630 アメリヤ王国に向けて出発にゃ~


 石打ちの刑は、二周目になったら参加者は激減。たぶん殺された者に近しい者だけがしつこく続けて、その他はわしにドン引きしてるっぽい。

 まぁ神様扱いされて困っていたから、好感度は下げておいたほうが今後の為だろう。


 これで裁きは終了。今度はアメリヤ兵の軍曹を呼んで話を聞く。


「すっかり忘れていたんにゃけど、無線を積んでたにゃろ? 定時連絡とかないのかにゃ?」

「かなり本隊から離れていますので、いまは使えません。しかし、今日中には連絡する手筈になっておりますので、早く戻らないと誰かが確認しに来てしまうでしょう」

「にゃんと!? これからの予定だけ先に教えてくれにゃ~」


 ちょっとしたわしのミスから急転直下。オニヒメとコリスには怪我人の治療を任せ、アメリヤ兵には撤収準備を急がせる。リータ達には一人の奴隷を与え、アメリヤ兵の食料を漁らせ、全員に一食分の携帯食と飲み物を支給してもらう。


「すくないよ!」


 何故かアメリヤ兵の列に並んでいたコリスは、苦笑いのリータから受け取ったパンらしき物をぺろりと食べてわしに言い寄って来た。


「コリスには別で用意するにゃ~。てか、にゃんでコリスまで並んでるんにゃ~」

「だって、ごはんってきいたから……」

「コリスはしょうがないにゃ~。ほれ、これでもつまんでおいてにゃ」

「ホロッホロッ」


 コリスには高級串焼きを支給したら、いまの内に別れの挨拶。わしはモノンガヘラ族の前に立って、酋長しゅうちょうのシランと話す。


「急にゃ別れになっちゃったけど、アメリヤ王国から食糧を奪い取ったら顔を出すからにゃ。ちょっとの間、待っててくれにゃ~」

「何から何まで……。我等の危機を救っていただき、本当に有り難う御座いました。我々モノンガヘラ族は、猫神様の帰りを心よりお待ちしております」

「わしの家は別にあるんにゃけど……まぁいいにゃ。それじゃあ、まったにゃ~」


 なんだか勝手にわしの家をここにしようとするシラン達に見送られ、わし達はバスやジープに乗り込み、出発するのであっ……


「お前、運転できにゃいの!?」


 ちょっと話をしたい事があったので、わしは軍曹の乗るジープに乗り込んだのだが、運転できないと聞いて出発が少し遅れるのであったとさ。





 わし達を乗せた車は東へと進む。先頭は、道案内のジープに乗り込んだアメリヤ兵。アメリヤ産バスやトラックが数台続き、わしが運転するジープ。最後尾にオニヒメが運転するわし産バスだ。

 わしと一緒にジープに乗ったのは、イサベレと軍曹。猫ファミリーは全員バスに乗っている。


 時間が無かったので、車の中でランチ。アメリヤ兵は質素な携帯食を食べ、わしたち猫パーティは高級食材を使ったおにぎりやハンパーガー等々。モグモグ食べながら先を進む。


「わしにもちょうだいにゃ~」


 わしは運転中で食べづらいから、後部座席のイサベレに手を出したら渡すように言ったのに、食事に夢中で全然くれないので催促しながら進む。

 そうしてお腹が落ち着いて来たら、わしは軍曹からアメリヤ王国の情報を聞き出していた。


「たしか、各地に散った部隊が集合したら帰るんだったにゃ。アメリヤ王国ってのは、どの方向にあるにゃ?」

「ここからだと……東からやや南寄りです。海の近くですので、探しやすいと思います」

「それにゃら、空から探せば一発だにゃ」

「空? 猫陛下は、ヘリをお持ちなのですか??」

「いんにゃ。飛行機にゃら持ってるにゃ」

「飛行機……我が国ではまだ開発中と聞いていましたが、猫の国にはすでにあるのですね」


 あれ? ヘリコプターがあるから、飛行機ぐらいとっくに出来ているもんじゃと思っていた。変な順番じゃな……いや、ダ・ヴィンチがヘリのスケッチを描いていたし、こっちのほうが本道なのか??


