663 ベティの帰郷1にゃ~
「さすが師匠! 俺より手際がいいですね!!」
ジープを分解したがっていた源斉は、一人でやらせると元に戻らなくなるかもと思ってわしも手伝ったら褒め称えられた。
ふぅ~……整備しがいのあるジープじゃったな。これで走行距離が延びたじゃろう。ちょっと走らせてみるか。
源斉を止めていたわりには、わしもノリノリ。車の整備をしていた若い頃を思い出して楽しくなってしまったのだ。
それからエンジンを掛けて音を確認し、源斉を乗せて平賀家の敷地内を一周したら、時間という概念を思い出した。
「こんにゃことしてる場合じゃにゃかった!!」
源斉のせいで遊び過ぎたわしは、もう暗くなって来ていたので慌てて帰還の準備。設計図をまとめたらケラハー博士に目隠しをして、猫の国に転移。しかし時差を忘れていたので、急ぐ必要はなかった……
とりあえずケラハーを研究所に送ってエレベーターの事を頼んだら、わしは買い食い。ブラブラ歩いてキャットタワーに帰り、居住スペースでごはんが出来るまで寝て待とうと思ったが、ベティにからまれた。
「にゃに~?」
「街を見させてもらったわよ……」
「それがにゃに~??」
「なんなのよこの街は!?」
ベティの感想はこうだ。猫の街は東の国の王都ぐらいの文化レベルだと思っていたのに、アメリヤ王国以上の技術があったから驚いたらしい。
サッカーグラウンドやゴルフ場、車や電車、太陽光発電にウサギだらけの工場、レコードにラビットランド。たった五年留守にしただけで、ここまで発展していたから浦島太郎状態だと言っている。
「まったく……やりたい放題ね」
「ベティは料理チートしてたにゃ~。わしも技術チートせざるを得なかったんにゃ~」
「どゆこと??」
「小説に書いてあったにゃろ?」
「日ノ本編しか読んでないし、全部ママ達にあげたわ」
「説明が面倒だから渡したんにゃ~」
どうやらベティの両親が面白いと言って読んでいたから小説を持ち出すのをやめたらしいので、仕方がないので猫の国の成り立ちの説明をする。
「猫の国になる前の帝国って国がだにゃ。エベレストに穴を掘って東の国に戦争を仕掛けたんにゃ」
「わ~お。ぶっそうな話ね」
「猫の国は関係にゃいのに、女王が賠償金は取るわ捕虜の身代金は取るわで、仕方なく電車を用意したってわけにゃ。うち、内乱が終わったばかりの貧乏国家にゃのに、酷くにゃ~い??」
「あははは。そりゃ仕方がないわね。女王様が正しいわ」
「女王の味方するにゃよ~。超強欲なんにゃ~」
元、東の国国民のベティにはわしの苦労話は通じないようなので、また小説を全巻渡して読んでおくように言っておいた。
「それにしてもさ~。なにあの牛? チビリそうになったじゃない」
「それも小説に載ってるにゃ~」
「なによ。教えてくれてもいいじゃない」
「面倒にゃ」
「じゃあ、あのストリップ劇場みたいな卑猥な施設は??」
「ウサギしか居なかったにゃろ~」
「そうだけど~。ツッコミどころ満載なのよ~」
やはりわしの作った街は、元日本人からしたらパクりまくりだから気になるらしい。受け答えが面倒なわしは小説を読めと逃げていたら、おねだりが始まった。
「東の国に連れて行ってよ~」
「電車に乗って行けば着くにゃ~」
「こんなかわいい幼女が一人旅なんて無理に決まってるでしょ」
「じゃあ、エミリにも休みをやるから、一緒に行って来いにゃ~」
「エミリに手を引かれて歩かれたら、母親の尊厳が傷付くじゃない」
「ヨボヨボになったら子供に手を引かれるもんにゃ~」
「そうだけど~」
おねだりがなんだか変な方向に向かい、お互いの死の間際の話題になったら、わしとベティは子供に迷惑を掛けたと涙ぐんでしまって、同志を見付けたと抱き合ってしまった。
「シラタマさ~ん?」
「何してるニャー?」
ちょうどそこをリータとメイバイに見られてガミガミ怒られていたら、ベティは悪どい顔になった。
「東の国に連れて行って欲しいって言ったら、泣かされたの……」
「何してるの!?」
「こんな小さい子を泣かしたニャ!?」
「リータとメイバイは騙されるにゃよ~」
