219 王のオッサンに交渉にゃ~


「それじゃあ、わしは行くにゃ」


 皆に戦争の件を説明し終えると、トーケル達が出て行った本陣で、アイに別れの挨拶をする。


「これから宴をやるわよ。参加しないの?」

「急ぎの用があるにゃ」

「まさか戦争に関わる気じゃないでしょうね?」

「バレたにゃ」

「さっきの話を聞いたら当然よ。それに、猫ちゃんの雰囲気もね。メイバイの一族、助かるといいわね」

「やるだけやってみるにゃ~」

「頑張ってね」

「あんちゃんやバカにも、もう行ったと伝えておいてくれにゃ」

「わかったわ。でも、マリーには自分で伝えるのよ」

「オッケーにゃ~」


 わしはアイと別れの挨拶を済ませると、後始末をしているマリー達に近寄り、別れの挨拶とゴロゴロをする。そして、撫で回されてゴロゴロ言いながらも、また王都で会う約束をして、逃げ出した。


 車に乗り込むと、リータも疲れていたのか、メイバイを抱いて眠っていた。二人の寝顔を見ていたかったが、そんな暇は無い。車を発車させて街から離れると飛行機に乗り換える。

 寝ている二人を優しく抱きかかえ、席に座らせて固定すると、男の入った箱も静かに積み込む。

 もう日が沈みそうだから転移魔法でローザの街に飛びたかったが、飛んだ先がどうなっているかわからないので、飛行機にした。


 離陸して、しばらくすると完全に日が落ちる。暗くて見えないので方位磁石を頼りに飛び、飛行時間が一時間に近付くと、たくさんの松明の灯りが地表に見えた。なので、当たりを付けて、その離れた場所に着陸する。


