412 さっちゃんの誕生日パーティーにゃ~


 オニヒメに魔法を教えたその日の夜、食堂にて明日の事を話し合う。


「さっちゃんの誕生日パーティーに行きたい人……挙手にゃ~!」


 明日はさっちゃんの誕生日パーティー。

 正式なパーティーだからわしは行きたくないので招待状は無視していたのだが、毎日のように手紙と通信魔道具の連絡が双子王女に届き、「たまには王様らしい仕事をしろ」とお達しが下り、出席する事になってしまった。

 なので、覚悟と体調を整える為に急いで日ノ本から帰って来たのだ。ちなみに双子王女も出席するのだが、よけいな者を連れ帰ってしまったせいで二人の仕事が増えてしまい、出発が遅れたから、わしと同時に出発する事になっている。


 わしだけで出席してしまうと婦女子の格好の的になってしまうので、勇姿を募ってみたというわけなのだが……


「にゃんで誰も手を上げないんにゃ~! リータ~。メイバ~イ。ついて来てくれにゃ~」


 わしは二人に泣き付いてみるが、何故か嫌そうな顔をする。


「だって……ねえ?」

「ねえ?」

「にゃんで~!」

「そんな場違いな場所、緊張しちゃうので……」

「私もニャー。それに、オニヒメちゃんの訓練に付き合わないといけないニャー」

「二人は王妃にゃんだから、場違いじゃないにゃ~」


 わしが「にゃ~にゃ~」言っても聞く耳持たず。仕方がないので招待状を受け取っている……いや、絶対に連れて来いと言われている二人に聞いてみる。


「コリスは行くにゃろ~? 美味しいごはんが出るんにゃよ~?」

「おいしいの! いく!!」


 コリス、楽勝。どうやら説明が無かったから手を上げなかったようだ。


「ワンヂェンも行くにゃろ~? 美味しいごはんが出るんにゃよ~?」

「にゃんでうちまでエサで釣るんにゃ~! そんにゃに食いしん坊じゃないにゃ~!!」

「ついて来てくれにゃ~」

「モフモフ撫でられるのがオチだから行きたくないにゃ!」


 わしもそれが嫌だから、モフモフを分散しようとしてるんじゃろ! こうなったら……


「こんにゃいい物があるんにゃけど、どうかにゃ? 書類の計算が楽になるんだけどにゃ~。にゃあにゃあ?」


 わしが懐から取り出した物は、ソロバン。日ノ本で買って来た物ではなく、わし個人で使っていた物だ。

 ソロバンは、工芸品の無い猫の街の目玉商品として、大量生産してから一気に売り出そうと考えていた。だが、人手が足りなくて先送りになっていたから、まだ販売していない。


「ほ、本当に、計算が楽になるにゃ?」

「使い方を覚えたらにゃ。ワンヂェンは院長にゃのに、計算が苦手だもんにゃ~。かっこわる……」

「い、行くにゃ! 行けばいいんにゃろ!!」


 よっしゃ! これでモフモフ二匹、ゲットだぜ! あとは……


「つゆも来にゃい?」

「あ、あんなきらびやかな宴……む、無理です! すみません!!」


 どうやらつゆは、城で大勢の貴族に囲まれた事で、パーティー恐怖症になっているようだ。リータ達よりみすぼらしい服装をしていたので、場違い感が半端なかったとのこと。

 なので服を用意すると言ってみたが、震えて拒否するので、諦めるしかなかった。まぁコリスとワンヂェンが居るから、無理強いはしない。出来立てホヤホヤの写真を受け取って、解放してあげた。



「のう? どうしてわらわは誘ってくれないのじゃ?」


 わしが勧誘を終えてコーヒーを飲んでいたら、玉藻が質問して来た。


「にゃ? 行きたかったにゃ?」

「ようやくシラタマの王らしい仕事が見れるのじゃ。見ないわけがなかろう」

「じゃあ、ついて来たらいいにゃ~」

「もっと必死に誘わんか!!」


 どうやら玉藻は、お願いされて、仕方なくついて行くと言いたかったようだ。それが叶わなかったので、怒っているみたいだけどしらんがな。招待状を貰ってないんだからな!


