071 依頼を受けるにゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。職業はペットではない! ちゃんとハンターの仕事に就いた。

 昨夜、アマテラスと女房の襲来で、現在わしは、二日酔いの真っ只中じゃ。これからわしの身に何が起こるか不安……


「誰か~! 誰かいないの~?」

「はいにゃ~」


 スティナの奴、起きたか……まったく回想ぐらい静かにさせてくれ。


「シラタマちゃん?」

「ね、猫さん……」

「はいにゃ~。いま行くにゃ~」


 わしは二日酔いで重たい頭を振り、二階に上がる。二階に上がるとわしの部屋と客間から顔を出した、リータとスティナの姿があった。


「シラタマちゃん。み、水……」

「頭が痛いです……」

「二人ともちょっと待つにゃ」


 わしはコップに水魔法で水を注ぎ、二人に手渡そうとする。


「リータ、飲むにゃ」

「あ、ありがとうございます」

「スティナ……にゃんで全裸なんにゃ!」

「みず~」

「ほ、ほれにゃ」


 おかしい……リータは着替えさせたが、スティナはそのまま服を着たまま、ベットで寝かせたはずなんじゃが……


「プハー! 生き返る~」

「いいから、服を着るにゃ!」

「え? いつも家では着てないわよ」


 裸族か!!


「ここはわしの家にゃ。他人(猫)様の家で裸になるにゃ!」

「わかったわよ~」

「にゃったく……二人とも、お風呂に入ってスッキリするといいにゃ」

「お風呂あるの!?」

「すぐ準備して来るにゃ」

「シラタマちゃんも一緒に入りましょう」

「わしは後から入るにゃ~」

「いいから、いいから」

「待つにゃ! せめて服を着るにゃ~」

「めんどう……リータも行くわよ。お風呂に案内して!」

「え、あ、はい」

「にゃ!? 離すにゃ~」


 わしは全裸のスティナに抱かれ、鼻の下を伸ばしながら……いや、嫌がりながらお風呂に連れて行かれる。


「お湯も水も無いわよ?」

「ちょっと待つにゃ。あと、元の姿に戻るから怖がらにゃいで」

「元の姿?」


 わしは変身魔法を解き、体積が減ったところでスティナの腕から抜け出す。そして、呆気に取られているスティナを横目に、水魔法と火魔法でお湯を作り、湯船とタンクに湯を満たす。


「猫になった!」

「ずっと猫だにゃ~」

「頭の中に声が……」

「念話にゃ。温かい内に入るにゃ」



 しばらくスティナは固まっていたが、わしがリータに洗ってもらっていると復活し、「かわいい」を連呼しながら、リータからわしを奪い取り、洗い出す。

 スティナの洗い方は雑で泡まみれになってしまい、リータに助けを求める事となった。

 そうして綺麗になって落ち着いたところで、三人で……二人と一匹で湯船に浸かる。


「驚いたけど、その姿もかわいいわね」

「触るにゃ~! シャーーー!!」

「もう! 気持ち良くしてあげようと思ったのに……」


 ゴクッ……気持ち良くってなんじゃろう? いや、騙されるな、わし! さっきもひどい目にあったばかりじゃ。


「それにしても、朝からお風呂に浸かれるなんて貴族みたい」

「生き返ります~」


 貴族は朝から風呂に入るのか? 王族のさっちゃんでも入ってなかったけど……金持ちはそう見られているって事かな?


「シラタマちゃんは、すごく便利ね。うちに来ない? いや、私もここに住む!」

「帰れにゃ!」

「ケチ~。大衆浴場では人が多いから、こうもゆっくり出来ないのよね~」

「ゆっくりしてていいのかにゃ? 仕事に遅刻するにゃ~」

「ズル休みするわ!」

「行けにゃ~!」


 このギルマスは……王都のギルマスなんだから偉いんじゃないのか? こんな奴で大丈夫なのか心配になるな。


「うそうそ。今日は休みよ。でも、昼に顔を出すわ」


 休日出勤か。意外と仕事しておるのかもしれん。感心じゃが、とても褒めてやる気分にはなれん。


「シラタマちゃんは、仕事しないの?」

「う~ん。リータ、行けそうかにゃ?」

「はい……大丈夫で、す……」


 うん。ダメっぽいな。


「今日はわしも二日酔いだから休むにゃ」

「シラタマちゃんにはバリバリ働いて欲しいのに~。Cランクなんだから、難しい依頼も受けられるわよ。シラタマちゃんの強さなら、Bランクを優先的に受けて欲しいわ」

「ボチボチやるにゃ~」


 まだリータが戦えないから、Bランクの依頼は当分先かな? そろそろ簡単な動物を一人で狩れるように仕込んでみるか。


「そろそろ上がるにゃ~」


 わしは吸収魔法でお風呂にある水分を全て吸い取る。元々わしの魔力で出した水だから出来る芸当だ。一瞬で消したせいで、スティナが騒ぐから、体を直視してしまった。これは事故だ。ホンマホンマ。

