268 農作業にゃ~


 コリスを街に連れて帰ると皆に驚かれ、説明に骨を折る事となった。

 街の住人は伝説の厄災リスが現れて驚いていたみたいだが、白牛シユウよりかわいいので、すぐに受け入れてくれた。


「猫が立って喋っているんだから、いまさらよね~」


 とか、小声が聞こえて来たが、無視してやった。


 問題はリータとメイバイだ。ペットお断りと怒っている。


「違います!」


 なにやら心を読んで反論されてしまった。


「二人に迷惑かけないように、ちゃんと世話するからお願いにゃ~」

「そんな事で怒ってないニャー!」

「そうにゃの?」

「コリスちゃんを連れて来たって事は、結婚したのですか!」

「私達がいるのにひどいニャー!」

「あ、そんにゃ話があったにゃ~。今回は別件にゃ。勉強の一環で、巣から連れ出して欲しいと頼まれたにゃ」

「じゃあ、結婚は?」

「う~ん……まだ保留かにゃ~?」

「「よかった~」」

「それじゃあ、コリスの歓迎会をしようにゃ。会議テーブルで、ささやかにやるにゃ~」

「「はい(ニャー)!」」


 リータ達が落ち着くと、肉を食べながら主要メンバーに紹介していく。当然、皆、驚くが、コリスは初めて食べる人間の食事にご満悦で、終始にこやかだ。頬袋が膨らんでいるからそう見えるだけかもしれないが……

 その姿に主要メンバーは警戒を解き、次々とコリスに抱きつく。ちびっこノエミと、ぬいぐるみワンヂェンは埋もれていた。


 歓迎会が終わると、シェルターのお風呂でコリスを洗う。わしとリータとメイバイで、三人がかりだ。さっそく一人で世話する約束を破ってしまったが、二人も嬉しそうに洗っているから大丈夫だろう。


 お風呂から上がるとわし達の仮住まいに連れて行く。コリスはベッドに飛び込むと、柔らかい感触が気に入ったのか、すぐに眠りに落ちた。

 縦にも横にもデカイ2メートル以上のリスに、ベッドを独占されてしまったわし達は、どうやって寝ようかいろいろ試してみたが、寝返りで潰されそうだ。

 わし一人なら、コリスに乗って安眠できそうだが二人が居るので、今日は車で寝る事となった。



 翌朝……わしはコリスを叩き起こす。


 いつもはもっと寝ていた? これからは、ここの生活時間に合わせてもらう! まだ眠い? わ! わしをベッドに連れ込むな~。むにゃむにゃ~。


 結局、わしまでリータとメイバイに叩き起こされた。本当に叩き起こされた。ちなみにコリスは、肉の匂いで釣って起こしていた。わしもそれぐらい優しく起こしてくれてもいいのに……


 朝食が終わると、住人を全て集めて話を聞かす。


『え~。みにゃさん。おはようございますにゃ。この五日間、お疲れ様にゃ~』


 王のわしが下手したてに出た挨拶がおかしかったのか、住人はざわめき出す。


『あ~。変かにゃ? まぁ他の王様はこんにゃ口調じゃにゃいか。でも、少し静かにしてくれにゃ~』


 皆が静かになると、わしは言葉を続ける。


『さて、今日集まってもらったのは、全員でジャガイモの収穫と、植える作業をしてもらいたいにゃ。あ、まだ騒がないでにゃ。数日前に植えたジャガイモが、もう育ったのが不思議なんだにゃ。それはあとで説明するから、仕事に取り掛かってくれにゃ。それでは、始めにゃ~!』

「「「「「にゃ~~~!」」」」」

「「「「「にゃ~~~?」」」」」


 わしの開始の合図に、リータ達主要メンバーが気の抜けた掛け声をあげると、住人も疑問の掛け声で返す。わしは恥ずかしいので、コリスを連れてそそくさと内壁の外へ走る。

 内壁の外に出ると、並んで出て来る住人を、出て来た順番に人数を区切って班分けし、農作業組をリーダーにして畑に向かわせる。ここでリーダー達が、早くジャガイモが育った理由を教えていた。


