584 移民政策にゃ~


 猫の街の役場に帰ったわしは、ポポル親子を双子王女に紹介し、これからの話は二人の仕事が終わったあとにする事になった。

 そうしてポポル親子は手の空いている職員に預け、街の案内を頼む。あとで聞いたら二人とも歩かせてもらえず、ずっとモフられて帰って来たんだって。


 わしは双子王女に簡単な説明をしたら、ウサギ族の今後を考えると言って、縁側でお昼寝。起きたら我が家でささやかな歓迎会をして、食事が終われば双子王女との戦いだ。


「まだ構想段階なんにゃけど、五千人は受け入れようと思うにゃ」

「「どこへですの?」」

「どこって……猫の街にゃ」

「「そんな人数無理ですわ!」」

「そうかにゃ?」


 双子王女が反対するので、猫の街の地図を広げて説明する。


「この街の人口は、一万人ちょっとにゃろ? 民が生活している場所は、面積の五分の一以下にゃ」


 わしは地図を見ながら商売が活発な大通りや居住区域、活動がある場所を丸で囲む。


「街の規模に比べたら、人口がまったく足りてないにゃ~。二人も足りないってボヤいていたにゃ~」

「それはそうですけど……一気に増やすと問題が多く起きますわ」

「そうですわ。食糧も仕事もまったく足りないですわ」

「食糧はわしがにゃんとかするから、仕事の半分は二人で頑張ってくれにゃ」

「「半分??」」


 双子王女が不思議そうな顔をするので、次元倉庫から巾着袋を取り出して中身をパラパラ落とす。


「これはトウモロコシという穀物にゃ。農作地も半分以上空いてるから作れるにゃろ?」

「「穀物……」」

「そう。食って良し、貯めて良しの穀物にゃ。猫の街に新たな産業が生まれるって寸法にゃ~」


 新しい穀物と聞いた双子王女は息を飲む。そりゃ、他所の国では納税に使われるところもあるのだ。お金を自分で作れるのだから、目の色が変わっても致し方ない。


「それとにゃ。これから時代が代わるにゃ。発電所が各地にいっぱい出来たら、それに伴う便利にゃ物がいっぱい作られるにゃ」

「まさか……」

「もうすでに……」

「そうにゃ。わしの頭の中に、設計図は入っているにゃ。いまの人口では新規事業に手を出せにゃいけど、ウサギ族を引き入れたら、日ノ本に負けない電気先進国になれるにゃ~」

「「………」」

「農業、新規事業……この二本柱で半分って計算にゃろ。そして、それに付随して仕事も生まれるはずにゃ。これでどうかにゃ?」


 わしの案に双子王女が下を向いて黙り込むので、ある程度の仕事が作れたはずだと確認を取ると、「バッ」と同時に顔を上げた。


「「東の国でも同じ事が出来ないでしょうか?」」

「まずは猫の国からにゃ~~~!!」


 どうやら双子スパイは、猫の国の技術を横流ししたかったようだ。あまりにも酷い要求をするので追放しようと考えたが、二人の力が無いとウサギ族移住でわしが楽が出来ないから、何かいい技術をあげるという口約束をしておいた。


 だって楽がしたいんじゃもん! 口約束じゃし、渡す必要もないじゃろう……フフフ。


 双子王女の目が眩んでいる内に、さっさと撤収。リータとメイバイの間に入り、甘えてめちゃくちゃモフられる。

 それからフラフラになったわしは、ポポル達モフモフと一緒に揉み洗いされて、眠りに就くのであった。



 翌日は、リータ達も時差ボケはほとんど解消されていたので、朝から猫ファミリーとポポル親子でソウの地下空洞に移動。

 別荘まで歩くと、全員を並べて今後の話をする。


「ポポルとお母さんには、こっちでの暮らしをウサギ族に説明してもらう予定だったんにゃけど、予定変更にゃ。二人には、強制レベルアップしてもらうにゃ~」


 わしの意味不明な言葉に、ポポルとルルはポカンとしているがそのまま続ける。


「わしはこう考えているにゃ。五千人のウサギ族を猫の街に移住させ、千人は集落に残そうとしているにゃ。だから二人には、集落に必要にゃ人材になって欲しいんにゃ」

「僕達ではそんな人になれないと思うんですが……取り柄もないですし……」

「だから取り柄を授けるんにゃ。ポポルにはウサギ族の守護者に、お母さんにはお医者さんになってもらうにゃ」


 ポポルが自信なさそうに言うので役割を説明すると、ルルも自信なさそうにそろりと手を上げた。


「私もそんな知識がないのですが……」

「知識が無くても、病気の苦しみはわかるにゃろ? そんにゃお母さんにゃからなって欲しいんにゃ。その為の知識はいまから授けるからにゃ」

「「無理かと……」」

「これは王の命令にゃ。無理でもやってもらうにゃ。ま、一週間様子を見て、それでも芽が出ないのにゃら、もう一度話し合おうにゃ」

「「はい……」」


 無理矢理にでもポポル親子を説得したら、次はリータ達にお願い。


「リータとメイバイで、わしが教えた訓練方法を使ってポポルを強くしてやってくれにゃ。お母さんは魔法特化にゃ。コリスとオニヒメで回復魔法を教えてやってくれにゃ」

「「「「にゃっ!」」」」


 わしのお願いなので皆は返事らしき声を出してくれたが、「はい」か「いいえ」かよくわからない。たぶん「はい」と受け取って頷いたら、リータからの質問が来た。


「シラタマさんは……」

「わしは忙しいから手伝えないにゃ。ポポル達の英語教師と対戦相手をホウジツに頼んで来るにゃ。それに移民政策の条例も作らないとにゃ。あと、食糧も他国から掻き集めなきゃにゃ~。あ~あ。にゃんでこんにゃ忙しい時期に、移民政策にゃんてやらないといけないんにゃろ~?」

