117 お見合いにゃ~


 女王はまたとんでもない事を言いよる……わしがイサベレと結婚? 出来るわけがないじゃろう。猫じゃぞ? それにリータとの先約もあるし、さっちゃんが怒りそう。怒られたくないから断ろう!


「断るにゃ~」

「どうして?」

「わしは猫にゃ。人間と結婚できないにゃ」

「種族越えた恋……燃えるシチュエーションじゃない」


 いや、うっとりされても……


「ひょっとして、今日の用件って、その事かにゃ?」

「そうよ。イサベレのタイプはシンプルに強い男なの。そんな男、ホワイトを簡単に狩れるシラタマ以外いないわ」

「はぁ……にゃんでそんなにイサベレと、くっつけようとするにゃ?」

「イサベレは、あなたといると楽しそうにしてるじゃない? あの子のあんな顔、初めて見たわ」


 アレで? わしにはずっと無表情にしか見えなかったのに……。表情が変わったのなんて、ドヤ顔と一緒に怒られてしょぼんとなった時だけじゃ。それすら違いがわかり難いのに……


「どうしてわかったのかって顔しているわね。私は生まれてからずっと見てるのよ。それぐらいわかるわよ」


 付き合いが長いからわかるのか。


「理由はそれだけかにゃ?」

「それだけで十分じゃない?」

「個人にゃら十分にゃ」

「あなた……どこまで知ってるの!?」


 わしの発言に、女王はさっきまでの、にやけた顔から真面目な顔に変わる。


「百年生きている事と、子供を産んだら十年で死ぬ事だけにゃ」

「誰から聞いたの!」

「本人からにゃ」

「イサベレが……なら話が早いわね。イサベレをこの国から開放してちょうだい」

「開放にゃ??」

「イサベレはこの国のために長い間、良く働いてくれたわ。もう休ませてあげたいの」

「そんにゃの、騎士の任を解けばいいだけにゃ」

「それは……」

「女王はわしにイサベレを殺し、わしの子供にイサベレと同じ苦痛を味わえと言ってるにゃ」

「そうね。どんなに言い繕おうと、そうなるわね。でも、イサベレが初めて男に興味を示したの。それだけは事実よ」

「男でも猫だにゃ~」

「イサベレが求めるなら、なんだってかまわないわ。イサベレの事をお願い!」


 女王は本気でイサベレのためを思って言っているのはわかるが、国を預かる身として兵器は捨てられないか。気持ちはわかる。じゃが……


「女王がイサベレを手離さない限り、わしには出来ないにゃ」

「そう……わかったわ」

「わし以外の男をあてがうのかにゃ?」

「そうなるわね。それか、また百年待つか……」

「イサベレに呪いが掛かっているのかと思っていたけど、この国が呪いだったにゃ。いっそ、イサベレと駆け落ちしたほうが、良いかも知れないにゃ」

「駆け落ち……ロマンティックな響き……」

「「イサベレ!」」


 わしと女王は、背後に立つイサベレに驚く。


「いつから聞いてたにゃ?」

「美人って言ったところから」


 最初からかよ……イサベレもエリザベスみたいにステレス機能付きか。まぁ探知魔法は使っていないし、油断もしていたから同等とは言えないがな。


「陛下もシラタマも、私の事を心配してくれる。嬉しい」

「何も結論出てないにゃ」

「二人が私の事、生まれて来る子供の事を考えてくれているだけで嬉しい」

「聞いていたにゃら、イサベレはどうしたいにゃ? わしと一緒に、この国を滅ぼすかにゃ?」

「なにさらっと恐いこと言ってるのよ!」

「シラタマは勘違いしている。この国は呪いじゃない。私達を守ってくれている。陛下も、その前の陛下も、どの陛下も私達を大事にしてくれている。だから、私はこの国から離れない」

「イサベレ……」

「子供はどうするにゃ? 子供は戦う事を拒否するかもしれないにゃ」

「きっと大丈夫。サンドリーヌ様も優しい」


 妄信的……と、言うわけでもないな。本当にこの国を愛しているみたいじゃ。異形のわしですら受け入れる、器のデカイ国じゃもんな。さっちゃんと触れ合えば、守りたいと思うかもしれん。


「それでさっきの話……プロポーズと受け取っても?」

「違うにゃ~!」

「お似合いよ~」

「どこ見て言ってるにゃ!」

「私じゃイヤ?」


 おそらく悲しそうな目で見ないでくれ。わしが人間だったら、こんなべっぴんさんは、ほっとかないんじゃが……


「せ、先約がいるにゃ! だから結婚は出来ないにゃ」

「あら? 手が早いのね。それならこの国の法律をいじって重婚オッケーにしましょうか?」

「陛下。ありがとうございます」

「権力を無駄に使うにゃ~」

「それじゃあ、あとは若い二人に任せましょう。おやすみなさい」


 お見合いか!! イサベレは女王より年上じゃろう。イサベレは近いし……と、言うか、膝に乗せて抱き締めるな!


「降ろすにゃ~」

「もう少しだけ……あの夜が忘れられないの」

「言い方! にゃにもしてないにゃ~」

「こうしてるだけで幸せ」


 まぁ少しくらいならいいか……やましい気持ちはないぞ? ホンマホンマ。


「月がキレイ」

「にゃはは」

「なんで笑ったの?」

「にゃんでもないにゃ」


 言ったところで、日本人の奥ゆかしさは伝わらんじゃろう。この世界では軟弱男と切り捨てられるのが落ちじゃ。でも……


「月がキレイにゃ」



 イサベレとのお見合いも、夜が更けると幕が引け、各々の寝室に別れて向かう。

 わしは猫型になると、さっちゃんのベッドに潜り込む。たまにはサービスしておかないと、とんでもないお願いをされると困るからだ。


 まぁしっかり合鍵とぬいぐるみは奪い取られたけど……リータには近々買って来るからポコポコしないで! メイバイのぬいぐるみも手に入れるからな? そんな目で見ないでね?

