725 クリスマスイブにゃ~


 時の賢者の手記の編纂や魔法書解読に多大な時間を使っていたら、もう年の瀬。12月24日となった。


『さあ、アメリヤ式のお祭り……クリスマスイベントの始まりよ! カウントダウン行くよ~? ファイブ! フォー!』

「「「「「ファイブ! フォー!」」」」」


 何故かサンタドレスを着たべティの音頭で始まるイベント。ていうか、この数日大変だったのだ。


 べティの「クリスマスパーティーはやってないの?」発言からわしに質問が集中したので、キリストの聖誕祭だから家族で静かに過ごす日だと説明した。

 なのにべティが「日本式のクリスマスがした~い!」って、ベラベラ喋ったものだから、皆もヤル気満々になってしまった。 

 わしとしては、行事を増やすと忙しくなるからなんとしても阻止をしたかったのだが、双子王女も猫の街の利益になるとべティにそそのかされて、この女王誕生祭間近のクソ忙しい時期にやる事になったのだ。


 しかし、わしは何をどうしていいかわからない……


「とぼけるなクソジジイ!」

「誰がクソジジイにゃ~~~!!」


 べティはわしの心を読んで愚弄するので「にゃ~にゃ~」喧嘩。


 ぶっちゃけ、トラックを借りてケーキやプレゼントを積み込み、恵まれない子供達の施設に配っていたから、クリスマスはほとんど運転手で終わっていたので、わしは楽しみ方を知らないのだ。


 いや、アベックがイルミネーションやらツリーやらを見てイチャイチャするイベントってぐらいは知っておるぞ? ただ、流行り始めた頃にはけっこうな歳じゃったから、何が楽しいかさっぱりわからなかったのじゃ。


「これだから大正生まれは……」

「べティだって大正生まれにゃろ~~~!!」


 またべティが馬鹿にするので「にゃ~にゃ~」喧嘩。そんな事をしていたらリータ達が間に入り、べティに必要な物を聞いて、わしにイルミネーション製作依頼が入った。

 急な事なので、イルミネーションは全てわし担当。リータ達は猫の街で暇な人を集めて裁縫担当。べティは料理班を集めてクリスマスメニュー担当だ。


 ケラハー博士とつゆ工場長に相談しながら急遽作ったLED工場にわしはこもり、「にゃ~にゃ~」愚痴りながらイルミネーション用のLED電飾を大量生産。

 そうしていたらサンタワンピースを来たコリスがやって来て、わしの着流しをいきなり剥ぎ取り、トナカイの角が付いたカチューシャと赤鼻を付けられた。


 トナカイのように馬車馬の如く働けということらしい……


 さすがに全裸は恥ずかしいのでコリスに文句を言ったところ、着ぐるみを作る余裕がないので我慢しろとリータ達が言っていたとのこと。

 それならば、サンタをやらせてくれたら解決するのだが、コリスがサンタをやりたいみたいなので致し方ない。


 その姿で街の外に出て、適当なモミの木をコリスと一緒に「えっさほいさ」と運び、広場に埋めてLED電飾をいい感じに巻き付ける。一番上には、光り輝くお星様も忘れず取り付けた。

 よっつの大通りもイルミネーションの通り抜けが出来るように、LED電飾を巻き付けたアーチを二人で作っていたら、なんかパシャパシャ写真を撮られていた。


 猫がトナカイにふんして、サンタドレスを着た妖精を乗せてるのがかわいいらしい……


 わしとしては、正に裸の王様だから恥ずかしいのだが、皆はキャーキャー言ってるところを見ると透明な着ぐるみが見えているらしい。コリスも好評なので、人が集まって来てわし達の作業を邪魔する。


 その時、救世主が現れた。


「「「「「あわてんぼうのサンタクロース~♪」」」」」


 ウサギ族だ。なんかサンタ姿のウサギが乗った荷車を、わしと同じく全裸でトナカイカチューシャを付けた十人ぐらいのウサギが引っ張って来たのだ。歌はたぶんベティが教えたと思われる。