 朝ごはんはリータがダウン気味なので、わしが担当する。と、言っても次元倉庫から、いつも多めに作ってあるスープとパンを取り出すだけだ。


「「いただきにゃす」」

「……いただき……にゃす?」

「別にマネしなくていいにゃ」

「仲間外れにしないでよ~」

「それと服をちゃんと着るにゃ~」

「着てるじゃない?」

「下着だけにゃ! 全部着るにゃ!」

「もうすぐ出掛けるからいいでしょ」

「にゃったく……」


 下着と言っても薄いタンクトップでは透けて見えておる。逆にエロイ。羞恥心は無いんじゃろうか? おっと、長く見過ぎたか。

 リータが何故か膨れておるし、エロジジイと思われてもなんじゃから、庭に目線を持って行こう。


 朝ごはんを終えると、やっとスティナは帰って行った。リータは二日酔いがひどいみたいなので寝かせて、わしは二日酔いも治まったので、家の窓を作っていく。

 素材は先日、森で集めていたので、硝子がらす魔法で薄く平らにした硝子を土魔法の枠に嵌めるだけ。だが、割れないように慎重に作業したので、少し時間が掛かってしまった。



「ん、んん……猫さん?」


 わしが寝室の窓を付け替えていると、リータが目を覚ます。


「起こしたかにゃ? すまないにゃ」

「いえ。……それは硝子ですか?」

「そうにゃ」

「硝子なんて高価な物、貴族様しか買えませんよ。どうしたのですか?」

「作ったにゃ。自作だから、タダにゃ~」

「猫さんは、本当になんでも出来て不思議です」

「そんにゃ事より、二日酔いは大丈夫かにゃ?」

「え~と。大丈夫そうです」

「それにゃらお昼を食べて、ちょっと体を動かそうにゃ」

「はい!」


 わしとリータはお昼を済ませると庭に出る。


「昨日のわしとインモの試合、覚えているかにゃ?」

「はい。猫さんは剣も使わず、インモさんを倒していました。凄かったです!」

「あれがリータの闘い方にゃ」

「私の?」

「そうにゃ。その為の正拳突きにゃ」

「正拳突きと、猫さんのパンチは違ったような……」

「正拳突きは基本にゃ。今度は踏み込んで打つにゃ。こんにゃ風に打ってみるにゃ」


 わしはゆっくりとしたパンチをリータに見せる。


「やってみるにゃ」

「こうですか?」


 リータはゆっくりとわしの見本を繰り返す。わしはアドバイスをして、形を覚えさせる。


「それじゃあ、速度を上げるにゃ~」

「はい!」


 うん。剣と違い、体がスムーズに動いておる。これも毎日、真面目に訓練していたからじゃろう。速度も上々。

 リータのパワーと硬さなら、弱い動物なら一発で倒せるかもしれん。ちょっと試してみるか。


 わしは次元倉庫から、家作りで余った木の板を取り出す。


「リータ。これを殴ってみるにゃ」

「あの……そんなの殴ったら手が痛くなります……」

「普通ならにゃ」

「普通?」

「まぁやってみるにゃ。拳をギュッと握って思い切り殴るにゃ」

「は、はい」


 わしは板が動かないように力を込めて構える。リータは深呼吸してから構え、左足を踏み込み、右の拳で板を突く。


「え?」


 リータのパンチで板は真っ二つに割れた。


「手は痛くないかにゃ?」

「痛くないです……」

「つぎ、もうちょっと分厚くするにゃ」


 わしはさっきより、1、5倍の厚さの板を構える。


「さあ、来るにゃ!」

「えい!」


 まてしても木の板は、真っ二つにパッカーンと割れた。


「痛くないです……どうなっているのですか?」

「それがリータの体質かにゃ?」


 わしにもまったくわからん。リータの拳は、なんでこんなに硬いんじゃろう? それにこのパワー……持ってるわしも、ちょっとビビったわい。


「明日からはリータにも、狩りに参加してもらうにゃ」

「はい。頑張ります!」



 次の日……朝早くからハンターギルドに行き、依頼を探す。


 早く来たのに、ギルドの中は人がいっぱいじゃな。わしを見ても依頼の取り合いで、それどころじゃないみたいじゃ。EランクとDランクの依頼ボードは背が低いから見えない……Cランクはすいているし、ここから選ぶか。

 護衛はパスして討伐系じゃな。う~ん。わしが普通に狩りをして稼ぐ額より高いけど、日帰りが出来ない。馬車で二日から五日って位置か。車で行けば日帰り出来るかな?

