410 操縦訓練にゃ~
つゆの初夜がリータとメイバイに潰された翌昼、わし達夫婦は大寝坊。旅の疲れが出たようだ。なので、つゆのもがく振動で目が覚めた。
「うぅぅ……なんか違います~」
どうやらつゆは、起きていたけどリータに抱かれて動けなかったようだ。しかし、わしはまだ眠い。うとうとと二度寝……
「ふぁ~……寝過ぎましたね」
「お昼ごはん食べに行こうニャー。ふニャー」
「むにゃむにゃ」
二度寝したのだが、メイバイに抱かれたまま食堂に拉致された。もちろんつゆも、リータに抱かれたまま拉致されていた。
とりあえず、うとうとしながら餌付けされ、むにゃむにゃ言いながらムシャムシャするわし。気付いたら、エミリがわしを膝に乗せて餌付けしていた。
「モグモグ……にゃ? いつの間に、メイバイから代わったにゃ?」
「さっきですよ。今日はお疲れなんですね~」
「まぁにゃ。旅から帰って来ても、玉藻達の案内があったからにゃ~。それよりコリスはどうしたにゃ?」
「おなかいっぱい食べたらまた寝るって言って、上に行きましたよ」
「ふ~ん……わしも今日は、もうひと眠りするにゃ~」
「待ってください。料理班が頼まれてたお弁当作っているので、傷まない内に猫さんの収納魔法に入れてください」
「あ、そうだったにゃ」
食事を終えると今度はエミリに運ばれ、キッチンにてお弁当やサンドイッチを受け取る。何故か皆に代わる代わる抱かれたが、理由はわからない。王様をぬいぐるみだと勘違いしてないはずだ。
そうしてエミリに運ばれて三階の住居スペースに移動すると、縁側で寝ているコリスが居たので、エミリはもたれて「モフモフサンドイッチ」とか言って、幸せそうな顔をしていた。
どうやら今日は、エミリもお休みみたいなので、わしのダラダラに付き合ってくれているようだ。
それから小一時間経った頃、わさわさとモップのような物が顔に触れる感触と、エミリの歓喜の「モフモフ~!」と言う声で目が覚めた。
「にゃ? なんにゃ!? ひっくしょん! にゃろめ~」
「モフモフモフモフ~」
視界が塞がれているので、わしは何が起こっているかわからない。たぶんエミリはわかっているから喜んでいるっぽい。
「やっと起きたか。そちはいったい、どれだけ寝るんじゃ」
「えっと……玉藻にゃ?」
わしが質問すると、わさわさしていた尻尾が引いて行き、玉藻の姿が現れた。
「ふにゃ~……これでもわしは、長旅から帰って来たばっかりなんにゃ。寝かせてくれにゃ~」
「そうじゃったのか。ならば、
「大福にゃ!?」
「ほれ。こっちじゃぞ~?」
玉藻は【大風呂敷】から大福を取り出すと、わしの目の前に持って来てから離れて行く。なのでわしは、はいはいしながら追いかけてしまった。
「にゃ~~~!」
しかし、大福に目覚めたのはわしだけではない。コリスにのし掛かられて、わしは毛玉に押し潰されてしまった。
「コリスも食うか?」
「うん!」
「ほい!」
どうやらわしの上で、玉藻がコリスに餌付けしてるっぽい。これではわしは大福を食べられないと焦り、モゾモゾと這い出して口を開ける。
「ほれ!」
「パクッ! う~ん。うまいにゃ~。あ~ん」
「そちはそれでいいのか……」
何やら玉藻がわしをジト目で見ているが、王様が雛鳥のように……猫のように口を開けて待っている事に呆れているようだ。だけど、もう一個口に入れてくれたので、わしは嬉しそうにモグモグする。