 その歌うウサギ族を見送っていたら、サンタドレスを着たリータ達が現れたので何事かと聞くと、作業が遅れないように手を打ってくれていたようだ。

 やはり、わしを馬車馬のように働かせたいみたいだ。トナカイなのに……


 キャットタワーもLED電飾で装飾したら、クリスマスイブの夜にギリセーフ。

 やっと終わったと庭で寝転んでいたら、メイバイに首根っこを掴まれてモミの木の前に連れて行かれた。


 そこには、サンタドレスを着た女性陣。普通のサンタ姿の役場職員とウサギと、ウサギonトナカイカチューシャ。


 べティが率先して司会をし、カウントダウンが終わろうとしている。


『ツー! ワ~ン……』

「「「「「ツー! ワ~ン……」」」」」

『点灯!!』

「「「「「わああああ……」」」」」

「「「「「おおおお……」」」」」


 べティの合図でイルミネーションに電気が流れ、猫の街はパッと明るくなる。そしてイルミネーションは不規則に点滅し、皆の顔を照らした。


「メリークリスマ~ス! ……はい。最後はシラタマ君に譲ってあげるわ」

「にゃ!? わし、にゃんも考えてないにゃ~」

「あたしだって、どうやって締めていいかわからないんだも~ん」


 べティからの無茶振りを押し返していたら、双子王女からも王様の仕事と言われ、渋々音声拡張魔道具を握って前に出る。


『え~。猫の街が作られたのは、およそ三年前だったにゃ。ほとんどの人はまだそんなに時間が経っていないから、ここがどんな場所だったか覚えているはずにゃ。ちょっと思い出して、知らない人に教えてあげてくれにゃ』


 わしが数分、間を空けると、住人は目を閉じて猫の街初期の姿を思い出し、それを教えてもらう住人達のガヤガヤとした声が聞こえて来た。


『あの時は、ボロボロの家しか無かったにゃ~。あの時は、食べ物にゃんて肉とジャガイモしか無かったにゃ~』


 わしも懐かしむように喋ると、住人はウンウン頷き、涙ぐむ人も居る。


『それがどうにゃ? 家も綺麗になったし、食べ物もいっぱいにゃ。新しい仲間もいっぱい増えたにゃ~。そして今日は、空のお星様も遊びに来てくれたにゃ。綺麗にゃろ~??』


 キラキラと点滅するイルミネーションを見回す住人は、みんな笑顔だ。


『これもそれも、猫の街の……いや、国民のみにゃさんのおかげにゃ。ありがとうございにゃす』


 わしが頭を下げると、そこかしこから感謝の言葉が聞こえて来た。


『にゃはは。ちょっと真面目すぎたかにゃ? 真面目にゃ話はここまでにゃ。てか、クリスマスなんて言われて何をしていいかわからない人が大多数だと思うにゃ。ただ、綺麗な景色を見て、美味しい物を食べて、隣の人と語り合ってくれたらいいだけにゃ。みんにゃさらに仲良くなって、猫の国を盛り上げてくれにゃ~!』

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

『メリークリスマスにゃ~!!』


 こうして拍手が起こり、住人は光の道を行ったり来たりしながら、出店でフライドチキンやショートケーキを食べて楽しそうに語り合うのであった。



 わし達は一時撤退。ツリーがよく見えるキャットタワー城壁の屋上にて、べティ作クリスマス料理を楽しむ。

 七面鳥の丸焼きやローストビーフ、シチュー等々。ブッシュドノエルまで食べたら、わしのお腹は真ん丸だ。


「てか、いつの間にさっちゃん達は来てたにゃ??」

「こんなに面白そうなイベントやってるなら、見逃すわけないでしょ~」


 わしとしては、ツッコミが遅いことをツッコンで欲しかったのだが、さっちゃんは遊びに来たかったとしか言わない……


「てか、三ツ鳥居を使われると、わし達が東の国に行けないんにゃけど……」

「お金は払うから、レンタル三ツ鳥居はツケといて」


 こんな女王誕生祭ギリギリに三ツ鳥居の魔力を全て使われては、わし達が困る。女王は金で解決できると決め付けて、わしの苦情は聞いてくれない。これ、わしが補充しないと間に合わないのに……


