304 旅館で一泊にゃ~


 昼食を終え、結婚報告をすると皆は大絶叫する事となり、海の家で酒盛りが始まった。どうやら皆、リータとメイバイに先を越され、やけ酒に走ったようだ。

 ひとまずわし達は逃げ出し、海に向かうさっちゃんとエミリの護衛を、リータとメイバイ、コリス、ワンヂェン、兄弟達に頼む。

 わしも誘われたが塩の製作があったので、忙しいからと断ってそちらに向かう。


 どうなったかな~? わ! マズイ!!


 わしは焦って火を消し、鍋を見つめる。


 失敗かと思えたが……成功してる? 焦げたようなにおいは薪のせいか。ビックリさせおって。てか、水は全て蒸発しておるけど、塩は焦げないのかな? 大発見じゃ! ……学校の教科書に載っていそうじゃし、人に話すのはやめておこう。

 まぁこれなら火加減を気にする必要も無く、塩を量産できそうじゃし、一気にやってしまおう。ついでにアレも作ってみようかのう。


 わしは時間を掛けて作る方法をやめて、大きな鍋に入れた海水を【火球】で一気に蒸発させる。そして、白い結晶を次元倉庫に入れて、それを繰り返す。

 こうして時間を短縮した事によって、予定より大量の塩を手に入れる事に成功したのであった。

 ちなみに使った鍋は、もう必要ないので、ゴツゴツした岩場の隙間に入れて固めておいた。平らにしておけば、次回来た時にも使いやすいだろう。



 それらが終わり、砂浜に戻ると、やけ酒していた生ける屍に取り囲まれた。


「にゃ、にゃんですか?」

「どうして私達が結婚できないのよ~!」

「知らないにゃ~」

「シラタマちゃん! 誰か紹介して~」

「猫のわしに言うにゃ~~~!」


 スティナの涙ながらの訴えを怒鳴って断るが、焼け石に水。全員に服を剥ぎ取られ、酒を浴びせかけられ、吸い付かれ、散々な目にあう。

 このままではわしの理性がぶっ飛びそうなので、先ほど作った物をおとりに、リータ達の元へ逃げ出した。


 そして「にゃ~にゃ~」泣きながら、海に飛び込む。リータ達が慰めてくれたが嘘泣きがバレて、めちゃくちゃ怒られた。怒りの表情でわしを睨んでいたから演技したのに……

 スティナ達の厄介さはわかっているから嘘泣きしなければ、怒るつもりはなかったらしいが、顔が怖かったんじゃもん!


 その後、十分にスキンシップをとって、機嫌を直したリータ達を連れて海の家に戻ると、生ける屍が、屍になっていた。

 わし達は手を合わせ、ひとりひとり、荷車に乗せるのであった。ホンマホンマ。



 皆を荷車に乗せると別荘に向けて歩き、中に入れて床に寝かせる。このままでは、体が痛くなるので、二階の板張りの部屋に家から持って来た布団を敷いて、寝床の準備をする。

 そうこうしていたら、息を吹き返した皆がお風呂を要求するので、お風呂の準備をして押し込む。


 その間、動ける者は食事の準備をし、そのメンバーで食べ始める。今晩のメニューはシーフードお好み焼き。下準備さえ済めば、遅れて来ても自分で焼けるので、エミリの負担が減る。

