727 猫の国にゃ~


 ユーラシア大陸、エベレストの東には『猫の国』と呼ばれる国がある。

 猫の国は技術力が素晴らしく、建国から数年もしない内に大国と肩を並べるが、その国の王はかなり変わった人物だ。


 その王の名は、シラタマ。世間では猫王と呼ばれる立って歩く猫なのだ。


 軍事力も凄まじく、噂では王ひとりで国を落とせるらしいが、猫王は平和を重んじる。


 猫の国は四方を危険な黒い森に囲まれているにも関わらず、民は幸せに暮らしている。

 普通の人間や猫耳族やウサギ族、多種多様な人種……人種と言っていいのかわからないが、これほど違う人種が揃っているのに、国民は一丸となって黒い森を押し返しているから着々と国土が増えている。


 猫の国、ソウの街よりさらに北に行った場所には塩湖があり、塩の確保の為に新たな街が作られ、『ニューキャットシティー』と名付けられた。

 現在は猫軍が辺りの危険を取り除く作業をしているから一般的な国民は少ないが、人々は今日も忙しく働いていた……



「ウンチョウ大将! 大変です!!」


 ここ、ニューキャットシティーは現在、猫軍の管轄となっているので、猫軍最高司令官のウンチョウが滞在し、その元へと凶報が届けられた。


「なんだと!? 獣の群れが押し寄せているだと!?」


 ただの獣ならここまで慌てる事もないのだろうが、多種多様の黒くて巨大な獣の群れと聞いたからにはウンチョウにも焦りが見える。しかし、猫王から任された新しい街を放棄するわけにはならない。

 ウンチョウは各種通達をして籠城戦を選び、黒い獣の群れと激闘を繰り広げる。


「撃て撃て~! 王が来られるまで、なんとしても死守するのだ~!!」


 猫王が援軍を引き連れて来てくれる事を信じ、外壁の上から黒い獣に攻撃をしていると、流れが変わる。


「くそっ! なんであんな獣が……」


 オオカミ、ハスキー、ヒョウ、オオヤマネコ、ヒグマ……


 十メートル以上で尻尾を複数持つ白い獣が五匹も現れ、さらには40メートル近いアムールトラまで……


「嘘だろ……」


 ウンチョウは一瞬生きる事を諦めたが、その時、後ろから緊張感のないこんな声が聞こえて来た。


「なかなかの大物ですね~」

「ちょうど人数分いるニャー」

「王妃様!?」


 猫の国王妃、リータとメイバイだ。


「おっきいね~」

「私も一匹回して欲しい」

「王女様も!!」


 猫の国王女、コリスとオニヒメだ。


「わ~お。あんなに居るわよ? 大丈夫??」

「えっと……料理長候補の……」


 何故か猫の国料理長候補、べティだ。


「ここ、わしの順番にゃろ~。連れて行けってうるさいから連れて来たんにゃから、後ろに控えていろにゃ~」

「王よ……ですよね~?」


 最後に紹介されるはずの猫の国、シラタマ王だ。べティがしゃしゃり出たのでシラタマが文句を言ったら、ウンチョウもウンウン頷いていた。


「私も居る」

「あ、イサベレもちょうど居たから連れて来たにゃ~」


 たまたま遊びに来ていた東の国筆頭騎士兼、猫パーティの一員、イサベレだ。


「遅れてゴメンにゃ~」

「シラタマさんがなかなか起きなくてすいません」

「それは言わなくていいにゃろ~?」

「その上べティちゃんが行くって聞かなくて、ちょっと揉めちゃったニャー」

「それも言わないでよ~」

「あ、いえ……」


 この絶望的なピンチに、援軍はこれだけ。しかも、シラタマ、リータ、メイバイ、ベティは緊張感も無くわいわいやっているので、ウンチョウも困ってしまっている。


「んじゃ、ちゃっちゃと終わらせにゃすか。リータ達は白いの任せたにゃ~」

「「「「「にゃっ!」」」」」

「べティは外壁に近付いた黒いのを狙い撃ちしてやれにゃ」

「あたしも『にゃっ!』って言ったほうがいい??」

「勝手にしろにゃ~。さて、討伐開始にゃ~!!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

「にゃ~にゃ~」

「『へ~へ~』みたいに使うにゃ~」


 リータ達はいい返事してくれたが、べティはどうしても猫軍式敬礼はしたくないようなのでシラタマからツッコミが入り、二人が揉めている内にリータ達は外壁の上から飛び下りて行くのであった……


