726 女王誕生祭はいつも千客万来にゃ~


 12月25日……


 猫の街では朝から子供達の嬉しそうな声が響いている。


 そう。サンタさんからプレゼントを貰ったから喜んでいるのだ。


 と、言いたいところだが、これもべティの案。猫の街は親の居ない子供ばかりなので、クリスマスを企画してプレゼントを配りたいと言われていたのだ。

 もちろん国にそんな予算が無いので、わしのポケットマネーをたかられた。プレゼントもおもちゃなんてこの世界にはたいした物が無いので、まだどこにも販売していない板チョコだ。


 わしに配るようにオファーが来たが、さすがに一晩で配り切れないので、猫の街の大人にも協力してもらった。

 子供はほとんど下宿暮らしなので、寮長に頼めば楽勝。いちおうサンタに扮装ふんそうして見付からないように配るように指示を出したが、バレていない事を祈る。


 家族で暮らしている子供には、サンタさんはもちろん両親だ。こちらも寝静まった頃に配ってもらった。

 子供達ばかりに配るのは気が引けたので、協力者には板チョコを配布。いらないと言う人が大多数だったようだが、子供が食べて叫んでいたら欲しくなるのは明白だ。

 是非とも、子供達にバレないように食べて欲しい。



 当然、キャットタワーにもサンタさんはやって来ている。


「「わ~。おかしだ~」」


 コリスには超特大長靴に入ったお菓子の盛り合わせ。オニヒメには特大長靴に入ったお菓子の盛り合わせ。エミリとお春とつゆ、ついでにちびっこ天皇にも、容量を減らして内容は同じお菓子の入った長靴が贈られている。


「「にゃ~ん」」


 エリザベスとルシウスは猫なのにサンタさんは来てくれた模様。コリス達と同じく長靴が贈られていたが、お菓子より高級肉の干し肉が大量に入っていたようだ。


「私はイヤリングです」

「私はネックレスニャー」

「イヤリング」


 リータとメイバイとイサベレには、白ダイヤ付きのアクセサリー。子供ではないが、サンタさんは来たようだ。ちなみにノルンには服が贈られていたけど、数が多かったから着替えで迷っていた。


「私は……何これ? 白銀のマフラー??」


 さっちゃんにもサンタさんが来てくれたらしく、この中で一番豪華な品が贈られていた。


「シラタマ……私には無いのかしら??」

「シーーーッにゃ~~~!!」


 サンタさんの正体が女王にバレてしまったが……てか、贈り主はトナカイ姿だったけどわしだとバレバレだったので、皆から感謝のモフモフをされまくって気絶した。

 それから朝食中にモグモグ復活したら、女王からまた同じ質問が来たので答えてあげる。


「クリスマスは子供と恋人のイベントにゃんだから、あるわけないにゃろ~。てか、今年もにゃん個もプレゼント用意させられたんにゃから勘弁してくれにゃ~」

「でも、あんな物見せられたら……」

「王女様じゃ、あげる物に困ったんにゃ~」


 さっちゃんはクリスマスイベント当日に来たから用意していなかったけど、あげなかったらあとからブーブー文句を言うのは目に見えていたから、わし用に作っていた白銀猫の抜け毛100%の首当て。

