303 大絶叫にゃ~


 わしの注意事項を最後まで聞かず、アイパーティやアダルトフォー達は海に飛び込んでしまったので、残っている者に注意事項の説明をした。


「ソフィ。海に入りたいだろうけど、しばらく頼むにゃ。ごめんにゃ~」

「いえ。サンドリーヌ様の護衛が仕事ですから、これぐらいやらせてください」

「もしも危険な生き物が現れたら、コリスを頼ってくれにゃ。それと、通信魔道具も渡しておくにゃ。連絡をくれたらすぐに駆け付けるからにゃ」

「相変わらず心配性ですね。さっきも聞きましたよ。任せてください」

「あとは……」

「ほら、シラタマ殿。行くニャー」

「にゃ~~~」


 わしがソフィと話をしていると、メイバイに首根っこを掴まれて連行される。それに続き、リータとエミリも砂浜から離れて林に入る。

 前回来た時は女王からの緊急依頼が入ったので、その時に出来なかった島の探検に取り掛かろうという計画だ。


 しばらくメイバイに首根っこを掴まれていたが、危険があるかもしれないので降ろしてもらい、わしを先頭に歩く。

 しかし、木が行く手を阻むので、刀で斬り裂き、次元倉庫に入れながら中央に向けて進む。


「獣道もないニャー」

「少し坂になっていますかね?」

「あ! 果物がなってます」

「ちょっと待ってるにゃ」


 わしは皆の話を聞き、エミリの指差す木にジャンプして、果物をひと房もぎって戻る。


「バナナみたいだにゃ」

「ビーダールの露店でも売ってたニャー」

「ねこさん! 食べたいです」

「こうやって皮を剥くにゃ」


 エミリに見本を見せて皆でかぶり付くと、優しい甘味が口に広がる。なかなかうまかったので、もう一本、皆でモグモグしながら先へ進む。


 しばらくぺちゃくちゃ喋りながら歩くと林が切れ、開けた場所に出た。


「空から見た通り、何もないですね」

「いえ。あっちにも果物がなってます!」

「にゃ! メイバイ、頼むにゃ~」

「わかったニャ! エミリ、待つニャー」

「エミリちゃんには、別みたいですね」

「そうだにゃ~」


 エミリはいきなり駆け出したので、護衛のメイバイを追わせて、わしは辺りを見渡す。


 空から見ると島の中心に空間があって、あとは木と岩しか確認出来なかったから探検しがいがないと思ったが、果物が多くある島なのかもな。

 動物も小動物しかいないし、危険があるとしたら浜辺に何か来るぐらいか。ならば、ここに建てるか? 広さは十分あるし、小高くなっておるから少し高さを出せば、海を一望できそうじゃ。


「リータも、エミリ達と遊んで来ていいにゃ」

「いえ。ここに建物を建てるのですよね?」


 リータはニヤリと笑うので、不穏な空気を感じ、わしは恐る恐る質問する。


「えっと……その顔は、にゃんですか?」

「建物には必要かと思いまして……あ! 砂浜にも必要ですね」

「いや~」

「必要です!!」


 リータの謎の笑顔とやる気の正体はわかっているので、わしは黙々と家を建てる。時間が無いので、内装は気にしない。外装は屋根だけ瓦風に仕立てた三階建て。キッチン、トイレ、お風呂も完備してある。

 各部屋は、いまは広くとり、二階の一室だけ板張りにしてしまう。三階は狭くしてベランダを四方に付けた。ちょうど木より高くなったので、見張らしは最高だ。

 家が完成すると笑顔のリータの指示に従い、強化済みの猫又石像を屋根に、二個設置。それと、家を取り囲んだ壁の前にも、二個設置させられた。


「う~ん。猫要素が足りないでしょうか……」

「も、もう大丈夫にゃ! メイバイ達を呼びに行こうにゃ!!」


 うぅ。猫が瓦屋根の両サイドに乗っていると、お城みたいに見える。ここで止めないと、旅館じゃなくて、猫屋敷になってしまいそうじゃ。


 わしはリータの手を引っ張り、メイバイ達と合流する。メイバイは、エミリの指示を聞いて木に登り、果物を大量にとっていたようだ。

 その果物を次元倉庫に入れると、元来た道を軽く整地しながら戻る。砂浜に戻ると、皆は何事もなく、キャッキャッと遊んでいた。



 皆、海に入って楽しそうじゃのう。さっちゃんは、コリスを見てくれているのか。どちらかと言うと、コリスが見ているのかな? でも、尻尾でぶん投げるのはやめてあげて!

