623 追う者と追われる者にゃ~


 アメリカ横断六日目も旅行鳩のせいで動けなかったので、ウサギの街で休息を取り、七日目の朝に屋根のあるミズーリ州最東に戻ったら、天気は快晴。

 しかし鼻には激臭。旅行鳩の残した物が悪臭を放っていたので、さっさと戦闘機に乗って飛び立った。

 今までは真東に飛んでいたが、旅行鳩の飛行ルートに降りる気がしなかったので、南か北にずらす案を出したら北に決定。どちらでもよかったのだが、皆はサンダーバードに近いほうを取ったようだ。


 しばし北東に飛び、低空飛行で地面を確認しつつ、旅行鳩の痕跡が見付からなくなったら、真東に向けて旅は続く。


「やっと海が見えて来たにゃ~」

「本当ですね……」

「本当にあったんニャー……」

「まさかわしの地球儀を疑ってたにゃ!?」


 そのまさか。リータ達が狩りばっかりするから移動速度が遅かっただけなのにそこは棚に上げ、なかなか海に着かないから、皆はこのまま永遠に陸が続いていると思っていたようだ。


「そこも疑ってたにゃ!?」


 まさかのまさか。いまだに地球が丸いと信じていなかったらしい。


 まぁいい。この旅が終わったら、東海岸から猫の国に帰ってやるんじゃもん! 地球を一周するまでの辛抱じゃ。目にもの見せてやる!!


 わしがメラメラ燃えていたら、コリスがパクっと消火。どうやらランチの時間のようだ。でも、前が見えないんじゃけど……

 わしの頭をモグモグしているコリスをリータに引き離してもらったら、ケンタッキー州東部の適当な草原に着陸。草食獣を見ながらのランチだ。


「のどかですね~」

「風が気持ちいいニャー」

「絶好のピクニック日和にゃ~」


 テーブル席でもいいのだが、ピクニックといえばレジャーシート。遮る物の無い草原のド真ん中で食べるサンドイッチやおにぎりは格別だ。

 美味しく食べ、お腹いっぱいになるとわしはゴロン。皆もそれに釣られて、ゴゴゴゴ……何やらただならぬ気配を放ちながら装備を整えている。


「あの~……にゃにをしてますにゃ?」

「え? ひと狩り行こうかと……」

「絶好の狩場ニャー」

「この平穏を乱さにゃいでくださいにゃ~」


 ハンターならば、目の前に獲物が居るのだから正しい行為なのだろう。しかし、この平和な空間を、血で血を洗う戦国時代にしないで欲しい。いや、蹂躙じゅうりんという殺戮になるからマジでやめて欲しい。