 わしの仕事はコリスに乗って、作業を監督する役だ。大人数で作業をしているので、収穫するのはあっと言う間に終わりそうだ。

 なので、平行して種芋を作ってもらう作業員を引っこ抜く。種芋がバケツに何個も溜まると、今度は植える作業員を引っこ抜く。

 最後の収穫が終わると、三分の一を種芋作業に、残りを植える作業にあてる。植える作業は時間が掛かるので、この間に暇そうにしていたコリスと遊ぶ。

 と言っても、魔法の勉強だ。コリスは魔力が多くあるのに、風魔法しか使えないのでもったいない。土魔法と水魔法を教えてあげる。


 難しい説明はコリスにはつまらないだろうから、言霊で教える。新しい魔法を簡単に使えて、今日もコリスはご機嫌だ。

 覚えたばかりの魔法で、さっそく穴を掘って水で満たしてもらう。だが、何度も練習したので、魔力が底を尽きそうだったのでストップ。

 今日はもう休ませようとしたが、大勢の人間が何やら動いている姿を見るのが新鮮なのか、楽しそうに眺めている。


 コリスはおとなしく作業を見ているので、わしは少しそばを離れ、ヨキと一緒に作業を始める。わしの作業は、巨象の血で栄養水作り。

 今回は十六倍。種芋に五倍濃度の水を使ったので、おそらく十日より早い、七日前後で収穫出来るはずだ。

 しかし、慎重に作業するので人数が足りない。ここは信頼できる主要メンバーも入れて、作業のスピードアップを図る。


 そうこうしていると、太陽が真上に来たのでお昼休憩。今日のメニューは簡単に食べられる干し肉だ。

 自分の街で、自分の手で作った干し肉だ。不味いわけがない。元々困窮者の集まりだから、誰一人文句は言って来ない。だが、主要メンバーから文句が来た。


 肉ばっかり? 野菜が食べたい? 栄養が足りない? う~ん。今度、売り込んで来ま~す!



 昼食が終わると、作業の続行。栄養水がそこそこ完成したら、水撒き班を結成し、種芋の埋まった畑から水を撒いてもらう。

 わしも参加できれば早く終わるのだが、栄養水作りで手が回らない。ここはノエミ先生の出番。頼みます!


 ノエミを先生と呼んだら、嬉しそうに水撒きに行ってくれた。案外チョロイのう。


 ノエミが水撒き班に入ってくれた事でスピードアップ出来たが、子供達にまじってしまい、どこに行ったかわからなくなった。捜すつもりもないので、栄養水作りに精を出す。


 そうこうしてると種芋班の作業が終わり、種蒔き班に加えるが、こちらも終わりが近付く。次の作業を模索しないといけない。

 水と血を大量に出して、ここは主要メンバーに任せると、わしは牛舎まで走り、シユウと黒牛に仕事をお願いする。


 牛を連れて戻って来ると種蒔き班が何組か終わっていたので、その班と牛に、まだ耕していない畑を耕してもらう。

 ここは牛担当と農作業担当に丸投げだ。人数がいるので、畑も次々と耕かされるが、そんなに張り切らないでいいよ? 急ぎじゃないからね? 疲れたら交代してね?


 わしが止めても、頑張って耕してくれる。どうやら、やればやるほど食べ物が増えると思っているようだ。

 このままでは倒れてしまう。明日も明後日も毎日仕事があるので、次の日を考えた作業を提案する。

 疲れないように二班に分け、砂時計を渡して、時間で交代して耕してもらう。作業事態は遅れるが、皆の体のほうが大事だ。


 それが終わればコリスにもたれて、皆の働く姿を見ながらいっぷく。皆、笑顔で作業をしている姿は嬉しくなってしまう。

 だが、笑顔のリータとメイバイに首根っこを掴まれ、強制労働に参加させられる。サボってませんって~。


「まったくシラタマ殿は……」

「ちょっと座っただけにゃ~」

「もういいですよ。栄養水は、たぶん全部できたと思うのですが、皆さんにやってもらいますか?」

「あ~……もう日が暮れそうだし、あとはわしがやるにゃ。片付けをさせて街のほうに移動してくれにゃ」

「はい」

「わかったニャー」


 リータ達に指示を出すと、ヨキを呼び寄せて水撒きの終わっていない区画を教えてもらう。自分は水撒きをしていないのに、終わっていない場所を把握しているとは、よく周りを見えている。さすがリーダーだ。



 皆の撤収作業を見ながら、終わっていない区画にコリスと歩く。そして到着すると、遠くにある栄養水を球体にして浮かせる。

 フヨフヨと大きな水の玉が区画の真ん中に来ると、噴水のように上空に吹き出させ、その水を風魔法で散らす。

 水は雨のように畑に降り注ぎ、満遍まんべんなく撒けたみたいだ。


 ひと仕事終えたわしは、街の方向に振り返る。すると、全員が歩みを止め、わしを見ながら感嘆の声をあげていた。

 皆、わしを見ているのかと思ったが、視線はわしの上。遥か後方を見ていた。不思議に思ったわしとコリスは振り返り、同時に感嘆の声をあげる。


「にゃ~」

「わぁ~~~! キレ~イ」

「そうじゃな」

「モフモフ~。あれはなに?」

「虹じゃ」

「にじ~?」

「雨が降ったあとに、太陽が出たら見えるんじゃ。今回はわしの魔法のせいじゃな」

「モフモフすごい!」


 コリスが大袈裟に褒めてくれるので、わしは笑って答える。


「あはは。コリスもいっぱい勉強すれば、出来るようになるさ」

「う~ん……じゃあ、がんばる!」

「おう! その意気じゃ」

「あ! きえちゃった……」

「さあ。みんな待っているし、早く帰ろう」

「うん!」



 今日もコリスと追いかけっこをしながら家路に就く。と言っても、わしの家は仮住まい。なので、街自体が大きなわしの家だ。

 家に入ると、料理を作るズーウェイ達の姿が目には入り、笑顔で食事を食べる大人や子供たち。猫耳族のみんなも笑っている。


 街を作って、まだたったの五日。笑顔があふれる街になってきた。


 わしはこの日、街作りの成功を確信して眠りに就くのであった。

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