしの尻尾に気付き、食べてる間、ずっと尻尾をいじっていた。


 わし達の食事が終わった頃に、アダルトフォーが巣(離れ)からい出して来て、わしの尻尾に興味を示し、ひと悶着あったが、リータとメイバイに救出された。

 その後、掃除に取り掛かろうとしたが、今日は誕生日だからゆっくりしていてと、リータとメイバイに言われたので、居間でエミリとゴロゴロしている。

 どうやらアダルトフォーも掃除を手伝ってくれたみたいだ。


 掃除も早く終えたので、皆でゴロゴロ、たまに「シャーーー!」。「シャーーー!」と言っていたのは、スティナの触り方がいやらしかったからだ。



 代わる代わる撫でられていると、玄関が騒がしくなる。


「シ~ラタ~マちゃ~ん。あ~そび~ましょ~!」


 騒がしいのは、さっちゃんが原因か。リータが出てくれたけど、さっちゃんに、まだ慣れてないのかな? 致し方ない。よっこいしょ。


 わしは立ち上がり、尻尾に伸びる魔の手を、三本の尻尾で打ち落としながら玄関に向かう。


「さっちゃん。おはようにゃ~……女王!? 双子王女まで、また来たにゃ!?」

「なによ? 私が来たら迷惑なの?」


 うん。迷惑以外の何ものでもない。国のトップが庶民の家に来たらアカンじゃろう?


「「わたくし達まで迷惑ですの?」」


 うん。その通り。双子王女まで、王族の自覚が無いのか……


「来てしまったものは仕方がないにゃ。玄関に立たせて置くわけにはいかにゃいし、居間に行くにゃ~」


 わしはリータに、居間に居るメンバーに避難勧告をして来てと耳打ちし、走らせる。そして振り返って歩き出すが、三人の王女に三本の尻尾を握られ、「グンッ」となって、急停止する。


「にゃにするにゃ~!」

「なにするも……ねえ?」

「「ねえ?」」

「だから『ねえ?』じゃ、わからないにゃ~」

「そこに尻尾があったから?」


 さっちゃん……なにその名言? 尻尾があったら握るのか?


「シラタマ。尻尾が増えたの?」

「朝起きたら増えてたにゃ」

「……どうして?」

「まぁ居間に移動して話そうにゃ」

「そうね」


 女王の質疑は後回すると、わしは三王女の魔の手を尻尾で叩きながら居間に移動し、皆が席に着いたら会話を再開する。


「さっきの質問の答えだけど、わしにもわからないにゃ。おそらく、強さに関係してるんじゃないかにゃ?」

「そうなの?」

「だから、わしにもわからないにゃ。女王達のほうで、その手の研究はしてないにゃ?」

「いえ。サンプルが少ないから出来ていないわ。あ! ちょうどいいサンプルが……」

「その目をやめるにゃ~。そんにゃ事したら、にゃん権侵害で訴えるにゃ~」

「冗談よ」


 疑わしい……。まだわしを獲物を見る目で見ているし。


「それで、尻尾以外は何も変わってないの?」

「わからないにゃ。さっちゃんは、にゃにか気付いた事あるかにゃ?」

「う~ん? ちょっと大きくなった? 立ってみて!」


 わしはさっちゃんの指示に従い、立ち上がる。するとさっちゃんは、わしの隣に立ってじっくり見たり、抱きついたりしながらブツブツ言っている。


 ただ抱きつきたいだけなのでは? ブツブツの内容も、かわいいとモフモフが大部分を占めておるし……


「うん! ぜったい大きくなってる!!」


 あ、こんなのでわかるんじゃ。


「本当かにゃ~?」

「本当だって~!」

「じゃあ、服飾の専門家がいるから、ちょっと呼んで来るにゃ」


 わしは離れに行くと、普段メイバイを着せ替え人形にしていたフレヤの裁縫道具の中からメジャーを取り出し、ついでにフレヤも拉致して来た。

 女王の御前でフレヤは緊張しながらわしを測るが、ノッてきたフレヤに身ぐるみを剥がされた。身ぐるみじゃぞ? 着ぐるみじゃないぞ?


 王族の前で素っ裸にされて、わしは両手で上と下を隠す……が、モフモフした毛のせいで隠す必要はなかった。

 フレヤに変身魔法も解いて測られたので、ついでに兄弟達も測ってもらった。エリザベスに「なすり付けるな」と、ネコパンチされたけど……


 フレヤが兄弟達を測っている内に、人型ぬいぐるみに戻り、身だしなみを整え……たいが、さっちゃんがわしの着流しを一向に手離さない。さっちゃんと着流しの引っ張り合いをしていると、女王や双子王女も参加し、隙を見て隠しやがった。


 誰が着流しを隠しているか問い詰めていたら、フレヤがわしのサイズを発表した。


 前回フレヤに測ってもらった時より、たしかに大きくなっているな。5センチぐらいじゃけど……

 変身魔法でこれか……そう言えば、去年も同じくらい大きくなったかも? だとすると年齢? あ! 昔、変身魔法の復習をした時、違うページを見ていたかも。違う変身魔法では、年齢に左右されると書いていたはずじゃ。

 このまま歳を取れば、十年後ぐらいには、ぬいぐるみから脱却できる! ニヒルでダンディーなわしが帰って来る!


 わしが心の中で喜んでいると、さっちゃんが顔を覗き込んで来た。


「ニヤニヤして、どうしたの?」


 アレ? 今日はさっちゃんが心を読んで来ない。ここはとぼけておこう。


「にゃんでもないにゃ」

「……むう」

「さっちゃんもどうしたにゃ?」

「にゃんでもないにゃ」


 またわしの口調になっておる。確実に何かあるな。ここは突っ込んで聞いてみよ……


「それより、大きさはどうだったの?」


 うっ。先手を取られて話題を変えられてしまった。しつこく聞くと怒られるし、致し方ない。


「さっちゃんの言う通り、大きくなっていたにゃ」

「ほらね~」

「でも、元の姿のほうはどうなっているかわからないにゃ。エリザベスとルシウスは、毎年測っているにゃ?」

「測ってないわ。そう言えば、エリザベスとルシウスも、ちょっと大きくなったかも」

「気を付けたほがいいにゃ。おっかさんは3メートルぐらいあったから、将来大きくなるにゃ」

「え……」


 さすがにさっちゃんでも、エリザベスとルシウスが3メートルになったら引くか。


「二人に乗って、モフモフし放題!!」


 引かないのかよ! さっちゃんの思考はどうなっているんだか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る