665 ベティの帰郷3にゃ~


 獣の現地調査の依頼を受けたわしであったが、ベティがどうしてもついて来ると駄々をこねるので、仕方なく連れて行く事にした。


「ママ……」


 だって、駄々っ子になって両手両足をバタバタしているベティを、エミリが冷めた目で見てるんじゃもん。エミリがかわいそうなんじゃもん!


 わしが許可したらベティは無言で立ち上がり、服をパンパンと叩いて砂を落として顔を背けていた。ベティの耳が真っ赤なところを見ると、エミリの目に気付いていたけど引くに引けなくて駄々をこねていたから、恥ずかしかったみたいだ。

 とりあえず行く事は決定したので、バスに乗って近くの森まで走らせる。このバスは、防御力に優れたヤマタノオロチの鱗を使っているから乗っていて欲しいのだが、ベティはやる気満々なので降りて来た。


「ママ。危ないって」

「エミリまであたしを子供扱いするの!?」

「子供じゃん……」

「その目はやめて~~~!!」


 母の威厳はどこへその。この短期間で、エミリのベティに対する尊敬はどこかに行ってしまった。


「ほら、お姉ちゃんもこう言ってるにゃ~」

「だから子供扱いするな! この手の依頼は得意なのよ!! がるるぅぅ」


 わしも子供扱いしたら、ベティは噛み付いて来た。マジで噛み付くから、エミリに冷めた目で見られるんじゃ。


「得意って……どうするにゃ?」

「何を隠そう、あたしは獣を呼び寄せる魔法を使えるのよ!」

「それが事実にゃとして、魔法使いがそんにゃの使ったら危ないにゃ~」

「大丈夫V! 一直線にあたしに向かって来るから、そこに魔法をブチ込めばイチコロよ!」

「にゃんかちょいちょい言葉が古くにゃい?」

「いいからやるわよ!!」


 ベティが死語を使ってピースしているからツッコんで忘れていたが、いまからやる依頼は、最近森に住む獣がチラホラ現れるようになったから、森の外苑部に居る獣の生息数を確認して欲しいと言う安全なお仕事。

 倒すかどうかは、この報告を聞いた村長が決めて戦闘系のハンターに依頼するので、呼び寄せる必要はまったくない。


「ま、待ったにゃ!!」

「さあ、出て来なさい! 【デコイ】!!」


 しかし、ベティはやっちゃった。


「にゃにしてるんにゃ~」

「何って……獣を呼んだのよ」

「調べるだけが依頼内容にゃ~」

「あ~……ま、いいじゃない。一石二鳥ってことで。村も安くで依頼をこなしてもらえるし、私たちも獣がガッポリだからウィンウィンよ」

「そういうことじゃないんにゃ~」

「ね、猫さん!!」


 わしとベティが揉めていたら、エミリに頭をぺしぺし叩かれた。


「なんかすっごい地鳴りが聞こえますよ!」

「本当だにゃ……ちにゃみにその【デコイ】って魔法、効果範囲はどれぐらいにゃの?」

「魔力を込めれば込めるほど遠くに広くって感じ。今回は張り切ったから、5キロは行ったかな??」

「ア……アホにゃの!?」

「誰にアホって言ってるのよ!!」

「猫さん! 来てる来てる!!」


 まさかそんなに広範囲の獣を呼び寄せていたとは思っていなかったわしが焦るが、それよりも焦ったエミリがわしの頭をバシバシ叩くので、先に処理しなくてはならない。

 森から飛び出して一直線にわし達に向かって来る多種多様の獣をどうしてやろうかと考えていたら、ベティがかっこつけてわしより前に出てしまった。


「ママの強さをとくと見よ! 大いなる母カミラが命ずる。えっと、破壊の神と火の神がなんやかんやで……」

「それって本当に呪文の詠唱にゃの?」

「もう! 邪魔しないでよ~……。呪文じゃないけど」

「だったらさっさと撃てにゃ~」


 どう聞いても即興ぽかったので邪魔したのは正解だったようだ。


「ブッ飛べ! 【エクスプローション】!!」


 ベティがおもちゃのピストルを右手で構えて撃ったような仕草をすると、光の塊が一直線に飛び、獣の群の先頭を走っていたオオカミに着弾。その瞬間、光は膨らみ爆発を引き起こして他の獣を巻き込んだ。


