407 ソウの案内にゃ~


 猫の街で一通りの急ぎの用事が終わると、昼には少し早い時間だったので、コリスの様子を見てからエミリに世話を任せる。大量の肉と串焼きを置いたから、コリスとオニヒメは満足してくれるだろう。

 心配事が片付くと、猫の街を出てラサに急ぐ。つゆを担いで一時間も走れば着くだろうが、ここは時間短縮で転移。ラサ近辺の隠れ家から走って街に入る。


 そこで街行く人に、リータやメイバイ、キツネや尻尾が九本ある幼女は見掛けなかったかと聞きながら歩く。

 リータ達は王妃なので顔が知れ渡っているし、キツネと変わった幼女の目撃例は、出るわ出るわ。結局は、お昼とあって、センジの屋敷に戻ったみたいだ。

 なので、わしとつゆはセンジの屋敷にお邪魔する。


「猫陛下! お久し振りです!!」

「久し振りにゃ~」


 センジはわしの姿が目に入ると、駆け寄って深々とお辞儀をするので、玉藻が「本当に王じゃったのか」とか言ってた。


「玉藻の案内をしてくれたみたいだにゃ。ありがとにゃ~」

「いえ。国賓に対して当然の事をしたまでです。それに、いろいろお話も出来て楽しかったです」

「にゃはは。気が合ってよかったにゃ~」


 センジはわしの食事も用意してくれていたらしいので、食堂で有り難くいただく。そこで簡単な冒険談を話すのだが、ちらちらタヌキ少女つゆを見ていたので紹介してあげた。


「はぁ……キツネさんだけでなく、タヌキさんまで歩いているのですか。猫陛下だけでも驚いていましたのに……」


 センジの驚き対象者に、完全にわしが入っていたけど気にしない。玉藻の「やはり王ではないのでは?」は、気になったがな!

 とりあえず楽しい食事会はお開きになったが、センジは聞き足りなかったようなので、近々また来ると言って、日ノ本で買って来たお土産を置いてラサをあとにした。



 次に向かうはソウの街。キャットトレインはすでに発車していたので、飛行機での移動となった。その機内で、玉藻とキツネ店主に質問してみる。


「ラサはどうだったにゃ?」

「猫の街とは違った文化のようじゃな。それに野菜が豊富で、なかなかうまかったのう」

「へえ。面白い味わいの食材が多くて、商人の血が騒ぎますがな~」


 どうやら玉藻とキツネ店主は、ラサにある市場に連れて行ってもらったようだ。そこでセンジがわかりやすく説明してくれたとのこと。家臣が褒められるのは、嬉しいもんだ。

 そうして感想を聞いていると、玉藻はキャットトレインにも触れる。


「本当に日ノ本と変わらぬ乗り心地じゃったな。シラタマ達が驚かないわけじゃ」

「うちの目玉商品だから、当然にゃ~」

「しかし、線路が無いのは驚きじゃ。あんなので、真っ直ぐ進めるのじゃな」

「あ~。うちでは馬車移動が多くてにゃ。通行の妨げににゃるから、出来なかったんにゃ」

「ほう……最初は線路を作るつもりじゃったのか……」

「にゃ~?」

「そうじゃ!」


 玉藻が意味深に呟くのでわしは首を傾げるが、違う話に変えられる。


「ハロー。サンキュー。どうじゃ? ちゃんと発音できておるか?」

「にゃ! うまいにゃ~」

「コンコンコン。リータとメイバイに教えてもらったんじゃ。絵本もわかりやすかったぞ」

「わしも二年ほど前に、絵本から始めたにゃ。それですぐに喋れるようになったから、他心通の使える玉藻にゃら、早くに覚えられるはずにゃ~」

「それは頑張らねばならんのう」


 玉藻だけでなく、キツネ店主も簡単な挨拶は出来るようになっていたので、つゆもリータ達にモフられながらでも覚えるだろう。



 ソウに着くと、王宮に一直線に向かい、揉み手のホウジツと面談する。


「お猫様。お帰りなさいませ~」

「ただいまにゃ~。さっそくで悪いけど、誰でもいいから玉藻と質屋に、ソウを案内してあげてくれにゃ」

「でしたら私が行きます! そちらのキツネさん……シチヤさんでしたか。商人だと王女様方から聞いておりますよ。話をしてみたいです!」

「にゃはは。耳が早いにゃ~。質屋も、日ノ本でこちらの物を売る予定にゃから、うちもおいしくなるようにしてくれにゃ」

「はい~。おまかせあれ~」


 商売の話になると、ホウジツはテンションが高い。キツネ店主の姿には一切触れず、楽しそうに喋っている。キツネ店主には念の為、念話の入った魔道具の予備を渡しておけば、言葉に困る事はないだろう。

 とりあえず、リータとメイバイにも玉藻の事は頼んで、わしはつゆを連れて王宮の一階を歩く。


「あ、あの……どうして私だけ別行動なんでしょうか……すみません!」

「ちょっと見せたい物があってにゃ。あの扉の向こうにゃ」


 わし達はスタスタと歩き、扉を開けて中へ入る。


「わっ! 電車を作っているのですか!?」

「いや……アレはバスだにゃ。わしのバスに乗ったにゃろ? それの電動版にゃ」

「なるほど……」


 つゆは引き寄せられるようにバスに向かうので、わしは手を掴んで止める。


「そっちじゃないにゃ~」

「あ! すみません! でも……」

「わしの用件が終わったら、好きなだけ見せてやるにゃ~」

「は、はい! すみません!!」


 つゆは謝っていたが、珍しい物が見付かると道を逸れそうになるので、手を繋いだまま進む。すると、大量の物を引っ張っている男達が目に入る。


「あの、ここはなんの施設なんでしょうか……すみません」

「電車とバスの製造工場と、車庫を兼ねた倉庫にゃ。ここから各地に、生活に必要にゃ呪具が運ばれているんにゃ」


 この王宮は、かなり改造されている。一階は広く面積を取り、天井を取っ払ったので、二階分の高さのある広々とした空間となっている。そこで電車やバスを作ったり、修理したりしている。

