116 キャットカップ打ち上げにゃ~


 キャットカップも終わり、我が家でゆっくりお風呂に浸かる。リータとメイバイは、わしを順番に抱き締めて癒されるが、わしは柔らかい物が当たってぜんぜん癒される……癒されない! いまのは言い間違いだ。ホンマホンマ。

 二人に回されて少し長湯となったが、ポカポカと体も温まり、食事にしようと人型に変身してお風呂を出る。


 そうしてダイニングに向かうと、キッチンに意外な人物が立っていた。


「エミリ!」

「あ、ねこさん。もうじき出来ますよ~」

「いや、こんにゃ時間に何してるにゃ?」

「料理ですけど……みなさんも待ってますよ?」

「にゃ??」


 わし慌てて居間の引き戸を開ける。


「あ! シラタマちゃん」


 さっちゃん? と、ソフィにドロテ、アイノ。兄弟達まで……


「シラタマちゃん、お疲れ~」


 スティナとエンマとフレヤ?


「お、お邪魔してます……」


 ティーサ? と……誰じゃ? 試験で最初に闘ったハンターじゃったかな?

 なんでこんなに人がいるんじゃ! しかし、さっちゃん達、城組以外は、みんなガチガチに緊張しておるが……スティナも話をしているが、少し緊張してる?


「シラタマ。邪魔しているわ」

「女王!? にゃんでいるにゃ!!」

「お忍びで来てあげたのに、それはないでしょう」

「いや、来てもらわにゃくてもいいし……てか、にゃんの集まりにゃ!?」


 女王と話していても埒が明かないので、わしはスティナを見る。


「打ち上げよ。打ち上げ」

「スティナが女王を呼んだにゃ? て言うか、どうやって入ったにゃ!」

「合鍵に決まってるでしょ? 陛下はシラタマちゃんに会いに来たみたいよ」


 遠出する時に置いて行ったんじゃったか。それにしても、さっきまで緊張感に包まれていたのに、合鍵って言葉で殺気が漂っている……


「シ~ラ~タ~マ~ちゃ~~~ん?」

「さっちゃん! ちょ、ちょっと待つにゃ! まだ状況について行けてないにゃ! つまりみんにゃは、キャットカップの打ち上げをやる為に、わしの家に来たのかにゃ?」

「そうだけど、合鍵~~~」


 みんな頷いておるな。さっちゃんは怒っているけど、もうちょっと待ってくれ。


「とりあえず、女王は偉いんだから用件は明日、城で聞くにゃ。お引き取りをお願いするにゃ」

「打ち上げのあとでいいわ」

「平民が多くいるし、女王に無礼があるかもしれないにゃ」

「シラタマ以上に無礼な者はいないから大丈夫よ」

「わしのどこが無礼にゃ?」

「その喋り方よ!!」


 怒られた……猫の口が悪いんじゃから仕方ないじゃろう。それに、そのままで良いって言ってたのに……


「ほ、ほら、護衛も付けずに危険にゃ~」

「シラタマもいるし、ソフィ達もいる。イサベレも連れて来たから大丈夫よ」

「陛下の命は私が守る」


 急に後ろから声が聞こえ、わしはビクッとして振り返る。


「イサベレ!! 居たにゃ!?」

「ずっと居た。何か?」


 気配を完全に消してやがったか……じっくりわしを見ているけど、ドヤ顔か? ドヤ顔ならやめろ。しかし、平民のパーティーに女王も参加するのか。この国のトップとしてどうなんじゃろう?


「はぁ……わしは疲れてるにゃ。みんにゃ帰る気は??」

「「「「「ない(です)!」」」」」


 ティーサ達は手を上げておるけど、この際、巻き込んでやろう。わしだけ精神的苦痛を味わうのは不公平じゃからな。


「わかったにゃ~。テーブルが足りないから準備するにゃ~」



 わしは皆の追い出しを諦めて、庭と居間に、土魔法でテーブルを作っていく。

 居間は畳敷きだから女王にダイニングの椅子を勧めたら、珍しく座り心地の良さに、居間でいいと言うので女王も直に座っている。わしとしては、ダイニングに行かせたかったが失敗となった。

 ティーサと新人ハンター達は、居間にいるのは死にそうな顔をしていたので、庭のテーブルに行ってもらった。何人か庭に逃げようとしたが、残りがわしとさっちゃんだけになりそうだったので、捕まえて座らせた。


 リータとメイバイには疲れてるなら寝るように勧めたけど、参加すると言い張るので、居間に座っている。

 エミリには女王と知らせるのは酷だと思ったので、偉い人とだけ伝えている。自分の料理が女王の口に入っていると考えては倒れてしまいそうだ。

 エミリ一人で、この人数を捌くのは大変なので、わしが料理を運ぼうとしたら、女王とさっちゃんに捕まって、二人に挟まれる形で座らされた。エミリの手伝いにはソフィ達が回ってくれるそうだ。逃げやがったな……



