070 また奴が来たにゃ~


「勝者……シラタマ!」


 審判役のハンターが、声高々にわしの勝ち名乗りを上げる。すると、観客席から歓声と悲鳴があがる事となった。


 悲鳴を上げておるのはクイスマに賭けておったのか? スティナは小躍りしておるし……本当にギルマスなのか疑わしい……


 わしが疑惑の目を送っていると、スティナは気付いたのか、咳払いしながらわしの元へやって来た。


「シラタマちゃん。ありがとうね」

「分け前を要求するにゃ!」

「な、なんの事かな~?」

とぼけるにゃ!」

「私、わかんな~い」

「かわい子ぶっても無駄にゃ! そんにゃ歳じゃ……」

「ああん!?」

「にゃ、にゃんでもにゃいです……」


 おお、怖っ! 年齢は禁句じゃったか。スティナも女性じゃもんな。でも、ギルマスをやるぐらいじゃからけっこうな歳……寒気がしたから考えるのはよそう。


「シラタマちゃんのおかげでギルドも儲かったから、おごらせてもらうわよ。今夜は私のポケットマネーで、パーっといきましょう!」

「わしの取り分にゃ~! ムグ……」

「さあ、昇級の手続きをするわよ」


 わしはスティナから先払いで報酬を貰う。わしが胸に顔を埋められ、連行されて行くかたわらでは、観客達は興奮冷めやらず、今日の闘いを口々にしながら訓練場を後にする。



 受付カウンターにて、ティーサの作業を確認していたスティナは笑顔を見せる。


「はい! これで手続き終了ね。夜一の鐘(午後六時)に、ギルドに来てちょうだい。君はシラタマちゃんのパーティのリータだっけ?」

「は、はい!」

「シラタマちゃんのお祝いだから、リータも来てね」

「わかりました」

「それじゃあ、私は仕事に戻るわ~」


 そう言うと、スティナは手をヒラヒラとスキップで、自室に去って行った。


「え~と……私も行っていいのでしょうか?」

「いいにゃ。元々わしの取り分にゃ!」

「は、はあ」

「「シラタマ様!」」


 スティナを見送り、リータと話をしているとソフィとドロテが駆け寄って来た。


「昇級おめでとうございます」

「さすがシラタマ様です」

「ありがとうにゃ」

「「では、参りましょう」」

「にゃ!?」


 今度はソフィとドロテに両脇を抱え上げられ、わしは連行されて行く。


「リータ~! あとでここで待ち合わせにゃ~」

「猫さ~ん!!」


 リータの声が遠退き、さっちゃんの部屋まで降ろされる事なく、ノンストップでわしは連れ去られて来るのであった。



「もう! シラタマちゃんは、なんで会いに来てくれないのよ!」


 開口一番、さっちゃんに怒られた。


「忙しかったにゃ~」

「そんなこと言って、また新しい女の子を連れ込んで!」

「パーティ仲間にゃ~。言い方が悪いにゃ~」

「この浮気猫!」


 浮気猫って……さっちゃんと付き合っても結婚もしてないのに……


「そう言えば、ギルドマスターとも仲が良さそうでしたね」

「たしかに……胸に挟まれていましたね」

「シラタマちゃん!」

「違うにゃ~」


 スティナと仲良くない! ちょっと豊満な胸は気持ち良かったが……ちょっとだけじゃ。


 その後、わしは必死の言い訳……事実を説明し、さっちゃん達を落ち着かせ、この一週間の出来事を話し聞かせた。


「へ~。本当に忙しかったんだ」

「そうにゃ! これもそれも女王のせいにゃ!」

「でも、宿屋に泊まれないなら、うちに来ればよかったのに」