 わしの毛皮より頑丈だから防御力は申し分ないのだが、一度付けたらゴアゴアしていまいちだったので、どうしようかと思っていた逸品だ。なのにさっちゃんと来たら……


「これって……私が一番好きってこと??」


 勝手に順位を付けるから、周りの目が超怖い。


「急に来たから、あげる物がそれしか無かったんにゃ。お菓子じゃ怒るにゃろ?」

「そうだけど~~~」


 さっちゃんと周りはなんとか納得してくれたが、もう一人面倒な人が残っていた。


「恋人って言われた。フンスコ」


 愛人から格上げされた……いや、格下げされて興奮しているイサベレだ。


「パーティメンバーだからにゃよ? 誕生日用についでに作った物を渡しただけにゃ。みんにゃも付与して欲しい魔法を教えてにゃ~」

「そんな~~~」


 イサベレもあっちゅう間に切り捨てたら、リータとメイバイのアクセサリーに話を移す。しかし急に言われても思い付かないらしいので、あとで考えるようだ。

 そんな感じで話が落ち着いたら、ジョージが手を上げた。


「俺もクリスマスプレゼント欲しいんですが……」

「子供にゃの? 恋人にゃの? わしの養子か愛人ににゃるの? 好きにゃほうを選べにゃ~~~!!」


 ジョージも一刀両断。いつまでも子供気分でいたら……ほら? 女王に怒られた。てか、一番年下のわしに集るこいつらはどうかしておる。


「あたしにはないの??」

「べティはサンタさんしたかったんにゃろ? だからにゃにも用意してないにゃ」

「ちょっ! あたし、こんなにかわいい幼女なのよ! あたしにも白ダイヤちょうだいよ~!!」

「こんにゃ時だけ幼女になるにゃよ~」


 主催者のクセに一番うるさい。どうもべティは、本当に子供達の為にクリスマスを企画したようだが、ついでにわしから高価な品を奪おうとたくらんでいたようだ。

 子供達と同様に何か貰えると期待していたようだが、これだけわしは労力とポケットマネーを奪われたのだから、やるわけがない。


「いい子にしてにゃいと、来年もサンタさんは来てくれないにゃ~」

「そんな~~~」


 とりあえず、来年の話をして話を逸らしたが、べティがいい子にしている未来が思い描けないので、一生サンタは来ないと思うわしであったとさ。



 騒がしい朝食が終わったら、忙しい女王達をわしみずから三ツ鳥居集約所まで送り届ける。その車の中からは、子供達のキャッキャッと楽しそうな笑顔が見て取れたので、女王達は微笑ましく見ていた。


 子供は宝。これだけ喜んでくれるなら、クリスマスは東の国でも流行りそうだ。


 女王達を三ツ鳥居から追い返し、わしも一緒に通って東の国側の三ツ鳥居に魔力を補給したら、転移魔法で猫の街へ。

 こちら側も補給し終えて街をブラブラ歩いていたら、子供が近付いて来て、こそっと感謝の言葉を掛けられた。


 残念ながら、サンタさんが見られたようだ。


 その場合は、「サプライズで驚かすイベントだから他の子供には内緒にするように」と言うように指示を出していたのだが、こんな事をするとしたらわししか居ないと思って寄って来たらしい。


 でも、わしの答えもこれしかない。


「いい子でいたら、来年もサンタさんが来てくれるかもにゃ~。にゃははは」


 そう答えて、わしは笑いながらキャットタワーに帰るのであった……



 それから数日経ったら、女王誕生祭に出席。相も変わらず凄い人で、物も溢れている。わしたち猫の国組は、アメリヤ王国と日ノ本の出席者と共に楽しんでいるのだが、わしは例の如くぬいぐるみに擬態して誰かに抱かれて餌付けされている。


 そんな中、ウサギのぬいぐるみを抱いている女性が居たのでジーッと見ていたら、動いた!?


 どうやら他国に派遣しているウサギ族だったようだ。ちょっと話を聞いたら、向こうも撫でられないように運んでもらっているそうだ。

 猫の国からも、わしがポケットマネーを出した誕生祭ツアーに当たったウサギ族が数人遊びに来ているので、同じようにぬいぐるみに擬態していると思われる。

 ちなみにオオカミ族の人狼は、大きな着ぐるみとして見られるか、怖がられているので寄って来る人は少ない。


 各国交流サッカー大会は定例行事になったようで、今年も大盛り上がり。それより盛り上がったのは、誕生祭初日にこけら落としとなった時の賢者記念館だ。

 わし達で編纂した読んでもいい物しか出していないのだが、これだけ詳細な資料の展示は無いので観覧者が途切れない。誕生祭が終わっても、しばらくは大繁盛だろう。


 他国組はこんな長蛇の列に並ばせると一日が無駄になるので、見たいなら猫の街にもあるから帰り際に案内してあげる。こっちは穴場で、細々とやる予定だ。

 他国組が面白がったのは、やはり血沸き肉躍るハンターや騎士の模擬戦。ジョージはこんな古典的な戦闘を見たことが無かったので最初はバカにしていたが、D級ハンター辺りから戦闘が派手になって行ったから楽しそうにしていた。


