585 役場の拡張工事にゃ~


 移民政策を開始した翌日、わしは朝から走り回り、食糧等の買い付けは昼頃には終わった。

 ただ、最後に寄った東の国では、ハンターギルドではスティナ、商業ギルドではエンマ、双方のギルドから女王が呼んでいると口を酸っぱくして言われ、城に寄り道するしかなかった。


「忙しいのにのに、にゃに~? パクッ」


 女王は食事中という事だったので王族専用食堂に入ったわしは、女王の食べていた料理を許可なく素手でつまみ食い。めっちゃ睨まれたので、さっちゃんのそばに逃げて隣に座り、「あ~ん」しながら話を聞く。


「他国から、猫の国が戦争の準備をしていると思われているわよ」

「にゃんで~? あ~ん。モグモグ」


 女王が物騒な事を言うが、わしに心当たりがない。だが、さっちゃんがわしの口にエサを入れながら教えてくれた。


「大量の食糧を買い付けてるからじゃない? なんでわからないのよ」

「え~! ちゃんと移民の食糧って説明してるにゃ~」

「それが信用できないんでしょ。近々みんな国を空けるんだし」

「それにゃらリンチの書類にもサインしたにゃ~。女王の力でにゃんとかしてくれにゃ~」


 わしが甘えた声を出したら、女王は少し考えて頷く。


「貸しにしておいてあげるわ」

「やったにゃ~!!」


 わしは仕事が減ったと喜んでモグモグ食事を食べ、お腹いっぱいになったら食堂を出ようとドアに向かう。


 ……あれ? ひょっとして、わしのほうが貸しが多くない??


 ドアノブに手を掛けたところで気になる事が生まれたので、ぐるんっと首だけ振り向いた。


「わし、けっこう女王に貸しが多いんだから差っ引いてくれにゃ~!!」

「あ……バレた……」

「お母様。おしかったですね。あははは」


 どうやらわしがエサに釣られている内に、女王は貸しを作るという手札を握ろうとしていたようだ。さっちゃんも協力していたらしいので、「にゃ~にゃ~」文句を言ってから東の国をあとにするのであった。



 食糧買い付け問題は女王がなんとかしてくれるだろうから、心配せずに次へ転移。

 エルフの里で代表のシウインと面会したら、傭兵を二名、募集しておくように頼む。長期任務となるので給金は弾むが、来てくれるかはわからない。

 もしも誰も手を上げないならば、狩りの得意な者を王命で連れて行く予定だ。

 まぁわしからのお願いなので、シウインは必ずいい人材を用意すると言ってくれたので、数日後にまた顔を出す約束をして猫の街に帰った。


 猫の街では建設組に寄って、役場拡張設計図の確認。ダーシーと色々話し合って、次はつゆ専用工房に顔を出す。


「つゆ~。やってるにゃ~?」

「はい! すいません!!」


 つゆは何かをイジッていてまったくわしを見てくれないので、隣の鍵付きの部屋に勝手に入る。


 ふむ……家電が一段と増えたな。ミシンに洗濯機に掃除機、扇風機にドライヤー。ちゃんと設計図も付いてるな。


 ここはつゆ専用宝箱。どうもつゆは、完成した物は報告せずに隠す習性があるらしいので与えた部屋だ。

 わしは使えそうな家電を確認したら、またつゆに声に掛ける。


「わしの失敗作のシーケンス制御装置は、動くようになったのかにゃ?」

「すいません!」

「怒ってないにゃ~」

「私では無理だったので、諦めました……」

「そういうのは報告してから次の機械に移ってにゃ~」

「すいません!」


 つゆは謝ってはいるがすぐに何かをイジリ出したので、わしはやれやれといった顔をする。


 まぁわしでも諦めた物を作れと言ったんじゃから、つゆには無理か。源斉に頼んでおけばよかったな……。今度行ったら、発注かけよっと。


 それから双子王女と少し話をして、ソウの別荘に帰ったわしは、リータ達にモフられてから眠った。



 そして翌朝……


 役場拡張大工事に着手する。まぁわしの土魔法に掛かればちょちょいのちょいなので、役場職員にはそのまま仕事をしながら完成を楽しみに待っているように言っておいた。

 ただ、王族居住スペースを改造するとリータ達には言った手前、気になってついて来てしまった。ポポル親子には、今日は自習を言い渡したようだ。


 さっさと始めようとしたが、そう言えば居住スペースには屋根裏部屋があったと思い出したわしは、作った日以来に足を踏み入れた。


 わしだらけ……ウサギの密より酷い……てか、わしが首を吊っておる!!


