209 誕生日会にゃ~


 誕生日を迎え、わしの家に訪ねて来た王族に身体測定を無理矢理やらされ、それが終わると、両手をワキュワキュする王族に取り囲まれた。


「にゃ、にゃんですか?」

「いいではないか、いいではないか」

「そ、その手はにゃんですか?」

「いいではないか、いいではないか」

「あの~……今日は、にゃにしに来たにゃ?」

「いいではないか、いいではないか」

「それじゃわからないにゃ~~~!」

「「「「モフモフ攻撃~!」」」」

「いにゃ~~~ん。ゴロゴロ~」


 王族全員さっちゃん化! 



 わしは王族全員に、気が済むまで撫でられてまくった。素っ裸を見せてしまった事が、彼女達のモフモフ病を刺激したみたいだ。その後、わしが気を失う少し前に止まったが、皆、あっちの世界に行ってしまった。


 本当に何をしに来たんじゃ? みんなだらしない顔になっておるし……いまの内に予備の着流しを着て、わしも離れに避難するとしよう。


 ガシッ!


「にゃ!?」


 着流しを着て、こそこそと逃げ出したが、またさっちゃんに尻尾を握られ「グンッ」と、なってしまった。


「いきなり尻尾を握るにゃ~」

「シラタマちゃんが逃げるからでしょ!」

「みんにゃ満足してたにゃ。今日はみんにゃで撫で回しに来たんにゃろ?」

「違うわよ! シラタマちゃんの誕生日を祝いに来たんじゃない!!」

「そうにゃの?」

「なんで気付かないのよ~」


 そりゃ、言わないからじゃろ? あ、わしの尻尾に興味が移って、用件を切り出さなかったからじゃ。わし、悪く無い!


「う~ん……悪い?」

「にゃ!? また心を読んでるにゃ~!」

「読んでないにゃ~(尻尾が増えて、文字が読み取り難いな~)」

「ぜったい読んでるにゃ……」

「ほら、お母様! 準備しましょう」


 さっちゃんはわしのジト目から逃れるために、ソフィ達や、料理長、侍女達を使って、わしの誕生日パーティーの準備を始める

 程なくして、居間のコタツテーブルに、多種多用な料理が並ぶ。離れに避難していた、家に初めからいたメンバーも居間に集合し、誕生日会が始まる。



「「「「「お誕生日おめでと~~~!」」」」」

「みんにゃ、ありがとうにゃ~~~」

「「にゃ~~~ん」」


 主役はわし達、猫三兄弟。兄弟達は双子王女の膝の上、わしはさっちゃんに後ろから抱きかかえられ、女王に優しくナデナデされている。

 王族が中心に固まっているから、わし達が主役なのか、王族が主役かわからなくなっているが、王族がわし達の口に食べ物を運ぶから、きっとわし達が主役なのだろう。


「シラタマちゃん、あ~ん」

「あ~ん。モグモグ。これも、美味しいにゃ~」

「シラタマちゃん兄弟へのプレゼントだから、良い食材を集めて、料理長に腕を振るってもらったのよ」

「そうにゃの?」


 さっちゃんと話をしていると、女王も会話に入る。


「シラタマはお金や物を受け取っても喜ばないでしょ? だから、一番喜ぶ料理を用意したの。いっぱい食べてね」

「ありがたいけど、この人数じゃ、こんにゃに食べ切れないにゃ~」

「余ったら、収納魔法に入れなよ。腐らないんでしょ?」

「あ、そうにゃ! 忘れていたにゃ」

「まったくシラタマちゃんは……あ~ん」

「あ~ん……」


 誕生日会は賑やかに進み、わしはある事に気付く。


 餌付けされてる!!


 たしかに食事に一番喜んでいたが、物欲が無いってわけでは無い。森の生活での食生活が悪かっただけじゃ。でも、うまい。うまいけど、王族に餌付けされてる感がぬぐえない。

 兄弟達は……満足してるみたいじゃな。ゴロゴロ言っておる。わしの人間の思考が邪魔をしているのか……早く人間になりた~い!

