221 戦争 1


 戦争が始まり、兵士はゆっくりと前線を上げる。地上の敵はまだ動かないが、気球が迫り来る。だが、魔法使いの風魔法を受けて、押し戻されている。


「ちび……」

「ああん!?」

「ノエミさん。わし達も行くにゃ~」

「わかったわ」


 わしはノエミをお姫様抱っこして走ろうとしたが、リータとメイバイの目から怪光線が出たから、おんぶに変えた。

 ノエミはわしより少し背が高いぐらいなので、見た目的にはちょうどいい。そういう意味じゃないから、光線を飛ばさないでくださ~い。


 わしはリータ達から逃げるように走り出し、大きく街を回り込んで、戦闘が行われていない後方から侵入することにする。


「見張りがいるわよ。どうするの?」


 出来れば気付かれずに侵入したいんじゃよな~。マーキングした場所に転移するか? ノエミに見せたくないから却下じゃな。

 見張りは多くは無いが、隠れる場所が無いから外壁から丸見えで近付けない。人なんかがいたら、すぐにバレて兵が集まるじゃろう……あ、人じゃなければいいんじゃ。


「わしが見張りを倒して来るにゃ」

「すぐに見付かるわよ」

「こうするんにゃ」


 わしは変身魔法を解いて、三本の尻尾を揺らす猫又に戻る。


「猫!?」

「元々、猫だにゃ~」

「念話……それなら敵兵が見ても、こちらの兵とわからないか」

「警戒はされるかもしれないけどにゃ。行って来るにゃ~」

「気を付けて!」


 と、言うやり取りをして、一瞬で見張りを倒し、人型に戻って、ノエミを抱えて街の外壁に飛び乗った。


「猫の姿になる必要あったの?」

「えっと~……あったかにゃ?」

「なんでわっちに聞くんじゃい!」


 無事、街に侵入できたのに、何故こんなやり取りをしてるかと言うと、本当に一瞬で見張りを倒したからだ。

 兵士の目に映らない速度で移動し、一人ずつ意識を刈り取って、二、三分でケリがついた。わしですら、猫に戻った必要が無いと思ったわけだ。


 見張りは全員アジア系の顔。服装もアジア系に近いな。西洋の血が混ざっているのか、髪の毛は茶髪もいるな。猫耳族は純血のアジア人じゃけど、山向こうはハーフが多いのかな?