 飛び入り参加には、わしとビジジルが参加。人狼のビジジルが少し怖がられたが、ガッツある肉弾戦に拍手が起こっていた。

 わしは適当に三人ほど相手しただけなのに、大喝采。時の賢者記念館創立の立役者なので、褒め称えられた。どうやらこんな偉業があるのに隠れていたから、女王がわしを表に出したかったようだ。


 そんな事をされても、わしには迷惑なだけ。またぬいぐるみに擬態して姿を消したのであった。



 今回はジョージとちびっこ天皇も居ることもあり、お城で行われるダンスパーティーにわしも拉致られた。

 きらびやかなパーティーはいまだに慣れないので、わしは端っこでチビチビやりたかったのだが、ジョージとちびっこ天皇に「ナンパしに行こうぜ~!」とか鼻息荒く誘われた。

 二人とも返事を聞かずに婦女子に突撃して行ったが、わしは続くわけがない。しかしわしの元へ旅の話を聞きに来る者が続出で、モテモテ。てか、モフモフ。

 そのせいで、ジョージとちびっこ天皇は、血の涙を流しながらわしを睨んでいた……下心見え見えで箸にも棒にも掛からなかったようだ。


 そんなの知らんがなと突っぱねたかったが、このままではわしの燕尾服がファンに破られるだけなので、ここは二人の顔繋ぎをしてあげる。

 その結果、どちらも王様なので、わしが紹介したらけっこうモテた。やはり権力者の嫁は、貴族としては手に入れたいプラチナチケットなのだろう。


 二人をチヤホヤしている美しい女性達の下では激しい足の踏み合いが繰り広げられていたが、わしは見て見ぬ振りして女王達のテーブルに逃げるのであった。



 貴婦人の戦いにうといわしは、アレが普通の事なのかと女王に質問したら、まだ優しいほうだとのこと。もっと凄い女の戦いがあると聞いてゾッとしていたら、明りが消えてダンスパーティが始まった。

 またわしはさっちゃんの盾に使われるのかと覚悟していたら、爽やかなイケメンが現れて、さっちゃんの手を引いてダンスホールに向かって行った。


 わしが動揺していたら、さっちゃんの婚約者だと女王が教えてくれた。なので、そのイケメンの事を根掘り葉掘り聞いみたら、めっちゃいい人。家柄も人格も申し分ない。

 しかし、あんなイケメンは裏で何をしているかわからない。近くに居た美人さんにわしは身を売って、ダンスに参加。わしは抱っこされて浮いてるだけだけど……

 美人さんにわざとぶつかるように頼んだり、念話で怖い事を言ってダンスの邪魔をしたりしてみたら、イケメンに涼しい顔で乗り切られてしまった。


 その後、ダンスが終わってから美人さんにめっちゃモフられ、フラフラの足取りで女王達のテーブルに戻ったら、さっちゃんにめっちゃモフられた。ダンスの邪魔してたのがバレていたようだ。


「フフフ。シラタマちゃんでも嫉妬するんだ~」

「ち、ちがっ……あんにゃ完璧人間は信じられないからテストしてたんにゃ~」

「どうしてもと言うなら、婚約やめてあげてもいいよ?」

「いや、それはそれで問題なくにゃい??」

「うん。大問題。お母様に勘当されたら責任取ってよね~?」

「いや、それって、これから行う作戦の概要なんじゃにゃいでしょうか??」

「ウフフフフフフ……」

「早まったマネするにゃよ~~~!!」


 さっちゃんの笑い方が怖いので、これ以上邪魔しないほうが得策なのだろう。しかし、さっちゃんは大事な友達だ。わしはこの完璧イケメンをつけ回し、粗を探しまくるのであったとさ。



 女王誕生祭も終わりを告げると東の国から人が去り、わし達も猫の国に帰り、アメリヤ王国や日ノ本の者も自国へと帰って行った。


 こうしてまた新しい年が始まり、わしは猫の国の為に働くのであった……


「また寝てる……」

「いい加減起きるニャー!」

「ゴロゴロゴロゴロ~!!」


 お昼寝を邪魔するリータとメイバイにめちゃくちゃ撫で回されて……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る