「それでは、キャットカップの大成功を祝して……かんぱ~い!!」

「「「「かんぱ~い(にゃ)!!」」」」


 スティナの音頭で宴が始まった。


 話題の中心はもちろんわし。わしの動きがかわいかったとか、飛び跳ねる姿がかわいかったとか、揺れる尻尾がかわいかったとか、みんな何処を見ていたんだか……

 闘いだから、かっこいいの間違いだとツッコミたかったが、迂闊うかつな事を言うと集中砲火に合いそうなので、黙って酒をチビチビしている。


 それから話題は変わり、蟻駆除の話になる。わしは簡単に話をしたが、納得がいかなかったみたいで、リータとメイバイに質問が集中し、楽が出来てよかった。

 何度も「盛ってない?」「本当に?」と聞かれて困っている様に見えたが、わしが助けても同じ事だと思い、酒をチビチビ。


 また話題が変わると、わしのどこがかわいいかの議論となった。

 さっちゃん率いる、モフモフ派。女王率いるフォルム派に分かれての大激論。


 どうでもいいわ!!



 さっちゃん率いるモフモフ派。メイバイ、アイノ、ドロテ、エミリ。

 女王率いるフォルム派。スティナ、エンマ、フレヤ、ソフィの激論は続く。


「お母様! このモフモフに包まれる幸せ。何ものにも代えられないです!」

「サティ。このフォルムを見なさい。これこそ究極のかわいいよ!」

「目で見るよりも、感じる温もりがいいのです!」

「まだまだ若いわね。かわいいモノは、目で見て楽しむものよ」


 若いって……自分で言うのか? 見事にヤングチームとアダルトチームに分かれおるんじゃが……地雷っぽいから絶対に口に出さんがな。

 まぁ激論のおかげで、話の中心のわしの存在を忘れてくれておるのはありがたい。さっちゃんと女王にずっとお触りされていたのから開放された。いまの内に逃げよう。

 こんな時の為に、リータ達に嘘まで付いて取っておいたアイツの出番じゃ。



 わしはコソコソとテーブルの下に潜り、歩伏前進で庭まで逃げ出す。そしてリータのいる、ティーサと新人ハンター達の輪に入る。


「食ってるかにゃ?」

「わ! 猫ちゃん! こっちに来て大丈夫なんですか?」

「わしの事を忘れているから大丈夫にゃ。影武者も置いて来たにゃ」

「あ……もう持って無いって言ってたじゃないですか!」

「にゃ!? あげるから、怒らにゃいで~」


 リータは居間に座るわしの影武者を見て機嫌が悪くなるので、すぐさま謝って事なきを得る。


「あれってぬいぐるみですよね? すぐバレますよ」

「その時はその時にゃ。それにしても、ティーサがわしの家に来るにゃんて、何か用があったのかにゃ?」

「この子達が、猫ちゃんに失礼な態度を取った事を謝りたいとお願いされたので、連れて来たのですが……あなた達」


 ティーサが四人組のパーティに声を掛けると、リーダーらしき若い男が前に出て、仲間に目配せしてから口を開く。


「このパーティのリーダー、エスコです。今日はすみませんでした!」

「「「すみませんでした!」」」

「いやいや、こちらこそにゃ。わしのせいで試験がめちゃくちゃになって、すまなかったにゃ」

「いえ、強いシラタマさんと手合わせ出来たのは、良い経験になりました」


 謝罪が終わるとエスコは感謝し、それに続いてセルマも前に出てわしに感謝する。


「猫さんの二の矢、三の矢の教えを必ず守ります!」

「誰か参考になる闘い方はあったかにゃ?」

「そうですね。リータさんの守りながら闘う姿は参考になりました」

「メイバイさんの動きは凄かったです!」


 セルマとエスコは、リータとメイバイを褒めるので、リータを見たらあわあわしていた。どうやら自分の名前が出て来るとは、思ってもいなかったようだ。


「仲間が褒められるのは嬉しいにゃ。でも、二人は参考にならないかもにゃ~?」

「何故ですか?」

「あの二人には才能があるにゃ。リータは力。メイバイは速さ。特化した才能があるにゃ」

「才能ですか……」

「そんにゃに悲観しなくても大丈夫にゃ。自分に出来る事を考えて、それを合わせれば強くなれるにゃ」

「……非力な魔法使いの私でも、扱える武器はありますか?」

「そうだにゃ~。棒なんてどうにゃ?」

「棒ですか……」

「ちょっと待つにゃ」



 わしは次元創庫から、以前キョリスとの修業の時に、遊びで作った土の棒を取り出してセルマの目の前に持って行く。


「棒ですね」

「ただの棒じゃないにゃ。中に鎖を入れて、土魔法で作った棒にゃ」

「何か違いがあるのですか?」

「操作すれば形が変わるにゃ。こんにゃ風に……」


 わしは軽く実演して見せる。棒として振り、突き、回し、次に棒を三つに割って三節棍を振り回す。最後に九節棍で鞭のように扱う。くるくると舞うように動くわしの動きは、さながら演舞だ。