 そこでまた車に乗り換えるのだが、リータとメイバイを起こしてしまったようだ。


「メイバイ……大丈夫にゃ?」

「うぅぅ。シラタマ殿~~~」


 メイバイはわしに抱きつき、大粒の涙をこぼす。わしは、そんなメイバイの気持ちを汲んで、黙って抱き締める。

 しばらく泣き続けて言葉を発しないメイバイだったが、少し落ち着くと、わしの目を真っ直ぐに見つめる。


「シラタマ殿……グスッ。私の……私の一族を助けてニャーーー」


 メイバイは泣きながら、叫びながら、わしに懇願こんがんする。そんなメイバイの頭をわしは優しく撫でる。


「その言葉、待ってたにゃ! わしに任せるにゃ! 絶対にメイバイの一族を救ってやるにゃ~~~!!」

「シラタマ殿~~~」


 わしの言葉にメイバイは、再度、大きな声で泣き始める。その姿を見たリータもメイバイを抱き締め、三人で大泣きしてしまった。


 誰が一番最初に泣きやんだかわからないが、車に乗り込み、東の国の軍隊だと思しき方向に車を走らせる。

 軍隊の元へ辿り着くと、もちろん馬のいない馬車は怪しまれ、兵士に囲まれた。だが、わしが一歩外に出ると「なんだ猫か」と、兵士は元いた場所に帰って行った。


 皆、わしから離れて行こうとするので、兵士を一人捕まえて交渉する。


「ここで一番偉い人に会いたいにゃ」

「猫がか?」

「いい情報を持って来たにゃ。役に立つ情報だと思うにゃ~」

「それでもな~。王殿下は会ってくれるかどうか……」

「オッサンがいるにゃ!? それにゃら、猫が来たと行ってくれたら大丈夫にゃ」

「王殿下を、オッサン呼ばわり……」

「にゃ! にゃははは。敵国の捕虜も連れて来たからお願いにゃ~」

「本当か!?」

「ちょっと待つにゃ」


 わしは車に戻ると大きな箱を持ち出して、兵士に顔の部分を開けて確認させる。兵士は松明を近付け、男の顔を確認すると、慌てて走り去って行った。

 ほどなくして、わしは王のテントに案内される。ちなみにリータとメイバイは、車でお留守番だ。



 テントの中では会議中だったのか、イサベレ、オンニといった騎士達や、見慣れない偉そうな男や女がそろっていた。

 わしは皆に失礼があってはいけないと、挨拶をして入る。


「邪魔するにゃ~」

「『失礼します』だ!」


 オンニに怒られた。どうやら、この挨拶では失礼だったみたいだ。


「まぁまぁ。捕虜を連れて来たんだから大目に見てくれにゃ」

「その箱に入っているのか?」


 わしが引く箱に、王のオッサンが目を向けるので、答えてあげる。


「王様に進呈するけど、出来るだけ殺さないようにしてやってくれにゃ」

「王様だと~~~?」

「にゃに?」

「猫が私の事を王と呼ぶとは、どうしたんだ?」

「わしだって礼儀ぐらい、わきまえられるにゃ~」

「怪しい……」


 オッサンがわしをジト目で見るので、無視して話を進める。


「それより、この捕虜どうするにゃ?」

「ああ。契約魔法で縛る。命令しておけば、死ぬことも逃げることも出来ないからな。だが、殺さないでとは、どういうことだ?」

「順を追って説明するにゃ」

「ああ。頼む」

「あ、その前にお茶をくれにゃ~」

「さっさと話せ! お茶は話のあとだ!!」


 オッサンは本当にお茶を出してくれなかったので、自分で用意し、話し始める。だが、コーヒーの香りに貴族出身の騎士は目を輝かせ、くれくれうるさかったから淹れてやった。


「王様も飲むんにゃ……」

「うるさい! 早く話せ!! ズズー」


 こうして、一時中断したものの、わしは北の街で起こった事態を丁寧に順を追って説明する。皆、わしの話が終わるまで静かで、コーヒーをすする音しかしない。


「これで全部にゃ」

「なるほどな。まずは、フェンリル討伐、ご苦労であった」

「やめてくれにゃ。それはハンターのみんにゃが頑張ったんだからにゃ」

「……そうか。しかし、魔法陣で白い獣を操る……か。にわかには信じられないな」

「だろうにゃ。でも、魔法陣は持って帰って来たにゃ。解析できるにゃらやってくれにゃ」

「わかった。外に出してくれ」


 オッサンの指示に応えて、テントを出た広い場所に、次元倉庫から魔法陣を取り出す。魔法使いらしき者から、わしの次元倉庫がうらやましいのか、ギリギリと歯ぎしりが聞こえたが、頑張れとしか言えない。無理だろうけどな!


 魔法陣は専門化に任せて、わしはテントに戻り、オッサンとの話を再開する。


「猫の怒りはわかったが、この男は場合によっては死罪となるが、問題無いか?」

「う~ん。任せるにゃ。その時は、出来るだけ苦しませて殺してくれにゃ」

「見た目と反して、意外と残酷なんだな」

「こいつのやった事が許せないだけにゃ。その罪を悔い改めず、放棄して死ぬにゃんて、もってのほかにゃ」

「そうか……連れて行け」


 オッサンの指示に、兵士が捕虜の入った箱を運んで出て行くと、わしは次の話に移る。 


「それで、これほどの情報を持って来たんにゃから、報酬が欲しいにゃ」

「ああ。金ならギルドに振り込む」

「金にゃんていらないにゃ」

「では、何が欲しいんだ?」

「情報と、この戦争に、少し噛ませてくれにゃ」

「情報はどこまでかによるが、参加したいのか?」

「さっきも言ったけど、メイバイの一族の命が掛かっているにゃ。その命を守りたいにゃ」


 わしのお願いに、オッサンは考えてから言葉を発する。


「聞いた話だと難しいんだろ? どうやってやるんだ?」

「もしも魔法陣を解析して解除できるにゃら、その者を借りたいにゃ。解除できにゃくても、王様が相手とぶつかっているところを、わしが本陣に攻め行って、出来るだけの事はするつもりにゃ」

