352 女王にバレたにゃ~
「あ! シラタマちゃん」
「お邪魔してるわよ」
「ゴロゴロ~」
わし達が休息のため東の国王都にある我が家に入り、居間の引き戸を開くと、女王とさっちゃんと愉快な仲間達が座っていた。
「にゃんで居るにゃ……」
「ゴロゴロ~」
不法侵入を受けて、さすがのわしも、額に怒りマークが浮かんでしまった。
「なんでって言われても……遊びに来たから?」
「百歩譲って、さっちゃんはわかるにゃ。にゃんで女王まで居るにゃ~!」
「ゴロゴロ~」
「ま、まぁいいじゃない。休みだから、お忍びで遊びに来たのよ。たまには堅苦しい所じゃなくて、こういう落ち着ける所に来たくなったみたいな?」
「ゴロゴロ~」
なんじゃその言い訳は……こいつらには、王族の自覚が無いのか? 勝手に庶民の家に上がり込んでくつろぎやがって……あ! わしも王様じゃった。なら、いいのか? いや、よくない!
「まったく……わし達は疲れてるから、あんまりかまってやれないからにゃ?」
「ゴロゴロ~」
「……にゃんかさっきから、兄弟達がゴロゴロ言ってるにゃ?」
わしはゴロゴロ聞こえていたのを不思議に思ってエリザベスとルシウスを見るが、縁側に敷かれた座布団の上で、仲良く丸くなって寝ている。しかし、ゴロゴロと聞こえて来る音は、女王の膝の上っぽい……
「シラタマ~。ゴロゴロ~」
「ワンヂェン! 居たにゃ!?」
「女王様と王女様に捕まったにゃ~。ゴロゴロ~」
女王の膝に乗せられて撫でられているのは、わしのせいではないんだから、涙目で見ないで欲しい。
「シラタマちゃ~ん」
「ゴロゴロ~」
そしてさっちゃんは、わしまで撫で回さないで欲しい。
「にゃんでワンヂェンが、ここに居るにゃ? ゴロゴロ~」
「ゴロゴロ~。ジョスリーヌさんに言われて、東の国で商売している人の交代要員を連れて来たにゃ。シラタマも承諾したにゃろ~?」
あ~。そう言えば、猫の国のアンテナショップを作って、米の実演販売なんかもさせていたな。長い期間、他国で働かせるのも悪いから、期限付きで人の交代を指示したっけ。
その移送を、ワンヂェンがやりたいとうるさいから許可したんじゃった。まぁ四ヶ月に一度だから、そんなに治療院を休まなくて済むし、東の国に詳しいから悪い人事でも無かったはずじゃ。
なるほど。ワンヂェンが王都に入ったと聞いて、女王達がやって来たってわけじゃな。
「それはご苦労さんにゃ。それじゃあ、わし達は汗を流して来るにゃ~」
「あ! シラタマちゃ~ん」
「待つにゃ! ゴロゴロ~」
わしはさっちゃんの腕の中からするりと抜け出し、呼び止めるワンヂェンも無視してお風呂場に向かう。
その途中にあるダイニングでは、ヤーイーと女王の連れて来ていた侍女さんが談笑していたので、「そのまま、そのまま」と言って通り過ぎる。
そうして、リータ達と共にお風呂で汗を流す。皆、血を浴びていたので念入りに洗い、綺麗な着流しに着替えてから、わしだけ居間に顔を出す。
「シラタマちゃ~ん」
するとさっちゃんから、かまって攻撃を喰らった。
「にゃに~?」
「お母様が、ワンヂェンちゃんを独り占めするの~」
「わかったにゃ。わかったから落ち着くにゃ~」
「じゃあ抱いていい?」
「もう抱いてるにゃ~」
「あ……」
「てか、さっちゃんって、もうじき十三歳になるよにゃ?」
「そ、そうよ」
「双子王女は、その歳にはけっこう落ち着いてたと聞いてたんにゃけど……それでいいにゃ?」
「お、お母様だって、ぬいぐるみを抱いてるじゃない!」
ぬいぐるみって言いやがった! まったく失礼な奴じゃな。それに、ある部分が女王に似て来て、ちょっと気持ちいい……じゃなく、気恥ずかしい。ホント、大きくなったのう。身長の話じゃからな?