 わしは必死に「そっとしてあげてくれ」とスリスリ。なんとか止められたけど、めっちゃモフられた。



「何か向かって来てる」


 しばし食休みでゴロゴロしていたら、イサベレとオニヒメが体を起こして東を指差した。


「にゃ? 獣かにゃ??」

「違う」

「パパ。すっごく嫌な感じがするよ」


 なんじゃ? 二人とも険しい顔をしよって……探知魔法で確認してやるか。


「にゃ、にゃんであんにゃ物がここに……」

「どうかしたのですか?」


 わしが探知魔法の反応に驚愕の表情で固まると、リータから質問が来たので頭を振って気を取り直す。


「車ににゃん人か追われているにゃ! もう見えるにゃ!!」

「車??」

「本当ニャー!!」


 わしの説明にリータは首を傾げるが、視力のいいメイバイは姿を確認できたようだ。わし達は何が起こっているかいまいちわかっていないが、片付けをして装備を整える。

 その頃には、六頭の馬に乗った人が近付いているのが皆にも見え、その後ろからジープやトラックのような物が追って来ている。


「うそ……見たことのない車があります」

「それより、追われている人が居るけど、どっちが悪者なんだろうニャー?」

「たしかににゃ。盗賊に味方するのも悪いしにゃ~」


 わし達が話し合っていると「パラパラ」っと弾けるような音が鳴り、一番後ろを走る馬に乗っていた人が落ちた。


 い、いまの音は……


 その音に、わしはドクンッと心臓が跳ねる。そして双眼鏡で覗いた先にあるジープから身を乗り出すカーキ色の服の男を見て、膝が震えて立ってられず、尻餅をついた。


「シラタマさん? どうしたのですか??」

「すっごい汗ニャー!」

「うっうぅぅ……」


 リータとメイバイが心配してくれるが、わしは震えてうずくまるしか出来ない。耳を塞いでも弾けるような音がハッキリと聞こえ、リータ達が何度も声を掛けてくれてもその声はわしには届かず、震え続けるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「どうする?」


