570 アメリカ大陸到着にゃ~


「あ! あれ!! 新大陸よ! 私が一番に見付けたんだからね!!」


 チェクチ族の集落で一泊した翌日、戦闘機で飛び立ち、東に進むこと三十分……陸地が見えてテンションマックスのさっちゃんがうるさい。


「はいにゃ~。さっちゃんが一番ですにゃ~」


 その三十分、ずっとこのテンションだったので、わし達はぐったり。コリスと兄弟は耳を塞いで寝てやがる。


「何よその言い方は!」

「ちょっとは落ち着いてくれにゃ~」

「落ち着いてるわよ! あの大陸は私が見付けたんだから、名前は私が付けるからね!」

「勝手にしてくれにゃ~。でも、アメリカ大陸は北と南があるからにゃ」

「なんでもう名前が付いてるのよ~~~」

「わしは転生者だと言ったにゃろ! 揺らすにゃ~~~!!」


 さっちゃんにぐわんぐわんと揺らされたわしは操縦不能。オニヒメに代わってもらって、さっちゃんを宥める。

 しかしなかなか落ち着かないので、元の世界のアメリカの話をして、思考停止に持ち込んだ。


 三億人以上もの人口。まるで森のようにそびえ立つビル群。何億とある車に飛行機や船。世界をも滅ぼす兵器……


 さっちゃんは、東の国のレベルを遥かに越える超大国を知って放心状態。これでなんとか落ち着いたが、今度はリータとメイバイが騒ぎ出した。


「王女様に言ったのですか!?」

「私達の秘密ニャー!!」

「こ、これには、よんどころない事情がありにゃして……」


 さっちゃんには脅されて話す事になったので、そのまま伝えたら、意外とすんなり受け入れられた。


「怒らないにゃ? ゴロゴロゴロゴロ~」

「なんとなく、王女様にはいつか話すと思っていましたから」

「仲良しだもんニャー。王女様ならしょうがないニャー」

「それにゃら撫でるのやめてにゃ~。表情と手の動きが合ってないにゃ~。ゴロゴロゴロゴロ~」


 結局は撫で回されて、わしも放心状態。気絶すんでのところまで追い込まれた。だが、その時、オニヒメがこちらを睨んで来た。


「もう陸に着いてるけど……遊んでいていいの?」

「「「にゃ!?」」」


 オニヒメに操縦を任せた上、遊んでいたから怒っているようだ。なので、頭を撫でまくって機嫌を取りつつ前を見たら、とっくに陸の上。せっかくのアメリカ到着は、さっちゃん騒動で見逃したわし達であった。

 ちなみにイサベレは鼻息荒く窓に張り付いていたので、一人だけ新大陸到着を楽しんでいたようだ。



 オニヒメから操縦を代わったら、皆に気になる点を質問しながら空を行く。そうしていたら、アラスカの南東、海の近くに煙が見えたとさっちゃんが騒ぎ出した。


「本当に煙にゃんか上がってたにゃ?」

「ぜったい煙! この『王女様アーイ』は、全てを見通すのよ!」

「それ、ただの双眼鏡にゃろ?」

「さあ、南東に向けて出発進行にゃ~!」

「聞いてるにゃ??」


 さっちゃんはまったく話を聞いてくれないのでリータ達に質問してみたら、誰も煙を確認していないとのこと。やはり見間違いかと思ったが、行かない事にはさっちゃんが納得しないだろう。

 なんか「私が発見したから植民地にしてやる」とか、「白魔鉱や黒魔鉱があったら全て私の物」とか、「庶民にはケーキを食べさせてやる」とか、悪役令嬢みたいな事を口走っているから連れて行くのは不安だ。


 でも、ケーキを食べさせるはいい事なのでは? 先の二つは看過できんが、優しい心は残っていたみたいじゃ。


 皆で地上を見ながら進んでいたら、本当に煙が上がっていたのでさっちゃんのドヤ顔がウザイ。早く降りろとうるさい。でも、リータ達はさっちゃんを迷惑そうな目で見て、コソコソ陰口を言わないで欲しい。


 これ、リータ達もやってたことじゃからな? 一人だけ興奮してるからって、酷いこと言わないであげて!


 リータ達には念話で説教し、さっちゃんの揺さぶりはコリスのモフモフロック。なんとかかんとか煙の上がる場所で、高い崖に囲まれた集落を発見した。


 う~ん……寂れた集落じゃな。崖と海に囲まれた陸の孤島ってところか。これなら獣の驚異から守られるじゃろうけど、冬場は海が凍るから大丈夫なのか?


 空から確認しつつ、メイバイに写真を撮らせたら降下開始。浜辺だと思われる海が凍り付いた場所の手前に着陸して、皆を降ろす。


「私がいっちば~ん!」

「はいにゃ~。さっちゃんが一番ですにゃ~」

「シラタマちゃんもテンション上げてよ~」


 テンションを上げるも何も、わしのテンションは毎回皆に吸い取られてこんなもんじゃ。わしだって、たまにはハメを外したいのに、必ず誰かのテンションが高過ぎるから上がるわけがない。


 さっちゃんを宥めつつ、いつも通り原住民と接触する時の話し合い。

 さっちゃんに何かあってはいけないので、さっちゃん2に変身したコリスは、さっちゃんのボディーガード。24時間張り付かせる。兄弟もやりたそうだったので……てか、それが騎士の仕事らしいので、ボディーガードに任命。

