411 オニヒメの才能にゃ~
玉藻に飛行機の諸々を教えた次の日、わしは少し寝坊したが、つゆを連れて工房で真面目に働いていた。
「……のう?」
「……にゃに?」
「そちは王なのに、いったい、いつになったら王らしい仕事をするのじゃ?」
わしが仕事をしていたら、誘ってもいないのについて来ていた玉藻が何やら言っている。
「これも王様の仕事にゃ~」
「そんなもん、職人の仕事じゃ!」
そう。わしがしている仕事は、天皇家へ納品予定のバスの製造。いまはスプリングをせっせと作っている。もちろんわしだって、王様の仕事とは思っていない。何かしてないとリータ達にグチグチ言われるから、忙しそうにしているだけだ。
「あ、そうにゃ。内装はどうするにゃ?」
「
「洋風、和風……その他要望があるにゃら聞くにゃ~」
「はぁ……」
玉藻はついに、わしの行動に諦めて、ため息を吐きながら内装を決める。しかし、基準となる物が必要らしいので、昨日乗せたキャンピングカーの一号車、VIP専用二号車、玉藻も知ってる畳敷きバスを見せてあげた。
「なかなか種類があるのだな。このびっぷ専用車が、一番豪華でよさそうじゃ。それに、バスより小さいから運転しやすそうじゃ」
「あ~。たしかに小回りは利いたほうがいいかもにゃ。もっと小さいのも作れるけど、どうしよっかにゃ?」
「いや、これでいい。このそふぁーをもうひとつ付けてくれたら完璧じゃ」
「じゃあ、並びは……」
それから少し相談して、二号車製造に切り替える。まだスプリングしか作っていなかったので、間に合ってよかった。そうして土台である足回りを作ると、今日はここまで。職人に作ってもらう絨毯とソファー待ちだ。
わしが手をパンパンと叩いていると、玉藻は不思議そうな顔で寄って来た。
「どうしてふたつも作っておるんじゃ?」
「徳川にも売り付けようと思ってにゃ。天皇家が持ってるのを見たら、絶対欲しがるにゃろ?」
「むっ。徳川か……」
「にゃ? ダメだったにゃ?」
「いや、陛下と同じ物を渡されるのは、少し引っ掛かるだけじゃ」
「あ~。家臣だもんにゃ。それにゃら、内装で差を付けとくにゃ」
「シラタマは話が早くて助かるわい」
玉藻が納得してくれたので、ソファーと絨毯は、黒い獣の毛皮を使う事となった。多少割高になった事は、請求書を見せるまでの秘密じゃ。
車の諸々が終わると、見学をしていたつゆに、ある物の製作に取り掛かってもらう。
「ちょっと不細工にゃけど、これを見てくれにゃ」
「これは……時計ですか?」
そう。わしが取り出した物は、時計の試作品。ただし、ゼンマイで動かない、クオーツ時計の試作品だ。
「この水晶の板に電気を流すと……」
「あ、ちょっと動きましたね」
「水晶には、こんにゃ特徴があるんにゃ。これを動力とすれば、これまでより小さにゃ時計が出来るわけにゃ」
「なるほどです……。でも、シラタマ様がここまで作ったのなら、完成もあと少しではないですか?」
「これも、正確にゃ時を刻む物が無かったから作れなかったんにゃ。それと電池も無いからにゃ~」
「小さな電池が必要なのですか……電池は、私は作れないのですが……」
残念。つゆは作れないのか。それはそうと、ボタン電池が欲しいんじゃけど、平賀家でもさすがにまだまだ無理じゃろうな。宝石の魔道具でも、腕時計に組み込むのは難しいし……
「とりあえず腕時計は数年先と考えて、いまよりは小さにゃ置時計を作ろうと思うにゃ。玉藻、電池は平賀家に頼む事は出来るかにゃ?」
「合作というわけか……」
「いんにゃ。平賀家のほうが旨味があるにゃ。電池は消耗品にゃから、置時計が売れるほど、電池が売れるにゃ」