 震えるシラタマを見ていたイサベレであったが、二人目も馬から落ちた姿を見てリータに意見を求めた。


「シラタマさんがこんな状態じゃ……」

「馬に乗っている人は、たぶんいい人。後ろの奴等は嫌な感じがする。助けるなら急いだほうがいい」


 イサベレの言葉に、リータは決断する。


「シラタマさんも心配ですけど、人の命のほうが最重要です。行きましょう!」

「「「「にゃっ!」」」」


 リータはシラタマにすぐに戻る旨を伝えると、全員を引き連れて走り出した。そうして馬に向かって一直線に走っていたら、馬はリータ達を避けて通り過ぎて行った。


「何か来る! リータ! 盾を構えて!!」

「はい! みんな後ろについて!!」


 イサベレの指示で先頭のリータが止まって大盾を前に構えると、皆は一列に並んで数秒待つ。コリスはちょっとはみ出してるけど……


 パラパラパラ……カンカンカン……


 弾ける音に続き、金属音が鳴ると、リータはイサベレを見る。


「攻撃魔法か何かでしょうか?」

「たぶん……鉄砲」

「こないだシラタマ殿が説明してくれた、鉄の玉が出る筒ニャー?」

「そう。当たったら、ぬいぐるみに穴が開いた。たぶん当たらないほうがいいと思う」

「となると……」


 リータ達が大盾に隠れて話し合っていると、ジープとトラックが「プシュー」っと音を鳴らして止まり、軍服を着た男達が降りて来た。

 その音を聞いたリータは大盾から少し顔を出し、人数を確認する。


「男が五。手には黒くて長い物。これが鉄砲でしょう。車の中は確認できませんが、何人か乗っているはずです」

「ん。五人じゃきかない」


 リータからの完結な報告に、イサベレが補足する。そうしていると、男達からの大声が聞こえて来た。


「おいおいおい。こいつら盾なんて原始的なモノ使ってるぞ。ぎゃはは」

「知能が低い部族じゃ仕方がないだろ。それより、こいつらはさっきの奴の仲間か?」

「どっちでもいいだろ。どうせ反撃したから殺したと報告するんだからな」

「ちげ~ねえ。久し振りの狩りだもんな」

「「「「「ぎゃはははは」」」」」


 男達が笑っている間、リータ達は驚いていた。


「英語……ですよね?」

「うんニャ……酷いことを言ってたニャ……」

「言葉は通じるみたいですし、酷いことはやめるように言ってみましょうか?」


 リータの質問に、メイバイは怒りが湧き上がる。


「言葉は一緒だけど、あんな奴に何を言っても通じないニャ……まるで奴隷の主人みたいニャ……」

「メイバイさん。抑えてください。ひとまず取り押さえて、シラタマさんの意見を聞きましょう」

「……わかったニャ」

「みんなも手加減してくださいね」


 皆が頷くとリータはまた大盾から顔を少し出して、西洋風の顔立ちの男達に声を掛ける。


「あなた達は何者ですか!」


 同じ言葉で声を掛けられた男達は、一瞬キョトンとしてから話し合う。


「なんだ? 逃げ出した奴隷か??」

「そいつは重罪だな。撃ち殺されても文句は言えねえな」

「まぁそうだけど、女の声だったぞ? 楽しんでからでいいだろう」

「うっし、生け捕り決定!」

「「「「「ぎゃはははは」」」」」


 猫パーティ全員が嫌悪感を抱いた瞬間、リータは指示を出す。


「やっちゃってください!」

「「「「にゃ~~~!!」」」」


 リータの声に反応した、メイバイ、コリス、イサベレは大盾から飛び出す。


「え? リス?? はやっ……足を狙え!!」


 最後に飛び出したコリスに少し驚いたが、男達はサブマシンガンを構えてパラパラと撃ち続ける。しかし、三人にかする事もない。


「前だ! 盾が迫っているぞ!!」


 メイバイ達が動き回る中、リータがダッシュで突進。二人の男が撃ち続けても、白魔鉱の大盾にはヒビすら入らない。


「避けろ~~~!!」


 リータの突進で一人の男は撥ねられてしまい、四人の男は散り散りに飛び、そこを狙われる。


「【風玉】にゃ~!」


 オニヒメの風の玉を喰らう男、メイバイに蹴り飛ばされて転がる男、イサベレに踏まれて血を吐く男、コリスの尻尾にベチコーンッと叩き潰される男。


 一瞬にして、五人の男は意識を失うのであった。



「なんだか拍子抜けですね」


 オニヒメが倒した男の元へ全員が男達を引きずって集まると、リータは思っている事を口にした。


「たぶんこの武器が強いだけで、男はザコ」


 オニヒメがサブマシンガンを持って答える中、イサベレは警戒を解かない。


「いまの内に後ろ手に縛ったほうがいい。腰の物も嫌な感じがする」

「本当だね。私が縛る。ママ達はあっちの処理して」

「わかったわ。行きましょう」

「待って! リータ、盾! 強いのが来る!!」

「はい!」


 オニヒメに言われてジープの元へ行こうとしたが、イサベレの指示が来たのでリータは少し前に出て、大盾を力強く構えた。


 ドォォーーーン!


 リータが大盾を構え、何かが接触した瞬間、爆発が起こるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 その数十秒前のこと……


「な、なんだあの化け物どもは……」


 ジープの運転席に残っていた男は、サブマシンガンを物ともしないリータ達に恐怖を抱いていた。


「くっ……くそ!」


 しかし、仲間が倒れたということは自分にも危険が迫っていること。後部座席にバタバタと移って、置いてあったロケットランチャーを持ってジープから飛び降りた。


「死ね~~~!!」


 そして、ロケットランチャーを肩に担いだ男は、リータ達の立つ場所に向けて引き金を引いたのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「ケホッ……メイバイさん! イサベレさん!」

「わかったニャー!」

「ん!」


 ロケット弾を受けたリータは、煙を吸って咳き込んだだけ。メイバイとイサベレは左右から飛び出してジグザグに駆ける。ただ、ロケットランチャーは単発なのでやる意味はない。

 男はメイバイとイサベレに翻弄されて、ピストルを構える間もなく、あっけなく殴られて意識を失った。


 そこに遅れて、リータとコリスが合流する。


「さっきのは強くて驚きました。この人は私が処理しておきます。皆さんは、まだ車が一台残っているので制圧して来てください」


 リータが指示を出すと、三人はトラックに向かおうと見るが、その時、後部に乗っていた鉄の塊が大きな音を出して浮き上がった。


「これじゃあ私は無理ニャー」


 浮き上がった物の正体はヘリコプター。メイバイ達は逃げるのかと考えたが、こちらに迫って来た。


「メイバイさんは車に向かってください。イサベレさんとコリスちゃんで上の物に。気を付けてくださいね」

「「「にゃっ!」」」


 リータが的確に割り振ると、三人は各々の仕事に向かうのであった。

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