 あ、尻尾が増えて、妖怪度アップしたんじゃった。はぁ。このまま、尻尾が何本も増えていくのかのう? 九尾の猫なんかに、なりゃしないといいんじゃが……



 皆も食事に手を運び、食事が半分も無くなっていないにも関わらず、ギブアップで手が止まる。わしは頃合いかと、料理を次元倉庫に入れていく。

 そうしてテーブルにお茶が並ぶと、さっちゃんがお腹をさすって、ついでにわしも撫でる。


「おなかいっぱ~い」

「わしもにゃ~」

「う~ん。メインが終わると暇になるね。シラタマちゃん。なにかやって~」

「にゃんでわしが……わしが主役じゃなかったにゃ?」

「そうだけど~」


 さすがに今日は揺さぶって来ないな。じゃが、早く代案を出さないと、さっちゃんの我儘が爆発しそうじゃ。


「たまにはイサベレ達に、にゃんか芸をさせてくれにゃ」

「イサベレが芸!?」

「ソフィ達でもいいにゃ」

「ソフィ。出来る?」

「で、出来ません!!」

「ドロテ?」

「そんな芸なんて持っていませんよ~」

「アイノは何か出来ない?」

「最近習っている魔法なら、少しぐらい……」

「見たい! やって!!」

「わかりました」


 アイノはさっちゃんの要望に応え、庭に出てお辞儀をする。そして皆の視線を集めると、アイノは光魔法を使い、お絵描きを始める。


 おお! 昔見せてもらったアイノの光魔法では、光の玉を使うだけだったのに、もうそこまで光魔法を上手うまく扱えるようになったのか。戦闘にはまったく使えないけどな。

 しかし、アイノは絵が上手いな。花に馬。アレは……わしか? 兄弟達もいる。一緒に走っているな。ほのぼのしたいい魔法じゃ。


 わしはアイノに拍手を送る。だが、肉球のせいでパチパチならない。皆の拍手があるから、まぁいいかと割り切った。

 アイノの魔力量では、長くは続けられないみたいで早くも終了。謝って来たので抱きついてゴロゴロとお礼を言ってみた。


 それが悪かったのか、良かったのか……こぞって芸が始まった。


 イサベレVSソフィ、ドロテの模擬戦から始まり、メイバイのブレイクダンス、リータの土魔法での猫又人形の作成、アダルトフォーのファッションショー、三王女の美声。

 その都度、お礼の抱きつきと、ゴロゴロ返し。何人か、前の尻尾を触ろうとしたので、後ろの三本の尻尾でガードした。



 そして、宴もたけなわ……



「みんにゃ。ありがとにゃ。すっごく楽しかったにゃ~」

「シラタマちゃんが喜んでくれてよかったわ。また来年やろうね!」

「うんにゃ! 楽しみに待ってるにゃ~」

「あ、その前にわたしの誕生日だけど……」

「わかっているにゃ。さっちゃんの誕生日に、祝いに行くにゃ~」

「うん!」


 さっちゃんと言葉を交わすと、女王がイサベレを連れて寄って来る。


「楽しんでくれたみたいね」

「女王もありがとにゃ」

「いいのよ。それよりイサベレが明日、王都をしばらく離れるから、挨拶してあげて」

「そうにゃの? あ、アレかにゃ?」

「そうよ」

「イサベレ。気を付けて行って来るにゃ。怪我しないようににゃ」

「ん。ダーリンの体に傷は付けない」


 ダーリン? 旦那様からランクが戻った? 周りの殺気が怖いから、あまりイサベレに話をさせない方がよさそうじゃな。


「無理にゃ時は逃げるんにゃ。命が一番大切だからにゃ」

「それは無理。私の命より、陛下の民の命が大事」

「イサベレ……」


 そうじゃった。騎士は女王に忠誠を誓っておるから、逃げるなんて選択肢が取れる訳が無い。


「じゃあ、これあげるにゃ」

「髪飾り?」

「通信魔道具になってるにゃ。言葉は送れにゃいけど、それでわしに連絡が取れるにゃ。ピンチの時には呼ぶといいにゃ」


 この髪飾りは、通信魔道具だ。女王から貰った首輪を真似して、宝石から作ってみた。元々リータ達に渡す予定だったので、呼び出し音しか鳴らない。

 呼び出し音しか鳴らない理由はもうひとつある。マーキングの役割の魔法も入れているからだ。これで、所持者の元へ、いつでも転移できるようになっている。


「こう?」

『にゃ~ん にゃ~ん にゃ~ん』


 う~ん……女王から渋々貰った首輪のこの音、なんとかならんかのう? 前に緊急依頼が来た時に聞いたが、気が抜ける。連動させるんじゃなかったかも。


「ん。使い方はわかった」

「もしもの時にしか使わないでくれにゃ? そうじゃにゃいと、イサベレの危機がわからなくなるにゃ」

「ん。善処する」


 その言い方……怪しい。政治家の常套句じょうとうくじゃ。まぁ転移魔法で登場するとは言っていないから、大丈夫じゃろう。きっと……


「さっきのかわいい音、なに!?」


 まぁさっちゃんなら反応するわな。


「女王から貰った通信魔道具の呼び出し音にゃ」

「なんで猫の声なの?」

「知らないにゃ。女王に聞いてくれにゃ~」

「お母様?」

「シラタマにピッタリの呼び出し音でしょ?」

「うん!」


 いや、そこで納得して質問を切らないで! わしだって気になっているんじゃ。さっちゃんはまた撫で出したし、わしが問い詰めるしかないか。


「にゃんでこの音にゃ? 出来たら変えて欲しいにゃ~」

「シラタマが喜ぶだろうと思って、エリザベスの声にしたのよ。ダメだった?」

「ダメに決まってるにゃ~! ……いたっ!!」


 わしが拒否したら、エリザベスのネコパンチを喰らった。わしのあげた宝石が光っているところを見ると、無駄に【肉体強化】魔法を使って殴ったみたいだ。少し腹立たしいので、念話で文句を言う。