「おお! それはいいな」
「まぁ源斉の、電池改良が上手くいってからの話になるかも知れないかもにゃ~」
玉藻も乗り気なので、つゆには宝石魔道具に雷を入れた物を何個か渡して実験してもらう。あとは調整程度なので、すぐに終わるかもしれないからレコード等も置いて、工房をあとにした。
お昼にはまだ早いので、役場の庭いじりでもしようと向かうが、玉藻がつけ回してうっとうしい。次の予定も聞かれたから教えたら、また「庭師の仕事」とツッコまれてうっとうしい。
それでもわしは忙しい身。せっせと水撒きをして回る。
「……のう?」
「……にゃに?」
「水を撒くだけが王の仕事なのか?」
そう。雑草は庭師が抜いてしまったあとなので、何もやる事がない。なので、働いている振りで水撒きしているだけなのだ。
「もういいにゃろ~? どっか行けにゃ~」
「いや、他国の王の仕事は見て帰らんといかん」
「わしは参考にならにゃいから、見てても意味ないにゃ~」
「自覚はあったんじゃな……」
それから二人してブツブツ言いながら時計回りに水撒きしていると、訓練に使っている場所に着いたのだが、そこにはリータ達の姿があった。
しかし、やっている事がマズイ。わしは慌てて止めに入る。
「にゃにしてるにゃ~!」
「あ、シラタマさん。見てください」
「オニヒメちゃんは、才能があるニャー!」
わしが慌てているのに、リータとメイバイは
「【鎌鼬】にゃ~!」
これはオニヒメの風魔法。何故か語尾に「にゃ」が付いているのは、メイバイが教えたせいだろう。その【鎌鼬】は、リータの作ったであろう大きな土の塊にめり込んだ。
「ね? すぐに覚えたんですよ」
「よくできたニャー」
「うん!」
リータはわしに自慢するように言い、メイバイはオニヒメの頭を撫でて褒めるので、オニヒメは笑顔になる。だが、わしはそれを素直に喜べない。
「勝手にゃ事をするにゃ~」
「え……どうしてですか?」
「人に向けて使ったらどうするんにゃ~」
「オニヒメちゃんは、そんな事をしないもんニャー?」
「しないもんにゃ~」
「……ちょっと二人はこっちに来てくれにゃ。玉藻……オニヒメを見ていてくれにゃ」
わしは玉藻にオニヒメを預けると、リータとメイバイを連れてその場を離れる。
「わしはオニヒメの父親を殺したんにゃよ? 記憶を取り戻した時に、暴れたらどうするにゃ? 誰がオニヒメを止めるんにゃ~」
「「あ……」」
わしの心配は二人に伝わったようだが、どうやら二人は考えがあって、オニヒメに攻撃魔法を教えていたようだ。
「私が責任を持って止めます!」
「私もニャー! だから、ハンター登録してあげてニャー!」
「ハンターにゃ??」
「ほら? イサベレさんと共闘した時に、外からの攻撃が欲しいと言っていたじゃないですか?」
「オニヒメちゃんなら、私達について来れるニャ。いや、オニヒメちゃんしかついて来れないニャー」
たしかにそんな事を言ってたけど……本気だったの?
「それって、わしとコリスをパーティから追い出すって事かにゃ? ひどいにゃ~」
「違いますよ。強い敵と戦う時には別行動が多くなるので、戦力の補強です」
「オニヒメちゃんが入ってくれたらバランスがよくなるニャー。お願いニャー」
相変わらず脳筋じゃな。そうまでして、オニヒメを加入させたいのか……。てか、オニヒメが入ると、わしの出番がますます減る気がするんじゃけど……
「シラタマさんとコリスちゃんは、今まで通りマスコットで残ってください!」
「マスコットは重要な役割ニャー!」
うん。心を読んでくれたようじゃけど、わし達の役割ってマスコットなの?