 近いやつで、これにしとくか。リータにはちょうどいいしな。


「リータはこれでいいかにゃ?」

「猫さんに任せます」

「よし。決定にゃ」


 わしは依頼ボードから一枚の紙をちぎり、受付カウンターの列に並ぶ。そして順番が来たら、空いたカウンターに依頼用紙を提出する。


「ティーサ、おはようにゃ~。これお願いするにゃ」

「おはようございます。では、確認しますね……猫ちゃん。この依頼を受けるのですか?」

「そうにゃ。ダメかにゃ?」

「これは複数パーティで受ける依頼で、二人じゃ危ないですよ。猿が三十匹に未確認でブラックの情報がありますよ。もしブラックがいたら、Bランクの依頼です。それをCランクの依頼料じゃ、誰も受けないですよ」


 わしが受けようとしている依頼は、王都から南西に馬車で二日走った村に出る、猿の駆除。数は三十匹以上、黒い猿もいるかも? って、曖昧な依頼だ。

 そんな依頼をわしが何故受けるかと言うと、余裕だからだ。それと、人型に近い動物の方がリータの練習にもなる。


「誰も受けない依頼が、にゃんで張ってあるにゃ?」

「それは……困っている人がいるからです」

「じゃあ受けるにゃ」

「そんな簡単に……ギルドとしては助かりますが、本当にいいのですか?」

「いいにゃ」

「それでは受付はしますけど、危なかったら逃げてくださいよ? ブラックの情報だけでも、持ち帰れば失敗扱いになりませんからね」

「わかったにゃ~」

「では、ハンター証をお願いします」



 わしとリータは受付を済まし、心配するティーサに安心させる言葉を掛けて、ハンターギルドを後にする。そして、王都の南門にいる門兵に挨拶をして、街の外に出る。


 しばらく歩き、街道から外れるとリータが質問して来る。


「どうしたんですか?」

「面倒だけどお客さんにゃ」

「お客?」


 わしは振り返り、ギルドからつけて来ていた、とあるパーティに声を掛ける。


「ここでいいかにゃ?」

「ハッ。わざわざ襲いやすい所に来てくれてありがとうよ」

「イ、インモさん……」

「にゃにか用かにゃ?」

「何か用だと? 猫が人間様に散々恥をかかせたんだ。殺してやるに決まってるだろ! リータ、お前もだ! まぁお前は楽しませてから殺してやるよ」

「「「「ギャハハハハ」」」」

「猫さん……」


 テンプレを消化しようと、邪魔の入らない人気ひとけの無い場所に連れて来たんじゃが……下劣な奴らじゃ……


「リータ、下がっているにゃ」

「……はい」

「まだ実力差がわかってないにゃ?」

「見た目で油断しただけだ! お前達、殺って……ギャア!」



 わしは【白猫刀】を抜き、インモが喋り終わるのを待たずに、峰打ちで斬り飛ばす。インモ達は一瞬で斬り飛ばされ、一箇所に集めらる。

 そして刀を返し、インモ達に歩み寄る。


「グッ……」

「これでもまだ手加減しているにゃ……」

「ヒッ……」


 インモは痛みに顔を歪めていたが、刀を返したわしの姿が目に入ると、小さく悲鳴をあげる。


「リータに手を出すにゃ? わしのリータ(仲間)に指一本触れさせないにゃ! 【大火球】にゃ~!!」


 わしはインモ達の目の前に、10メートルもの大きさの火の玉を作り出す。


「「「「「あ、ああ……」」」」」

「選ぶにゃ! わしの目に映る場所から消えるか……いま、骨まで消えるか。どっちにするにゃ!!」

「き、消えます! 猫様の目の届かない場所に行きます! だから許してください!!」

「……まだ見えてるにゃ」

「「「「「うわ~~~!」」」」」


 インモパーティは恐怖のあまり失禁し、成り振り構わず走り出す。こけても、隣に走る男とぶつかっても走ることはやめず、わしの目の前から消え去る。


 インモ達が見えなくなると【大火球】は吸収魔法で消し去った。


 すんごい走り方じゃったな……人間ってあんな走り方が出来るのか。恐怖を与え過ぎたかもしれん。もしかして、リータも怖がってるかも!?


 わしは恐る恐る振り返り、リータの顔を見る。


「えへへ……猫さんったら~」


 なんかモジモジしてる~! あ! 仲間って言うところをリータって言ったかも……まぁ怖がられるよりはマシ? マシじゃよな?



 この後わしは、照れまくるリータに顔をツンツンされて、腕を組まれるのであった。

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