「まぁにゃ。ヘリがあるってことは、レーダーもあるのかにゃ?」

「レーダー? 聞いたことのない単語ですね。何をする物なんですか?」

「遠くにある物を見付ける機械にゃ」

「そんな便利な物が……猫の国とは、アメリヤ王国より技術の進んだ国なのですね」

「う、うんにゃ」


 持ってないんじゃけどな~。ま、わざわざ言う必要はないじゃろう。それよりも、レーダーが無いならば、アメリヤ王国に飛行機で近付いても問題なさそうじゃ。


「あと、お前は、わしのことを教皇にプレゼントするとか言ってたにゃろ? 奴隷狩りを指示しているのは王様じゃにゃいの?」

「はあ……いちおう国王の命令となっていますが、何をするかは議会が決めていますので、上がどんな政策を出しているかまでは、俺にはわかりません」

「ふ~ん……じゃあ、教皇はにゃんで出て来たにゃ?」

「珍しい動物や種族を集めていらっしゃるのです。見付けた者には祝福をしてくれるし、褒美が貰えるのです」

「にゃんでそんにゃの集めているにゃ?」

「教皇猊下に聞かないことにはなんとも……ただ、教会で大切にしているという噂は奴隷が言ってましたけど、奴隷が見ることはありませんから嘘でしょう」


 なんでこいつが知らずに、奴隷が知っておるんじゃ? 神に仕える者のそばに居るから、いい暮らしをしていると思っているとかか??


「あ、そうにゃ。お前んとこの宗教って、にゃに教にゃの?」

「キルスト教です」


 おしい! 一字違いか。そう言えば「アメリヤ」ってのも「アメリカ」と一字違いじゃな……気になる違いじゃが、いまは宗教の話をしておったんじゃった。


「てことは、アダムとイブが出て来るんにゃ」

「はあ……猫の国にまで我がキルスト教が普及しているとは驚きです」

「わし達の土地には、キルスト教にゃん無いにゃよ? あるのは白象教と白猫教ぐらいにゃ」

「なんですと!?」

「あ、日ノ本には神道や仏教もあったにゃ。イサベレは、他にもあるか知ってるにゃ?」

「ん。西の国の一部と、小国に何個かある」

「だってにゃ」

「嘘だろ……神は唯一無二なのに……邪教がこんなにあるなんて……」


 軍曹は現実を知っても信じられないのかブツブツ言っている。


「邪教って、にゃに? 神様はいっぱい居るのに、にゃんでお前のところの神は、他の神様を殺そうとするにゃ? その信者をしいたげるにゃ?」

「神は唯一無二だから……」

「ちにゃみに、わしは白猫教の神様をやってるんにゃけど、お前のところの神は許してくれないのかにゃ~?」

「猫陛下が神様??」

「人の信じるモノは、そんにゃもんにゃ。地に宿り、風に宿り、猫にも神は宿るにゃ。日ノ本の国にゃんて、死んだ人も神様にゃ。商人からしたら、お客さんも神様になるにゃ~。にゃははは」

「なんでそんなに……」


 あまりにも神が多いので、国が増えた事にもツッコンでくれない軍曹。またブツブツ言っているので、しばらくイサベレと喋っていたら、無線機から男の声が聞こえたのでわしが対応する。


「こちらシラタマにゃ。どうぞにゃ」

『はっ! 最後に通信した場所に着きました。如何いたしましょう? どうぞ』

「んじゃ、全体停止にゃ。各所通達よろしくにゃ~。どうぞにゃ」

『ラジャー』


 わしが無線機をポチポチしながら受け答えしてハンドマイクを置いたら、イサベレから質問が来る。


「『どうぞにゃ』って、前にもやってた。向こうも似たようなことを言ってた。なんで?」

「あ~。無線機ってのは、送受信に切り替えが必要なんにゃ。だから交代の合図を出さないと、会話が出来ないんにゃ~」

「なるほど……ダーリンは、あんな真面目な場面で、この遊びをしてたんだ」

「まぁそうにゃけど……その手はにゃに??」


 どうやらイサベレは怒っているらしい。そりゃ、徳川のスナイパーと戦っている最中に、わしが遊んでいたと今ごろ気付いたのだ。怒りたい気持ちはわからんでもない。


 でも、その卑猥な手付きは、わからんわ~。


 イサベレの手付きがいやらしいので、ジープのサイドブレーキを引いた瞬間、わしはドアから飛び出した。そしてジープの周りをグルグル逃げ回っていたら、リータがバスから出て来たので飛び付く。