「これで完全に起きたじゃろう。ほれ、こっちに座って茶も飲め」
「はいにゃ~」
口が甘々では、いまはお茶が怖い。饅頭じゃなくて大福じゃったけど……
とりあえず言われるままに、ちゃぶ台を玉藻と囲み、【大風呂敷】に入っていたであろう熱いお茶をすする。
「ズズー……はぁ~。落ち着くにゃ~」
「本当にそちは、日ノ本の者なんじゃな。いや、年寄りくさいぞ」
年寄り? たしかにわしは魂年齢百四歳じゃけど、玉藻に言われたくない! じゃが、玉藻のジト目が突き刺さるから、話を変えておこう。
「それでわしに、にゃんか用かにゃ?」
「いろいろ見学はしたから、そろそろ妾の頼んでいたバスの話をしたかったんじゃ」
「ああ。バスにゃ。ソウでは受け渡しに時間が掛かりそうにゃから、わしが作るにゃ。だから帰りには間に合わせるから安心するにゃ。問題はお金にゃんだよにゃ~」
「そちが作るのは驚きなんじゃが、そんなに高いのか?」
「高いけど、それが問題じゃないにゃ。レートって言ってにゃ……」
わしは猫会議で代表にしたレートの話を、玉藻に詳しく説明する。
「なるほど。お金の価値か……。他国では使っているお金が違うから、価値を合わせるのが面倒なんじゃな」
「お~。よくわかってくれたにゃ。だから、いまはソウで検査中にゃ。大判小判に使われている金の量、その他の金属を調べて、こっちで使われている金貨の成分と照らし合わせるからにゃ」
「その検査結果は、妾には……」
まぁ心配じゃろうな。元の世界の幕末では、小判に使われている金の量が多かったから、外国にしてやられたもんな。利益を求めるなら、そうするべきじゃけど、わしは母国を騙せない。
「もちろん公開するにゃ。日ノ本でも、同じ検査をしてくれにゃい? それで間違いにゃい事を確認してから、販売って流れにゃ」
「おお~。さすがシラタマ。こちらにも気を使ってくれて有り難うな」
「わしも通った道だからにゃ。ちなみににゃけど、貨幣を合わせるってのは、したくないにゃろ?」
「それが一番、楽でてっとり早いんじゃろうがな。長年使った物を変えるのは忍びない。反対意見も出るじゃろうし、道のりは険しいのう」
玉藻の一存では変えられないのか……。まぁわしも小判が無くなるのは寂しいな。もう少し近代化するまで使い続けて欲しいもんじゃ。
「お金の件はわかったのじゃが、飛行機……アレもなんとかならんか?」
「飛行機にゃ?」
「電車より速い乗り物なら、誰でも欲しがるじゃろう」
「あ~。女王も欲しがったけど、弱点が大きいから諦めていたにゃ」
「弱点とは?」
「敵が現れたら対処できないんにゃ。日ノ本はどうか知らにゃいけど、こっちは大きにゃ鳥が多くてにゃ。一匹でも現れたら簡単に落とされてしまうにゃ」
「でも、そちは使っておるじゃろ?」
「わしだからにゃ。玉藻と同等の化け物にゃから、にゃんとか対応できるんにゃ。それでもにゃん度も落とされているけどにゃ」
わしの話を聞いた玉藻は、目を輝かせる。
「と言う事は、妾は使えると言う事か?」
あ!
「欲しいにゃら、自分で作ってくれにゃ。一般大衆に普及させるのは、絶対に無理だからにゃ。わしは大量に人が死ぬ物を売るつもりはないにゃ」
これでどうじゃ?