「……なるほど。だが、こちらも兵の命が懸かっているから、白い獣を殺さないで無力化するのは難しいぞ?」


 そりゃ軍隊の長が、他国の数十人の者を守る為には動けんか。致し方ない。


「その時はその時にゃ」

「まぁ少しぐらいなら時間を稼いでやる」


 おお! 意外といい奴じゃ。オッサンのくせに……と、感謝感謝。


「ありがとにゃ~」

「それで情報が欲しいとはどういう事だ?」

「現在の状況を聞きたいにゃ。出来るだけ詳しくにゃ」

「猫も参加するなら、必要な情報だな。補佐官、教えてやれ」

「はっ!」


 補佐官と呼ばれた男は、オッサンの変わりに状況を説明する。

 軍はフェンリル討伐に移動したが、白い獣が現れたと聞いて反転。反日ほど戻ると、東の街の住人と思われる大勢の民や、領主と接触したらしい。

 領主に何故、住民を連れているのかと問いただすと、キョリスが現れたと聞いて、このままでは民が死ぬと、街を捨てて逃げ出して来たとのこと。

 王はキョリスでは仕方ないかと、問い詰めずに避難先の隣町、ボーデン領に向かうことを許可する。


 その後、東の街が見えたところで日暮れ間近となり、陣を張って、いまに至るらしい。わしが本当にキョリスだったのかと聞くと、巨大な白い獣が二匹いたので、可能性は非常に高いと言われた。


 補佐官の説明を聞き終えると、わしはオッサンを見る。


「ローザ……ロランスさん達は大丈夫だったにゃ?」

「ペルグラン家の者にも、領民にも被害は無いと聞いている」

「よかったにゃ~。そう言えば王都のギルマスが、人が居たと言っていたけど、それが帝国軍かにゃ?」

「街の外壁に見慣れない旗が複数立っているから、猫の話から察するに、それが帝国の旗だろう。街にもかなりの人数が入っているのかもしれない」

「籠城ってやつにゃ?」

「おそらくな。だが、領主から、外壁を開ける魔法陣の場所を聞いたから、通常より楽が出来るな」


 外壁を開ける魔法陣? ロランスさんは、街を取られたあとの事まで考えていたのか。かなり頭が切れる領主さんだったんじゃな。撫でられた記憶しかないけど……


「そうにゃんだ~」

「明日の日の出を待って攻めるから、すぐに落とせるだろう」

「にゃ~~~?」


 わしが首を傾げると、オッサンは不思議そうな顔になった。


「どうした?」

「いまから攻めないにゃ?」

「月も無いのに、攻められるわけがないだろう」

「言い方が悪かったにゃ。嫌がらせぐらいしないにゃ?」

「嫌がらせ?」

「相手に寝かせないとかにゃ。寝不足に持っていけば、向こうの士気が下がるにゃ~」

「なかなか卑怯な事を考えるんだな」


 は? 一般的な戦略じゃろ? これだからオッサンは……


「卑怯じゃないにゃ~。戦略にゃ~」

「たしかに……有効な手立てだ」

「やるにゃら、わしに協力させてくれにゃ」

「何をするんだ?」

「忍び込んで、情報収集して来るにゃ」

「それは助かるな。準備をするから、しばし待て」

「わかったにゃ~」


 話が終わると、オッサンには車に戻っていると言って、テントを出る。テントの外では複数の魔法使いが魔法陣を囲んでいたので、少し気持ち悪かった。いまにも何かを呼び出しそうだ。

 そんな中、またちびっこ魔法使いがわしを見てすごすごと逃げて行ったが、なんでじゃろう?


 車に戻るとリータとメイバイに出迎えられ、少し遅くなったが夕食にする。今日はメイバイの好きな焼き魚だ。次元倉庫に入っている焼いてある魚よりも、その場で焼いたほうが、食欲が湧いてうまい。

 なので、料理をしていたら、近くにいる兵士が譲ってくれと寄って来た。腐るほど持っているら少しくらいならいいかと振る舞っていたら、噂を呼んでかなり人が集まって来てしまった。

 人数が増えると、魚をさばくのに手間が掛かるから、大量に持っていた肉に変更。作るのも面倒になったので、料理が出来る人を集めて、勝手に焼いてもらう。


 そうこうしていたら、潜入の時間となって、王様直々に迎えに来た。


「何をしているんだ!」

「にゃ~~~?」

「だから、なんで宴会なんてしているんだと聞いているんだ!!」


 そう。気付けばわしを中心に輪が出来上がり、焼き肉パーティーとなっていた。兵士は肉の代金を払うと言って来たが断って、代金の代わりに歌や芸をさせていたら、大きな笑い声の響く騒ぎになっていたのだ。

 どうやら、王様直々に来たのは、わしを怒る為だったらしい。


 まぁ楽しかったからいっか。


「そうですね」

「楽しかったニャー」


 リータとメイバイも一緒に怒られてくれたのは嬉しいけど、心を読まないで!

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