「なにするんじゃ!」

「私の声が嫌って言うの!?」

「いえ、そう言うわけでは……」

「シラタマ。エリザベスに逆らうな。お前が逆らえば、俺にまでとばっちりが来る」

「ルシウス! 噛むわよ!!」

「「ごめんなさい!」」

「それでいいのよ」


 救世主であるはずのルシウスと共に謝ると、エリザベスは満足した顔になる。その顔を見て、少し心配な事があるので、わしはコソコソとルシウスに話し掛ける。


「……ルシウス、大丈夫か?」

「なんとか」

「もしなんなら、ルシウスだけでも森の我が家に帰るか?」

「いや、エリザベスだけ残すのも心配だ。帰る時はエリザベスも一緒だ」

「そうか。エリザベスを頼んだぞ」

「おう! 任せておけ」

「なにコソコソ話しているのよ! 噛むわよ!!」

「「なんでもないです!」」


 結局、エリザベスに頭の上がらないわしとルシウス。だって、エリザベスの顔は歯を剥いて、おっかさんの怒った顔に似てるんじゃもん。

 そうこうしていると、通信魔道具の呼び出し音の変更はうやむやになって、王族とその他は帰って行った。


 残されたわし達は、エミリを孤児院に送り届け、街を散歩してから帰る。今日の晩ごはんは王族からのプレゼントだ。

 皆で舌堤を打ち、いつものように騒がしくお風呂に入ると、アダルトフォーは離れに帰って行った。



 そうして静かになると、わしは縁側に腰掛け、酒をたしなむ。


 ふぅ。誕生日か……。元の世界で死んだ日も誕生日じゃったな。こんな風に縁側で庭を眺めていたか……

 ひとつ違うところを言うと、離れでアダルトフォーがバカ騒ぎをしている点か。よくもまぁ、毎日騒げるもんじゃ。隣に越して来たのに、あいつらはたまにしか帰らんのじゃよな~。早く男でも作って欲しいもんじゃ。


 フフ。また他人の心配をしておるな。猫の心配はあるが、人の婚期を心配するなんて、それだけ余裕が出来たってことか。



「シ~ラ~タ~マさ~~~ん」

「シ~ラ~タ~マどの~~~」


 わしが物思いにふけっていると、後ろから、リータとメイバイが嬉しそうに声を掛けて来た。


「にゃ?」

「「お誕生日おめでと~う!」」


 わしが振り向くと、イチゴのホールケーキを抱えた二人が、笑顔で立っていた。


「それは……」

「エミリちゃんのレシピにあったケーキです」

「二人でお金を出し合って、エミリと一緒に作ったニャー」

「この細い蝋燭ろうそくも頑張って作りました!」

「フーって消してニャー。エミリのお母さんは、こうやって祝ってくれたって言ってたニャー」

「にゃ……」


 この世界でホールケーキなんて……。砂糖も牛乳も卵も高価で、作れる者なんて、お金持ちしかいないのに……。二人で狩りをしていたのは、この為か……

 しかも、蝋燭の火を消す風習もこの世界にはない。女王達ですらやっていなかった。転生者のカミラさんの知識か。


 わしが呆気に取られて言葉を失っていると、リータとメイバイは不思議そうな顔をする。


「シラタマさん?」

「食べる前に泣いちゃったニャ」

「グスッ。にゃんでもないにゃ~~~」

「ウフフ。火を消してください。蝋燭が無くなっちゃいますよ」

「うんにゃ! フーーー」


 わしが涙を拭いながら息を吹き掛けたら、蝋燭は一息で消える事となった。


「おめでとうニャー!」

「おめでとうございます」

「ありがとう……グスッ。ありがとうにゃ~~~」

「あと、これもプレゼントニャー」

「私からもです」


 二人はわしの左の手首に革のブレスレットを、右の薬指に銀で出来た指輪をめる。


「シラタマさんがくれた物より、安くて申し訳ないです」

「こんな物でごめんニャー」

「そんにゃ事ないにゃ。うぅぅ。ありがとうにゃ。ありがとうにゃ」


 わしは二人の気持ちに嬉しくなり、涙ながらにお礼を言う。


「ホ、ホントにたいした物じゃないですよ!」

「泣きやんでニャー」

「うぅ。嬉しくって……にゃ~~~」

「もう……なんですかそれ」

「早く食べてニャー。私も食べたいニャー!」

「はい。あ~ん」

「あ~ん。モグモグ。美味しい……にゃ~~~」

「またニャー! あ~ん」

「あ~ん。モグモグ。にゃ~~~」

「もう……。でも、喜んでくれて嬉しいです」

「シラタマ殿の泣き顔もかわいいニャー」

「にゃ~~~」

「「よしよし」」


 その後、三人でケーキを半分食べて、残りは明日食べる事にした。そして、幸せな気分のまま、二人の間で眠りに就くのであった。










 その深夜、わしはムクリと体を起こす。



 また餌付けされてしまった~~~!!



 こうして、わしの誕生日は終わるのであったとさ。

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