「で……あとの大多数はどうするつもりにゃ?」


 残念ながら、死んだと思われる獣は三匹程度。つまづいて倒れた獣は多く居るが、それより多くの獣はこちらに向かって来ている。


「あっれ~~~? 昔はもっと大きな爆発になったんだけど……【デコイ】で魔力使い過ぎたかも? てへ」

「かわいこぶるにゃ~~~!!」


 ベティが頭をコツンと叩いて舌をペロッと出すので、ついにわしはキレた。


「エミリ。バスに乗って待っておいてにゃ。すぐに終わらせるからにゃ」

「は、はい……でも、ママは……」

「こいつにはエサになってもらうにゃ~」

「ちょっ! あたしはかわいい幼女よ! 児童虐待反対! エミリ……助けて~~~!!」


 児童虐待と言われても、村がひとつ滅ぶような危険な事をした罰だ。わしはベティを肩に担いで獣を惹き付け、刀を振りながら走り回るのであったとさ。



「おえ~~~。オロオロオロオロ……」


 ベティを追い回す獣を全て倒したわしが、バスの前でベティを下ろしたらリバース。かなり乱暴に動いたから酔ったみたいだ。

 まさか動いている最中にもリバースしていなかったかと、わしの体に掛かっていないかキョロキョロ確認していたら、エミリがバスから下りて来てベティの世話を始めた。

 なので飲み物だけ渡して、わしはもうひと仕事。倒した獣を全て回収して戻ったら、ベティは「ぐるるぅぅ」と敵意満々でわしを睨んでいたので、エミリに「メッ!」て叱られていた。


「てか、なんなのよあの速さは! 魔法特化って言ってたんだから魔法を使いなさいよ!!」


 エミリに叱られても、ベティは物怖じせずに怒鳴るのでうっとうしい。


「逆に聞くけど、あんにゃ魔法で倒したら、どれだけ獣の肉が食べれるんにゃ?」

「半分は余裕よ」

「もったいないにゃ~」

「多すぎて持ち帰れないからいいのよ。シラタマ君の収納量が異常なの。全て刀でひと突きってのも異常すぎるわ。異世界人って、隠す気あんの??」

「だって猫にゃもん……」

「そっか~。猫だからちょっと無茶しても大丈夫なんだ~……て、ホンマや!?」

「ブッ……あはははは」


 ベティはノリ肯定するのでエミリが吹き出して笑っていた。そりゃわしだって細心の注意を払っていた時期はあるけど、その前に大きな壁があるから、どうでもよくなったのは否めない。猫が立って歩いてるだけで摩訶不思議なんじゃもん。


「あとさ~……腰の物は飾りなの? なんで違う刀を使うのよ」

「こっちは斬れ過ぎるから、大物専門だからにゃ」

「さっきの刀より短いじゃない。それにそんなに斬れるなら、なんでも斬れるんじゃないの?」

「なんでも斬れるから困るんにゃ。相手が斬られたことに気付かないから、下手したら首なしでもしばらく動くんにゃ~」

「「またまた~??」」


 エミリまで疑って来るので、ちょっと実演。持っていた大根を軽く投げて、【猫撫での剣】で一刀両断。ベティとエミリに渡して断面を合わさせてもらった。


「うっそ……」

「どこを斬ったかもわからないです……」

「にゃ~? こにゃいだ何度か人を斬ったんにゃけど、全員痛そうにしないし全てくっ付いたにゃ。ま、脅しには使い易いんにゃけどにゃ」


 二人はわしの刀の使い方にも驚いているようだ。


「どこで買えるの!?」

「私も包丁作って欲しいです!」


 いや、二人して何故か欲しがっている。よく切れる包丁が欲しいのかな?


