210 楽しそうにゃ~


 わしの誕生日会が終わった翌日、少し寝坊したわし達だったが、ハンターギルドに顔を出し、目ぼしい依頼が無かったので常時時依頼に切り替え、東門に向かう。

 だが、イサベレたち王国騎士団の遠征とかち合ったせいで、南門に移動せざるを得なかった。


 わしとリータとメイバイは、南門から街を出ると東側に移動し、長い兵士の列を眺める。


「あの騎士様達は、どこに行くのでしょう?」

「ローザの街かにゃ? リータも知っての通り、メイバイの故郷の国が攻めて来るみたいにゃ。だから、東を重点に守りを固めるみたいだにゃ」

「メイバイさんの国ですか……」

「……ごめんニャ」

「メイバイさんのせいじゃないですよ!」

「リータ……」


 メイバイが暗い顔をしているので、わしは手を握る。


「そうにゃ。国を束ねる者の責任にゃ。メイバイは国を裏切ったかも知れないけど、そのおかげでメイバイの国の者、この国の者の被害が少くなるかも知れないにゃ」

「どうしてそうなるニャ?」

「あの軍勢を見るにゃ。あれだけの大軍が穴を掘って、出て来た場所に居たらどう思うにゃ?」

「う~ん。ビックリするニャ」

「そうにゃ。驚いた軍は、慎重に成らざるを得ないにゃ。戦争は長引くかも知れにゃいけど、その分、対話の機会が増えるかも知れないにゃ」

「なるほど……話し合いで解決するのですね!」

「そうなればいいけどにゃ」


 リータの質問に、わしは素直に肯定はしない。


「ならないんですか?」

「わしの予想では、メイバイの国は切羽詰まっているにゃ。国土が減り、食べ物が減って、外に求めるしかないんにゃろ?」

「そうかもしれないニャ……」

「メイバイの国も、戦争の前に対話をしてくれたら、女王だって悪いようにはしにゃいんだけどにゃ」

「女王陛下だったら、手を差し伸ばしてくれそうですよね」

「まぁにゃ」


 わしとリータが女王を褒めていると、メイバイは首を横に振る。


「対話はたぶん無いニャ。主様は、民の生活よりも軍備拡張を優先していた国に、不満を持っていたニャ」

「そうにゃんだ……だとしたら、一度は大きな戦いが起こるにゃ」

「戦争ですか……具体的に、何が起こるのですか?」

「まずは軍隊の衝突にゃ。多数の死者が出るだろうけど、死んで行く者は戦う為に雇われているから、これはまだいいにゃ」

「……はい」


 死者が出ても問題無いと言うわしに、リータは納得できないようだが、わしは喋り続ける。


「次に略奪にゃ。この国の軍隊が負けたら、村を焼かれ、街を焼かれ、食糧を奪われ、人も人と思わない所業をされるにゃ」

「そんな事が……」


 リータが青い顔をするので、わしは微笑んでみせる。


「まぁ心配するにゃ。イサベレ達が負けるわけがないにゃ」

「そうですよね!」

「それにメイバイが持って来た情報が大きいにゃ」

「私のニャ??」

「メイバイのおかげで、女王は準備する時間が出来たにゃ。きっと女王も感謝してるにゃ。胸を張るにゃ」

「……うん」