「それより、お姉様から新婚旅行に出たって聞いたけど、こんな所で何してるの?」
「ちょっと疲れたから、休息しに戻って来たんにゃ」
わしがさっちゃんに戻って来た理由を説明したら、それを聞いていたワンヂェンが驚く。
「またにゃ!?」
「ワンヂェンちゃん。またって?」
「シラタマは……」
ワンヂェンは、大々的に旅立ったわし達が、初日で戻った事をさっちゃん達にチクりやがった。
「あははは。情けないな~」
「だってにゃ~……こ~んにゃ、おっきにゃゲジゲジに追われたんにゃ。怖くて寝てられないにゃ~」
さっちゃんがわしをバカにするように笑うので、巨大な虫達に追い回された逸話で言い訳をする。さすがに気持ち悪くなったようで、皆は青い顔をして納得してくれた。
なので、綺麗な場所を発見した話をして気分を変えるが、さっちゃんとワンヂェンが連れて行けとうるさくなった。
「にゃあにゃあ、シラタマちゃ~ん?」
「にゃあにゃあ、シラタマ~?」
「にゃあにゃあ、うるさいにゃ~! 今度連れて行ってあげるから、静かにしてくれにゃ~」
「「やったにゃ~!」」
なんかさっちゃんとワンヂェンが似て来たな……。さっちゃんは人間なのに、なんで猫語になっておるんじゃ? わしのせいではないはずじゃ。
手を取って踊るさっちゃんとワンヂェンを見ていると、女王が妖しい瞳でわしを見ていてギョッとする。
「にゃ!? にゃんですか??」
「どうやって連れて行くか知りたくてね……」
「ひ、飛行機ですにゃ~」
「嘘ね……」
「嘘じゃないですにゃ~」
「さっきの話だと、すぐに黒い鳥に囲まれて危険そうじゃない? そう言えば忘れていたけど、コリスを初めて連れて来た時には、サティは会った事があるような事を言っていたわよね……」
「そ、それは……」
名警部の女王の取り調べは淡々と進み、わしの言い訳は全て論破される。それでも言い訳を続けると、標的をさっちゃんに移し、誘導尋問に引っ掛かったさっちゃんから転移魔法を知られてしまった。
「そんな便利な魔法が……」
「便利でも、魔力の消費量が半端ないから、わし以外は使えないからにゃ」
「くっ……それさえあれば、何時でも何処へでも、一瞬で行けるのに……」
「キャットトレインで移動は楽になったんにゃから、贅沢言うにゃ~」
女王には知られたくない魔法だったが、珍しい場所を発見した際には連れて行く事を約束して、秘密にしてもらった。
それからアダルトフォー達も何故か我が家に帰って来て、夕食に頃合いの時間になったのだが、女王達が帰る気がない。料理長の作った豪華なお弁当を広げて食べだす始末。
女王達をツッコムのが面倒になったわしは、露店で買って来た物と、次元倉庫に入っている黒い獣の肉を使ってバーベキュー。庭でわいわいと食べる事にしたが、スティナがからんで来た。
「シラタマちゃんって、東に向かって旅をしてるのよね?」
「そうにゃけど……にゃに?」
「なんでここに……」
「にゃ!? そうにゃ! 白い獣も黒い獣も、い~~~ぱい狩って来たにゃ!!」
「なぬ!? いっぱいって、どれだけよ?」
「白が……二十ぐらいかにゃ?」
「二十!?」
「黒で……多すぎて、正確にゃ数字は覚えてないにゃ。それでも三百は下らないにゃ」
「三百!?」
スティナからの
なので、それ以上の接触は控えて逃げようとするが、エンマ達に回り込まれてしまった。どうやら、皆、肉や毛皮が目的らしい。
エンマは商業ギルドのサブマスとして情報を欲し、フレヤは白い毛皮で服を作ってみたいと交渉し、ガウリカも白い獣の肉を安く分けてくれないかと交渉して来る。
でも、踏んだり撫でたり抱いたりするのは、やめて欲しい。リータとメイバイの目から怪光線が放たれて、わしの毛皮が焦げているからな。ホンマホンマ。
身の危険を感じたわしは、全ての要求に安請け合いして、女王の元へ逃げ出した。
「ゴロゴロ~」