 サンタドレス姿の二人にわしが「にゃ~にゃ~」愚痴っていたら、さっちゃんは話を変えやがる。


「ところでさあ~……こんな面白いこと出来るのに、なんで黙ってたのよ?」

「にゃんでって……キルスト教のお祭りだからにゃ……」

「うそ! 元の世界の祭りでしょ!!」

「まぁそうとも言うんにゃけど、嘘でもないんにゃ~」


 勝手にやって来て問い詰めて来るさっちゃんには、元の世界とこの世界のクリスマスを説明し、発電施設とLED技術が最近手に入ったから実現できたと伝えた。

 いちおうそれで納得はしてくれたが、女王からの発注も来てしまった。


「今年はもう無理だから、来年はお願いね?」

「誕生祭でやるにゃ~? どんだけの規模で考えてるにゃ~??」

「この10倍……いえ、30倍ぐらい??」

「縮小を要求しますにゃ~」


 またわしが忙しくなりそうだから、イルミネーションは今日使っている物でなんとかして欲しいが、一年も時間があるなら楽勝だとリータとメイバイが快く受けていた。

 まぁイルミネーション用のLED電飾工場を稼働して、誰か装飾が上手い人を見付けたら、わしの労力は必要ない。パーティ部隊的な物を作れば、各国で贔屓ひいきにしてくれるかもしれない。


 わしは悪い顔をしながら金勘定をし、さっちゃん達に撫でられていたらサンタ姿で立派な白い付けヒゲまでした金髪の若い男が近付いて来た。


「女王陛下、お久し振りで御座います」

「ええ。少しはまともな王になれたのかしら?」

「ははは。お厳しい」


 このかしこまって女王と話をしているイケメンの兄ちゃんは、アメリヤ国王ジョージ13世。女王誕生祭に出席する為と、猫の国を見る為に前乗りしてやって来たのだ。


「ところでシラタマさんって、本当に国王なんでしょうか? 全裸で職人みたいな事をしていたのですが……」

「フフフ。また疑ってたのね。フフフフフ」

「笑ってないでちゃんと説明してにゃ~」


 もちろん、わしがイルミネーションの設置作業をしていた事はバッチリ見られたので、疑いが生まれている。それにまだトナカイだから、こんな姿で真面目な事を言っていたせいで、女王の笑いが皆に伝染してしまった。

 しばし思い出し笑いをする皆に撫でられながらジョージの相手をしていたら、さっちゃんが復活しやがった。


「それで~……あのおっきいモフモフはいつ紹介してくれるの~?」

「噛まれる心配とかしにゃいの??」


 オオカミ族も遊びに来ていたので、当然さっちゃんは人狼に興味津々。猫の街に来た初日は、ウサギ族が逃げ惑うパニックになったのに、この王女様は……

 ここはわしよりリータとメイバイが適任なので、人狼を撫でたい人は連れて行ってもらった。


「しかし、また凄い技術を作り出したな」


 ようやく皆の魔の手が離れたらサンタの服を着たちびっこ天皇が近付いて来た。

 ちなみに日ノ本からの出席者も前乗りしており、今回は玉藻が残ってちびっこ天皇に化けて祭事を行っているので、お供はお玉と秀忠。どちらもサンタバージョンだ。


「アメリヤ王国にあった技術を使っただけにゃ。まさか陛下も欲しいにゃ~?」

「花火に代わる夜の娯楽に使えるから、是非ともやってみたい。民も喜んでくれそうだ」

「まぁまた暇が出来たら相手してやるにゃ~」

「どうせ暇だろ?」

「今日までのわしを見てにゃかったのか~!!」


 ぶっちゃけ、今日はこれから忙しい。商談なんてしている暇はないのだ~!


 わしはまた住人の前に立ち、「いい子にしてるといいことがあるかも?」と告げて、解散を告げるのであった。



 そして草木も眠る丑三つ時……


 サンタが暗躍する時間だ。



 猫の街では、赤い服を来た怪しい人物が、子供達の枕元にプレゼントを置いて回るのであった……

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