 わしが褒めてもメイバイは暗い顔をするので、背中をポンっと叩いて動き出す。


「そんにゃ顔するにゃ。さあ、戦争は国に任せて、わし達はわし達の仕事をしようにゃ」

「はい!」

「ほら、早く来ないと、置いてくにゃ~」

「あ、待ってニャー!」



 それから十数日……


 わし達は南東の最前線に何度も足を運び、カミラの探索を行う。


「かなり奥まで来ましたね」

「シラタマ殿の実家みたいに、黒い木が多いニャー」

「浅いところは、だいたい見たからにゃ~。そろそろ休憩するかにゃ?」

「はい。連戦で疲れました~」

「お腹ペコペコニャー!」


 今日は南東の森に、あらかじめマーキングしていた森の奥から探索を開始し、歩いていると獣の群れに二度遭遇した。総数百匹超えは、さすがにこたえたみたいだ。

 そんなリータとメイバイに、テーブルセットと昼食を次元倉庫から取り出して振る舞う。


「今日の昼食は、巨象のステーキサンドにゃ~」

「「やった~(ニャー)!」」

「いっぱいあるけど、食べ過ぎるにゃよ?」

「巨象の肉って、まだまだあるんですよね?」

「毎日、巨象肉でもいいニャー!」


 たしかにかなりの量が残っている。ビーダールのバハードゥ王の即位祝いで、巨象のマントを届けた時に減らそうと思って譲ろうとしたが、マントは受け取ってくれたが、やはり象を食べるのは気が引けると断られた。

 値崩れしないように週一で売っているから、なかなか減らない。


「こればっかり食べると、他の食べ物が美味しく感じなくなるにゃ。それに無くなったらどうするにゃ?」

「そうですけど……」

「にゃんでも、ほどほどが一番にゃ」

「また、ほどほどニャー! シラタマ殿は、ほどほどが好きだニャー」

「そうにゃ。だから、撫でるのもほどほどで……」

「無理です!」

「無理ニャー!」


 ですよね~。


「それほそうと、カミラさんはこんなに森の奥まで来たのでしょうか?」

「可能性はあるかにゃ? 依頼は森からあふれる獣の原因の調査だったし、見付けようと思ったら来るんじゃないかにゃ?」

「シラタマ殿の解決した依頼も、森の奥まで来ていたもんニャ」

「あの時みたいに外来種が原因だったのでしょうか?」

「そうじゃないかにゃ~?」

「でも、いまは落ち着いているニャー」


 わしはお茶を飲みながら、仕入れた情報を思い出す。


「そうにゃんだよにゃ~。近辺の情報では、カミラさんが行方不明になって、しばらくすると獣の湧き出しが無くなったんだにゃ~」

「カミラさんが解決したのでしょうか?」

「強い獣が去って行ったんじゃないかニャー?」

「わからないにゃ。せめて失踪直後にゃら手懸かりがあったんだろうけどにゃ。お喋りはここまでにして、そろそろ行こうかにゃ? まだ休憩は必要かにゃ?」

「「ゴロゴロが必要(ニャ!)です!」」

「ゴロゴロ~」


 二人は第三案を提案して来たので、何も言わずゴロゴロ言っておいた。少し撫でる時間が長かったので、移動しながらのゴロゴロに変わった。だが、探索に集中出来ないらしく、泣く泣く、二人はわしを撫でるのを諦めた。



