571 原住民の餌付けにゃ~


「反省してるにゃ?」

「うん! シラタマちゃんに迷惑かけてごめんなさい」

「わしもちょっと言い過ぎちゃったにゃ。ごめんにゃ~」

「えへへ~」


 わしはさっちゃんを許し、頭を撫でてあげると、さっきまでの涙が嘘のような満面の笑み。抱きついて頬擦りまでしているところを見ると、反省しているようだ。


「甘い……」

「甘々ニャー」

「……チョロすぎ」

「「え??」」


 わしとさっちゃんがチチクリあっていると、リータとメイバイがわしを甘いと言い、オニヒメが何か呟いていた。ただ、その声はリータ達は聞き取れなかったので聞き返していたが、オニヒメは何も言っていないととぼけていた。

 そんなやり取りにわしは気付かず、モフモフ言いながら頬擦りするさっちゃんを押し返していたら、イサベレが近付いて来た。


「それで、これからどうする? 他の土地に行く??」

「そうだにゃ~……怖がられたまま去るのも悲しいし、悪足掻きしてから行こうにゃ~」



 それから皆と話し合ってから、集落に向けて走る。さっちゃんは反省しているらしく、わしから離れてくれないので、おんぶしてあげた。

 集落に着くと原住民は家の中に隠れているのか、誰ひとり歩いていない。しかし気にせずズカズカ広い道を歩き、中央にて作業を始める。


「ちょっ~と、危にゃいから離れてくれないかにゃ~?」

「あいあいにゃ~!」


 さっちゃんはわしにべったりなので、離れてくれるように頼んだら、すぐに離れて敬礼する。やはり、かなり反省しているようだ。若干、その敬礼は気になったけど……

 肩の荷さっちゃんが下りると、次元倉庫から黒い巨大魚を取り出して解体。猫撫でのつ……【白猫刀・改】の初めての出番が解体ではかわいそうなので、【猫干し竿】を握っての解体だ。


「なんで【猫撫での剣】じゃなくて【猫干し竿】なの? ……なんでもないにゃ~。ぴゅ~」


 さっちゃんがよけいな事を言って来たから睨んだら、口笛を吹いて離れて言った。ちゃちゃを入れてすぐに離れるとは、本当に反省しているようだ。

 とりあえずさっちゃんの質問は無言で乗り切り、巨大魚は瞬く間に三枚下ろし。身を切り分け、リータ達に臭み取りの処置をさせる。その間に、わしは土魔法でたくさんの串と、釜を何個も作る。

 全ての下処理が終わったら、皆で切り身に串を数本ぶっ刺して火にかけ、両面に焼き目が付いたらエミリ特性蒲焼かばやきダレを塗る。すると、一気に匂いが立ち込めた。


「んん~~~! いい匂い~」

「モフモフ~。もう食べていい~?」

「まだにゃ」

「「「にゃ~ん」」」

「まだって言ってるにゃ~」


 蒲焼の匂いが辺りに広がると、まだお昼ごはんには早いのに、さっちゃんが匂いを褒め、コリスと猫三匹(兄弟とメイバイ)が擦り寄って来た。

 さっちゃんは意地汚くないから大丈夫だけど、モフモフとメイバイは調理の邪魔なので、焼き場をひとつ預けて「自分で焼いて食え」と言って離れさせる。だが、まだ生なのに食べてたっぽい。


 動ける人数は少なくなったが、わしが無駄に素早く動いて焼いていたら、近くにある家の扉が何個も開いて、こちらを覗き見ていた。

 冷めないように【熱羽織】の魔道具を設置したテーブルに焼き上がりを大皿に盛り、わし達が二周目に突入し、コリス達がキャッキャッと食べ出すと、匂いに我慢できなくなった原住民がチラホラ出て来て、他の原住民に止められていた。


 ここまでは予定通りじゃけど……コリス達には自分で焼けと言ったじゃろ? 無くなるから!!


 大皿に盛った魚の蒲焼は四匹に食べられてかなり減ったが、三周目も蒲焼が焼き上がると、多くの原住民が家から出て来て遠巻きに見ている。なので、子供を手招きしてみたが、母親に止められた。

 そうして四周目に突入し、原住民の包囲網が狭まる中、髭を蓄えた老人が近付いて来た。


「お前達は何をしておるんじゃ?」

「にゃにって……見ての通り、料理にゃ」

「それはわかっておる。何の為に作っておる」

「みんにゃに食べてもらいたくてにゃ~。美味しいんにゃよ~? パクッ……うん! うまいにゃ~」


 わしが老人の顔の前に蒲焼をぶら下げてから自分の口に入れると、老人はヨダレを拭ってから怒鳴る。


「お前達の目的はなんじゃ!!」


 ようやく老人が話を聞く態勢になってくれたと感じたわしは、頭を下げて神妙に語る。


「仲間が失礼にゃ事を言って、本当に申し訳なかったにゃ。この土地に来て、初めて出会った人間にゃったから、気分が高揚して変にゃ事を口走ってしまったにゃ。ここは、うまい馳走を用意したから、怒りを収めてくれにゃ。頼むにゃ~」


 まずは謝罪から。わしの誠意は伝わったようだが、老人はどう答えていいか悩んでいるように見えたので、そのまま続ける。


「まだ質問に答えていなかったにゃ。わし達の目的は観光にゃ。知らにゃい土地へ行って、知らにゃい人と話す。それが楽しいんにゃ~」

「ふむ……敵意はないとは理解したが、そんなのが楽しいとは思えん」

「じゃあ、ひとつ面白い話をしてやるにゃ。わし達の住む土地には、にゃん十万人も暮らしているにゃ~」

「そんなにか!?」

「驚いたようだにゃ。それこそが、楽しいにゃ。今日はお互いの暮らしを語り合って、楽しく食事をしようにゃ~」


 老人はわしの話に興味を持ったと思ったら、山積みの蒲焼をガン見していたので、「どうぞどうぞ」と言って食べさせる。すると、年寄りらしからぬ甲高い声で叫んだものだから、囲んでいた原住民が後退あとずさった。