 ついでにタコ焼き器も土魔法で作ってみた。生地を水で少し薄めてコロコロと作っていたら、エミリが何をしているのかと聞いて来たのでコソコソと答える。


「こんなの、お母さんのレシピに無かったです」

「お母さんは、わしと生まれた地方と違ったんにゃ」

「地方?」

「ビーダールでも、食事が違ったにゃろ? それと一緒にゃ」

「へ~~~」

「ほい。出来たにゃ」


 わしはエミリの皿に、タコ焼きを数個乗せるとエミリ特製ソースをかける。するとエミリは形を確認して、口に入れようとする。


「待つにゃ!」

「へ? あ、あつっ! はふはふ」

「一気に入れちゃ、やけどするにゃ~」

「言うのが遅いです~。もうやけどしちゃいました~」


 大口を開けて口の中を見せて来るエミリに謝罪しながら、わしは水の入ったコップを渡す。


「ゴメンにゃ~。でも、正式な食べ方は、それが正しいんにゃけどにゃ」

「こんなに熱いのにですか?」

「熱いのを、はふはふやって食べるのが美味しいらしいにゃ」

「猫さんは、どうやって食べるのですか?」

「わしは、少し待ってかにゃ? 猫舌にゃもん」

「プッ! あははは」


 わし達はコソコソと話をしていたが、声が大きくなったせいで、さっちゃん達がタコ焼きに興味を持つ。わしは熱いから注意して食べるように言ったのに、さっちゃんがやけどして喧嘩が勃発。

 「にゃ~にゃ~」喧嘩していると、ちょうど頃合いになったのか、リータとメイバイに、わし達はタコ焼きを放り込まれた。

 さっちゃんは美味しく食べられたが、わしの食べたタコ焼きはまだ熱くてやけどした。だが、久し振りに食べたので涙が出る。


 涙を拭い、コリス達にも食べさせて楽しくお喋りしていると、スティナ達がお風呂から上がって来た。もう完全復活したようで、お腹がへったと寄って来るので、お好み焼きやタコ焼きの作り方を見せて、あとは勝手にやってもらう。

 そして笑いながら酒を片手に、マリーのお好み焼きをひっくり返す様を見ていると、残念な声が聞こえる。


「あ~……失敗しちゃいました」

「それぐらいにゃら、まだにゃんとかなるにゃ。くっつくようにまとめるにゃ」

「こうですか? でも、ひび割れが……」

「そんにゃの、ソースを塗れば気にならないにゃ~」

「そうなのですか……」

「お腹に入れば、にゃんでも一緒にゃ~。それじゃあ、わし達はお風呂に行くにゃ~」


 マリーは何か考え込んでいたが、わしはそれを茶化してから、お風呂に入っていない者に声を掛けて立ち上がる。すると、スティナに捕まった。


「シラタマちゃん! さっきのアレちょうだい!!」

「にゃんでいちいち挟むにゃ~!」

「先払いで払っているんじゃない。嬉しいでしょ?」

「嬉しくないにゃ~!!」


 まったく……リータ達の殺気が怖いからやめてくれ。いや、マジで!

 このままでは怒られるの決定じゃし、さっさと出して逃げるが吉じゃ。でも、一口しか食べてないんじゃよな~。この窮地きゅうちを脱するには、また作るしかないか。


 わしは、さっき作ったモノ。触手の干物を取り出す。塩を作る時に熱が酷かったので、薄くスライスした触手を置いておいたら、いい塩梅で水分が抜けた。見た目はスルメっぽいが、桁違いのうまさだ。



 スティナ達から逃げ出したあと、コリス達とお風呂に入ったら、さっちゃんが我が儘を言って来たので、お風呂の外に露天風呂を作る。また、外で入りたいんだとか……


「う~ん……外が蒸し暑いから、あまり気持ちよくないね」

「そうだにゃ~。水に変えよっかにゃ?」

「あ! それいいね。やって~」


 わしはお湯を吸収魔法で消し去ると、水の玉を出して湯船に落とす。するとさっちゃんは……


「にゃ~! バシャバシャ泳ぐにゃ~」


 水しぶきをあげて泳ぎ出す。さらにワンヂェンも加わり競争しだすから、たまったもんじゃない。コリスまで、さっちゃん2に変身して泳がないで欲しい。

 仕方がないのでわし達は室内風呂に移動して、ゆっくりとする。しばらく、リータとメイバイとエミリに撫でられていると、さっちゃん達がくたくたになって戻って来た。


 コリスに負けて何度も挑戦したらしいけど、しらんがな。勝てるわけがないじゃろう。


 皆、湯船で船を漕ぎ始めたので、慌てて外に連れ出し、水分を消し去って寝室に移動する。なんとかさっちゃん達は運ばずに済んだが、食堂に行くと、スティナ達が死んでいた。

 このまま寝かせてもいいが、寝室に運んであげる。せかせかと全員を寝室で雑魚寝させたら、わしは三階のバルコニーに移動する。そして設置したベンチに腰掛け、潮風を感じながら酒を片手に条約書に目を通すのであった。