「あと、脳筋って言いましたね……」
「またニャ……」
それも読んでくれたか~。でも、怖いから睨まないでくださ~い。オニヒメの加入を認めてくれたら聞き流してくれるのですか。そうですか。
「二人で責任持って世話するんにゃよ?」
「はい!」「はいニャー!」
二人の脅しに負けて、ややペットみたいな許可となってしまったが、オニヒメのハンター登録は決定してしまった。
なので、玉藻の尻尾で遊んでいたオニヒメに、わし直伝で魔法を教えてあげる。だが、その前に、わしはオニヒメと目を合わせて念話で語る。
「オニヒメ……オニヒメは強い。ここにはオニヒメより弱い者が多く居るんじゃ。ワンヂェンだって、オニヒメの魔法が当たったら死んでしまう。わしの言ってる意味、わかるか?」
「う~ん……」
「わからないか……じゃあ、わしとこの二人の前でしか、攻撃魔法を使わないってのでどうじゃ?」
「うう~ん」
「……こういうことじゃ」
いまいち伝わっていないようなので、わしは玉藻を使ってオニヒメの教育をする。まずは全員の前で【鎌鼬】を使わせ、次は玉藻だけを残して、玉藻の指示で【鎌鼬】を使わせる。
それから玉藻だけでは使ってはいけないと説明し、人数を変えながら何度も身振り手振りを交えて言い聞かせたら、なんとかわかっってくれた。だが、念の為、四六時中わし達の誰かがそばに居る事となった。
ひとまずお昼を食べてから魔法を教えるのだが、火魔法は怖がっていたので、風、土、水、光の魔法を教える。おそらく、火は怖い物だと刷り込まれているのだろう。
そうして一通り教えると、あとは自習。近くにあるベンチに座ってアイスコーヒーを飲みながら、オニヒメ達を眺める。
やはりオニヒメの魔法の才能はピカイチじゃな。アレだけ魔法を使っても、魔力が減っている感じがしない。リータ達ですら、とっくに倒れる消費量じゃ。それだけ魔力量が多いんじゃな。
しかし、火を怖がるのは父親譲りか……。もしかして、火を使った生活をした事がないんじゃなかろうか? そうなると、獣と同じ生活をしていた事になる……
これでは集落すら無かった事になるぞ? 有り得ないと思いたいが、可能性が高いな。仲間と会わせる事も難しそうじゃ。
「妾にも、それを飲ませてくれんか?」
わしがオニヒメを見つめながら考え込んでいると、玉藻が隣に座った。
「にゃ? ああ。ちょっと待つにゃ」
わしは玉藻にカップを渡し、次元倉庫から出したコーヒーサーバーで注いであげる。だが、一口飲むと苦みに驚いて「毒を盛った」とか言いやがった。なので、アイスカフェオレにして飲ませる。
「よくもまぁ、そんな苦い物を飲めるな」
「慣れにゃ。抹茶だって渋いにゃろ? 慣れたらやめられなくなるにゃ」
「なるほどな。たしかにそうじゃ」
「それで、にゃんか用かにゃ?」
「ああ。オニヒメの事じゃ」
やはりか。あれ程の才能を見たら、質問もあるじゃろう。
「あやつは凄い才能を持っておるな。妾の娘より、覚えるのが早いぞ」
「そうだにゃ。わしもビックリにゃ~」
「エルフの里の者も、魔法が得意なのか?」
「あ~。それも盗み聞きしてたんにゃ。欲しいとか言われても、やらないからにゃ?」
「わかっておる。ただの興味本意じゃ。日ノ本では、奴らの腹を満たせんからな」
「それにゃらいいにゃ。魔力は多いんにゃけど……」
エルフの里は、気功を使う事と最近魔法を教えたところだから、どうなっているかは行ってみないとわからない事を説明する。
「ほう……また違う文化か。行くのがこれから楽しみじゃ」
「まだ連れて行くとは言ってないにゃけど……」
「なんじゃと!? 妾も連れて行ってくれ~~~!!」
「わさわさするにゃ~! ひっくしょん! にゃろめ~」
玉藻が九本の尻尾でわしの顔をわさわさするので、くしゃみが出てしまった。それを見ていたリータ達が、わしの変なくしゃみが気に入ったのか、何度もリクエストして、わさわさされる。
「も、もう、やめてくれにゃ~! ひっくしょん! にゃろめ~」
「連れて行くと言うまでじゃ~」
「ひっくしょん! にゃろめ~」
こうしてわしは、玉藻の力業で、エルフの里へ連れて行く約束をしてしまうのであった。
「連れて行くと言ったにゃろ~! ひっくしょん! にゃろめ~」
しかし、リータ達のリクエストが続くので、しばらくくしゃみは止まらないのであったとさ。
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