「女王に負けたみたいで嫌にゃ~」

「シラタマ様は変なところで強情ですよね」

「それで一週間で家を建てるなんて、信じられません」

「ホントに。あのマット、いい匂いだったね。あそこでゴロゴロすると気持ち良かったわ」

「さっちゃんは王女様だから、はしたないからそんにゃ事してちゃダメにゃ~」

「そうですよ」

「ソフィもドロテもしてたくせに~」

「ああ! それは……」


 グ~


「シラタマちゃん?」


 グググ~


「「「あ……」」」

「にゃはははは」

「「「アハハハハ」」」


 わしのお腹の音を合図に、皆のお腹も鳴り出し、お昼を頂く事となった。お昼を食べ、皆に撫で回されながら兄弟達とも会話をして、わしは解放される。



 その後、猫、猫と騒ぐ人々の声を聞きながら街を歩き、スティナと待ち合わせた時間通りにギルドに着く。


「猫さん! 大丈夫でしたか?」

「にゃにが?」

「騎士様に連れて行かれたじゃないですか!」

「王女様に会って来ただけにゃ」

「それが一大事ですよ! 粗相等しませんでしたか?」


 粗相って……生理現象ならちゃんとトイレでしておる! って、この場合は違う意味か。


「しないにゃ。したとしても、さっちゃんは優しいから許してくれるにゃ」

「さっちゃん?」

「王女様を、わしはそう呼んでいるにゃ」

「本当に友達なんですね……」

「だから大丈夫にゃ」

「お待たせ~」


 わしとリータが話をしていると、後ろからスティナが声を掛けて来た。


「そんにゃに待ってないにゃ」

「そこは今来たところって言ってよ。モテないわよ」

「モテなくて結構にゃ!」

「つれないわね~。まぁいいわ。今夜は寝かさないわよ~」


 美人でエロイお姉さんがそんなこと言うと、変に受け止められてしまうぞ? 現に周りでは……


「あの猫、ギルマスとデキているのか?」

「ギルマスが猫ちゃんに手を付けてる」

「馬鹿! 見るな!」

「私も猫ちゃん、お持ち帰りしたい」

「お前達、ギルマスだけはやめておけ」

「ベッドで抱いて眠りたい」


 ほれ。いろいろツッコミたい事になっておる。でも、男から見たスティナの評価が特に気になるな。



 昼同様、スティナに挟まれて連行され、スティナ行きつけの酒場に入る。この国ではお酒の年齢制限は特にないらしく、仕事をしていれば、止められる事はないみたいだ。

 スティナとリータ、わしで乾杯をし、小一時間後には完全にデキあがったスティナが面倒くさくなる。


「だから~。なんでこんなに美人でスタイルのいい私がモテないのよ~」

「にゃんでかにゃ~」

「シラタマちゃん、いい男紹介して!」

「今度にゃ」

「恋に落ちるって言うけど、何処に落ちてるの?」

「拾ったら、スティナに必ず届けるにゃ」

「ほら! コップが空よ!」

「お注ぎしますにゃ~」


 と、スティナは絡み酒で超面倒くさい。リータはと言うと、スティナに飲まされて……


「猫さん。こんな私を拾ってくれて、ありがとうございます!」

「気にするにゃ」

「えへへ~。モフモフしてます~」

「わしの長所にゃ」

「猫さんのところに嫁に行きます!」

「親御さんが賛成してくれたらにゃ」

「猫さん好きです~」

「わしも好きにゃ」


 やっぱり面倒くさい! わしも飲んで酔いたい!! けど、わしが酔っ払うと、こいつらを連れて帰れない。うぅ……わしの祝勝会じゃなかったのか!