「猫さん……」


 長い時間、一人で条約書と格闘していたら、後ろから誰かに声を掛けられた。


「にゃ? ……マリーにゃ?」

「はい」


 振り返ると部屋の中は暗く、誰だかわからなかったので、声で当たりを付けると当たっていたようだ。

 マリーはわしに声を掛けると、静かに隣に座る。


「どうしたにゃ?」

「ちょっとショックでした」

「にゃ~?」

「結婚の事です……」


 あ! マリーもわしと結婚したかったんじゃったか。どうしてわしみたいな妖怪と結婚したがるのか、いまだにわからん。でも、マリーはお昼から少し元気がなかったのは知っている。どうしたものか……


「なんで結婚しちゃうんですか~」


 わしが返答に困っていると、マリーは涙ながらに訴える。


「う~ん……いまから話す事は、秘密にしてくれるかにゃ?」

「ぐすっ……なんですか?」

「本当は、まだ結婚する気はなかったんにゃ……」


 わしは結婚の経緯を話す。異種族どうしの結婚を印象付けられる策略。その策略が裏で暗躍され、断れなかったこと。

 マリーはわしの話を黙って聞いていたが、次第に目が輝き出した。


「それじゃあ、結婚する気はなかったのですね!」

「あ、それはあったにゃ」

「え……」

「タイミングの問題にゃ。まだ結婚する気がなかっただけで、いつか、どちらかと結婚していたと思うにゃ」

「そうなのですか……」

「そんにゃ顔しないでにゃ~。わし達の関係は、今までと変わらないにゃ~」

「関係?」

「友達にゃ。マリーとは、初めて話した人間の友達第一号にゃ。これは、一生変わらないにゃ」

「ト・モ・ダ・チ……」


 その言い方だと、ブサイクな宇宙人みたいじゃな。と、アホな事を考えていないで、もうひと押ししなくては。


「大事にゃ友達第一号には、誰にも話していない、わしの秘密を教えてあげるにゃ」

「猫さんの秘密ですか……」

「わしはおそらく、千年生きるにゃ」

「え……」

「キョリスでたぶん、三百年生きているからにゃ」

「そんなに長生きじゃあ……」

「そうにゃ。ここに居る者、全員を、いつか看取ってさよならするにゃ」


 わしの発言に、マリーは幾多の別れを想像したのか涙ぐむ。なので、わしはマリーの頭を優しく撫でて、言葉を続ける。


「心配しなくても大丈夫にゃ。みんにゃが居なくにゃっても、また友達は出来るにゃ。それに、またマリーと出会えるかも知れないしにゃ」

「私と出会えるわけないじゃないですか……」

「おっかさんから聞いた話だと、良い行いをしていると、記憶を持ったまま生まれ変われるんにゃって。信じるかどうかは、マリーしだいにゃ」

「猫の言い伝えですか?」

「そんにゃもんにゃ」

「じゃあ、頑張って私も猫に生まれ変わります!」

「にゃ!? そこは人間にしてにゃ~」

「お似合いじゃないですか~」

「猫だと……」


 わしは猫のデメリットを懇々こんこんと説明し、夜が更ける。マリーもさすがに虫を生で食べたくないらしく、人間に生まれ変わる事にしたようだ。

 絶対に探し出してくれと言われ、その時には結婚する約束をしてしまったが、どうなることやら。


 マリーが話し疲れて眠りに就くと、寝室に抱いて運んで、わしもそのまま眠りに落ちるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る