「あの……王は行かなくてよかったのでしょうか?」

「ちょっとだけ打ち合わせしてから行こうかにゃ~っと……」

「はあ……」


 緊張感が無い一位はシラタマ。ウンチョウは何か言いたげだが口をつぐみ、作戦を擦り合わせるのであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 ニューキャットシティとかいう新しく作っている最中の街に、ウンチョウから獣に襲われていると聞いたので、ダラダラしてから転移したわしたち猫パーティは、戦闘に突入。


「じゃ、そんにゃ感じでよろしくにゃ~」


 わしだけはウンチョウと軽く打ち合わせをしてからノルンを預け、外壁の上から【レールキャット】。まずは馬鹿デカイ白いアムールトラを、雷ビームと斬り付けの合わせ技でぶっ飛ばしてやった。

 それからすぐに戻って黒い獣を削り、わしがほどほどに倒したら、門から猫兵が出て来た。ウンチョウの命令が行き届いたようだ。


 ここはもう大丈夫そうなので、近場の白い獣に急接近。コリスは20メートルクラスの白いヒグマとガシガシ殴り合っていたので、割り込んで白ヒグマは殴り飛ばしてやった。


「大丈夫にゃ?」

「いたいけどなんとか~」

「怪我してるにゃ~。こいつはわしがやるから、オニヒメを助けてやってにゃ~」

「うん! たすける!!」


 コリスは聞き分けよく走って行ったので、自分ひとりでは分が悪いと思っていたようだ。なのでわしが相手取り、白ヒグマはサクッと刀で斬り裂いたのであった。



 それからオニヒメとコリスの戦闘を見たら余裕そうだったので、イサベレの戦闘区域に一瞬で移動。

 イサベレはキョリスクラスの白いヒョウを一人で相手取っていたので、手助けしようとしたら止められた。しかし、殴るすんでのところで止められたので、白ヒョウの攻撃を捌きながらイサベレと喋る。


「ちょっと無理し過ぎじゃにゃい?」

「これを倒したら、私は新たなステージに立てる。ゼェーゼェー」

「ドクターストップにゃ~!!」


 イサベレは変なスイッチが入っていたので、白ヒョウもわしがサクッと倒してやった。


「ひどい……」

「一人では無理にゃ~。せめて二人で戦ってくれにゃ~」


 キョリスクラスはさすがに少し早い。恨めしそうな目をするイサベレを担いで一瞬で移動したら、メイバイが相手取っていた白いハスキーにネコキックを喰らわして吹っ飛ばす。


「ゼェーゼェー……何するニャー!」

「メイバイもドクターストップにゃ~!!」


 メイバイもキョリスクラスと死闘を繰り広げていたので、わしは怒鳴ってでも止める。夜にはモフモフの刑も待っているようだが、それぐらいいくらでも受けてやる。


「二人掛かりが適性人数にゃ。イサベレと一瞬にやらないにゃら、わしがトドメを刺すにゃ」

「うぅぅ……わかったニャー」

「終わったら、リータを助けてやってにゃ~」


 メイバイとイサベレの二人掛かりなら、楽勝とはいかなくとも確実に倒せるはずだ。あとはリータを説得するだけなので、一瞬で移動して白いオオカミにネコパンチ。ぶっ飛ばしてやった。


「はぁはぁ……何してるんですか……」

「怒らないで話を聞いてにゃ~」


 リータも横槍を入れられてオコなので、スリスリしながらよいしょ。


「さすがリータだにゃ。一番疲労が少ないにゃ~。そのまま守りに徹して、誰かが来たら助けてもらうんにゃよ~?」

「一人でも……」

「そこをにゃんとか!!」


 やはりリータもテンション上がって変なスイッチが入っていたので、わしは土下座。たぶんこれで言う事を聞いてくれると思うけど、リータは復活した白オオカミに笑いながら突っ込んで行ったから、どうなることやら。

 ま、十中八九、メイバイとイサベレが合流したら、助けようとはしなくとも白オオカミと戦おうとするはずだから、死にはしないだろう。



 リータが大盾で守りながら鎖を白オオカミに巻き付けようとする中、わしは【弐鬼猫にきねこ】の準備。狭い額に白銀のアホ毛が二本ピョンッと立ったと同時に、ドドドドと地鳴りが聞こえて来た。


 わしが【レールキャット】でぶっ飛ばした馬鹿デカいアムールトラが復活したのだ。


 黙視で確認した頃には、わしは巨大アムールトラの目の前。巨大アムールトラの顔面を峰打ちで打ち付け、もう一度後退させる。そして距離を詰め、体を滅多斬り。

 わしは凄まじい速度で動き、巨大アムールトラとの戦闘は続くのであった……



 その頃、オニヒメとコリスの戦闘が終わりを迎えようとしていた。


 オニヒメは、コリスを盾役にしての魔法の連射。【千羽鶴】や【三日月】を喰らった白いオオヤマネコが血濡れとなる。

 コリスも守るだけでなく、気功リスパンチでカウンター。それほど手数が多くないところを見ると、オニヒメに気持ち良く戦ってもらおうとしているようだ。


「そろそろだね。わたしにあわせて!」

「うん!」


 白オオヤマネコが満身創痍となると、合体技。コリスは白オオヤマネコの懐に潜り込み、リスアッパー。これで白オオヤマネコは浮き上がる。

 そこに、コリスは二撃目。尻尾で地面を叩き、その反動を使ってのダブルリスパンチで、白オオヤマネコをさらに上空に打ち上げた。


 この時点で、白オオヤマネコは瀕死。しかし、まだ息がある。だが、逃げ場はない。


 空には折鶴に乗ったオニヒメが待ち構えているからだ。


 折鶴は小さいが、オニヒメの足のサイズならば乗るぐらいわけがない。オニヒメは折鶴を操作して空を舞い、さらに高速回転させて、白銀の扇で白オオヤマネコの首を斬り落としたのであった。



 次に動きがあったのは、メイバイとイサベレペア。お互いどちらがトドメを刺すかで協力し合っていなかったが、二人は白銀の武器を使っているので、白ハスキーにダメージを積み重ねている。

 メイバイは小刀二刀流で白ハスキーの左半身を斬り刻み、イサベレは細身の刀で右半身を斬り刻む。

 白ハスキーが満身創痍となったら、二人は申し合わせたかのように首に攻撃。素早い斬り付けで白ハスキーの首は切断され、小刀と刀がぶつかる音が鳴ると同時に決着となるのであった。



 メイバイとイサベレはどちらがトドメを刺したか揉めながら走り、リータの戦闘区域に入ると様子を見る。


「なんだかこのまま倒してしまいそうだニャー」

「ん。悔しいけど、ここは手を出してはダメ」


 あんなに戦いたがっていた二人でも、リータの戦闘を見たら乱入するのは躊躇ためらう。事実、リータのほうが押しているからだ。


 リータは白オオカミの攻撃を、大盾に気功を乗せて弾き返し、ひるんだところを気功パンチ。その隙に巻き付けた鎖を引っ張って、また気功パンチ。大盾と鎖を上手く使い、確実にダメージを与えている。

 そうして白オオカミの動きが鈍って来ると、パンチで殴り飛ばしたあとに背中に飛び乗った。


「どにゃ~~~!!」


 ラストは、大盾に魔力を流しながらの尖った部分を突き刺すだけ。これで白オオカミの頭を貫通して、リータは勝利を収めるのであった。



「ゼェーゼェーゼェー……」

「ガルゥゥ!!」


 死闘を制したリータは、横になって勝利の余韻を噛み締めていたが、そんな場合ではない。残っていた黒いオオカミが飛び掛かった。


「せっかく勝ったのに何してるニャー」

「こんな敵地で無防備になりすぎ」


 そこにメイバイとイサベレが登場して、あっと言う間に黒オオカミは斬り裂かれた。


「あはは。お二人が見ていたから甘えちゃいました」

「まったくニャ……」

「リータが羨ましい」


 先を越されてメイバイとイサベレはご機嫌斜めだが、仲間のレベルアップは嬉しいのかすぐに笑顔に変わり、リータに手を差し伸べて立たせた。


「それじゃあ、残りを倒しちゃいましょうか」

「リータは無しニャー!」

「ん。同意」

「もう~。わかりましたよ。私はウンチョウさんと合流します」


 いい戦いをしたリータは、メイバイとイサベレの言葉を聞き、掃討戦には参加しない。


 こうして三人を含めた猫パーティは各々動き、獣を蹴散らして行くのであった。

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