 何があったか聞かれたので「犯されそうになった」と言って、イサベレの相手は任せた。


 その間、わしは軍曹と一緒にアメリヤ産バスに入って無線の指示。無線担当が電波を探している中、ドンドンとドアを叩かれた。どうやらリータ達にも、わしが海でやった無線遊びがバレたようだ。

 何やらモフモフ罪でしょっぴくと叫んでいるが、いまから無線を繋ぐから黙っているように叱りつけるのであった。



「じゃ、今日はここで野営にするにゃ。あとのことはよろしくにゃ~」

「はっ!」


 本隊との無線が終わったら、軍曹に指示を出してわしはバスから降りる。


「「「モフモフ罪……」」」

「まだ言ってるにゃ~? それより話があるからごはんにしようにゃ~」

「ごはん!」


 リータとメイバイとイサベレは、わしに叱られてもモフモフ罪は忘れていなかったようだ。しかし話があると言ったら、執行猶予をくれた。コリスはエサに反応しただけ。

 とりあえずテーブルに料理を並べると、わし達は豪勢な食事にする。


「ひとまず、アメリヤ軍は一時帰還となったからひと安心にゃ~」


 無線で得た情報だと、みっつの部隊が、西、北西、北に散って原住民を探していた。そこで見付けたのは西だけ。

 ただし、軍曹には見付からなかったと嘘の報告をさせたので、今回の遠征は空振りとなり、次回、さらに先を目指す事で落ち着いた。


「それで、これからどうするのですか?」

「明日にはアメリヤ王国に行こうと思うにゃ」

「え……合流したアメリヤ兵も奴隷にするんじゃなかったんニャ……」

「そんなことに時間を掛けるより、直接乗り込んだほうが早いにゃろ。ここから、三、四日掛かるらしいし、スパイが欲しくにゃったら中で募集しようにゃ」


 リータとメイバイが頷くと、イサベレに作戦を言い渡す。


「今回はイサベレ主導で、東の国の特使という形で中に入り込もうと思うにゃ。出来れば、国王、教皇に会って話すまで行きたいにゃ」

「私で出来るかな?」

「どもらなければにゃ……」

「うっ……自信ない」

「まぁそう心配するにゃ。リータ達にも協力してもらえば大丈夫にゃ。それに、東の海を越えて来たと説明したら、必ず話を聞きたいと思うにゃろ。偉ければ偉いほどにゃ」

「ん。なんとかなるような気がして来た」

「じゃ、細かい話は明日にして、さっさと寝てしまおうにゃ~」


 こうしてわし達は、明日からの英気を養う為に、キャットハウスで眠りに就くのであっ……


「ゴロゴロゴロゴロ~!!」


 モフモフの刑を覚えていたリータ達に撫で回されてから……



 翌朝は朝食を済まし、アメリヤ兵には「わし達のことは秘匿。いつも通り行動するように」と命令したら、戦闘機に乗って飛び立つ。

 しばらく東に進むと、本隊の車やテント、人の姿が点々と見えたが、この高度なら戦闘機に気付いた者も鳥と勘違いしているだろう。


 そうして空を進んでいたら、リータ、メイバイ、イサベレが右側に集まって騒ぎ出した。


「街! 街がありますよ!!」

「すっごく大きいニャー!!」

「王都ぐらいあるかも。フンスコ」


 そう。アメリヤ王国に着いたのだ。


 さすがにこれだけ大きいと、初めて集落を発見したぐらい機内は騒がしく、興奮冷めやらぬまま戦闘機はアメリヤ王国に近付くのであった。

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