409 地下空洞の案内にゃ~


 わしの秘密を語ってから、ミニ玉藻とつゆを連れて地下空洞を歩く。しばらく進むと、わしの肩に乗っているミニ玉藻が本体と合流したいと言って来た。

 なので、キツネ店主はホウジツに任せ、三人で地下に来るようにとリータに伝えてもらい、案内を続ける。


「壁を抜けると、人々が働いているんじゃな。何故、わざわざ隔てておるんじゃ?」

「あいつらは全て罪人にゃ。だから、あんまり顔を見たくないだけにゃ」

「罪人……年寄りばかりなのは、理由があるのか?」

「……知らないほうがいいにゃ。いや、言いたくにゃいから、聞かないでくれにゃ」

「そうか……わかった」


 ミニ玉藻はわしの口が重くなったので、素直に引いてくれた。


 わしが言いたくない理由は簡単だ。この罪人は、全て死刑予定だからだ。戦後、奴隷鉱山に送ったのだが奴隷は大人数だった為、役に立ちそうにない老人はソウの地下で引き受けた。

 元々出したくない作業をしているので、奴隷を使う事は秘密保持に使えるので、思ったより重宝している。


 作業内容は、わしが担当している猫の国のお金の計算、資料作り、肉体労働、雷魔道具製造、料理製造なんかにも使っている。

 ただし老人ばかりなので、肉体労働は作業が遅かったから、ベルトコンベアやフォークリフトを与えたまでだ。それでも、今まで帝国の貴族やいい暮らしをしていた商人だった者ばかりなので、屈辱に思っているらしい。


 この奴隷の夜勤組が夜中になると、魔力の補充の済んだ生活魔道具を地下から運び出し、魔力が空になった生活魔道具を地上から地下に運んでいる。

 この事実を知らない地上班の新人は、朝になると綺麗に整頓されているから不思議に思っているらしい。先輩は面白がって、その姿を見ているらしい……



「ちょっとだけ先にやってしまいたい事があるから、二人はその辺を見ててくれにゃ」


 わしはミニ玉藻をつゆに預け、奴隷のリーダーに指示を出し、別荘の反対側にある建物の前で作業を始める。

 まずは黒い獣を次元倉庫から数匹取り出し、首を落とす。そこに重力魔法で一気に血を抜くと、切り分けしやすくスライス。飛び出た血は水魔法を操作して集め、次元倉庫に入れてしまう。血は肥料に変わる予定だ。

 そうしていると奴隷が集まって来たので、残りの作業を任せる。奴隷達が手分けして肉を建物内に運んでいる姿を確認すると、ミニ玉藻達を探すのだが、振り返ったところでガン見していた。


「にゃんだ。そこに居たんにゃ。わしにゃんか見てても面白くないにゃろ?」

「いや、面白い……」

「にゃ~?」

「あれほど大きな獣の解体など、滅多に見れんぞ! シラタマから貰ったフクロウの解体に、わらわがどれほど苦労したか!」


 そっか。大きな獣の居ない日ノ本では、珍しい光景だったんじゃな。漁村でも全然解体できなかったもんな。


「まぁわしはハンターも兼ねているからお手の物にゃ。そんにゃに苦労したにゃら、バラしてから渡したほうがよかったにゃ~」

「まったくじゃ。あんなの妾じゃなきゃ、捌き切れんかったぞ」

「徳川にも贈るつもりにゃけど、解体したほうがいいかにゃ?」

「そうじゃな……妾としては、苦労させたいところじゃが……」

「意地悪してやるにゃ。ただでさえ、わしが意地悪したんにゃからにゃ」

「コンコンコン。そうじゃったな」


 とりあえずわしの作業は終わったので、地下空洞案内に戻る。そこで仕事内容や技術を説明し、つゆにフォークリフトも操縦させてあげた。

 ミニ玉藻は羨ましそうにつゆを見て、リータ達が来るのを首を長くして待っていたら、玉藻の本体が凄い速さで走って来た。


「やっと乗れる!」


 ビッグ玉藻はそう言いながらわし達に近付き、ミニ玉藻と合体しようとしたので、わしは襟元を摘まんで止める。


「「何するんじゃ!」」

「フォークリフトに乗るだけにゃら、おっきいほうで出来るにゃろ? その姿もリータ達に見せてやってにゃ~」

「「うっ……ちょっとだけじゃぞ」」


 ビッグ玉藻がつゆと交代していると、少し遅れてリータとメイバイが走って来た。


「シラタマさん。こんな大事な場所を見せてよかったのですか?」

「急にタマモ様が、ここの事を言い出したからビックリしたニャー」

「ああ。いろいろ条件を付けたから大丈夫にゃ。わしも玉藻には驚かされたにゃ。ほれ、これにゃ~」


 わしは襟元を摘まんだミニ玉藻を、リータ達に見せる。


「わ! 本当に小さいです!」

「お人形さんみたいニャー!」

「これ! つつくでない!!」


 リータとメイバイに、頬をつつかれるミニ玉藻は迷惑そうにバタバタしていたが、面白いからそのまま好きにさせる。


「そちもいい加減、離さんか!」

「にゃはは。勝手について来た罰にゃ~」


 そうしてミニ玉藻で遊んでいたら肉の焼ける芳ばしい匂いがして来たので、ビック玉藻に返してあげる。すると、手の中にミニ玉藻が吸い込まれ、八本だった尻尾が増えて、元の九尾のキツネ耳ロリ巨乳となった。

 どうやら分身すると、尻尾が減るみたいだ。なので、コソコソとリータ達に、尻尾が減った場合は教えるように言っておいた。


 それから皆で建物に入って、焼き立てほやほやの黒い獣の串焼きを味見する。


「うん。うまいのう」

「こんな美味しいお肉を食べさせてもらって、すみません!」


 玉藻とつゆは、ただ焼いて塩を振っただけの肉なのに、満足しているようだ。しかしリータとメイバイは、何やら難しい顔をしている。


「高級なお肉なのに、こんなに大量に焼いてどうするのですか?」

「そうニャー。無駄遣いニャー」

「新婚旅行で、ほとんどコリスとイサベレに食われてしまったからにゃ。あと、実験の為でもあるにゃ」

「実験ですか?」

「みんにゃ普通の肉だと大量に食べるにゃろ? 黒い獣の肉だと、どうにゃるかと思ってにゃ」

「美味しい以外わからないニャー」

「だからにゃ。このうまさが魔力のせいかもしれないからの実験にゃ。もしも魔力が関係しているにゃら、食事量が減らせるかもしれないにゃ」

「なるほど~」


 建物内で続々と焼き上がる串焼きは、わしの次元倉庫に消えて行く。串が足りなければ土魔法で足しておいた。

 ちなみに串焼きにしている理由は、この建物自体が串焼き専用工場になっていて、ベルトコンベアを使って流れ作業で焼かれているからだ。もちろん、地下で火を使う事になるので、煙を外に吐き出す換気扇と長い煙突が付いている。

 自動化でもしないとコリスの腹を満たせないし、エミリが大変だし、作業員が取られて他の作業が遅れてしまうので、頑張って建てたのだ。あと、わしが楽できないし……


 そうしてつまみ食いが終わるとまた案内に戻り、一通りを見終わると、別荘でお茶休憩。そして、3ホールだけ作ったゴルフ場で、玉藻と一緒にひと遊び。


「にゃ!? いま、風魔法使ったにゃろ!!」

「妾は初心者なんじゃから、ちょっとは手加減せい。つぎ打つぞ……あ!」

「にゃははは。空振ったから、一打の罰にゃ~。にゃははは」

「ズルいぞ~~~!!」


 玉藻が魔法を使うので、わしも魔法で対応。打ったボールを逸らされたので、玉藻のスイング中に風でボールを転がす。するとますますヒートアップして、風魔法の応酬となってしまった。

 なので、地下空洞にも関わらず暴風が吹き荒れ、人は飛び、フォークリフトも倒れる始末。その事もあって、リータとメイバイにチビるほど怒られた。


 わしが大人気おとなげないんだとか……どう考えても九百歳のババアのほうが大人気ないと思うのに……


 後日、この日は作業の遅れが出たとホウジツから聞いたけど、知らんぷりしてやった。



 説教の合間に腕時計をチラチラ確認したら、もう夕暮れ近かったので、地下空洞を出ようと提案する。今日は帰る予定だったので、なんとかリータ達の説教から解放してもらった。

 だが、散らかした物は片付けろと言われたので、ダッシュで片付ける。と言っても、大物だけ。細かい物は奴隷に任せ、わしは串焼きと毛皮を回収する。余った肉は、冷凍しておけと命令して、こま切れは晩メシに食べていいよと言っておいた。

 それからラボにある、つゆに研究して欲しい物だけを次元倉庫に入れて、地上に向かうエレベーターに乗る。玉藻にどれぐらい地下にあるのかと聞かれたので、メートルを日本の単位に直して説明したら驚いていた。


 地上では、つゆがまた道具に触れに行こうとするので、リータとメイバイに拘束してもらう。モフられて涙目で見られても、真っ直ぐ歩かないつゆが悪いんじゃ。

 そうしてキツネ店主と合流すると、何やらホウジツと意気投合していたらしく、肩を組んでここに残ると言っていた。まぁ猫の街より商品が集まっているから、こちらに残ったほうがいいだろう。

 なので、予備の念話入り魔道具を数個預け、猫の街に転移した。


 皆で役場に入ると夕食のいい匂いが漂い、わし達は匂いに誘われて食堂の席に着く。そして「いただきにゃす」と言って食べ始めるのだが、玉藻までマネしているところを見ると、わしを馬鹿にしてるじゃろ?

 とりあえずモリモリ食べながら、コリスとオニヒメを使って人体……生物実験。黒い獣で作られた高級串焼きを餌付けする。


「美味しいにゃ~?」

「うん!」

「おいしいにゃ~」


 味は申し分ないようだが、コリスは頬袋に入れるのやめよっか?


「シラタマさんの言った通り、満腹感がありますね」

「これなら、昔の量にちょっと足すだけでよさそうニャー」


 コリスとオニヒメだといまいち効果がわからなかったので、リータとメイバイでも人体実験してみたら、上手くいったようだ。


「ワンヂェン。オニヒメの食欲はどうかにゃ?」

「そうだにゃ~……おなかいっぱいにゃ~?」

「いっぱいにゃ~」

「少なくなったにゃ! 毎日いっぱい食べるから、心配してたんにゃ~」


 お! ダメ元じゃったけど、オニヒメにも効果ありか。と言う事は、人体には魔力が旨味成分となるんじゃな。いちおう被験者の玉藻にも聞いておくか。


「玉藻はどうにゃ?」

「これはいいのう。呪術を使わなくとも、腹が満たされるわい」

「にゃ……」

「どうしたんじゃ?」

「そう言えば、玉藻は呪力を吸収する呪術を持ってたにゃ! 東の国でも使ってくれてたら、散財しなくてよかったんにゃ~」

「いや~……珍しい味の物が多くて、ついな」


 くっそ~。してやられたわい。じゃが、やはり黒い獣肉だと魔力が豊富で、わし達の空腹を満たしてくれる事はわかったな。まぁ黒い獣だって、この土地でそう多くとれるわけでもないし、完全な解決方法にはならんか。



 わしは食事が終わると、優雅に紅茶を飲んでいる双子王女の近くに移動する。


「時計を作っている職人から報告は来たかにゃ?」

「ええ。組み立てるのは、なんとかなりそうですわ」

「ですが、まったく違う物を作るのは、時間が掛かると言っていましたわね」

「ああ。玉藻から確約を取ったから、設計図も借りられる事になったにゃ」

「本当ですの!?」

「それって、時計台もですの?」

「まぁにゃ。ただ、権利関係の詰めの話もあるから、販売はもうちょっと待ってくれにゃ」

「わかりましたわ。職人には、量産体勢を整えるように言っておきますわ」

「でも、出来るだけ安く作れるようにしてくださいね」

「値切り交渉は任せろにゃ~」


 双子王女との話を終えると各自お風呂に向かうのだが、わし達夫婦とコリスが入っていたら、玉藻とつゆも入って来やがった。


「あとから入れにゃ~」

「つゆが風呂場の前をうろうろしていたから、連れて来てやったんじゃ。どうじゃ? なかなかないすばでーじゃろ?」


 「ないすばでー」って、誰がそんな言葉を教えたんじゃ? いや、そんな事より、「ないすばでー」は、誰を指すんじゃ?

 玉藻は巨乳じゃけど、幼女じゃからバランスが悪い。つゆに至ってはタヌキじゃ。胸とか隠しているけど毛だらけじゃから、とてもじゃないが、色気が感じられん。……ん? 殺気!?


「シラタマさ~ん。どこ見てるのですか~?」

「シラタマ殿~。タマモ様とツユちゃんの体が、そんなにいいニャー?」

「にゃ!? これっぽっちも反応しないにゃ~」


 殺気の正体は、リータとメイバイ。わしは本当の事を言うのだが、二人は聞く耳持たず。わしに胸を押し付けるわ、踏むわ、噛むわ……それはもうめちゃくちゃにされて、わしの息子さんが反応するのであった。



 そうして騒がしいお風呂を終えると、気持ちを落ち着かせてから夫婦の寝室に入ってコリスを寝かし付けるのだが、玉藻がつゆを放り込んで逃げて行った。


「にゃ、にゃにか用かにゃ~?」

「あ、えっと……私も一緒に寝たいです……ダメですか?」

「ダメに決まって……」

「いいですよ~」

「こっちおいでニャー」


 わしはつゆを追い出そうとするが、リータとメイバイはタオルケットをめくって手招きする。もちろん理由はわかっている。


「「モフモフ~」」


 わしとつゆを抱き枕にする為だ。


「なっ……違います。私はシラタマさんと……」

「つゆ……諦めるにゃ。ゴロゴロ~」

「「モフモフ~」」

「いや~! やめてくださ~~~い!」


 こうしてつゆの初夜は、わしとは触れ合えず、リータの胸の中で夜を明かすのであったとさ。

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