 わしを先頭に森を歩き、二人は続く。わしも学習しているので、ムシャムシャしないし鼻歌も歌わない。スキップしているだけだ。


「「はぁ~~~」」


 二人の大きなため息が聞こえたが、理由はわからない。きっと歩き疲れたのであろう。


「「はぁ~~~」」

「言いたい事があるにゃら、言ってにゃ~~~!」

「聞くんですか?」

「……うんにゃ」

「本当に聞くニャ?」

「ごめんにゃさい!!」


 結局、理由もわからないのに、二人の圧に負けて謝ってしまった。だって、目が怖かったんじゃもん。


 その後、何度か長いため息が聞こえたが探索を続け、空が赤くなり始めた頃に、何かの縄張りに入った。


 探知魔法に引っ掛かった獣は、六十匹以上に10メートルクラスが二匹か。日も暮れそうじゃし、今日はここまでにするか? いや、二人に相談してからにするか。


「また獣の群れと遭遇したけど、二人はどうしたいにゃ?」

「そうですね……明日、明後日は休むのですよね?」

「そうだにゃ」

「では、もうひと稼ぎしたいです」

「私もリータに賛成ニャ。いまなら日暮れに間に合うニャー」

「わかったにゃ。黒が二匹いるから、わしはそいつらの相手をするにゃ。二人はその他の六十匹を相手してくれにゃ」

「「はい(ニャ)!」」

「行っくにゃ~」

「「にゃ~!」」


 わし達は草を掻き分け、ボスらしき反応の場所へ向けて歩き出す。すると、斥候らしき獣、五匹と遭遇する。


 やっぱりゴリラじゃったか。しかし、黒い毛では無く、この世界では灰色なんじゃな。体長はザコで2メートルクラスかな? 座っておるからよくわからん。てか、向かって来ないのか? 縄張りに入っておるんじゃけど……


 わしがゴリラを注視していると、メイバイとリータが話し掛けて来る。


「あの大きな猿はなんニャ?」

「ゴリラかにゃ?」

「座ったまま動きませんね」

「う~ん。やりづらいにゃ~」

「どうしましょうか?」

「あ、手招きしてるニャ。ついて来いって事かニャ?」

「行くだけ行ってみようかにゃ? 罠かもしれにゃいから、警戒だけはしてるにゃ」

「はい」

「わかったニャー」


 わし達は動き出したゴリラのあとに続き、しばらく歩くと開けた場所に出た。そこには数多くのゴリラがそろっていたが、皆、わし達を見ているが、座ったままだ。


「注目の的にゃ~」

「なんで襲って来ないのでしょう?」

「仲間だと思っているのかニャ?」

「まさかにゃ~。あ、でっかい奴が、二匹お出ましにゃ」

「どこですか?」

「もうすぐ見えるにゃ」



 ポコポコ、ポコポコ、ポコポコ。


「「「「「ウホ、ウホ、ウホ」」」」」


 ポコポコ、ポコポコ、ポコポコ。


「「「「「ウホ、ウホ、ウホ」」」」」



 わし達が話をしていると、突如ゴリラ達が胸を叩き、雄叫びをあげる。


「な、なんですか!?」

「なにが起こるニャー!?」


 リータとメイバイは、ゴリラ達の行動に困惑する。その時わしは……


 ドラミング? リズミカルで陽気なリズムじゃな。わしも参加するか?


 暢気のんきな事を考え、リズムに合わせて縦ノリする。


「なんで踊っているんですか!」

「緊急事態ニャー!」

「そうかにゃ? 楽しそうにゃ~」

「「そんな事ないでしょ!」」

「まぁまぁ。一緒に踊ろうにゃ~」

「「だから~~~!!」」


 陽気なリズムを怒られながら堪能していると、木を掻き分け、巨大な二匹の黒ゴリラが現れた。


「ヘイ! また俺達の縄張りに獲物が入って来た、ヨー♪」

「誘いに乗った、馬鹿者はどいつ、デース♪」

「俺達でそいつを殺したら、エンジョイだ、ヨ―♪」

「そうさ、いつも俺達は、エンジョイ、デース♪」

「「俺達、この森、最強ブラザー♪」」


 二匹の黒ゴリラは、ゴリラ達のリズムに合わせ、歌いながら登場し、腕を組んで背中を合わせて決めポーズ。

 決めポーズと同時に、ゴリラ達のドラミングも消えたので、相当練習しているみたいだ。


「ヘイ! お前達。覚悟は出来てるのか、ヨー!」

「俺達の縄張りに入ったが、デ-ス!」


 ゴリラブラザーズはポーズが決まると、リータ達を見て威嚇する。そのゴリラブラザーズの念話を聞いたリータ達は……


「シラタマさん! なんでそっちにいるんですか!!」

「ゴリラのマネしてる場合じゃないニャー!!」


 わしを怒っている。何故かと言うと、わしはゴリラブラザーズの間に立って、腕を組んで決めポーズをしていたからだ。


 だって、楽しそうだったんじゃもん!

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