見た目に騙された二人はベティの味方になるので、こうなっては何を言っても通じない。見た目は幼女、中身はババアなのに……
そして翌日は、朝からベティとエミリを連れて東の国の我が家に転移。リータ達はやりたいことがあるらしく、ソウに走って行った。訓練熱心だこと……
東の国王都ではわしは歩けないので、一号車のハイエースで移動。わしは女王に許可をもらっているから、自由に運転できる。その事を知らないベティには、「東の国でもやりたい放題だな」と、ツッコミが止まらない。
「あのさ~……」
「ノーコメントにゃ」
「なんでシラタマ君みたいなオブジェが付いた馬車や車が走ってるのよ! あのぬいぐるみもシラタマ君でしょ!!」
「ノーコメントって言ってるにゃ~」
「東の国がシラタマ君に侵食されてるじゃない! もうここは、猫の国より猫の国じゃない!!」
「勘弁してくれにゃ~」
「あははは……」
ベティの剣幕に応じるだけのテンションは、わしにはない。エミリもベティの剣幕にたじたじで、苦笑いしか出来ないようだ。
車内はうるさいが黙秘して進めばベティの目的の場所、孤児院に到着したのだが、ベティにギロッと睨まれたのでわしはさっと目を逸らした。
「ここまで何してるのよ!!」
隣接された遊具いっぱいのキャットランドを見たから睨まれたっぽい。目を合わせようとしないから、わしの頭を持って力尽くで向けようとしてるっぽい。でも、幼女の力では無理に決まってる。
「もういいわ! 行くわよ!!」
ベティが諦めてくれたので、わし達も一号車から出てあとに続くのだが、孤児院のドアから入ろうとしていたので止めてみる。
「キャットランドで遊ばないにゃ?」
「エミリを預かってくれたお礼を言いに来たのに遊ぶわけないでしょ」
「その姿でお礼って……マジでやるにゃ~?」
「あっ! しまった……あたし、かわいい幼女だった!!」
「いい加減、かわいいは置いておけにゃ~」
いまさら輪廻転生した事を思い出したベティはなんとかしてくれと言って来たので、わしとエミリで挨拶する
ただ、わしは子供達に押し潰されていたので、院長の相手はエミリに任せてゴロゴロ。撫で回す子供達と遊んでいたら、ベティ達の話は終わっていた。
それからキャットランドに出向き、カフェスペースでお茶やジュース、ポテチを買って戻ったら、三人で休憩する。
「シラタマ君がここを救ってくれたんだってね」
「わしはちょっと手伝っただけにゃ~」
「これのどこがちょっとなのよ。あのクソ怖い院長にめちゃくちゃ感謝されてたわよ」
どうやらベティはエミリを使ってお礼を言わせたらしいが、逆にエミリは院長にお礼を言われ、わしにまで感謝していたそうだ。
「あ、そうそう。院長から伝言があったわ」
「にゃ~?」
「ラビットランドなんてキャットランドに似た施設なんて作るな。商売上がったりだよ……だってさ」
「客層が全然違うにゃ~。てか、本人が居るんにゃから直接言えよにゃ~」
「あはは。院長の冗談に決まってるでしょ~」
いや、あのババアは本気で嫌味を言ってると思う。いっつも喧嘩になるし……
ベティには、院長とわしの仲は最悪だと言ってみたけど、エミリがあんなに楽しそうに喋る院長は見た事がないと言っていたので信じてくれなかった。わしの居ないところでは、意外と笑ったりしていたようだ。
まったく想像できないが次に移動する事になったので、一号車でドライブ。二人がよく買い物をしていた場所まで連れて行き、エミリに抱かれて移動する。
親子水入らずを邪魔しているようで少し気が引けるので、わしはぬいぐるみになって寝ていたから内容は聞いていない。ただ、耳には二人の楽しそうな笑い声が残っていた。
二人が暮らしていたと言う小さな家に着いたら、住人に中を見せてくれないかと頼んで、わしは売られた。
子供と奥さんにわしがめちゃくちゃ撫でられている間に、二人は家の中を動き回り、キッチンに立ったりして懐かしい顔をしていたようだが、わしは見る事も叶わずゴロゴロ。
そうしていたらお昼には頃合いとなったので、わしから食材を奪い取った二人は勝手に料理し、住人にも振舞っていた。最初からお礼はこっちでよかったのでは?