 それから一時間後、リータは寝てしまい、その二時間後、スティナがやっと酔い潰れてくれた。店員がわしにお会計をどうするか聞いてくるので、スティナの財布から出してやった。

 ついでにあまりうまくなかったが、安いウィスキーを十本、スティナの財布から買ってやった。スティナの財布には、金貨がたんまり入っていたから問題無いだろう。これぐらい、わしの取り分にしても少な過ぎる。


 わしは酒場を出ると土魔法でリヤカーを作り、一人ずつ抱き抱え、積み込んで帰路に就く。スティナに家の場所を聞いても、何を言っているのかわからなかったので、仕方なく我が家にお持ち帰り。

 家に着くとリータをわしの部屋の布団に、スティナを客間のベッドに運び、寝かせる。服はリータだけ着替えをしてあげた。一緒にお風呂にも入っているからいまさらだ。さすがにスティナのエロイ体に触れる勇気は無かった。


 酔っ払いの処置が終わると、次元倉庫からウィスキーを一本取り出し、縁側に腰掛ける。そして、氷の入ったコップにトクトクとウィスキーを流し込む。


 はぁ……疲れた。この世界に生まれて、今までで一番長い一日じゃったな。

 王都に来て、さっちゃんや女王。ソフィ、ドロテ、アイノと出会い、兵士にも受け入れられた。

 城を出るとローザに助けられ、スティナ、ティーサ、リータと出会い、少しずつじゃが王都に住む人々にも、こんな得体の知れない猫のわしを、受け入れてくれておる。

 人間が猫又に生まれ変わった時はどうしていいか……死にたいとすら思ったわい。でも、優しく強いおっかさんと、兄弟達がいてくれたから、そんな気分も吹き飛ばしてくれた。

 猫又として生まれ変わっても人間と同じく、出会いが大切なんじゃな。



 わしはこれまで生きた時間を振り返り、独り、酒を喉に通す。星を眺め、夜も更けた頃に、頭の中に声が聞こえて来た。



――鉄之丈さん――


 ん?


――鉄之丈さん――


 頭の中で声が……


――鉄之丈さん。アマテラスです~――


 ア・マ・テ・ラ・ス……で、出た~~~!


――人を幽霊みたいに言わないでくださいよ!――


 いや、人じゃないし、幽霊みたいなもんじゃろ?


――あ……たしかにそうですね。アハハハ――


 はぁ……急にどうしたんじゃ?


――あ、そうそう! 鉄之丈さんの活躍を、奥さんと楽しく見させてもらいましたよ――


 はあ!? もう一度言ってみろ!


――あ、そうそう! 鉄之丈さんの活躍を、奥さんと楽しく見させてもらいましたよ――


 一字一句間違わないで言わなくていいわ! てか、なんでわしの女房が、アマテラスと一緒に見ておるんじゃ?


――だって、友達になったんですもん、ね~?――


 ね~?って、まさか……


――あなた……げ、元気に……アハハハハ――


 笑い過ぎじゃ!


――だ、だって……アハハハハ――


――鉄之丈さんの奥様も、元気にしていますよ――


 声を聞けばわかるわい!


――し、白玉……アハハハハ――


 お前の気持ちはわかる……わしだって笑い転げたいわ。


――あ~。面白い。まったく、あなたは何してるのよ――


 何してるって……必死に生きているだけじゃ。


――見ず知らずの子を助けるなんて、死んでも変わらないわね――


 お前の笑いっぷりもな。


――それと、スケベなところもね――


 う、うるさいわ!


――でも、元気そうで何よりよ――


 お前も元気にしてるか?


――元気だけど、まだ赤ちゃんよ。いまの楽しみは、アマちゃんとあなたの活躍を見る事ね……プププ――


 アマちゃんって……神様とどんだけ仲良くなっておるんじゃ。


――親友よね~――

――ね~~~――


 ね~って……それで、何の用じゃ?


――たまたま二人で鉄之丈さんの活躍を見ていたから、連絡しただけです――


 それだけか?


――はい――

――それだけよ――


 はぁ……


――それでは、あいつに見つかると厄介ですから、私達は失礼しますね。これから大変な事が起きますが、頑張ってください――

――あなた。またね――


 ちょ、ちょっと待て! おい! アマテラス!! ……切れたか。


 アマテラスの奴、最後に未来を断言して行きやがった……大変な事ってなんじゃ~~~!!



 その夜、わしはモヤモヤした気分を打ち消す為に、ウィスキーをしこたま飲んで酔い潰れて眠るのであった。

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