 しかし、老人がガッツいて食べている姿を見て、原住民は足早に前進。もう触れられる距離まで近付いているのに、蒲焼に手を出さないので老人を使う。


「わし達は言葉が通じないんにゃから、じいさんから声を掛けてやってにゃ~」

「ム、ムゴッ……」

「慌て過ぎにゃ~」


 ガッツく老人は、喉に詰まらせて死後の世界に旅立ちそうだったので、早目の処置。背中を叩いたら肉が飛び出した。

 老人は咳き込みながら肉を拾って口に入れようとしたから、新しいのがあるからと止めて、それより先に原住民に説明しろと命令する。


 止めたのに食いよった! ばっちいのに……雪の上はセーフなんですか。食べ物を粗末にしないのですか。いい心掛けですね。でも、住人が後退っているのは気のせいですか?


 何やらエンガチョみたいな顔をした原住民は、老人から危険が無いと聞いたら、雪崩の如く蒲焼の山に突撃した。

 原住民は蒲焼を頬張ると叫び出し、ガッツいて食べるが、後ろの人が「どけどけ」と押し退けて喧嘩に発展。なので、わしとリータとイサベレで喧嘩の仲裁に入り、一列に並ばせて配膳する。

 なんとか全員に蒲焼は行き届いたようだが、食べ足りないとのこと。しかし蒲焼ダレは使い切ってしまったので、巨大魚の切り身を勝手に食ってくれと渡した。


 それ……ナマじゃけど、そのままいくの? 新鮮だからいいのですか。けっこういけるのですか。あ、わしの事はお構いなく。


 黒い魚だから味は申し分ないだろうが、原住民が素手で渡して来た切り身はさすがに断った。だって、リータ達ならまだしも、知らないオッサンのゴツゴツして毛深い手だったんじゃもん。


 とりあえず、原住民はわし達の事を忘れているようなので、先ほど喋っていた老人に「酒でもどうだ?」と言って、こっそりと連れ出す。

 リータ達も連れてキャットハウスに入ったら、ここでお喋り。リータ達には本格的な昼食とデザートとお茶を支給して、わしと老人には酒とツマミだ。



 ウィスキー入ったグラスを合わせると、ここでの暮らしを聞いてみた。


 ここの原住民は、アレウト族。老人は、どうやら族長だったようだ。

 アレウト族はその昔、流浪の暮らしをしており、偶然見付けたこの場所を永住の地としたらしい。


 ここは三方を崖に守られ、出入口は海しかない土地なので、夏場は強い獣が入り込まないとのこと。冬場は海水を使って出口を高い氷で塞ぐので、めったに気付かれることはないそうだ。

 もしも獣が入り込みそうになっても見張りがすぐに気付くから、奥に掘った避難場所に隠れていれば被害は軽微だったらしい。

 食事は漁と狩りが全て。弱い獲物も多いので、食べるには困らないそうだ。海側から出る場合もあるし、崖に作った梯子はしごを登って外に出る場合もあるとのこと。


 生活の話を聞いたら、次は商売に繋がる話。聞く限りチェクチ族と同じような暮らしをしているからめぼしい物も無いし、族長も何も思い付かないようだ。



 ある程度アレウト族の暮らしを理解すると、リータにアルバムを預けて族長にわし達の暮らしを説明している間に、わしはこっそりと外に出る。


「シラタマちゃんは、どこに行こうとしてるの~?」


 だが、さっちゃんにバレて、一緒に集落観光。おぶって集落の周りを写真に撮りながら一周。広場に戻り、子供に賄賂おやつを支払って家の中も見せてもらった。


「ガーン……白魔鉱どころか黒魔鉱すらない……」


 集落を一通り見て回ってキャットハウスの前に着いたら、さっちゃんが酷く落ち込んだ。


「ま、部族にゃんてこんなもんにゃろ。植民地にしたかったら、どうぞお構いにゃく」

「こんな何も無いところ、何のメリットがあるのよ!」

「にゃはは。諦めてくれてよかったにゃ~」


 どうせそんな事だろうと思って笑うと、さっちゃんは頬を膨らませて愚痴る。


「あ~あ。人を発見したら、もっと面白い物が見付かると思ってたのにな~。モフモフとか鉱石とか技術とかモフモフとかエルフとか……」

「それ、全部わしが見付けたヤツにゃろ? てか、モフモフって二回言ってる事に気付いてるにゃ??」

「なんでシラタマちゃんばっかり面白い物を見付けられるのよ~!」

「ハズレもあるんにゃから、揺らすにゃ~~~!」


 ぐわんぐわん揺らすさっちゃんには台湾の説明をしてみたが、まだ納得してくれない。なので、早くここを立って違う物を探しに行こうと言ったら、ようやくノリノリになってくれた。


「さあ! サンドリーヌ冒険隊……新たなる出会いに向けて出発にゃ~~~!!」


 さっちゃんは仁王立ちで空を指差して大声を出すので、わしは応じる。


「はいにゃ~。でも、片付けと別れの挨拶があるからもうちょっと待ってにゃ~」

「ちょっと~! 決め台詞を言ったんだから、ちゃんとやってよ~……シラタマちゃ~~~ん!!」


 どうやらさっちゃんは、かっこよく決めたのに梯子を外された事をツッコんでいるようだ。わしが片付けをしていても別れの挨拶をしていても、ブーブー……「にゃ~にゃ~」言って邪魔するさっちゃんであったとさ。

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