302 バハードゥに報告にゃ~


 シラタマが高笑いしながら白タコの腕を斬り落としていた少し前、リータ達は白タコの触手と戦っていた。


「マリー。火魔法ちょうだい!」

「すみません。もう、魔力が……」


 アイ達は、切り刻まれても向かって来る触手に苦戦をいられている。


「ワンヂェンちゃんは、火魔法使える?」

「ウチは生活に役立つ程度しか使えないにゃ~」

「じゃあ、枯れ木に火をつけて。それで燃やすわ。この布、使ってちょうだい」

「わかったにゃ~!」


 ワンヂェンはアイの指示に従い、落ちていた木に布を巻き付けて火をつけ、マリーやエレナに渡す。その燃える木の先端を、切り刻まれた触手に近付けると動きは止まる。

 それでも多くの触手がそのまま残っており、防戦一方で終わりが見えない。


「火、以外に、何か弱点は……」


 アイが打開策を考えているその時、辺りが明るくなった。


「なに、あの大きな光の槍……」

「すごいです……」


 アイはシラタマの【大光槍】を見て驚きの声を出し、マリーは尊敬の声を出す。その他のアイパーティも似たような反応を示し、動きが止まってしまった。

 そんな中、シラタマの次の魔法、【大土槍】を見たリータは、皆に声を掛けて現実に引き戻す。


「皆さん! 気を抜かないでください!!」

「え、ええ。でも、どうする?」

「シラタマさんが、ヒントをくれました。何も焼くだけが、倒す方法じゃありません。動きを封じるだけでよかったんです!」

「なるほど……エレナ、みんなに矢を配って!」

「了解!!」


 リータの考えをすぐに理解したアイは指示を出し、エレナは手持ちの矢を皆に配る。その姿を横目に、リータは魔力を温存していた二人にも指示を出す。


「ワンヂェンさん。コリスちゃん。私達は、土魔法で動きを止めますよ!」

「わかったにゃ~」

「わかった~」


 これより、皆は手分けして矢や土の槍を触手に突き刺し、細か過ぎる触手には、炎で焼き払う。

 こうしてリータ達の戦闘は、終わりに近付くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 リータ達が触手の動きを封じている間、わしは串刺しにした白タコの腕を斬り続けていた。


「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ」


 高笑いしながら……


 お金が無限に湧き続けるのだから致し方ない。しかし、無限に思えた再生にも、終わりがやって来る。


 あら? 再生が遅くなったと思ったら、止まったか? いや、すんごく遅くなっただけか。ここが潮時じゃな。トドメを刺すとするか。


「【大光一閃】にゃ~!」


 わしは巨大な光の剣を作り出すと、縦に振り下ろす。このままでも死ぬと思えたが、念のため素早く海を走り、横に移動してもう一度振り下ろす。


 よっつに切り分けたけど、これでどうじゃ? ……まだ動いておる。触手も次元倉庫に入ったし、これも入るかな?


 わしは試しに白タコを次元倉庫に入れようとすると、反発されずに、入れる事に成功した。


 よし! ミッションコンプリートじゃ。辺りはえらい事になったけど、砂浜じゃし、そのうち戻るじゃろう。土の槍だけ元に戻してっと。

 触手もどうなったか確認しておくか。出した瞬間、おっちゃんの首に絡み付くかもしれんしのう。


 わしは次元倉庫から触手を一本取り出すと、動く気配が微塵も感じ取れなかったので、安心して仕舞う。

 そうして高笑いしながら、スキップで皆の元へ向かうのであった。





「にゃ~しゃっしゃっしゃっ……しゃ~~~?」


 皆の姿が目に入ると地面に座り込んでいたので、笑い声から疑問の声に変わる。


 こんな所まで飛んで来ておったんか……しまったな~。時間を掛けている場合じゃなかった。触手は……矢や土の槍が刺さっておる。アイ達は触手の動きを封じてたってところか。それよりも、皆の心配が先じゃ。


