664 ベティの帰郷2にゃ~


 ハンターギルドにてわしに暴力を振るうスティナは、ギルマスになった経緯を教えてくれる。


 そもそもスティナがハンターになった年は魔法使いの不作の年だったので、数々のパーティが臨時でいいから入ってくれとスティナの元へお願いに来たようだ。

 スティナはその中から正式なパーティを決めたらいいかと思い、十組以上のパーティに所属したらしいが、自分が居ない時の依頼失敗が多かった。

 なので一度全員を集めて話し合い、スティナの指示でパーティをシャッフルしたり合同にしたりとしたら、依頼を失敗する事が無くなったそうだ。


 スティナの凄いところはここから。全パーティから自分の分の依頼料を受け取り、そのお金を稼ぎの低いパーティに割り振る事によって、仲間の稼ぎを平均的にしていたのだ。

 仲間からは失敗はゼロだし稼ぎもいいので感謝されていたようだが、はたから見たらスティナが新人ハンターからお金を巻き上げていたように見えたので、先輩ハンターからは女王蜂と言う二つ名を付けられてしまったらしい……


「てことは~……新人ハンターにゃのに、一人でハンターギルドみたいにゃことをしてたってことにゃ?」

「そうよ。ちょっとは多く貰っていたけど手数料のようなものだし、私も依頼はきっちりこなしていたから、人にどうこう言われる筋合いはないわ」

「じゃあ、その統率力を買われてギルマスになったんにゃ~」

「まぁそれも理由のひとつだけど、ムカつく奴が居てね~」


 スティナがムカついていたのは、当時のサブマス。依頼料が以前より微妙に下がった依頼が増えていたので不思議に思ったスティナは、仲間を使って内々に探らせたらサブマスに行き着いた。

 このサブマスが依頼料をほんの少しだけ値段を下げて、その下げた分を猫ババしていたのだ。ちょっとしたこづかい稼ぎの下げ幅だったから、サブマスもまさか気付く者が現れるなんて思っていなかった。

 そのこづかい稼ぎがみみっちくて、スティナはさらに怒り心頭。「やるならもっと大きくやれ!」と、サブマスの部屋に怒鳴り込んだそうだ。


 その行為の時期が悪く、サブマスは次期ギルマスに決まっていたのに左遷。ギルマスもハンター協会に栄転と決まっていて、王都のギルマスとサブマスが居なくなる事態となった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、スティナ。統率力があり、誰も気付かなかった不正にも一人だけ気付いたと言う功績があるので、当時のギルマスがゴリ押しして決めたんだって。



「私はやる気なかったから断ってたんだけどね~」

「超美味しい話だったんじゃにゃいの?」

「三年目で、中堅に入ったかどうかのハンターが、いきなりサブマスもしばらく兼任よ? 受付嬢にも先輩ハンターに嫌われてたのに、やりたいわけないでしょ」

「あ~。わしも絶対断るにゃ~」

「でしょ? なのにレイフさんが……」

「レイフがギルマスだったんにゃ……御愁傷様にゃ~」


 数ヶ月前にハンター協会会長に就任したレイフの厄介さはわしも身に染みてわかっているので、スティナも無茶振りゴリ押しなんでも御座れでギルマスにされたと確信して、目を閉じて手を合わせるしか出来ない。