 そうして双子王女の元、わし達のパーティー用の衣装を選んでもらうのだが、玉藻の服が決まらない。なので、パーティーでは胸を引っ込めて尻尾を一本にし、ワンヂェン用のドレスを着る事で落ち着いたらしい。

 わしはすぐに大蚕おおかいこのスーツに決まっていたので、キッチンに顔を出して、エミリとお喋りする。


「明日、エミリも来ないかにゃ?」

「わ、わたしがパーティーなんて……」

「にゃ? パーティーに出たいんにゃ。それじゃあ、服を用意しなきゃだにゃ~」

「え? 違うのですか??」

「料理長が会いたがっていたから聞いたんにゃ。しばらく役場の人数が減るから、いい機会だと思ってにゃ」

「そういう事でしたら……」


 エミリは渋々だが行くと言ってくれた。だが、別れ際に見えた顔は微笑んでいたので、久し振りに料理長と会うのは嬉しいみたいだ。


 キッチンをあとにしたわしは、もう一度衣裳部屋に顔を出し、双子王女にエミリの服も適当に選ぶように頼んで寝室に入る。

 そこでは、コリスと一緒に眠るオニヒメと、リータとメイバイに抱かれてウンウンうなっているつゆの姿があった。

 とりあえずわしもリータ達の間に入って、ゴロゴロ唸りながら眠りに就くのであった。



 翌朝……


 朝早く起きたパーティー出席者は空を行く。東の国王都に着くと、ずかずかと城に乗り込み、パーティー会場ではない控え室で、しばしご歓談。エミリはそわそわしているので侍女に頼み、料理長の元へ連れて行ってもらった。

 それからごはんが待ちきれないコリスに餌付けしていると、女王が入って来た。


「いらっしゃい」

「「お母様!」」


 笑顔の女王の登場で、双子王女はいつものすました顔ではなく、子供の顔になってハグしていた。長い間会っていないので、どちらも嬉しいようだ。

 そうして挨拶が終わると三人とも席に着くのだが、女王がわしを膝に乗せる。


 う~ん。わしの定位置ってここなのか? せめて許可を取ってからして欲しいわい。


 女王はわしの頭やあごを撫でながら、他心通を使っている玉藻と話し合う。


「忙しいのに、娘の誕生日に出席してくれて感謝する」

「ゴロゴロ~」

「いいのじゃ。妾も異文化を体験できるのは嬉しい。こちらこそ、無理を言ったのに参加させてくれて、感謝の言葉もない」

「ゴロゴロ~」

「ところでじゃが、シラタマは王で間違いないのか?」

「どうしてそのようなことを聞くのだ?」

「こやつ、猫の国でも、王らしい事をしないのじゃ。いまも喉を鳴らしておるし……」

「ウフフ。ジョスリーヌ達からも、似たような愚痴をよく聞いているわ」

「やはり……」

「ゴロゴロ~」


 喉が鳴るのは、撫でるからですよ! あと、そういう悪口は、わしの居ないところでやってくださ~い!


 双子王女が女王達の悪口に加わると、ワンヂェンまでわしを悪く言う。バツが悪いわしは、猫になって耳に蓋をするのであった。



 しばらくわしがゴロゴロ言っていると、会場側の扉が開き、さっちゃんが控え室に入って来た。すると、女王が何事かと質問する。


「戻るのはまだ早いでしょ? 主役が何をやってるのよ」

「ご、ごめんなさい! でも、服が苦しくて……着替えたら、すぐに戻ります! ……あ! シラタマちゃん!!」

「ゴロゴロ~?」

「この服、すっごく重たいよ~」

「ゴロゴロゴロゴロ~」

「なに言ってるのよ~~~!!」


 さっちゃんが怒られたのに罪をなすり付けて来るので、わしは女王の膝から抜け出して褒め称える。


「すっごく綺麗にゃのにもったいないにゃ~」

「評判はよかったんだけど、これだけ重いと苦しくて~」


 さっちゃんの今日のお召し物は、十二単じゅうにひとえ。わしが京で買って来た物だ。誕生日プレゼントに悩んでいたからちょうどよかったので選んだのだが、複数の着物を重ね着する事は疲れるようだ。