「そいつらどうするの?」

「とりあえず、外に埋めておくにゃ」

「埋める?」


 ノエミの質問はそこそこにして、わしは外壁から見張りを全て落とすと、風魔法でキャッチし、土魔法で顔だけ出して埋めてしまう。

 これだとすぐに見つかってしまうかもしれないので、カムフラージュで地面に似せた屋根を付けておいた。上からは土にしか見えないから、少しぐらい時間稼ぎが出来るだろう。


「これでどうにゃ?」

「この角度じゃまったくわからないわ。でも、無駄に魔法を使うのね。魔力は大丈夫?」

「ぜんぜん大丈夫にゃ~」

「シラタマ君は、魔力量が多いのね」

「まぁにゃ。それより、あの辺を見てくれにゃ」


 わしは光の線が見える場所を指差す。


「空? 何かあるの?」

「白い獣から光の線が伸びてる話をしたにゃろ? それがあそこにあるにゃ」

「見えない……ちょっと待って」


 ノエミは目をつぶり、呪文を呟くと目を開ける。


「見えた! 本当に光の線がある」

「その魔法はなんにゃ?」

「魔力を視覚化する魔法よ。うわ! シラタマ君。凄い魔力の塊ね。それに魔力を吸収してる?」

「いにゃ~ん。えっち~」

「なによそれ!」


 そりゃ、いきなりわしの秘密を見られたら恥ずかしいじゃろ。変わった魔法を使いやがって。


「シラタマ君も、吸収魔法使えるんだ」

「ノエミさんも使えるにゃ?」

「まぁね。でも、集中力がいるから、常時発動なんて出来ないわ」

「そうにゃんだ。でもそれがあれば、魔力量を簡単に増やせるから便利にゃ」

「シラタマ君も、そこに気付いているのね。実は、この事は秘密にしているの」

「にゃんで?」

「私が優位に立てないじゃない!」


 わしも誰にも教えてないからわからんでもないが、国に仕える魔法使いとしてどうなんじゃろ? まぁわしがとやかく言う事でもないか。


「そろそろ行こうかにゃ」

「レディーの秘密だから、誰にも言わないでね」

「ちびっこがレディーって……にゃんでもにゃいです!」


 ノエミの頭に角が生えたので、丁重に謝った。そして、ノエミをおんぶしてぴょんぴょんと屋根を跳ねる。怒りの収まらないノエミのポコポコを受けながら……


 うん。リータとメイバイと違って軽い。こんなポコポコ、いくらでも受けてられるわい。お、光の線はあの屋敷から出ておる。アレは……ロランスさんの屋敷。壊したら怒られそうじゃが、多少は許してもらうとするか。



 ノエミのポコポコを受けながら、目的地のロランス邸に到着すると、わしはノエミに声を掛ける。


「いつまでポコポコしてるにゃ~」


 そう。目的地まで、ノエミのポコポコは続いていた。


「シラタマ君が痛がらないからじゃい!」

「シーーーにゃ! 大きな声を出すにゃ~」

「あ……」

「それより、この屋敷の中で魔法陣が使われているにゃ。昨日、広場に入った時に魔法のせいでバレたと言ったにゃろ? どうもわしには見えない魔法みたいだから、ここにもあるか、さっきの魔法で確認してくれるかにゃ?」

「そんな魔法が使われているの? ちょっと待って」


 ノエミはさっきと同じ呪文を唱え、目を見開く。


「あ、この屋敷全体を覆うように、魔力が見えるわね」

「やっぱり……気付かれずに入れるかにゃ?」

「ここはお姉さんに任せなさい!」

「お姉さんって……」

「ああん!?」

「にゃんでもにゃいから、早くやってにゃ~」

「わかったわよ!」


 ノエミは長い呪文を唱え、屋敷の敷地に手を伸ばす。すると、空間が揺らめき、わし達が通れそうな穴が見えた。


「そんなにもたないから、早く通って!」

「はいにゃ~」


 わしはノエミを抱え、一気に穴を通り抜ける。そして、屋敷の石畳を走り、屋根に飛び乗る。


「ふぅ。上手くいったわね」

「いまのはなんにゃ?」

「魔力を同調させて、ほころびを作る魔法よ。魔法で出来た罠なんかには、持って来いなの」


 さすがは魔法部隊副隊長。いろんな魔法を知っておるのう。いや、年の功か?


「へ~。便利だにゃ~」

「そうでもないわ」

「にゃ?」

「かなりの魔力が必要だから、そうそう使えないの」

「そうにゃんだ。いまの魔力はどれぐらい残ってるにゃ?」

「半分を切ったところね」


 早っ!? 戦闘もしてないのに、もうそんなに減っているのか。


「この後、にゃにが起こるかわからにゃいし、心許こころもとないにゃ~」

「そこはシラタマ君の出番よ」

「にゃ~?」

「シラタマ君の魔力を吸収させて!」

「いいにゃ。攻撃魔法を出せばいいかにゃ?」

「うん。さすが吸収魔法の使い手。話が早いわ」

「どれぐらい必要かわからにゃいから……【土玉】にゃ」

「もらった!」


 わしは、魔力で作った野球ボール大の【土玉】をノエミに手渡す。ノエミは呪文を唱え、魔力を吸収して【土玉】をゆっくり消していく。


 わしと違って時間が掛かっておるな。これでは、簡単な魔力の増加方法ってわけにはいかんな。けっこうな年月が掛かってしまう……ノエミは四十代だから、いまの魔力量があるのかもしれんな。


