622 天候は大荒れにゃ~
キカプー族と別れたアメリカ大陸横断四日目の朝……
一時間ほど空を行くと、リータ達が白い森を発見したと騒いでいる。その外周も大きな黒い森となっていたので、強い獣が居るんじゃないかとわし以外わくわくしていた。
旅の途中なんだから時間短縮で白い森の近くに着陸しようと言ったが、どうせなら黒い森の端から攻めて白い森に入りたいとのこと。多数決に負けて、黒い森手前に着陸して先を進む。
今回は白い森が目的なので、リータ達も真っ直ぐ進んでくれた。何匹か黒い獣と遭遇したが「邪魔っ!!」と、一蹴。どうやら白い獣が居るから待ち遠しいらしい……
そうして黒い森を疾走し、走ることあっと言う間で白い森に到着。装備を整えて白い森に入ったのだが……
「「「「戦えないにゃ~~~」」」」
コリス以外から泣きが入った。
白い獣の正体は、30メートルオーバーのウサギ。耳が八本もあって、顔を一周するように付いているので、ひまわりみたいでファンシーだ。
皆はウサギ族と触れ合ったせいで戦えない。もしくは、かわいく見えるから戦えない。どちらかわからないが、ひまわりウサギはヤル気満々。
いきなり襲って来たから、ボコボコに殴って戦意を奪ってやった。皆からは「冷酷な猫」略して「ひやニャー」とコソコソ言われたけど……
でも、もう原型も留めてないんじゃけど……ところでその日本語遊び、誰に教えてもらったの? あと、わしのほうがリータ達より獣を見逃している数、多いからな??
皆に反論していたら、ひまわりウサギは復活。土下座(ただの伏せ)で謝って来たけど、「こちらこそ殴ってゴメン」と謝罪させられた。リータ達に……
和解となったらモフモフパーティ。ひまわりウサギには黒い巨大魚をプレゼント。リータ達はお昼も食べずにモフモフ。わしとコリスはがっつりモグモグ。
どうもひまわりウサギはデカイから、全身モフモフが楽しめて皆は嬉しいようだ。なんか耳に乗って「第一のコース」とか言って、モフモフに飛び込んでバタバタ泳いでいるし……
リータ達は二時間経っても飽きることなくモフモフしているので、空きっ腹にモフモフしていると酔いが早く回ると注意し、またいつでも遊びに連れて行く事を条件に出したら、ようやくひまわりウサギから離れてくれた。
食欲ないの? ほら、モフモフ酔いになったじゃろう。まだ旅の途中なんじゃから、スープだけでも飲もうね。
時すでに遅し。リータ達はモフモフ酔いで苦しんでいたので、わしは看病に精を出すのであったとさ。
リータ達の体調が戻ったら、もうひと泳ぎ……。さすがにいい加減にしろと怒ったら、反省してわしをモフモフしていた。嫉妬していると勘違いしたようだ。
とりあえず、かなり時間を食ったので戦闘機に乗るように促したが、狩りをしに森に入った事を思い出しやがった。
ダッシュで東に向かうのでわしも続き、手加減抜きで殺戮するので、何度もわしが止めて獣を逃がす。そうこうしていたら黒い森は抜けたのだが、この日はちょっとしか移動距離は稼げず就寝となった。
そして翌日、皆はモフモフ酔いが残っていたので少し時間を置いてキャットハウスを出たのだが、東の空が怪しい。
「真っ黒ですね~」
「こっちに来てるみたいニャー」
「もう降り出しそうだにゃ~」
わし達の真上は晴天なのだがドス黒い雲が近付いて来ているので、雨の降り方によってはもう一泊しないといけないかとわしは考えていた。
「アレ……違うよね?」
「ん。違う」
その時、オニヒメとイサベレが何か話し合っていたのでわしも入る。
「違うって、にゃにが違うにゃ?」
「パパ。アレは雲じゃない」
「にゃ~?」
「生き物。たぶん鳥」
鳥じゃと? あんな広範囲が真っ黒になるなんて、何億匹おるんじゃ?? そんな大群ありえんじゃろう。
はて? そんな鳥の逸話を聞いた事があるようなないような……
わしが記憶を頼りに思い出そうと頑張っていたら、騒音が近付いて来た。
「何この音……」
「すっごくうるさいニャー!」
リータとメイバが騒音に驚いたその時、わしはとある図鑑に乗っている鳥を思い出した。
「ヤ、ヤバイにゃ! 【大土屋根】にゃ~~~!!」
わしは焦りながらキャットハウスを隠せる広い屋根を取り付けていると、リータとメイバイは首を傾げる。
「急にどうしたのですか?」
「アレが何かわかったニャー?」
「そうにゃ! 旅行鳩にゃ~~~!!」
暗雲の正体は、元の世界では絶滅した鳥『旅行鳩』だ。その生体は、うん億匹の群れで行動し、エサ場を移動する。
「き、来たにゃ~~~!!」
ぺちゃべちゃぺちゃべちゃ……
「え……何か降ってますけど……」
「これってまさか……」
「うんこにゃ~~~!!」
「「「「「ええぇぇ!?」」」」」
その弊害で、大量のうんこを落とすのだ。リータとメイバイはわかっているくせに言葉を濁すので、わしが答えを言うと全員驚いた。
そうして一向に降りやまないうんこを見て時間が過ぎると、リータとメイバイはわしを見る。