 足元にはわし。四方に設置された棚にもわし。どこを見てもわし。六畳ほどの広さの五畳半はぬいぐるみと人形で埋め尽くされ、それでも足りなかったのか、天井からぶら下がって苦しそうにしている。


 全部捨てたいんじゃが……


 リータとメイバイが常に後ろに張り付いているので、捨てるに捨てられない。次元倉庫に入れると確認を取ってから下の階に移動する。


 はいはい。数はわかっているのですね。捨てないから離れてください。


 グチグチと「捨てたらわかっているな?」と言う二人を一階に押し出すと、ダーシーと一緒に作業開始。ダーシーの指示通りに土魔法を使い、下に上にとゴリゴリ伸ばして行く。

 各フロアの水回りや部屋を作り、ガラスを嵌め、昼食をモグモグし、目玉の設備を設置して、最上階の空き部屋にぬいぐるみや猫又人形を吐き出せば完成だ。



 夕方近くともあり職員の仕事も終わったようなので、皆を訓練場に連れ出して完成報告をする。


「ガラス張りになったのはわかりますけど、どこが変わったのですの?」

「全然広くなってないじゃありませんか」


 一階は間取りも変わらず窓を大きくしただけなので、双子王女が疑問を口にする。その他もまだ気付いていないので、わしは口を開かずに、ただ右手を上に指差す。


「「「「「うわ~~~……」」」」」


 上を向いた皆は、驚きの声を出したあとは視線を上へ上へと向け、止まったところでそのまま固まった。


 そりゃそうだ。前回より三倍以上も高い建物ならば、頂上まで見るのも時間が掛かる。


「みんにゃ~。そんにゃに上ばかり見ていたら首が痛くなるにゃ~」


 上を見たままの皆に声を掛けると、ようやくわしの顔を見てくれた。


「今回の役場は、地上10階、地下2階の建物にゃ。みんにゃの職場は、おそらく地上5階までが職場になると思うから、覚えておいてくれにゃ」


 わしの作った建物は、地上10階建てのビル。東の国の城よりも遥かに高い建物だ。総面積では負けているだろうが、この世界では一番高い建物だろう。

 工期短縮で、3階の王族居住区と2階の双子王女の部屋とゲストルームが、そのまま10階と9階となっている。その下、6階までをしばらくはゲストルームとして使う予定だ。


 6階から下は、役場職員の職場として使う予定なので、1階と同じ間取り。使い勝手を聞いて、その都度間取りは変更するかもしれない。まぁ2フロアもあれば、当面の仕事は問題ないだろう。

 ちなみに王族居住区は、庭を取っ払って対面をぬいぐるみ部屋とゲストルーム、食堂にしたので縁側は無し。屋上にある空中庭園に離れを作ったから、くつろぎたい時はここの縁側でお昼寝するつもりだ。


 これだけ大きいと光を取り込むには大きな窓が必要なので、建物はガチガチに固めて大きなガラスを嵌めた。一部は開閉も出来るが、地下から風を送る空調設備も作ったので、開ける必要はないだろう。

 もちろんわしの作った建物なので、ちょっとやそっとじゃ壊れない。震度7でもヒビすら入らないし、倒れる事もないだろう。



 わしが声を掛けてから質疑応答があったが、双子王女ばかり。こんなに高い建物を階段で上がりたくないと言われたので、ゾロゾロとビルの中に移動して、蛇腹状の引き戸が付いたふたつの部屋の前で止まる。