 女王には「なんで私と一緒に寝てくれないの!」と怒られたが、他のメンバーは王女様の手前、口を出す事はなかった。


 翌朝はエミリとドロテに朝食を用意してもらい、和気あいあいと食べる。エミリには朝食の時に、偉い人の正体が女王だとバレて、魂が抜け出しそうになったので、口を塞いで寝室に連れて行った。

 食事が済むと、皆、各々の職場に向かって行く。帰る時に、わしをひと抱きして帰る習慣が出来つつあるみたいだ。


 最後に残っていたエミリに、キャットランドに行かなくていいのか聞くと、調理の勉強をしたがる人が多くて、厨房にいても口を出すだけで料理が出来ない。時々キッチンを貸して欲しいと頼まれた。

 エミリの料理はわしの口に合うので快く了承し、料理人として雇う事にした。リータとメイバイは、何故か反対していたが理由を聞いてもよくわからない。


 邪悪? 悪魔? こんな小さな子供が、そんなわけがあるまい。


 みんなで食器の片付けを終わらせると、今日のところはエミリは帰らせた。今後の事は院長のババアと相談してから決めてもらう。


 二人は胸を撫で下ろしていたが、なんでじゃろう?



 その後リータとメイバイと一緒に家中を掃除、洗濯をし、午後にはキレイになった居間で寝転がる。


「疲れたにゃ~」

「そうですね」

「本当ニャー」

「かなり稼げたから、今週は緊急依頼以外受けないにゃ。みんにゃもそれでいいかにゃ?」

「いいですけど、私達の稼ぎは少ないですよ?」

「そうニャ。私達は黒蟻ぐらいしか倒していないニャ」

「わし一人じゃ勝てなかったにゃ。十分がんばったにゃ」

「そんなことないニャ! シラタマ殿なら一人でも勝てたニャ!」

「そうですよ。それにお金だって自分の為に使わずに、私達ばっかり使ってるじゃないですか」

「気にするにゃ。仲間の為に使うのは当然にゃ。武器も服も、わしは自分の物があるから必要ないにゃ~」

「でも……」

「せっかく静かになったんだから、今日はゆっくりさせて欲しいにゃ~」



 わしは変身魔法を解き、リータの膝の上に登る。温かい日差しが差し込む居間は、リータの膝の温もりと相まって、わしをすぐに眠りに誘う。


「スースー」

「シラタマさんはズルいです……」

「リータもズルいニャー」

「わかっています。交替しますから……」


 安らかな眠りの中、わしは二人の膝を眠ったまま何度も行き来する。いつしか二人も眠りに落ち、わしが目を覚ました時には二人の間にいた。

 わしは二人を起こさないように抜け出し、夕食の準備をして、食べ終わるとお風呂に入り、就寝となる。

 猫型で寝ようとしたが、約束を覚えていたみたいで責められて、人型になって寝るハメになった。二人の幸せそうな寝顔を見ると、人型、猫型と、こだわらなくてもいいかもしれない。


 あ、そこは触らないで……





 翌朝……


「シ~ラ~タ~マちゃ~ん! あ~そび~ましょ~!!」


 わしは女の子の元気な声で目を覚ます。


 ん、んん~。誰じゃ? リータとメイバイは……隣で寝てる。声の主は玄関か?


 わしは着崩れた着流しのまま、目を擦りながら階段を降りて玄関に向かう。


「ふにゃ~。セールスにゃらお断りにゃ~」

「なに寝惚けたこと言ってるのよ!」

「にゃ、さっちゃん。おはようにゃ~」

「おはよう。いままで寝てたの?」

「いままでって……さっちゃんもこんにゃ朝早くに、にゃんの用にゃ?」

「もう朝二の鐘は鳴り終わっているわよ」

「にゃんですと!?」

「今日はキャットランドの貸切りの日だから、遊びに行こうよ~」


 今週はダラダラする予定じゃったが、もうそんな時間じゃったか。昨日もほとんど寝てたのに……わしも二人も疲れておったんじゃな。


「ねえねえ~」


 さっちゃんは相変わらず我が儘な子供のようじゃ。考え事しとるんじゃから、揺すらないで欲しい。


「「シラタマ(どの~)さ~ん」」


 わしがさっちゃんに揺すられていると、はだけた着流しの、リータとメイバイが目を擦りながら降りて来た。


「な、な、なっ……」

「お、王女様! おはようございます」

「おはようございますニャー」


 二人の挨拶に、さっちゃんは応えず、二人を交互に見てからわしに詰め寄る。


「シラタマちゃん! これはどういうこと!!」

「にゃんのことにゃ?」

「はしたない!!」


 はしたない? えっと~……おっと。少し着崩れておった。あとは……はだけた着流しを着た少女が二人。二人ともパンツもおなかもモロ出しじゃな。たしかにこれは、はしたない。


「ふたりとも、着崩れているから直すにゃ」

「「はい(ニャ)」」

「そういうことじゃない!」

「「「??」」」

「なんでみんな不思議そうな顔するのよ! みんなで……その……あんな事やそんな事を……言わせないで!」


 さっちゃんは顔を赤らめて何かを指摘するが、わし達も言いたい事に気付き、一斉に顔を赤くする。


「にゃ、にゃにもしてないにゃ!」

「そ、そうですよ!」

「一緒に寝ただけニャー!」

「それがはしたないのよ!!」


 ごもっともです……


 この後、わしとリータとメイバイは、何もなかったとさっちゃんに説明し続けるのであったとさ。

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