728 スタンピードの原因調査にゃ~


 リータ達が白い獣を一掃した頃、わしも大詰め。馬鹿デカイ白アムールトラにパクッと食べられた……


「猫又流抜刀術……【回転猫】にゃ~~~!!」


 わしは何も本当に食べられたわけではない。自分から飛び込んだだけ。デカブツ相手なら内部攻撃が有効なので、わざと食われて【猫撫での剣】を振るったのだ。


 突如、体内から360度の斬撃が飛び出すと、巨大アムールトラの頭が地面に落ち、しばらくしたら地響きを立てて横に倒れたのであった。



 わしは巨大アムールトラの体内から出たら、水魔法を被って奇麗さっぱり。ニューキャットシティにダッシュで戻る。掃討戦に移行していたメイバイ達や猫軍を横目に見ながら走り、外壁に着いたら大ジャンプ。


「ただいまにゃ~」


 そして、ウンチョウに帰還の報告をする。


「お疲れ様でした。しかし、王の手をわずらわせてしまい、申し訳ありませんでした」

「にゃに謝ってるんにゃ。国民を守ることは王様の仕事にゃ~。にゃははは」

「はあ……」


 たしかに国民を守る事は国王の仕事なのだろうが、国王や王妃が率先して前線に立つのは違うと思うウンチョウ。わしだって、途中で気付いたから笑っているのだ。


「それよりべティはどこ行ったにゃ?」

「あそこでリータ様に肩車されているのが、そうです……」

「またあいつは……」


 ウンチョウの指差す場所には、リータに乗って魔法を乱発するべティの姿。最近魔力量が急増していたから調子に乗っているようだ。

 とりあえずウンチョウからノルンを受け取ると、なんか「ブーブー」文句言って来た。オッサンの頭は乗り心地が微妙だったらしい。だったら肩に乗れよ。


「はぁ~。もう終わりそうにゃし、後片付けして来るにゃ。事後処理はよろしくにゃ~」

「にゃっ!」


 ウンチョウの敬礼を見て、わしは首を傾げながら外壁から飛び下りる。いい歳したおっさんが言うのは、ちょっとな~?


 そんな事を思いながら戦地を駆け回り、死んだ獣は全てわしの次元倉庫へ。

 べティがわざとわしに向けて魔法を使って来たのでキレたり、モフモフの刑を執行しようとするメイバイとイサベレから逃げ回ったり、エサをたかるオニヒメを乗せたコリスに串焼きをポイポイ投げたりしてから、ニューキャットシティに戻っての宴会だ。


『我等が王に!!』

「「「「「我等が王に!!」」」」」

『かんぱいにゃ~~~!!』

「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」


 ウンチョウの挨拶で始まる宴だが、最後の「かんぱいにゃ~」はズッコケそうだから、わしとしてはやめて欲しい。

 今日は超大物を仕留めたのでその肉を振る舞ってあげたから、わしへの忠誠はどこ吹く風。うま過ぎる肉を食べた猫兵の阿鼻叫喚が凄い。


 わしたち猫ファミリーのテーブルでは、べティの指示でリータとメイバイが料理を作ってくれたので、猫兵が食べている物とは一線を画すから大好評。

 しかし、わしは気になる人物達が同席してるので質問してみる。


「にゃんでアイ達は一緒に食ってるにゃ?」


 アイパーティが何故か堂々と座っているからだ。


「ハンターの仕事で来てたのよ。ほら? 新しい街って、仕事が多いでしょ??」

「わしは同席してるのがおかしいと言ってるんにゃ~~~!!」


 どうもリータが誘ったから同席してるらしいが、そっちを先に言えよ。てか、首脳陣の中に、よく入って来ようと思ったな……


 アイパーティは席を外すつもりはないみたい。マリーはわしを撫で回すし、なんならルウ達なんて、勝手に料理を始めている。

 仕方がないので、関係者のアイとリータ、ウンチョウだけを隣の席に移して話をする。


「どう考えても、この規模の獣は異常にゃ。前にもこの辺で獣の襲撃があったはずだよにゃ~?」


 そう。わしだって、国を思って真面目な事も言えるのだ。


「あ~……あの群れね。たしか、北のほうから来たようなこと言ってたっけ?」

「今回はそれよりも強い獣が多かったですね……」

「つまり王は、何か原因があると考えていると……」


 アイとリータは実際に戦ったから思い出し、ウンチョウはわしの言いたい事に気付いてくれた。


「そうにゃ。チェクチ族のところでも獣の大移動があったにゃ。ここでも兆候みたいにゃ物はなかったかにゃ?」

「そう言えばここ数日、北からの獣が多かったわ」

「確かに報告では、北に獣が集中していました……と言うことは、俺の失策です。もっと注意しておけば、早くに対策が取れたのに……」


 ウンチョウが項垂うなだれているので、わしは優しい言葉を掛ける。


「まぁ知らなければ対策にゃんて打てないにゃ。次からは、早目に動ける対策を各街で実現できるようにしておいてくれにゃ」

「にゃっ!」


 ウンチョウが復活したら、リータが手を上げる。


「それで……この大移動は、今回の獣でおしまいと言うことでしょうか?」

「おしまいだと決め付けるには、調査をしてみにゃいことにはダメだろうにゃ~」

「なるほど……アレより強い獣が居るかもしれないのですね……」

「にゃにその顔? 怖いからやめて欲しいにゃ~」


 リータが妖しく微笑むから、アイとウンチョウがわしに耳打ちして来た。


「普通、そんなのが来たら逃げるのがハンターなんだけど……リータって、あんなにバトルジャンキーだったっけ?」

「シェンメイでももう少しかわいげがあるのに……王妃様がバトルジャンキーで、この国は大丈夫なんでしょうか?」

「わしに聞かれても知らないにゃ~」


 一番近くで見ていたから知っていると言いたいところだが、わしもどうしてこうなったか知りたい。わしは、どこで間違えたんじゃろう……


「それはさておきにゃ。明日には調査に向かうから、警戒体制だけはおこたるにゃ」

「考えることをやめたわね」

「だな」

「返事にゃ!」

「「にゃっ!」」


 二人がブツブツ言っているので無理矢理締めたら、わしはコリスソファに埋もれてまたモグモグ。またマリーが寄って来てわしがモフられたり、ノルンが着せ替え人形になったり。