 あ、ちゃんと加減しておるのか。これなら、何も言わなくていいか。ワンヂェンが距離を取って浮かんでいるところを見ると、酷い目にあったのかもしれんが……


 アダルトフォーまで、歳を忘れて遊んでおるな。スティナの水着がエロイから直視できん。フレヤが作ったのか? よくもまぁ、あんな布の面積が少ない水着を着れるもんじゃ。

 アイ達も何人か、布の面積が少ない。前にフレヤに見せてもらった、ビキニアーマーか? 男はわししかいないのに、誰を誘惑する気なんじゃ。いや、男もいない。猫じゃもん。

 それよりも、ドロテは……


 わしはキョロキョロとドロテを探すと、監視台に座っていたので、そばに寄って声を掛ける。


「ソフィはドロテと代わっていたんにゃ」

「はい。順番で交代しています」

「ドロテには、料理を手伝って欲しかったんにゃけど……」

「もう少ししたら、アイノと代わる予定でしたので、呼んで来てもらえますか?」

「わかったにゃ~」


 わしがさっちゃんと遊んでいるアイノに近付くと、全員で水をバシャバシャかけられた。わしは着替えていなかったので、服までびしょびしょだ。

 怒りたかったが、怒ると皆の相手をしないといけなくなるので、グッと我慢してアイノの手を引き、その場をあとにする。

 そして、アイノに挟まれて……抱かれてドロテの元へ行くと交代してもらい、海の家のキッチンに移動する。

 ドロテにも抱かれて移動したので、エミリの料理を手伝っていたリータとメイバイに睨まれた。なので、わしはスリスリしながら料理を手伝う。


 わしの担当はお米。土鍋を数個作って米を炊く。エミリに試食させた時は作り方がわからないと言っていたので、ちょうどいいから炊き方を教えてあげた。

 蒸らす作業に入るとわしの仕事は無くなったので、砂浜から離れて誰も来ていない岩場で作業を開始する。


 ビーダールで塩を買えると踏んでいたけど、残念ながら当てが外れたな。面倒じゃが、わしがやるしかない。塩が無いと、味噌が大量生産できんからのう。

 ひとまず大きな鍋を土魔法で作ってと……海水を次元倉庫に入れる。これで、不純物はなくなるはずじゃ。塩と水を分離して入ってくれたら楽なんじゃけどな~。まぁそこまで贅沢は言えんか。

 次の工程は、海水が入った鍋を薪の炎でぐつぐつと煮る。【火球】を落としたらすぐなんじゃけど、塩が焦げそうじゃからな~。時間が掛かりそうじゃし、もう何個か鍋を作るか。






「モフモフ~」

「シラタマちゃ~ん……あつっ!」


 わしが時間を忘れ、鍋を増産して薪をくべていると、コリスに乗ったさっちゃんが現れた。


「にゃ? どうしたにゃ?」

「もうごはんが出来るから、呼びに来たのよ」

「王女様みずからとは、ありがとにゃ~」

「コリスちゃんが呼びに行くから、乗ってついて来ただけよ。それで、水なんて煮て、何してるの?」

「塩を作っていたにゃ」

「そんなので出来るの!?」

「海は塩辛いにゃろ? 水分を飛ばせば、出来るはずにゃ」

「なるほど~」


 わしとさっちゃんが話をしていると、コリスがくっつく。


「モフモフ~。おなかすいた~」

「ああ。そうじゃったな。行こう」


 コリスの催促にお昼を思い出したわしは、走って海の家に向かう。だが、みんなして、先に食ってやがった。カレーの香りには、誰も勝てなかったようだけど、待ってくれてもいいのに……