「エミリには黒魔鉱の包丁をプレゼントしたにゃ~」

「はあ!? 包丁なんかに、なんでそんな貴重な鉱石を使ってるのよ!!」

「え……アレってそんなに高かったのですか!? かかか、返します!!」


 エミリの誕生日に贈る物が思い付かなかったから値段の張る物にしたのだが、ベティに価値を知らされていまさら慌てるエミリであった。

 ちなみに【猫撫での剣】の金額を教えてあげたらエミリは倒れた。ベティは女を使って手に入れようとしていたけど、まったく効かない。


「ぺったんこにゃ~」

「なんですって!?」


 事実を教えてあげたのに、ベティはわしに噛み付いて来るのであったとさ。



 ベティが「ワーワー」うるさいが、村に戻ったら村長に結果報告。なんて報告したものかと悩み、ベティを説明するのが面倒なので「めっちゃ獣が居た」と報告。

 獲物も見せて「全て倒しちゃった。てへ」と、かわいく報告してみたら「さすが御使い様じゃ~!」とのこと。村民に一気に伝わり拝み倒された。


 報酬は調査費用だけでいいと言ったのだが、討伐までのお金を握らされてしまった。どうやらここニ年は豊作が続いているからお金には困っていないようだ。

 しかし勝手にやってしまった手前、多くを貰うのは気が引ける。例の如く解体と交換で肉を支払う事にした。若干、獣肉が目的のような気がしたが、気のせいだろう。


 それから「肉祭りじゃ~!」とか騒いでいる村民を見ていたら、ベティが袖を引っ張っていたのでどうしたのかと聞くと、前世での両親を発見したらしい。

 なので、どうやって話し掛けるかエミリも呼んでコソコソ会議。ここはわしから話し掛けるほうが無難らしいので、二人を連れて老夫婦に声を掛けてみる。


「ちょっといいかにゃ?」

「はい! なんなりとお申し付けください!!」

「お話したいだけにゃ~」


 御使い様効果が思ったより強いが、これならなんと言っても通じそうだ。


「カミラって娘さんが居るにゃろ?」

「はあ。十数年も前に出て行ったきりですが……娘が何かご迷惑をお掛けしたのでしょうか?」

「いや、亡くなったことを伝えに来たんにゃ」

「うそ……あの子が私達より先に……」

「これ、遺書にゃ。辛いと思うけど、読んでやってくれにゃ」


 この遺書は、ベティが昨日の夜に書いていた物。内容は知らないが、老夫婦は涙を浮かべて読んでいるところを見ると、感謝の言葉が書かれているのだろう。


 てか、こんな物を用意しているってことは、最初からこの村に来る気満々だったんじゃね? 目、逸らしやがったな……


 ベティは慰め合う老夫婦に視線を合わせているから、文句を言いづらい。なので、しばらくボケーっとしていたら、老夫婦はわしの前に戻って来た。


「娘の最後を教えてくれてありがとうございます。こんなことなら、一度くらい王都に出向いていればよかったです。そうしていたら孫の顔も見れていたのに……」

「にゃ? カミラさんの居場所、知ってたにゃ??」

「はい。王都でハンターになっていると知人から聞いていました。喧嘩別れした手前、意地になってしまって……」


 老夫婦はまた暗い顔をしているので、わしはエミリを呼び寄せる。


「娘さんにはもう会えにゃいけど、孫にゃら健在にゃ~。この子はカミラさんの娘、エミリにゃ~」

「エ、エミリ……じゃあ、そっちの子は、妹のベティ……」

「にゃ? えっと……」

「うっ、うぅ……大きくなって……うぅぅ」


 わしが答えに困っていたら、老夫婦はヨロヨロとベティとエミリに近付く。


「おばあちゃ~ん! うわ~~~ん」

「あの、その……はじめまして、エミリです」


 するとベティは涙ながらに母親に突撃し、エミリはペコリと頭を下げる。たぶん、顔を知らない祖父母と会ったのならば、エミリの反応が正しいのだろう。

 わしはそんなエミリの背中を軽く押し、お母さんの話を聞かせてあげるように言って、その場をあとにするのであった。


 姉妹設定にしてるなら、わしとエミリにも言っておけよ!!


 無粋な事は無しだ。ベティにツッコミたかったわしであったが、少し離れた所でブツブツ文句を言うのであったとさ。

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