「まぁ最初は大変だったけど、仕事してたらすぐに誤解は解けて、なんとかなったんだけどね~」

「「にゃんかすいにゃせん!!」」


 スティナの苦労話を聞いたわしとベティはシンクロ謝罪。そんな苦労があったとは知らずに馬鹿にしていたから当然だ。


「シラタマちゃんはわかるんだけど……なんでこんなちっさな子まで謝ってるの??」

「あ……あはは」

「にゃんでもマネしたくにゃるお年頃なんにゃ~。にゃははは」


 わしとベティが笑って誤魔化したらなんとか納得したようだが、スティナはベティに焦点を合わせた。


「この子って……迷子? それとも誘拐して来たの??」

「にゃんで誘拐にゃんてするんにゃ~」

「じゃあ、また女の子に手を出したんだ……」

「またってなんにゃ~!!」


 わしが手を出したら確実に死んでしまう。女の子が手を出して撫で回すだけなんだから、失礼千万だ。


「さっき、新大陸に行ってたと言ったにゃろ。そこで賢い子を見付けたから、うちで勉強させようと親御さんから預かっているんにゃ」

「誘拐と変わらない気がするんだけど……」

「失礼にゃ~。給金だって払うにゃ~」

「あはは。ゴメンゴメン。どうせ経済的に困っていたから助けようとしてるだけでしょ。エミリちゃんみたいに」

「まぁ……そんにゃ感じかにゃ?」

「おっと……私も仕事に戻らないと。シラタマちゃんも査定終わってるから、買い取りカウンターに忘れずに寄って行ってね」


 スティナは何故か納得して離れて行ったので、わしは否定しない。ただ、ベティには聞きたい事があったので質問してみる。


「ベティはスティナのことが嫌いだったにゃ?」

「いや、特には……皆が嫌ってたから、酷い奴が居るもんだと思ってたのよ。喋ったこともないし……そう言えば復帰した時に、誰も悪口言ってなかったわね」

「人の悪口を鵜呑みにするにゃよ~」

「えへへ~」


 どうやらベティは産休に入った時期がスティナがギルマスになった時期で、戻った頃にはスティナがギルドを完全に掌握してるのだと思っていたようだ。

 その件をとがめても、ベティはかわいこぶりっこで乗り切ろうとするので、わしは溜め息を吐きながら買い取りカウンターに向かうのであった。



「にゃんか面白い依頼でもあったにゃ?」


 買取りカウンターでサインして戻ったら、ベティとエミリが依頼ボードを見ながらキャッキャッと喋っていたのでわしも仲間に入れてもらう。


「ううん。エミリにハンターのいろはを教えていただけよ」

「ママったら、失敗ばかりしてたんですよ~」

「失敗談のほうが面白いから話をしたのよ。こう見えてあたし、依頼達成率高いんだよ~?」


 こう見えてと言われても、幼女にしか見えないので想像できない。わしは100%だけど自慢する事でもないかと考えていたら、誰かに頭を撫でられた。


「にゃ? あ、ティーサにゃ。こんにゃちは」

「こんにちは。依頼ボードの前に猫ちゃんが居るってことは、何か依頼でも受けてくれるのですか?」

「いんにゃ。わしはただの引率にゃ」

「残念です。また昔のように依頼を受けてくれないと、暇で暇で……」

「相変わらずだにゃ~」


 受付嬢のティーサがわしと世間話しながら依頼ボードに依頼が書かれている紙を張っていたら、一枚の依頼にベティが食い付いて耳打ちして来た。


「これ。これ受けて!」

「にゃ~? 村に出た害獣の調査依頼って……被害も出てにゃいんじゃ、こんにゃの低ランクの仕事にゃ~。わし、Bランクにゃよ??」

「いいから受けてよ~!」


 ベティが必死に見えるのでわしの素晴らしい勘が働いたから、ティーサはエミリに引き付けてもらって、わしとベティでコソコソ喋る。


「知り合いでも住んでるにゃ?」

「たぶん両親が……」

「天涯孤独って聞いてるんにゃけど……」

「喧嘩別れで家出したから、ハンターギルドにはそう書いていたのよ」

「嘘書くにゃよ~。親御さんは死んだ事も知らないにゃんて、かわいそうにゃ~」

「死なない自信はあったから……お金に余裕が出来たらエミリを連れて帰ろうと思ってたの」

「にゃったく……」


 ベティの事はどうでもいいが、両親がかわいそうに感じたわしは、ベティの指定する依頼用紙を引きちぎってティーサに見せる。


「これ受けるから、手続きしてにゃ~」

「猫ちゃんのランクだとポイントは付きませんけどいいのですか? どうせ受けるなら、もっとランクの高い依頼を受けて欲しいんですけど……」

「この子達の社会勉強にゃ。ハンターってのは大変ってのを見せて来るにゃ~」

「はあ……やっぱり猫ちゃんは変わっていますね」


 ティーサはそんな事を言いながら受付に向かうので、わしは姿の事を言われたと思って続く。


「猫のことじゃないですからね~?」


 わしが項垂うなだれているからティーサは慰めてくれたけど、たぶんいまさら猫の姿が変だと思って頭を優しく撫でたと思う。目も泳いでるし……


 とりあえず依頼を受けたので、一号車に乗って王都の外へ。そこから戦闘機に乗って依頼現場に向かう。


「飛行機まで持ってたんだ……そりゃUFO騒ぎになるわね」

「あ~……ジョージ君にも言われたにゃ~。ヘリがあるんにゃから、そんにゃに騒ぐなよにゃ~」

「音も無く飛んだら騒ぎになるわよ。ほんとシラタマ君って、猫型ロボットよね。タヌキにも見えなくないし」

「耳はネズミにかじられてないにゃ~!!」

「きゃはははは」


 わしのツッコミが冴え渡るので、ベティは大笑い。しかしエミリはついていけないので、ベティから説明を聞いて歌まで一緒に歌っていた。


「「にゃんにゃんにゃん。やっぱり大好き。シラタ~マく~ん♪」」

「苦情が来るからやめてにゃ~」


 これはヤバイ。何かとは言えないが、青い物体が助走をつけてまん丸の拳で殴りに来そうなので、必死に止めるわしであったとさ。



 30分も戦闘機をブッ飛ばせば、目的の村に到着。依頼主の村長に話を聞こうと村の中を歩くのだが、ベティは気になる事があるようだ。


「その姿で歩けるのも驚きなんだけど……シラタマ君、御使い様って呼ばれてるわよ?」

「さあ? にゃんでにゃろ??」

「あたしの故郷に何したの!?」


 また同じツッコミが来そうなのでとぼけてみたが、やっぱりツッコまれたので少し説明。この村は、飢饉の際に訪れて、獲物の解体と交換で肉を多く払ったから、わしは御使い様と呼ばれているのだ。


「そうなんだ……あたしが死んでから、そんなことあったんだ……シラタマ君、ありがとね」

「わしは仕事の対価で払っただけにゃ~」

「猫さんは人助けしても誇ったりしないんですよ」

「フフフ。アメリヤ王国でもそんな感じだったよ」


 ベティに反論したら、エミリまで褒めて来るのでわしはむず痒い。さらにエミリがどこで聞いたのかわからないわしの善行を語るので、至る所をボリボリ掻いてしまった。

 ベティに「ノミでも飼ってるの?」と言われるぐらい体を掻いて進んでいたら、村長の家に到着。中に入ると村長が土下座をしたまま説明するので、ベティとエミリがニヤニヤしながらわしを見るから恥ずかしい。頭を上げとくれ……


 なんとか依頼内容の詳しい話を聞けたので、家から出て二人と話し合う。


「わしが見て来るから、二人はおじいちゃん達と会って来るといいにゃ」

「久し振りに魔法をぶっぱなしたいのよね~。依頼のあとに会いに行こっかな」

「両親との涙の再会を優先しろにゃ~」


 わしがなんと言おうとベティはついて来ると言うので、あんなに必死な顔で村に行きたいと言っていた目的は、ハンター業だったのではないかと疑うわしであったとさ。

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