 そうして苦情を聞いていたら、玉藻も話に入って来る。


「まぁ十二単は、着物に慣れている者でも窮屈じゃからな。初めてじゃと疲れるじゃろう」

「あ! タマモ様の国を悪く言うような事を言ってしまいました。申し訳ありません」

「よいよい。異国の権力者が着てくれたなら、我が国もいい宣伝になるじゃろう」

「では、私はこれで……」

「ちょい待つにゃ」


 さっちゃんが別室に移動しようとすると、わしは止める。


「なに~? 急いでいるの~」

「写真を一枚だけ撮らしてくれにゃ。べっぴんさんに撮ってあげるにゃ~」

「うん!」


 さっちゃんはいろんなポーズを取るけど、動かないでくれる? すぐにポーズを変えるからシャッターが切れんのじゃ! 一眼レフじゃから一枚を撮るのが大変なんじゃし、フィルムが少ないから撮り直しがもったいないんじゃぞ!


 ようやく最高の一枚が撮れたと思うが、現像してみない事にはわからない。その事を伝えると、さっちゃんは楽しそうに別室に消えて行った。

 そして早着替え。さっちゃんは、大蚕の糸で編まれた綺麗なドレスに着替えて飛び出して来た。そこでまた写真を撮れと言うのでパシャリ。

 嵐のように去って行ったさっちゃんの別室は、竜巻にでもあったかのように服が脱ぎ捨てられ、侍女がせっせと片付けていた。

 女王が深いため息を吐いていたところを見ると、夜に説教が待っていると思われる。誕生日なのに、かわいそうなことじゃ。



 それから少し待ち、パーティー出席者の昼食が落ち着いた頃に、わし達は立ち上がる。


 誕生日パーティーの概要は、午前の部は子供達で楽しくお喋り。午後の部は王族が出席者に軽く挨拶して、三時頃には出て行くプログラムらしい。

 なので、関係ない猫の国……マスコットは、ここで登場して場を楽しませろとのこと。わしはピエロでも着ぐるみでもない、王様なんじゃけど……

 軽く愚痴を言っても、王族はさっさとパーティー会場に入って行った。ちなみに王のオッサンは仕事が忙しかったのか、滑り込みセーフ。特に怒られていなかったようなので、時間通りに来たようだ。


 そうして挨拶が終わったと思われる大きな拍手が聞こえて来ると、わし達は侍女に言われるままに、パーティー会場に足を踏み入れ……


「「「「「キャーーー!!」」」」」


 いや、わしのぬいぐるみを高く掲げて、目がイッてる猛女子が棲息する檻の中に放り込まれた。


 そこからは狂喜乱舞。どうやら他国の王女様や貴族の女子達は、歩くぬいぐるみの存在を知ってはいたけどなかなか出会えないので、さっちゃんに頼んでいたようだ。前回の誕生日でも連れて来てと泣き付かれ、わし達を売ったっぽい。


 狂ったように喜ぶ猛女子がにじり寄る姿は恐怖でしかない。だが、落ち着かせない事にはこの場が収まらない。

 とりあえずコリスが暴れてはいけないので、王族ガードで守ってもらい、わしはワンヂェンを猛女子の中に投げ込んだ。

 これだけでは落ち着かないだろうから、わしも猛女子にダイブ。小一時間揉みくちゃにされ、女王のグラスを鳴らす音が「チンチン」と聞こえて、ようやく解放されるのであった。


「ワ、ワンヂェン……大丈夫にゃ?」

「も、もう……ダメ…にゃ……ガク」

「ワンヂェ~ン! 誰か助けてくれにゃ~!!」


 わしは気を失ったワンヂェンを抱え、東の国の中心辺りで救助を叫ぶのであったとさ。

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