お腹パンパン、モフモフにも満足した住人にお礼を言ったらまたドライブして、ハンターギルドにお邪魔した。
「にゃんでハンターギルドにゃの?」
「いや~。つい懐かしくって。変わってないな~」
エミリとの思い出の場所ではないので、ベティは自分の為に来たっぽい。なので、どんな活動をしていたか聞いてみたら、エミリは初めて聞く話なので楽しそうにしていた。
しかし、その楽しい親子の会話を邪魔する無粋な奴も居る。
「シラタマちゃん! なんか売って行って!!」
スティナだ。久し振りにわしが来たから、獲物を売って欲しいと慌てて下りて来たみたいだ。
「わかったから挟むにゃ~」
わしだけスティナの豊満な胸に挟まれて拉致られたら、どんな獲物がいいか聞いて、白い巨大魚とアメリカ大陸で狩って来た獲物を売ってあげた。
残念ながら黒ムササビは新種と言うわけではなかったので値段はボチボチだったが、黒アルマジロは新種の上に甲羅の使い道があるそうなので、高値が付くらしいのでわしはウハウハ。
査定を待つ間、わしは「にゃしゃしゃしゃ」笑いながら後方にあるテーブル席に着いたら、ベティ達も同席して「白い魚だけで十分過ぎるのに黒い獣の値段を気にする必要あるの?」って、呆れられた。
しかし、査定は査定だ。わしの仕事の成果を安く買い叩かれては、たまったもんじゃない。全てリータ達が倒した獲物だけど、わしも荷物持ちで頑張ったんじゃ!
ベティがジト目で見て来るので、自分の成果じゃなかったと思い出してしまったので頭をポリポリ掻いていたら、査定で暇そうなベティはボツリと呟く。
「てか、女王蜂って、まだギルマスしてたんだ」
「女王蜂って……スティナのことにゃ??」
「あ、シラタマ君はあの子の二つ名知らないんだ」
どうやらスティナは、ベティより五年下の後輩で、ハンターとしてブイブイ言わせていたようだ。それも桁違いの飛ばしよう。
十組以上のパーティに所属し、自分は何もせずにお金を運ばせていた事から、働き蜂に蜜を運ばせる女王蜂と呼ばれていたらしい。
一説にはギルマスになれたのは、当時のギルマスの弱味を働き蜂に探させて握ったから、若くして異例の大出世をしたのだと噂されているんだって。
「へ~。スティナらしい話だにゃ~」
「てか、シラタマ君は女王蜂と仲良さそうだったけど、働き蜂なの?」
「わしは自由な猫にゃ~。女王蜂の配下になるわけないにゃろ~」
「女王蜂の配下? 久し振りに聞いたわね……」
わしとベティが喋っていたら、査定が終わったと告げに来たスティナが近くに立っていた。
「シラタマちゃんは誰から聞いたのかな~?」
「わしにだって情報網はいっぱいあるにゃ~」
「それはおかしいわね……口封じは済んでいるはずなのに」
「にゃ!? やっぱり不正してギルマスになったにゃ!?」
「やっぱりって何よ! やっぱりって!!」
「ヒゲを引っ張るにゃ~」
わしの言い方が悪かったので、スティナに暴力を振るわれるのであったとさ。
でも、スティナも口封じとか言うから、わしも勘違いしたんじゃよな~。
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