「い、いつやむのですか?」
「旅行鳩が通り過ぎるのを待つしかないにゃろ」
「ちなみに、何匹いるニャー?」
「億単位にゃ。下手したら、十億とかにゃ」
「「そんなに!?」」
「旅行鳩は、繁殖にこれくらい居ないと種を維持できないらしいんにゃ」
わしの言い方に引っ掛かった二人の質問は途切れない。
「シラタマさんの世界にも居るのですか?」
「いんにゃ。絶滅したにゃ」
「え? こんなに居るのに、なんで一匹も居なくなるニャー??」
「さっきも言ったにゃろ? 数が急激に減って、種を維持できなくなったんにゃ」
「どうして種を維持できなくなったのですか?」
「人間にゃ。人間が乱獲して交配できにゃくなって、居にゃくなったんにゃ」
「こんなの全部狩るなんて無理ニャー」
「まぁそう思うだろうにゃ。ちょっと見てるにゃ」
わしはそう言うと、屋根の外に土魔法で丸い塊を作り、凄い速さで浮上させた。すると、バタバタっと何匹もの旅行鳩が地面に落ちたのであった。
「「うそ……」」
「見ての通り、下手にゃ鉄砲でも当たるんにゃ~」
「「鉄砲??」」
「あ、リータ達は知らなかったにゃ。鉄砲はあとで説明するにゃ。まぁ上に向けて石でも投げれば、誰でも食料に困らないって感じにゃ。人間も、こんにゃに多く居るから居にゃくなるにゃんてこれっぽっちも思っていにゃかったから、気付いた時には手遅れになったんにゃ」
「なるほどです」
「一説には、美味しいってのが、旅行鳩の絶滅に繋がったと言われてもいるんにゃ~」
「おいしいの! たべる~!!」
「にゃはは。せっかくにゃに、ちょっと食べてみようにゃ」
コリスが食べ物に反応したので、人数分の旅行鳩を落として調理に取り掛かる。と言っても、わしも屋根から出てうんこの雨に
その旅行鳩はちょっとばっちいので、水の入った桶にに入れてシェイク。手も触れずに綺麗に出来るとは、魔法様々だ。
あとは皆で解体して、旅行鳩の丸焼き。絶滅種を食べる事は少し悪い気がするが、こんな贅沢は平行世界の醍醐味。皆で丸かぶりしてやった。
「美味しいとは思いますけど、普通の鶏肉ですね」
「う~ん……ちょっとパサついてないかニャー? 身も少ないニャー」
「星みっちゅ!」
高級肉に慣れたリータとメイバイは、辛口判定。コリスは超甘口。イサベレとオニヒメは可もなく不可もなく食べている。
うぅぅむ……期待感が勝ってわしも微妙。街で売っている鶏肉よりはマシで、日本産鶏肉のほうがジューシーでうまい。まぁ開拓時代の人からすれば、ごちそうなんじゃろう。
皆でペロリと食べると、またリータから質問がやって来る。
「そう言えば、これが試練なんでしょうか?」
「にゃ~?」
「ほら、シャーマンのお婆さんに言われていたじゃない?」
「あ~……わし個人に言ってたから違うにゃろ。ま、うんこの雨は気持ち悪いから、試練っちゃ試練かもにゃ~。にゃはは…は……」
わしがすぐに笑いを止めると、メイバイが顔を覗き込む。
「どうしたニャー?」
「これって……西に向かってるよにゃ?」
「それがどうしたニャー?」
「やられたにゃ……あの部族に食料やる必要なかったにゃ……」
「「「「……あっ!!」」」」
「あんのクソババア~~~!!」
そう。これだけ大量の旅行鳩がキカプー族の集落に向かっているのだ。大量の食料が降って来ると、シャーマンの老婆なら確実に見えていたはず。井戸を作る際、頑丈な蓋を催促されたから確実だ。
この時、わしは老婆のしたたかさにやられたと思って、帰りには必ず苦情をしてやろうと心に決めたのであった。
わしがご乱心で「にゃ~にゃ~」愚痴っていても、旅行鳩の大群は途切れない。なので、ここで一泊するしかないと言いたいところだが、羽音とうんこの音で寝てられない。
仕方がないので一時撤退。猫の国に帰ると双子王女からグチグチ言われ兼ねないので、日ノ本の九州に転移。しかし昼夜逆転なので、夜の間は以前調べた秘湯巡りをして英気を養える。
ただ、朝方チェックインした旅館では、リータ達がわしを女湯に連れ込むので、化粧したり女物の着物を着たりしたけど、よくこれでバレないよな~?
「そりゃ~……ねえ?」
「「「「ねえ?」」」」
理由はぬいぐるみに見えるから性別がわからないから! これでいいじゃろ!!
リータ達の言いたい事ぐらい、わしでもわかる。でも、キツネやタヌキは女湯覗き放題じゃね? あ、あいつらの好みは、キツネやタヌキか……どうせ恥部は毛で隠れているんじゃから、同姓でもいけんじゃね??
心配事や不安な事、疑問が次々にわしに襲い掛かるが一日の休暇を過ごし、アメリカ時間の朝に、設置した屋根のあるミズーリ州最東に転移。
「まだ飛んでるにゃ……」
「本当ですね……」
「出発できないニャー!」
アメリカ横断六日目も、天候はうんこで大荒れ。旅行鳩の数の多さに、わし達は「自然って凄いね」って言うだけであった……
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