 そして最後の決めボーズ……


「アイタッ! 失敗にゃ~」


 やっぱり九節棍は難しい。頭にいいのが入ってしまった。


「「「「「アハハハハ」」」」」


 決めポーズを失敗して頭をさすっていたら、突如、大勢の笑い声が聞こえて来た。その方向にわしが振り返ると、居間から縁側に移動していたさっちゃん、メイバイ、女王に笑いながら声を掛けられる。


「シラタマちゃん、何やってるのよ~」

「途中まではかっこよかったニャー」

「いい余興だったわよ」


 いつの間に議論が終わっていたんじゃ? みんな見ておったのか……恥ずかしい!


「議論はどうなったにゃ?」

「う~ん。モフモフもフォルムも、両方持ち合わせてるシラタマちゃんが一番ってなったね」


 なんじゃそりゃ。今までの熱い議論は、なんだったんじゃ?


「ねえ。さっきのもっとやって~」

「イサベレ。あなたも参加しなさい」

「はっ!」


 女王の命令に、イサベレはひとっ跳びでわしの隣に立つ。


「初めての共同作業」

「違うにゃ~!」

「初夜??」

「もっと違うにゃ~~~!」



 わしはイサベレの持つ剣と同じサイズの土の剣を渡し、出来るだけ派手で回転する攻撃を指定する。わしはその剣に合わせ、武器を下に潜らせながら回転する。その動きに周りは沸き上がり、拍手や歓声が起こる。

 わしとイサベレは徐々にスピードを上げ、最後のほうは旋風が起きた。女王やさっちゃんから「やり過ぎ」と怒られ、二人でしょぼんとしたら笑いが起こる。



 それから、人を代え、武器を変え、宴は日が変わるまで行われたのであった。



 う~ん。ティーサと新人ハンターは早くに帰って行ったけど、残りはどうしたものか……。女王とさっちゃんをひと部屋にして、兄弟達も同部屋。ソフィ達、城勤め組にひと部屋。わしの部屋にリータとメイバイとエミリか。残りは居間じゃな。

 しかし、わし以外眠ってしまうってどういう事じゃ? わしも疲れておるのに……まったく。



 わしはせかせかと人を運び、片付けをする。食べ残しや皿は、今から洗うのは面倒臭いので、次元倉庫に仕舞った。布団の数は全然足りないので、眠る皆に毛皮を掛けていく。

 後片付けが済むと、縁側に出て、一人で酒と月夜を楽しむ。


 ふぅ。やっと落ち着ける。わいわいと賑やかな夜もいいが、静かな夜も捨てがたい。今日は満月か……



 満月を眺め、お酒をゆっくりと味わっていると、わしの隣に腰掛ける人物が現れた。


「きれいね。私も一杯貰っていい?」

「にゃ? 女王……静かにしてくれにゃ?」


 わしはお酒をトクトクとグラスに注ぐと、女王はグラスを合わせてから口を付ける。


「うん。美味しい」

「とっておきのお酒にゃ」

「街には、こんなお酒もあるのね」

「ここでは売ってないにゃ。セベリに少し譲ってもらったにゃ」

「ベネエラの……と言う事は、北の名産かしら……」

「それより、何か用かにゃ?」

「そうだったわね。今日来た用件は、イサベレのことよ」

「イサベレにゃ?」

「あなたはイサベレをどう思っているの? まだお母さんの事で怒っている?」


 女王の問いに、わしは少しうつむく。


「……まだ、少しはにゃ」

「そうよね。実の母親を殺された怒りは、簡単には収まらないわよね」

「まぁ……少しだけにゃ。おっかさんの事を思い出すと悲しくなるけど、怒りにとらわれていても、前に進めないしにゃ」

「見た目と違って大人なのね」

「失礼にゃ~! 女王はわざわざ、からかいに来たにゃ?」

「ごめんごめん。じゃあ、質問を変えるわ。イサベレの見た目はどう?」

「う~ん……。美人だとは思うかにゃ?」

「あらあら。そうなの! それじゃあイサベレと結婚しない? いい子よ~」


 見合いを勧める親戚のおばちゃんか!!


 急変した女王に心の中でツッコミながら、見合い話は続くのであった。

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