 隣は電車が到着し、魔道具の輸送場所となっているので、一階のほとんどは工場と倉庫になっている。

 ただ、ソウの街の役場も兼ねているので、表側は立派な作りを残しているのだ。



 その広い倉庫内をわし達は歩いているのだが、つゆは気になって矢継ぎ早に質問して来るので大変だ。


「あんなに多くの物を、一人で運んで重くないのですか?」

「普通はにゃ。ハンドリフトって道具を使っているから、重くても楽に引っ張れ、上げ下げも簡単に出来るんにゃ」

「ハンドリフト??」

「にゃんて言ったらいいんにゃろ……ちょっと使ってみるかにゃ?」


 説明が難しい質問が来てしまったので、木の板パレットを引っ張っている男を呼び止めて、実演してあげる。そこでつゆも使わせると興奮していた。


「なるほどです! 扛重機こうじゅうき(ジャッキ)が使われているのですね! 重さを感じず荷物を持ち上げられるのは不思議です~。それに車輪も何か違う技術も使っていそうです!」

「まぁ油圧式ポンプ、軸受けにはペアリングとか、技術が多く使われているからにゃ」

「聞いた事のない技術ばかりです!!」

「これでいいにゃろ? 早く行こうにゃ~」


 まだ聞き足りないといったつゆの手を引っ張り、強引に先に進む。そうして一番奥、大きな扉のある部屋の隣、関係者しか入れない扉の鍵を開けて部屋に入った。

 ここは本当に一部の者しか入れない部屋。ソウを管理するトップクラスと、この施設の初期にたずさわった者しか入室を許可していないし、契約魔法も掛けているので、他の者を中に通す事もできない。もちろん隣の大きな部屋も、同じ処置を行っている。


 それほど厳重にしている理由は、猫の国の商売の中枢だからだ。


 その部屋から隣の大部屋に移動し、鐘を数回鳴らすと、どこからともなく鐘の音が帰って来る。すると、つゆは不安な顔になったのも束の間、部屋が震動した。


「な、なんですか!? 変な感じがします!?」

「大丈夫にゃ。立ってられないにゃら、わしに掴まっておくにゃ」

「す、すみません……」


 つゆがへなへなとするので、わしは手を貸してしっかり立たせる。そうして一分ほど時が過ぎると部屋の振動が止まり、目の前の扉が大きく開いた。


「「わっ!?」」


 ここはソウの地下空洞。わし達の居た揺れる部屋は、エレベーターだ。つゆは広々とした空間を見て驚きの声をあげたのだが、わしは不思議に思う。


「いま、つゆ以外の声がしなかったにゃ?」

「な、なんですかここは!?」

「えっと、地下空洞にゃ。それでさっき……」

「うわ~。アレ! アレはなんですか!?」


 つゆは興奮してわしの話を聞いてくれないので、気のせいかと受け取って説明する。


「フォークリフトにゃ」

「じゃあ、アレは?」

「ベルトコンベアにゃ」

「あっちのアレは!?」


 地下空洞に現れた近代技術を見たつゆは、地上よりもテンションが高い。しばらく説明に明け暮れるが、テンションが下がらないのでお姫様抱っこで走り抜ける。

 そうして働く人々を横目に、壁に取り付けられた扉を開くと、芝生や木、和風の一軒家が見える。


「アレは!?」

「どう見ても家にゃ~。ちょっとは落ち着けにゃ~」


 興奮冷めやらぬつゆは、家を見てもわからないようだ。仕方がないのでそのまま別荘の隣にある離れに、つゆを連れ込んだ。


「うわ~~~! ここも見た事がない物ばかりです~~~」


 ここは、わしの秘密研究室ラボ。土魔法で封印しているので、わししか開ける事ができないし、リータとメイバイ、コリスしか入れた事がない。

 ホウジツは入りたそうにしていたけど、外の技術だけでも目が金貨になっていたから、どうでもよくなっていた。

 そのメンバーしか入れた事がない理由は、地下空洞にあるオーバーテクノロジーを作り出したラボだからだ。わしが作れる現代の技術が集結しているので、見せられない。

 ぶっちゃけ、リータ達が訓練ばっかりするから暇すぎて、趣味で作っていたものじゃけど……


 その数々を見て触りまくっているつゆに、わしは質問する。


「どうにゃ? 平賀家も真っ青にゃ技術の数々にゃろ~?」

「は、は……」

「もう我慢できん!!」


 つゆが答えようとしたが、それよりも大きな声が聞こえた。


「いまの声……玉藻にゃ?? どこに居るにゃ!!」


 わしは聞き覚えのある声に断定し、玉藻を探すが見付からない。つゆも同じようにキョロキョロしているが、姿形もない。


「出て来るにゃ~!!」

「待て! そう動き回るな。踏まれそうなんじゃ!!」

「にゃ~~~?」


 わしが大声を出して探していると、足元から声が聞こえたので下を見る。するとそこには、野球ボールぐらいの大きさの玉藻が立っていたのであった。

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