 モフモフ三銃士に任せておけば、さっちゃんが危険にさらされる事はないだろう。


 ボディーガードの件がまとまると、次は誰から話し掛けるかを決めるのだが、いつも通り、リータ達に人見知りが出たのでわしからに決定。

 絶対、皆に任せたほうが揉めないのにとブーブー……「にゃ~にゃ~」愚痴っていたら、あの人が立候補してくれた。


「このサンドリーヌ様に任せなさい! 辺境の部族なんて、王女オーラで蹴散らしてやるわ!!」

「穏便に済ませてくれにゃ~」


 さっちゃんのベクトルがどこに向かっているかわからないが、わしが対応するよりマシだろうと思って任せてみるのであった。



 見た目に難のあるメンバーが全員猫耳マントのフードを被ったら、集落に向けて前進。わしを先頭に、ダブルさっちゃんが隣り合って歩き、ダブル白猫が両隣を歩く。

 リータ達はそのあとに続き、しばらくぺちゃくちゃ喋っていたら、アメリカ大陸、最初の人間の壁と接触した。

 どうやら空から鳥が下りて来たと思って、槍を構えて臨戦態勢を取っていたようだ。しかし近付いて来たのは、猫と人間の女とマントを羽織った集団。チェクチ族そっくりな原住民も、何か相談しているように見える。


 その原住民との交渉にはさっちゃんが対応する事になっているが、一人で行かせるわけにもいかないので、わしが付き添う。

 さっちゃんはわしの後ろに続き、わしが止まったら少し右にズレて、一番偉そうな人とその隣の人へ、念話の魔道具を使って語り掛ける。


「私は東の国、次期女王、第三王女サンドリーヌよ! こんな辺境の地にわざわざ出向いてあげたのだから、馳走と宝を用意して歓迎しなさい!!」


 その言葉に、わし達はポッカーン。まさか自信満々に交渉に向かった者が、偉そうに自分から歓迎しろと言ったからには、エリザベスとルシウスでさえ、口を開けてあわあわしている。コリスはいつも通り。

 わし達が呆気に取られている正面では、二人の男が怒りの表情。周りの男達に怒鳴り散らして怒りが伝染している。


「×##*×*×!!」


 中央の偉そうな男が叫んだ声で、わしは「ハッ」としてこちらに戻ったが、時すでに遅し。原住民は槍を振り上げて走っていた。


「コリス~! さっちゃんを頼むにゃ~~~!!」

「うん!!」


 ボディーガードを呼んだら、わしは前進。それと同時に先頭を走る原住民10人に念話を繋ぎ、説得する。


「待ってにゃ! さっきのはなしにゃ! わし達は危害を加えるつもりはないにゃ~~~!!」

「信用ならん! まずはこいつを捕らえて人質にするぞ! 囲め~!!」

「「「「「おお!!」」」」」


 偉そうな男はわしの説得に応じず、全員で囲んで槍を向けて来た。なので、わしは両手を上げて降参のポーズ。その姿勢のまま語り掛ける。


「だから敵じゃないにゃ~」

「怪しい術など使いやがって……気持ち悪い奴だ」


 どうやらわし達の念話の説明が抜けていたので、怪しい人物だと決め付けているようだ。

 だから念話の説明をし、説得を繰り返していたのだが、輪が小さくなるだけ。後ろから縄を掛けられて、強く締められてしまった。


「抵抗しないからって、殺さないわけではないぞ!」

「だからさっきの件は謝ってるにゃろ~。わし達はただの旅人にゃ~。ちょっとお話がしたいから寄っただけにゃ~」

「フンッ……そう言って、俺達を騙すつもりだろう。顔まで隠して……布を取れ!」

「「「「「……へ??」」」」」


 後ろで縄を持つ男がわしのフードを乱暴に取ると、原住民はとぼけた声を出して固まった。


「見ての通り猫だにゃ~。わしは悪い猫じゃないにゃ~。怖くないにゃ~」

「ば……」

「ば……にゃ?」

「ばばば、化け物~~~!!」

「「「「「ぎゃああぁぁ~!!」」」」」


 わしがかわい子ぶっても化け物認定。原住民は漏れなくわしのそばから離れ、集落に逃げ帰るのであったとさ。


 ……わしを化け物と呼ぶのなら逃げるな! 家族の為、戦って散らんか!!



 わしが立ち尽くしていたらリータ達が走り寄って来たので、縄を引きちぎって涙目でメイバイに抱きつく。


「また化け物って言われたにゃ~」

「こんなにかわいいのに失礼だニャー」

「ゴロゴロ~」


 メイバイに慰められ、撫でられてわしが喉を鳴らしていると、さっちゃんが謝罪して来る。


「あ~あ……シラタマちゃんのせいで、みんな引っ込んじゃったじゃない」


 いや、まったく反省していない。それどころか、わしのせいにしてきやがったので、ビキッと来た。


「どの口が言うにゃ……さっちゃんのせいでこじれたんにゃろ~~~!!」

「てへぺろ。コツン」


 わしが怒鳴っても、さっちゃんは舌をチラッと出して頭を叩き、かわい子ぶりっ子で乗り切ろうとするので、血管が切れた。


「もうここまでにゃ……」

「こ……ここまでって??」

「さっちゃんの冒険はここまでにゃ! 東の国に強制送還にゃ~~~!!」


 急転直下。さっちゃんの冒険は、二時間も経たずに終わりを告げるのであっ……


「ごめ~ん! シラタマちゃんに罪をなすり付けたら失敗が帳消しになると思ったの~。ほんの出来心だったの~。謝るから許して~」

「擦り付けるにゃよ!!」

「ごめんなさ~~~い! うわ~~~ん!!」


 あまりにも酷い言い訳を聞いてわしが怒ると、さっちゃんは号泣。わんわん泣きながら謝るので、女の涙に弱いわしは、結局は許してしまうのであったとさ。

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