「こんな所に部屋なんてありましたか?」

「どうして中が覗けるのですの?」


 また双子王女から質問が来るので、ニヤニヤしながら答える。


「そりゃ作ったからにゃ。それも、二人が欲しがっていた物をにゃ」

「「ま、まさか……」」

「そのまさかにゃ~。人数制限があるから……コリスは変身してにゃ。それと、お春。乗ってくれにゃ~」


 猫ファミリーと双子王女とお春。8人と人数は多いが、女性とちびっこばかりなので問題ないだろう。

 皆が部屋に入ると外と内の引戸を閉め、わしは台に乗ってお春に声を掛ける。


「たぶん一番操縦する事が多いだろうから、よく見ておいてくれにゃ」

「は、はい……」

「みんにゃもいちおう覚えておいてにゃ~」


 わしは説明しながら、壁に付けたレバーを右に倒す。


「「「「「わわわわ……」」」」」


 すると、部屋は重低音を出しながらゆっくりと上昇した。


「にゃ~……ちょっとズレちゃったにゃ。次こそは……」


 わしも初体験だったため上手く操縦できないが、一階一階止まって最上階に着いた頃にはだいぶ慣れて来た。


「ささ、降りてくれにゃ」


 ふたつの引戸を開けて皆を外に出すと、食堂予定の部屋に入ってもらった。


「「「「「うわ~~~!!」」」」」


 部屋にある窓からは、エベレストが見える絶景。目下には猫の街が見える景色だ。


「新型エレベーターはどうだったにゃ?」


 そう。先ほど入った部屋は、エレベーター。現代の物をわしの技術力ではそのままとはいかなかったので、手動制御するエレベーターを作ったのだ。

 10階もを階段で上り下りする事は、わし達ならば息切れしないだろうが、双子王女やお春では超しんどいと思っての配慮。わしも現世なら、絶対にそんな家は嫌だから作ってやったのだ。


 わしの質問に、双子王女はキラキラした目で突進して来た。


「凄いですわ!」

「感動ですわ!」

「にゃはは。喜んでくれてよかったにゃ~」


 双子王女にチヤホヤ撫でられ胸に挟まれ笑顔でいたら、リータ達に睨まれたので、皆からもスリスリしながら感想を聞く。

 高い所からの絶景に、概ねいい感想は聞けたが、リータ達はぬいぐるみが気になるらしいので、ぬいぐるみ部屋(仮)に押し込んでおいた。


 それから下で待っている役場職員にも、本日だけのエレベーター体験。二台あるエレベーターを、わしとお春で行ったり来たりしていたら、双子王女や役場職員もやりたいと言って来たので操縦を教える。

 何度も行ったり来たりするには電力不足なので、止まったら通信魔道具で連絡が入り、わしは何度も雷魔道具に魔力を注ぐ。


 この日は、夕食を忘れてエレベーター遊びを楽しむ役場職員であった。



 その夜、10階食堂で役場拡張完成パーティーをしていたら……


「名前にゃ? 特に決めてにゃいけど……ビルでいいんじゃにゃい?」


 新役場の名付け大会が始まってしまい、様々なボケをわしがぶっ潰して多数決が行われ、決定した名称をリータが発表する。


「新役場の名称は『キャットタワー』です!!」


 う~ん……コリスの『タワーパフェ』に比べたらかなりマシじゃけど、なんだかお金持ち全開のジイさんが付けたビルの名前みたいになってしまったな。

 まぁメイバイの『シラタマタワー』じゃそのままじゃから、多数決で負けてくれてよかったか……


 皆が名称の決定にキャッキャッと騒いでいたら、食堂のドアが乱暴に開き、二匹のモフモフが入って来たと同時に倒れ込んだ。


「ゼェーゼェー……どうしてこんにゃに高い所に家があるんにゃ~~~!!」

「はぁはぁ……元に戻してください~~~」


 こうしてキャットタワー完成パーティは、階段を必死に上ったワンヂェンとつゆの苦情で邪魔されるのであったとさ。

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