「みんにゃ! 怪我はないにゃ?」

「ええ。なんとかね」


 わしの質問に、アイが答えてくれた。わしはホッと胸を撫で下ろし、現状を聞いて触手を次元倉庫に入れてしまう。すると、コリスがモフッと抱きついて来た。


「モフモフ~。さっきの食べないの~?」

「そうじゃな~……帰ってから食べようか?」

「え~! いっぱいがんばったから、おなかすいた~」

「わかったわかった。ちょっと待ってろ」


 わしはコリスの我が儘に負けて……いや、頭をモグモグされたから、調理を始める。大きな触手を一本取り出したら、塩で軽くぬめりを取り、水洗いして串にぶっ刺す。

 皆が無言でわしの作業を見ているので、圧力に負けてもう二本取り出し、切り分けて串を刺す。ちなみに、ルウの腹の轟音がうるさかったから大きめの一本を、丸々食べさせるハメになった。

 串に刺した触手はエミリ特性醤油もどきを塗って、それを直火で焼くだけ。いい匂いが漂うと、コリスがわしの尻尾をモグモグするので、触手を刺身にしてみた。それを醤油もどきに付けて、コリスの口に放り込む。


「おいしい! あ~ん」

「ほい!」

「モグモグ……もっと~」

「わしも食べたいから、これにちょっと付けて自分で食べような?」

「わかった~!」


 それじゃあ、わしもひと切れ……おおう。うまいのう。こないだ倒した黒鮪くろまぐろの比じゃない。もっと味わいたいんじゃが……


「みんにゃも食べるにゃ?」

「「「「「「はい!」」」」」」


 ひとまず皆には、わし用に切り分けた物を食べさせ、その間に触手をスライスする。リータとメイバイに、焼いている触手を見てもらおうとしたら、メイバイが猫になっていたので、リータしか役に立たない。

 当然、黒猫は役に立たないので、わしの口には刺し身が入る事はない。

 串焼きが頃合いになると皆に振る舞い、やっとわしも食べる事が出来たが、おかわりはまた今度じゃ! コリスの大きな串焼きを、恨めしそうに見ないで!!

 エレナには、報酬の件をブーブー言われたが、それも今度じゃ!



 つまみ食いが終わると皆を飛行機に乗せ、ぶっ飛ばしてビーダールに帰る。街にはバスで入り、アイ達を高級宿屋で降ろしてから、わし達は城に用があるので発車する。

 城に着くと、バハードゥに仕事の報告に来たと言ったら、すぐに面会する事となった。


「もう終わったのか!?」

「そうにゃ。確認して欲しいんにゃけど、大きいからバラバラにして持って帰って来たにゃ。どこに出そうかにゃ?」

「どれぐらいの大きさだ?」

「そうだにゃ~……長さで言うと、50メートルぐらいになると思うにゃ」

「そんなにか!?」


 バハードゥは伝説の白い巨象を思い出したようなので、補足で下手なタコの絵を書いて説明する。その結果、四分割した胴体の一部と触手を訓練場で見せ、依頼完了書を発行してもらった。

 仕事も終わり、帰ろうとしたら食事に誘われたので、ご相伴にあずかる。少し国の話をして友好条約の書面を受け取ったが、読むには時間が掛かりそうだったので、帰りにサインすると言って宿に戻る。


 わし達が城から出ようと歩いていたら、ハリシャが追い付いて来た。なんでも、コリスが宿で何か言われないか心配しているようだ。だけど、全身でモフモフしたいだけじゃろ?



 高級宿屋に戻ると皆でお風呂を済まし、コリスを寝かしつけると、さっちゃんとハリシャのモフモフうるさいVIPルームから抜け出す。そして条約書に目を通そうとバーカウンターに行ったら、アダルトフォーに捕獲された。


「スティナ達は、また飲んでるにゃ~?」

「それがね~。美味しいけど高いから、量を飲むのは怖いわ~」

「高級宿屋だからにゃ~。まぁ明日、明後日と、いっぱい遊ぶ予定なんにゃから、控えたほうが懸命にゃ」

「たしかに……でも、部屋に帰ったら、買って来たお酒に手を出しそうなのよね」

「ホント好きだにゃ~。一番安いのなら、一杯だけおごってあげるにゃ」

「やった! マスター。全員にボトル一本!!」

「一杯って言ったにゃ~!」

「私達の一杯は、一本なのよ。ふふん」


 あ……マスターから奪い取って、ラッパ飲みしやがった。これでは返品もできん。注意してもセクハラされるのがオチじゃし、一番マシなガウリカのそばに寄っておこう。


「アイ達はどうしたにゃ?」

「くたくただから、先に休むと言っていたよ。何をして来たんだ?」

「バハードゥから仕事をもらってにゃ。それで疲れたみたいだにゃ」

「だからか」

「そう言えば、ガウリカには仕事を頼んだけど、他はにゃにをしていたにゃ?」

「あたしと一緒に観光兼買い出しと、新商品のアドバイスをしてもらったよ」

「ガウリカのお店の新商品にゃ? ちゃんとアドバイスしてくれたにゃ? 邪魔ばっかりしてそうにゃ~」

「そうでもない。味見役に、服の見立て、なんてったって目利きのエンマさんがいるからな。助かったよ」


 あ~。たしかに各分野のエキスパートが揃っているから、商売するにあたっては最強の布陣か。


「そうにゃ。スパイスのほうはどうなったにゃ?」

「塩はまだ入荷していなかったが、他なら調査済みだ。ほい」

「ありがとにゃ~」


 わしはガウリカから紙を受け取ると、スパイスの料金表に目を通す。


 ふむ。仕事が早いし丁寧じゃ。最安値と最高値。卸しの数量まで調べてくれておるのか。これは、移動費用だけでいいと言われていたが、別料金を払わなくてはいけないかもな。

 お金だと受け取らんじゃろうし、ガウリカにはいい酒をもう一本付けるか。


 わしはマスターを呼んで、そこそこの値段の酒をボトルで持って来させる。そしてグラスに注いで二人で飲むが、全員寄って来たので皆にも振る舞い、条約書を読む事も出来ずにお開きになる。

 スティナ達には酒を預かって欲しいと言われたので、部屋まで行って次元倉庫に仕舞うが、犯されそうになって、着の身着のまま逃げ出した。


 その後、リータ達のところで寝ようとしたら鍵が閉まっていて、ノックをしても反応がない。疲れて眠っているようなので、仕方なくさっちゃんの部屋で休む事にする。

 さっちゃんの部屋の前にはソフィが見張りをしていたので、鍵を開けてもらって中に入る。そしてさっちゃんのベッドに潜り込むと、モフモフ寝言が聞こえて来たが、わしも疲れていたようなので、すぐに眠りに落ちた。



 翌朝、早くに目を覚ますと、寝惚けるさっちゃんとコリスを車に積み込み、リータ達にも手伝ってもらい、手分けして皆を積み込んでもらう。

 全員積み込んで出発しようとしたら、ハリシャも乗り込んでいたので排除しようとするが、バハードゥに許可をもらっているとのこと。

 それならいいかと王都を出て、飛行機をぶっ飛ばし、わし専用プライベートビーチ、以前エミリと来た無人島に着陸した。





「「「「「うわ~~~!」」」」」

「にゃ!? だから走るにゃ~!!」


 わしの制止を聞かず、約半数は海に走って行ってしまった。追うのも面倒なので、砂浜の切れる土地を整地して、海の家を作る。

 そして荷物を取り出すと、着替えるように皆を捕まえ、のぞくわけにもいかないので、海に必要な物も各種作る。


 パラソルに、横になれるベッドを十個。それに監視台も必要じゃな。砂浜はこんなもんか。サーフボードに浮き輪も同じ数作ってと……滑り台も必要じゃな。コリスも滑れるように、大きく作っておこう。


 わしが皆の為に土魔法でいろいろ作っていたら、続々と水着姿の女性が海の家から出て来た。皆の逸る気持ちを落ち着かせ、整列させると、注意事項を述べる。


「いいにゃ? 海は危険があるから、絶対に沖には出にゃいこと。それと、監視員の指示には従うことにゃ。あとは……」

「「「「「わ~~~~!!」」」」」

「聞けにゃ~~~!!」


 わしの注意事項を最後まで聞かず、海に飛び込む者、大多数であったとさ。

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