 遅れて着いてしまったので、コリスとさっちゃんには、わしが配膳。大きな皿に盛ったお米に、コリス用の甘口カレーをどばっとかけると、爆盛りカレーライスの完成だ。

 これまた大きなスプーンでコリスの口に放り込み、スプーンは食べないように念を押して、一人で食べさせる。


 そうしているとさっちゃんも催促して来るので、中辛を味見させる。だが、お子様のさっちゃんには少し辛いようなので、コリス用甘口カレーを振る舞う。

 ようやく自分の分を皿によそうと、辛口カレーライスを口に入れる。


「うまい、にゃ~~~!」


 わし、大絶叫。元の世界の味を思い出すので涙は必須。皆に笑われながら、モリモリ食べる。


「ねこさんのお口に合ってよかったです」

「さすがエミリにゃ。にゃ~~~」

「ウフフ。また泣かしちゃいましたね」


 エミリはわしの過去を知っているので、気持ちを汲んで笑う。皆は不思議そうな顔で見つめるが、カレーライスのうまさにそれどころではないようだ。



 皆のお腹が満たされて来ると、カレーライスに興味を持ったガウリカとエンマが、エミリに質問をしている姿があった。


「この米は、カレーとなかなか合うな。どこで手に入るんだ?」

「それに、このお肉。何の肉でしょう? すごく美味しいのですが」

「これは、ねこさんが持って来た食材なので、ちょっと……」


 エミリが答えに困っているので、おかわりを食べながらわしが答える。


「モグモグ。米は、わしの国で作られているものにゃ。モグモグ。肉は、昨日狩った白い生き物の肉にゃ」

「白い生き物!? どうりで美味しいわけです」

「その米は、売り出すのか?」

「いちおうそのつもりにゃけど、うちの国でも食糧難にゃから、もう少し先になるにゃ」

「そっか……それじゃあ、売る時には声を掛けてくれ」


 お! 米の普及をどうやろうか考えていたから、ちょうどいいかも? 西洋料理よりも、カレーのほうが米は合うからな。


「ガウリカがお得意さん第一号にゃ~」

「それは売れ行きを見てからだな」

「手厳しいにゃ~」

「でしたら、商業ギルドにも、卸していただけないでしょうか?」

「エンマも気に入ったにゃ?」

「珍しい食材を好むお方もいらっしゃいますからね」

「にゃるほど……あ! 米は炊き方の講習もしにゃいと、美味しく食べられないにゃ。量を買い取ってもらうには難しいかにゃ?」

「そうですね……一度買って、それっきりって人もいますので、広めたいのならば戦略は必要ですね」

「まぁ先の話だから、考えておくにゃ」


 わし達、商人組が和やかに商談していると、割って入って来る、アイツ……


「シラタマちゃん! 白い生き物ってなに!? どこに居たの!!」


 スティナだ。ギルマスとして、評価に関わるから食い付いたようだ。


「近いにゃ~。売ればいいんにゃろ? 売るから離れるにゃ~」

「本当!? やった~!!」

「挟むにゃ~!」


 わしがスティナの胸に挟まれると殺気が放たれるが、邪神が降臨して、違う怖さを味わう。


「私達の取り分は!!」

「だから、わかってるにゃ~。呪われるから近付くにゃ~!」

「どれだけくれるの!」

「みんにゃが戦っていた辺りにあった触手は全部あげるから、それで呪いを引っ込めてにゃ~」


 わしの言葉でエレナは舞った。まだ売値は決まっていないのに、味から高く買い取られると思っているようだ。

 邪神の舞いは怖いので、極力見ないようにハリシャのそばにわしは逃げる。


「ところでなんにゃけど、この島はわしが発見したから、猫の国の土地にしたいんにゃ。大丈夫かにゃ?」

「えっと……」

「ここはビーダールから離れているし、地図にも載ってないんにゃから別にいいにゃろ?」

「う~ん。お兄様に聞いてもらえますか? 私はその辺の話は詳しくないので……」

「じゃあ、位置だけ確認してくれにゃ。道からも、かなり離れているからにゃ」


 わしは地図を広げてハリシャに力説し、位置を覚えさせる。わしの力説のおかげでハリシャはこれなら大丈夫かもと言ってくれたので、味方になってくれるはずだ。ちょっと距離は水増ししたけど……



 これらのやり取りを見ていたアイパーティは、何やら不思議そうな顔で、わしを見て来た。


「どうしたにゃ?」

「さっきから出て来る猫の国って、山向こうの国の名前?」

「そうにゃ」

「それで猫ちゃんが我が国とか、ハリシャ様と交渉しているって事は……その国の要職に就いたの?」

「要職と言うか……王様にゃ」

「へ??」

「アイ達はまだ気付いてなかったみたいだにゃ。わしが猫の国の王様。シラタマ王にゃ」

「「「「「え~~~!!」」」」」


 あら? 絶叫しておるな。あ、そうじゃ。ついでにあの事も話しておこう。


「それと、報告が遅れたけど、リータとメイバイと結婚しましたにゃ。若輩者にゃけど、ご指導ご鞭撻べんたつ……出来る人はいなかったにゃ。にゃはははは」

「「「「「ええぇぇ~~~!」」」」」


 わしから結婚の話を聞いた、さっちゃんと猫の国の者以外の全員は、大絶叫するのであった。





「てか、さっちゃんは、ソフィ達に教えてにゃかったの?」

「だって、そのほうが面白いでしょ?」

「そうだにゃ~」

「「にゃ~はっはっはっはっ」」


 絶叫にまじり、わしとさっちゃんの高笑いも響くのであった。

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