「「いってらっしゃいにゃ~」」


 リータとメイバイが、わしがサボりそうな目で見るのでグチグチ言ってみたら、笑顔で送り出された。


「まだ行かないのですか……」

「さっきのは嘘だったニャー?」

「ちょっとやり忘れがあっただけにゃ~!」


 少し進んだところで別荘に戻ってゴソゴソしていたら、リータとメイバイが後ろに立っていたので必死の言い訳。ポポルにも言う事があったので説明している間も、リータとメイバイはわしの背後に立ち続けるのであった。



 それからホウジツに諸々の手配を頼んで、ウサギ族の民芸品を見せてみたが商談は上手くいかない。しかし、ウサギ族の写真付きで売ったらなんとかなるのではと言ってみたら、少しはやる気が出たようだ。

 これでソウでのやる事は終わったので、猫の街に帰って書類仕事。移民政策の草案をちゃちゃっと書いて、双子王女に提出したらダメ出しを喰らった。


「草案って言ってるにゃろ~。これと東の国の移民政策を合わせて形にしてくれにゃ~」

「「わたくし共も忙しいとわかっていますでしょ?」」

「そこをにゃんとか!」

「でしたら、役場をもう少し広くしてくれません?」

「いまでも手狭になっているのに、六千人も住人が増えるとなると厳しいですわ」

「職員も増えるでしょうしね」

「わしの仕事も増えたにゃ!?」


 これを聞かない事には移民政策をまとめてくれないらしいが、どう考えてもわしの仕事量のほうが多く増えた気がする。しかし、慣れていない条令を一から作るのはわしでは時間が掛かる。

 泣く泣く建設組の建物に走り、トップのダーシーを探して相談。さらさらっと建物の線を引いたら、水回りの作り方を考えておくように頼んでおいた。

 まぁわしの書いた建物は画期的なデザインだったので、ダーシーもノリノリ。だからついでにガラスの発注も頼んでおいた。



 猫の街でやる事が終わったら、北西にある小国へ転移。ハンターギルドに駆け込んで、ヤマタノオロチと黒い巨大魚をセットで売る。

 ここは一度来た事があったが、わしを知らないバカがからんで来たので、有無を言わさずネコパンチ。王様効果とハンター協会問題のおかげで、わしに非難が来る事はないだろう。事実、次回来た時もVIP対応をしてくれた。


 そこまで急いでいた理由は、ここでまだやる事があるからだ。商業ギルドに駆け込んで、猫騒動が起こっている中、食料品と服の買い付け。例え猫騒動が起こっていても、商人ならば大金と身分を説明したら、すぐに超VIP対応に変わった。

 そこで、麦と保存食、子供服を大量発注。大口ならば商業ギルドに一任しておけば、その国に迷惑にならない程度の量を送ってもらえる。少し割高になるが、時は金也。個別に回ってられるか!


 諸々の書類にサインしたら、次の小国へ。猫型で本気のダッシュをしたら、数十分で着いた。ここでも商談したら、また全力疾走。


 そんなこんなで走り回っていたら、猫型のままビーダール王都に入り掛けて止められ……なかった。なので、ハンターギルドで止められ……なかった。

 なのでなので、カウンターがめちゃくちゃ高かったから人型に変身し忘れていた事に気付いた。


 嘘じゃろ……白い獣がここまで侵入したのに、ハンターすら襲って来なかった……ビーダールは、いつか猫に滅ぼされるんじゃなかろうか?


 白猫わしを神とあがめるビーダール国民はちょっと心配になったが、心配している暇はないので商談したらダッシュ。


 この日は、九件の国を回ってソウの別荘に帰ったのであった。



「今まで何をしていたんですか~?」

「まさかサボってたりしないニャー?」


 わしを出迎えてくれたリータとメイバイの笑顔がちょっと怖い。どうも、サボっていないか探っているようなので、今日、商談をまとめて来た書類を提出する。


「こんなに一日で!?」

「さすがシラタマ殿ニャー! 私は信じてたニャー!」

「私も信じていましたよ!」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 確実にわしを疑っていた二人に文句を言おうとしたが、撫で回されて口にも出せず。いちおう謝罪と労いらしいので、ゴロゴロ言いながら餌付けまでされた。


 そのまま食事を終えると、わしはコリスとオニヒメを撫でながらポポルたちの話を聞く。


「二人はどうなったにゃ?」

「慣れない事をしたので、もう寝ています」

「訓練も勉強も頑張ってたニャー」

「使い物になりそうかにゃ?」

「まだなんとも……でも、一日で魔力を感じる事が出来ましたので、自信が湧いて来たようですよ」

「うんうん。出来るかもって言ってたニャー」

「それは重畳ちょうじょうだにゃ。引き続き、よろしくにゃ~」


 しめしめ。これで少しは計画が進んだな。わしが楽を出来る未来をこの手に!!


 ポポル親子のレベルアップよりも、自分が楽を出来る未来に喜び、リータとメイバイの胸の中で安らかに眠るわしであったとさ。

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