「わかっておる。妾以外の者には操縦させん。天皇陛下の移動に使うだけじゃ。教えてくれ。頼む!」
ですよね~。飛行機は便利じゃもん。
それからコリスとエミリを部屋に残して、玉藻を連れて役場を出るのだが、つゆを抱いたメイバイとリータにからまれた。車で内壁から出ると言ったら、玉藻とドライブすると受け取られたみたいだ。
なので、メイバイ達も車に積み込んで内壁を出る。そうして人が来ない所まで走ると、皆を降ろして作業に取り掛かる。
とりあえず練習用に、昔リータの村に向かう際に作ったゼロ戦を取り出して、玉藻とつゆに説明する。
「シラタマの使っていた飛行機より小さいのう。これで飛ぶのか? 実際に飛んだのに、いまだに信じられん」
「もちろん飛ぶにゃ。動力は風魔法だからにゃ。この翼の形が大事なんにゃ。つゆはこの翼を見て、にゃんで空を飛ぶかわかるかにゃ?」
「えっと……わからなくてすみません!」
つゆが謝るので、わしは笑顔で語り掛ける。
「わからないのが普通にゃ。ちにゃみに、
「揚力……上向きに作用する力ですよね?」
「それにゃ。一定の速度を出すと、翼にその力が発生するんにゃ」
「あ! なるほどです。空気の流れの強弱を使って飛ぶのですね!!」
「正解にゃ~」
「言ってる意味がわからん。二人で納得するな!」
玉藻から苦情が入ったので、ぶっつけ本番の操縦訓練に移る。二人でゼロ戦に乗り込み、突風で垂直離陸。そして平行飛行。猫の街を一周回るように飛んであげる。
「それじゃあ、そろそろやってみるかにゃ?」
「わかった。風の呪術を使うのじゃな」
玉藻に操縦を任せると、二度ほど墜落し掛けたが、そこは九尾の化け物。わしの助けと、わしの説明で、すぐにコツを掴んで操縦していた。これもそれも、わしの教え方がよかったからじゃ。
「にゃ~~~!」
「うるさい! 気が散る! 教える気がないなら、下で待っておれ!!」
「にゃ~~~!!」
わしが叫ぶのは仕方がない。だって、久し振りの小型機でも怖いのに、人の操縦する飛行機は地獄じゃ。
そうして操縦訓練は玉藻の苦情の中、何度もバウンドして終了となったので、感想を聞く。
「と、こんにゃ感じにゃ」
「そちが着陸まで教えてくれないから、飛行機が大破したじゃろ!!」
玉藻が着陸に失敗したくせに、わしに罪を擦り付けるとは、ふてぇ野郎だ。
「大丈夫ですか!?」
「すっごい墜落だったニャー!」
「イタタ……こやつが全然教えてくれないから、ひどい目にあったわい」
飛行機の破片が散乱した場所で座っているわし達の元へ、心配したリータとメイバイが駆け寄って来ると、玉藻が嘘をつきやがった。玉藻も頑丈だから、痛くないくせに!
「シラタマさん……」
「シラタマ殿……」
「違うにゃにゃ~。ガックンガック揺れて超怖かったんにゃ~」
玉藻の操縦も怖かったが、リータとメイバイの目も怖かったので、必死で言い訳するわし。二人は半分しか信じてくれなかったけど……
ひとまず説教は夜にすると言っていたので、出来るだけ説教を減らす為に、わしは玉藻に親切にする。ゼロ戦を土魔法で一から作り、玉藻にも作らせて改善点を教える。ついでに、大きな飛行機と戦闘機を見せて機能なんかも教えてあげた。
そうしていると、玉藻も気付いた事があるようだ。
「……のう?」
「にゃに?」
「バスもこの方法で作ったのか?」
「まぁそうにゃけど……動力が違うにゃ」
「それならバスを買う必要ないじゃろ!」
また苦情……。教えてやっているのにうるさい奴だ。なので、玉藻にバスの形を作らせ、運転の仕方も教えてあげた。
「ゆゆゆ揺れるるるるぅぅ」
「にゃにゃにゃにゃにゃ~?」
そりゃそうだ。土魔法で出来たバスなど、サスペンションが付いていないんだから、揺れは半端ない。初心者だから車輪も上手く回せず、わしと玉藻はゲーゲー言うのであった。
「バスは買わせていただきます」
そのせいもあって、玉藻は丁寧にバス購入のお願いをするのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます