408 玉藻とつゆにゃ~
「にゃ……」
ソウの地下空洞、別荘の隣にある秘密
「にゃんで縮んでるにゃ??」
「このままだと話しづらいじゃろ?
玉藻がわしの秘密ラボに勝手について来た怒りよりも、玉藻が小さい理由が気になるわしは、怒りを忘れてお願いに応える。
ミニ玉藻を肉球に乗せると机の上に降ろし、つゆにも椅子に座るように促して、わしも席に着く。するとミニ玉藻は、正座をしてわしに向き直り、机に三つ指をつく。
「まずは謝罪をさせてくれ。勝手にあとをつけて悪かった。申し訳ない」
これは土下座か? 公家装束のお人形さんが机に乗っているだけじゃから、どうしても謝罪に受け取れん。てか、それから言われると、何から聞いていいかわからんのじゃけど~?
「えっと……とりあえず、小さい理由を聞かせてくれるかにゃ?」
「そうじゃな。これは呪術を使っておる。妾は分身で、本体はリータ達と歩いておるんじゃ」
「分身にゃ? それって、同じ大きさにはなれないにゃ?」
「できるが、使う呪力に比例する。いまは尻尾の数、九分の一の力を使っておるから、この大きさなんじゃ」
「と言うことは、本体のほうがほとんどの力を持っているわけだにゃ」
「その通りじゃ」
分身の術か……面白そうな呪術じゃな。魔法書さんで探しておこう。
「ちなみににゃけど、本体はリータ達と会話してるにゃ?」
「ああ。いまは商業通りの説明を聞いておる」
「にゃんだか、二度おいしい呪術だにゃ~」
「あとをつけた侘びついでに、弱点も教えてやる。力を分割しておるから、その分弱くなる。それと、こちらの妾が死ねば、力が永遠に失われる」
便利じゃけど、デメリットもデカイんじゃな。半分に割って、戦闘で片方が死ぬと、元の強さの半分になってしまうのか。怖い呪術じゃ。
「しかし、イサベレとオニヒメには驚かされた。まさかこの姿の妾に気付くとはな。避けるのに必死じゃったぞ」
イサベレとオニヒメ? ……あ! わしをバシバシ叩いていた時か。二人ともわけがわからず叩いていたみたいじゃけど、ミニ玉藻にうっすら気付いておったのじゃな。
じゃが、イサベレは危機察知を持っておるから気付いたのはなんとなくわかるが、オニヒメななんでしゃ? もしかして、同じ能力を持っておるのかも?
「オニヒメはよくわからにゃいけど、イサベレは変にゃ能力を持っているから玉藻に気付いたんだと思うにゃ」
「ほう……あの二人の前ではやらないほうがよさそうじゃ」
これで玉藻が小さい理由はわかった。次はわしをつけていた理由じゃな。さすがにここを見られた事は看過できん。
「それで、にゃんでわしをつけてたにゃ?」
「正直に言うと、そちに興味があったからじゃ」
「わしにゃ? わしには妻がいるから、玉藻はちょっと……」
「ふざけるでない! そちの言動と技術じゃ!」
じゃろうな。わかっていたからボケたんじゃ。
「にゃにか変にゃところがあったかにゃ?」
「変なところしかなかろう!」
猫じゃもんな~。はぁ……
「姿形の事ではないぞ? 日本語が達者じゃし、電車の事も知っておった。それに飛行機じゃ。どれもそれも、母上から聞いた、時の賢者の生き写しのようじゃ」
猫じゃなかった! わ~い……と、ボケてる場合じゃないな。つまり、電車はケンジの知識を知っている玉藻の指示で作られたってことか。そして飛行機まで、ケンジは語っていたと……だから、わしを怪しんでつけ回していたんじゃな。
さて、どう答えたものか……。ま、ここは逆手に取ってやるか。
「わしの秘密を知りたいにゃら他言無用にゃ。それと、時計を作る許可と、つゆをわしにくれにゃ」
「他言無用はわかるが……」
「掛け引きはいらないにゃ。わしがつゆを口説いているところも見てたんにゃろ?」
「ああ。そうじゃったな。しかしつゆをか……う~む。平賀家の技術の流出を抑えたいところじゃが……」
悩んでおるな。もうひと押し……いや、ここは大盤振る舞い。ここの技術を出すのに、わしが目立たなくしておくか。
「わしの技術も付けてやるから、損にゃ話にはならないにゃろ? 共同開発って名目で、利益を分配してもいいにゃ」
「ここの技術……それならば……つゆ!」
「はひ! すみません!!」
わし達の話を神妙な顔をして聞いていたつゆは、いきなりミニ玉藻に名を呼ばれたものだから、声が裏返っていた。
「先ほどの話を聞いていたじゃろう? つゆさえよければ、この話に乗ろうと思うんじゃ。遠い異国で暮らしたくないなら言ってくれ。他の者を探してみるからな」
ほう……玉藻はわりと人権意識が高いんじゃな。つゆを売ってでも、乗って来ると思っておったんじゃが……。まぁわしも、望まぬ者をそばに置きたくないから、つゆの意思を大事にするつもりじゃけどな。
わしとミニ玉藻に見つめられたつゆは、あたふたしていたが、意外とすんなり答えを出す。
「わ、私……シラタマ様に嫁ぎます!」
「にゃ??」「は??」
しかしつゆの答えは、わしとミニ玉藻の思っていた答えと違い過ぎて、同時に首を傾げてしまった。
「めかけでもかまいません! シラタマ様のそばに居させてください!!」
「「………」」
わしとミニ玉藻は無言で見つめ合う。しかし、目でこのような会話をしていた。
『こやつ、何を言っておるんじゃ?』
『わしもさっぱりわからないにゃ』
『そちが口説くって、そんな事を言っておったか?』
『うちの国に来ないかとは口説いたんにゃけど……』
と、やり取りをしていたら、つゆが涙目でわしを見ていた。
「こんなタヌキの私なんて、好きになれないですよね……タヌキですみません……」
いまにも泣き出しそうなつゆを見て、ミニ玉藻がアゴをクイッとして「何か言え」と命令して来た。
「いや……タヌキとかじゃにゃくてにゃ。わしには妻が二人も居るし、愛人も間に合ってるにゃ~」
「そ、そんな……うぅぅ」
「にゃ! 泣かないでにゃ~。そもそも、わしはつゆに好かれるようにゃ事をした覚えもないにゃ~」
「あの日の事を覚えてないのですか?」
あの日? どの日じゃ? つゆと会ってから数日じゃけど、せいぜいリータ達にモフられているのを助けたぐらいしか覚えておらん。
「あの日、私を助けてくれたじゃないですか?」
あ、モフられたのを助けたので正解だったんじゃ。
「そんにゃたいした事はしてないにゃ~」
「いえ、平賀家でイジメられていた私を助けてくれました。美味しいおにぎりもわけてくれました。あんなに優しくしてくれた人は初めてで……あの時、一目惚れしたんです~」
平賀家? おにぎり??
「にゃ!? あの時のタヌキにゃ! 男じゃなかったんにゃ!?」
「ちがいます~。え~ん」
いや、泣かれてもわしのほうが困る。そもそもあの時のつゆのかっこうは甚平じゃったし、タヌキの性別はわしにはわからん。せめて今みたいに女装をしてくれないと……
わしがつゆの涙を見てあたふたしていたら、ミニ玉藻がわしをイジメる。
「どこからどう見ても、かわいらしい
どこからどう見てもタヌキじゃからわからんのじゃ!
「玉藻だってワンヂェンの性別、わからなかったはずにゃ~」
「いいや。妾はひと目見てわかったぞ。それより泣いてる女子を放っておいていいのか?」
「え~~~ん」
「泣くにゃ~。そばに居る事ぐらいならいいから泣きやんでにゃ~」
結局、女の涙にに弱いわしは妥協案を提示し、つゆを説得するのであった。
つゆが泣きやむと、ようやくここへ連れて来た本題に入る。
「まぁつゆが我が国民になったんだから、さっそく仕事を頼みたいにゃ」
「はい!」
「ここにあるガラクタを、動くようにしてもらいたいにゃ」
「え……何を作っているかもわからないのですが……」
「おっと、そこからだったにゃ。そう言えば、玉藻の質問にも答えていなかったにゃ」
わしが言葉を区切ると、ミニ玉藻とつゆの視線が集まる。
「玉藻が言った通り、わしは時の賢者と似た世界からやって来たにゃ」
「やはり、転生者じゃったのじゃな」
「玉藻は詳しいにゃ~。ちなみに、時の賢者とは同郷の日本人と言いたいところにゃけど、千年の誤差があるみたいにゃから、別世界と言ってもよさそうにゃ」
「別世界……難しいな」
「まぁ同じ時代の日ノ本から来たと覚えてくれにゃ。その日ノ本の技術で作られた物が、ここや外にある物にゃ」
わしは一通りの説明をすると、四角い土台に円盤が乗っている物を触る。
「これはレコード……蓄音機にゃ」
「「蓄音機??」」
「言葉通り、音を
わしはスイッチを押して円盤レコードが回り始めると、ゆっくり針を落とす。すると、ラッパのような形の部分から、奇妙な音が流れる。
『にゃにゃにゃにゃ~ん♪ にゃにゃ~~~にゃ~にゃん♪』
「なんじゃ? これはシラタマの声か? 遅くなったり早くなったり気持ち悪いのう」
ミニ玉藻の言う通り、わしの鼻歌を録音してみたのだが、スピードが一定にならず、音が伸びたり縮んだりしている。
「そうにゃんだよにゃ~。正確にゃ時を計る
「しかし、これが完成すれば……」
「そうにゃ。玉藻の声を後世に残せるにゃ」
「お、おお! 天皇陛下の声も残せるのか!? いつ完成するんじゃ?」
「これは時計が手に入ったから、わりと早くに出来そうにゃ」
わしは興奮するミニ玉藻から、レコードを触っているつゆに視線を向ける。
「どうにゃ? 平賀家とわしの知識が合わされば、技術が進化するにゃろ?」
「は……はい! こんなの、誰も思い付かないです!!」
「にゃはは。たぶんわしが居にゃくても、先の未来に作られるはずにゃ」
つゆがわしを褒め称えるので笑っていると、ミニ玉藻が質問する。
「しかし、地上の技術より、地下の技術のほうが優れておるじゃろ? 何故、上で使わんのじゃ?」
「使いたいのは山々にゃんだけどにゃ~。技術の進化が早すぎると、みんにゃついていけないにゃろ?」
「たしかにそうじゃがもったいない……」
「それに、わしが目立ってしまうにゃ。電車とバスで一人勝ちしてるんにゃから、さらに出すと、恨まれる心配もあるんにゃ。やり過ぎると戦争の火種にもなるからにゃ」
「戦争……そう言えば、時の賢者も似たような心配をしてたらしいぞ。だから妾も、大きな
なるほど。日ノ本の戦が全て短期間に終わっていたのは、ケンジの忠告を信じていたからか。
「そんにゃわけで、技術を外に出すのは慎重にしているから、この地下で行っているんにゃ。他に質問はあるかにゃ?」
わしの問いに、つゆが手を上げようとしたが、ミニ玉藻が前に出る。
「シラタマの事はだいたい理解したが、ここは何故、こんなに呪力が満たされておるんじゃ? まるで新津のようじゃ」
新津? ……源斉が言っていた呪力場か。やはりここと同じように魔力が充満してるんじゃな。しかし、理由を聞かれても仮説の段階じゃからな~。
「玉藻は、その新津が呪力場になっている理由はわかるのかにゃ?」
「いや、わからぬ」
「じゃあ、新津と同じ現象がここで起きているんにゃろ。ちなみに、白い木の群生地も同じように呪力が満ちていて、強い獣が鎮座しているにゃ」
「獣がか……」
「まぁ木を取りに行く時に、この話はまたしようかにゃ。それじゃあ、ちょっとここの案内してあげるにゃ~」
こうしてわしは、ソウの地下空洞を、ミニ玉藻とつゆを連れて歩くのであった。
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