 楽しく夜を過ごし、翌朝……猫パーティは戦闘機に乗って北に飛び立った。



 操縦士はコリス。隣には攻撃魔道具担当のオニヒメ。イサベレがレーダー役を担当して空を行く。

 イサベレが鳥に気付いて指示を出したら、オニヒメが戦闘機に付いている魔道具から風のつぶてを発射して撃ち落とす。数が多い場合はわしも参加。機内から出て魔法を撃ちまくる。


 戦闘機の中では、出番の来ないリータ達が怖いし、密航していたべティが「キャーキャー」言ってうるさい。


「てか、どうやってイサベレとオニヒメの警戒を潜ったにゃ?」

「ヒミツ~」

「そもそもにゃんでついて来てるにゃ~!」

「戦闘機で寝てたら動いてたみたいな??」

「そんにゃわけないにゃろ~~~!!」


 わしのツッコミが冴え渡るので機内は騒がしいが、イサベレからストップらしき声が掛かって、コリスは宙返りからのホバーリング。


「いてて……頭打っちゃった」

「だからついて来たらダメなんにゃ~」


 わしは前を見ていなかったので急な宙返りに対応が遅れてしまい、天井に頭をぶつけてしまったがダメージはゼロ。べティをなんとか守ろうと服を掴んだから、たんこぶ程度のダメージで助かったのだ。


「てか、にゃんで止まってるにゃ?」

「正面を飛んでいた鳥が何かに撃ち落とされた」

「パパ。白くて大きかったよ」

「てことは~……着陸だにゃ」


 べティが乗っていなくとも、ここは降りるほうがベスト。戦闘機を無理矢理黒い森に着陸させて外に出たら、またイサベレとオニヒメから話を聞く。


「この先に強いのが居るのかにゃ~?」

「わからない」

「何も感じないよね?」

「ん」

「う~ん……なんにゃろ??」


 二人がわからないみたいなので探知魔法を飛ばしてみたら、嫌な反応があった。


「あ~……マズイのが居るにゃ」

「「マズイ??」」

「わしもよくわからないんにゃけど、野人、オーガ、阿修羅のどれかだろうにゃ」

「あ、それで」

「納得」


 わし達の立つ場所から北には、20メートルほどのポッカリ空いた空間。ロシアを統べていた帝国が作りしオーガの生き残りだと思われる。


「あの小説に出てたの? ちょっと見てみたいな~??」


 珍しくわし達が緊張しているのに、べティに緊張感がない。


「わし、死に掛けたと書いてたにゃろ?」

「え? フィクションってなってたじゃない??」

「フィクションって文字のほうが嘘なんにゃ~」

「へ? ……ななな、なんでそんなややこしい書き方してるのよ! 逃げたほうがよくない!?」


 ようやくべティにわし達の緊張感が伝わり焦っているので、べティの頭の上にノルンを乗せて笑顔を見せる。


「ま、今回は余裕にゃ。ノルンちゃん、わしと一緒に居たら壊れちゃうからお留守番しておいてにゃ~」

「天パーはなかなか乗り心地がいいんだよ。シラタマが死んだらここで生活するんだよ」

「天パーじゃない! カーリーヘアーッ!!」


 べティとノルンが喧嘩してる内に、わしは準備と指示。


「たぶんコレが原因にゃろ。みんにゃも危ないからここで待っててにゃ~」

「「「「「はいにゃ~」」」」」

「それじゃあ、いってきにゃ~す」


 皆は聞き分けよく手を振って送り出してくれたので、わしは北に向かって走り出したのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 笑顔でシラタマを送り出したリータ達は……


「じゃ、行きましょうか」

「「「「「にゃっ!」」」」」


 シラタマを追おうとしていた。


「へ? ヤバイのが居るから待つんじゃないの??」


 しかし、常識人ではないがハンターの常識を知っているべティから待ったが掛かったので、リータは無言でべティを持ち上げて、コリスの背中に乗せた。


「いや、聞いてる? ここ、無視したらダメなところじゃないかな~??」

「出発にゃ~!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

「いやああぁぁ~~~……」


 こんな場所までついて来たべティが悪いと言わんばかりに、リータ達は無視して走り出したのであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 念の為、【参鬼猫みきねこ】発動っと!


 リータ達から離れたわしは、走りながら溜めていた魔力を使って三本の白銀のアホ毛を立てた。そうして走る事あっと言う間で、わしが探知魔法で確認した20メートルの空洞の目の前まで移動したら足を止める。


 おいおいおいおい……またオーガちゃうんか~い!


 空洞の正体は、サラブレットのような細くてしなやかな脚を四本持ち、馬のような胴体から人間の体が生えた生き物……そう、ケンタウロスだ。


 わしはまた裏切られた気持ちになって、心の中でツッコンでしまうのであったとさ。

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