「まだいるにゃ?」

「小さい玉の割に魔力が多いから、あと二つでいいわ」


 わしはノエミのリクエスト通り、二個の【土玉】を作り、余分にゴルフボール大の【土玉】を十個作り出す。


「ほい。念の為、小さいのも渡しておくにゃ」

「ありがとう」


 ノエミの魔力が回復すると、わし達は屋敷の探索に取り掛かるのであった。




  *   *   *   *   *   *   *   *   *




 その少し前、リータとメイバイは……


「「お願いします(ニャ)! 私達も戦争に参加させてください(ニャ)!!」」


 この軍の最高責任者であるアンブロワーズ王に頭を下げていた。


「ならん」

「お願いですニャー。私達はフェンリルと戦って、攻撃も通じていましたニャー。役に立ちますニャー」

「……そうは言っても、猫がお前達を守る為に、ここに置いたんだぞ?」

「わかっています。それでも、シラタマさんだけを戦わせたくないのです」

「私の国が悪いですニャー。少しでも罪滅ぼし、したいですニャー」

「………」


 二人の言葉にアンブロワーズは悩む。何故、悩んでいるかというと、先程、リータはドスンドスンと、メイバイはダダダダダとシラタマを埋めていたので、戦力になると考えてしまっていたからだ。

 それと、二人の決意の眼差しも悩む原因となっている。しかし、安全面を考えると参加させるわけにはいかない。アンブロワーズは断ろうとする。そこに、リータ達を助ける者が現れた。


「王殿下。私が彼女達と戦います。それで、許可を頂けないでしょうか?」

「イサベレ……足手まといになるぞ?」

「シラタマのパーティメンバーです。いつもシラタマの近くにいたのなら、それなりの修羅場を乗り越えて来ているはずです」


 イサベレがアンブロワーズを説得していると、チャンスだと思ったリータとメイバイは会話に入る。


「そうです! いつも協力して獣を狩っています」

「シラタマ殿は、いつも私達主導で戦わせてくれますニャー!」

「殿下。ご許可を」

「……わかった。その代わり、この事は自分で報告するのだぞ。あいつと関わると、子供みたいなケンカになってしまうからな」

「「「はい! (それは王様も悪いんじゃないかな~?)」」」

「なんだ?」

「「「にゃんでもにゃいです」」」

「??」


 イサベレ、リータ、メイバイは、不穏な考えを気付かれそうになり、何故かシラタマの口調でごまかす。本当に何故かわからない。


 その後、イサベレが持ち場に向かうと言うので、二人はあとをついて行く。


「「ありがとうございます(ニャ)!」」

「ん。気にしなくていい」

「いえ。イサベレさんに助けてもらえなかったら、私達は何も出来ませんでした」

「どうして助けてくれたニャー?」

「二人は私の姉妹。姉妹の一員の私が助けるのは当然」


 イサベレの言葉に、リータとメイバイは首を傾げる。


「姉妹? いつから私達みんな、姉妹になったのですか?」

「みんなシラタマと一緒に寝たから?」

「イサベレさんも、シラタマ殿と寝た事があるニャ?」

「ん。ベッドであんな事やそんな事をした」

「「あんの浮気猫!!」」

「浮気じゃない。本気」


 リータとメイバイが怒りの表情を浮かべても、イサベレは涼しい顔をしたままだ。


「もっと悪いですよ!」

「あとで埋めるニャー!」

「そう怒らないで。私はシラタマの子種を貰ったら身を引く」

「イサベレさんはそれでいいのですか?」

「ん。子種を貰ったら、どうせ長く生きられないからいい」

「どういうことニャー?」


 イサベレの長く生きられない発言に、二人の怒りが少し収まったようだ。


「私のお母さんもお婆さんも、子供を産んでから十年きっかりに死んでいる。私もそうなるから、一緒にいたらシラタマを悲しませる」

「シラタマさんは知っているのですか?」

「ん。知っている」

「シラタマ殿は何か言ってたニャ?」

「前に女王陛下が無理矢理くっつけようとした時に、私を殺したくないと怒っていた」

「シラタマさんらしいですね」

「そうだニャー」

「ん。かわいい殿方……お喋りはここまで。合図が来た!」



 アンブロワーズの指示で、上空に光の玉が上がる。それを見た兵士は声を張りあげ、獣との戦闘が始まるのであった。

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