当然、ここでも撫で回される。でも、リータ達の怪光線は女王オーラと中和され、わしの元へは届かない。ホンマホンマ。
ひとまずここで落ち着いて、料理長の弁当をパクパク。勝手に食べてやった。
「猫の国の東には、それほどの大物が多数いるのね……」
女王は、わしとアダルトフォーのやり取りが聞こえていたらしく、興味を持って質問して来た。
「かなり奥に入ったからにゃ。近くの危険はだいたい処理してるから、猫の国は大丈夫にゃ」
「そう……ひとつ相談があるんだけど」
「にゃに?」
「イサベレを連れて行く気はないかしら?」
「ないにゃ」
「言い方が悪かったわね。少しの間だけでいいから、旅に同行させてくれない?」
「にゃんで~??」
「イサベレは……」
女王は、東の国に百年仕えるイサベレを心配しているようだ。その百年、イサベレは長期休暇を取ろうとせず、無理矢理休みを言い渡しても、部屋で寝るだけで外出もしない。
だが、この二年、変化が現れているらしい。暇な時間が出来ると訓練に
百年の間に、イサベレが自主訓練をしている姿を見た事も聞いた事も無かった女王は、どうしたのかと聞くが、強くなりたいの一辺倒らしい。
「ふ~ん……騎士として、訓練するのはいい事じゃにゃいの?」
「何が目的であろうとそれはいいんだけど、イサベレの訓練に付き合える者がいないのよ。それならシラタマの旅に同行させれば、イサベレの目的が叶う近道になれそうじゃない?」
まぁ魔力濃度が高い森を走り回って戦っておるから、レベルアップは早いじゃろうな。
「そうだろうけどにゃ~。いちおうわしの旅の目的は、新婚旅行なんにゃけど……」
「護衛にどう!? 足を引っ張る事はないはずよ!!」
いや、リータ達のほうが現在は強いんじゃけど……わざわざ言う必要はないか。
「お願いよ~」
「挟むにゃ~! ちょっとリータ達と相談して来るから待ってろにゃ~」
こうしてハニートラップを仕掛ける女王の胸を押し返し、わしを睨んでいたリータとメイバイの元へ逃げる。
「お楽しみでしたね……」
「揉んでたニャ……」
「そんにゃに睨むにゃら、助けに来てくれにゃ~。わしの迷惑そうにゃ顔に気付いていたにゃろ~?」
「「それは……」」
さすがは女王。二人は意見できないんだから、言い訳には持って来い。にゃろめっ!
それでも
「別に嫌にゃら断ってくれにゃ。わしは反対したけど、女王がうるさいから相談に来ただけだからにゃ」
「う~ん……いいんじゃないですか?」
「にゃ、にゃんでですか?」
「だって最近、強い敵が増えて大変ニャー」
「イサベレさんなら、戦力になりますよ」
嘘じゃろ? ぜったい嫌がると思っていたのに……。これでは、女王の頼みを断る罪を
それに戦力って、なに? 新婚旅行と思っているのはわしだけなのか? イサベレなんか連れて行ったら、夜が怖すぎる。
リータ達が許可しなかったと嘘をついて断るか。にゃろめっ!
わしの不穏な考えは筒抜けで、リータとメイバイに針でチクチクと刺されてしまった。
ひとまず逃げて、女王にイサベレを連れて行く許可は降りたと説明する。
「にゃんかいいみたいにゃ」
「本当!? イサベレ!!」
「はっ!」
「にゃ!? 居たにゃ!?」
「ずっと居たけど、なにか?」
急に出て来て脅かしよって……。久し振りにドヤ顔を見たけど、イラっとするからやめてくれ。
「はぁ……ところでなんにゃけど、にゃんで急に、訓練を始めたにゃ?」
「それは……」
わしの質問に、イサベレは顔を赤くし、モジモジしながらトンでもない事を口走る。
「ダーリンとするには体力が必要」
「「にゃ……」」
そんな理由で強くなりたがっていたとは女王も考えていなかったらしく、言葉が詰まる。でも、驚くなら「にゃ……」ではないはずだ。
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