715 時の賢者の最大攻撃にゃ~


「はぁ~~~……面倒臭くなって来たにゃ」


 時の賢者が作りし百体にも及ぶ多種多様な妖怪が押し寄せる中、わしは長いため息が出てしまった。


『諦めるなら、降参を告げるのだ。その時、土下座を忘れないように』


 すると時の賢者がわざわざルール説明してくれたが、わしは諦めたわけではない。


「正攻法はやめただけにゃ。【吸収魔法・球】にゃ~!」


 ここでわしはズル発動。わしを中心に吸収魔法の膜を広げ、真っ直ぐ進む。それだけで、足下の罠も立ち塞がる透明な板もくり貫かれたように消えて行く。


『なんだ? 魔力を吸っている??』


 時の賢者が言い当てて何か計算しているようだが、わしは待ってやらない。ゆっくりと前進する。しかしその時、鬼が金棒を振り上げて襲い掛かって来た。


「お、にゃかにゃかの魔力量だにゃ」


 鬼は【吸収魔法・球】で吸収し切れない魔力量だったので、刀で斬って霧散。これで吸収しやすくなったので、残らず吸い取ってやる。天狗やカッパも斬って前進していたら、時の賢者が復活した。


『全軍一斉攻撃!』


 妖怪達がわしを取り囲むように動いたところを見ると、透明な罠や板は解除した模様。どうしたものかと考えていたら、妖怪達はわしを覆い尽くすように一斉に飛び掛かって来た。


『わはは。爆発の連鎖に巻き込まれろ!』


 どうやら【百鬼夜行】と言う魔法は、妖怪が一体一体爆発する機能があると時の賢者が教えてくれたので、わしはその場で回転し、間合いに入った妖怪を全て斬り刻んでやった。


「ありゃりゃ。にゃにも起きなかったにゃ~」

『な、何が起こった……』


 本来ならば、妖怪は連鎖爆発を引き起こしてわしでも死に至る威力であっただろうが、爆発する前に霧散しては【吸収魔法・球】に吸収されて効果はゼロ。

 この結果に時の賢者、はたまたピラミッドの機能はフリーズしたように見えるので、わしは一気に距離を詰めようとした。


「にゃ? 無駄にゃ努力するにゃよ~」


 しかし、また透明な板が現れ、隙間なくびっしりとモノリスに向けて並んでいたので、わしは速度が出ない。


『ここからが本気だ。手加減なしの魔法をとくと見よ! 【四獣】だ~~~!!』


 時の賢者の本気は、わしと同じく【四獣】の召喚。火の鳥【朱雀】、風の虎【白虎】、氷の龍【青龍】、土の亀【玄武】。同じ日本人だから、考える事は一緒のようだ。

 しかしわしとは大きさが違う。一体が20メートルもあるので、おそらく威力は、軽く倍は超えているだろう。


「それじゃあわしも……【四獣】にゃ~!」


 【単鬼猫たんきねこ】発動中ならば、わしの【四獣】も威力アップ中。


『ハッ……モノマネで勝てると思うな!』


 時の賢者が鼻で笑う中、お互いの【四獣】は同じ属性の魔法生物とぶつかった。


『押せ~~~!』

「頑張れにゃ~~~!」


 四体の獣のぶつかり合いは、残念ながらわしの【四獣】のほうが小さいので押され気味。およそ十秒後に、わしの【四獣】は霧散してしまった。


『そのまま踏み潰せ~~~!!』

「それは無理にゃ相談だにゃ~。【三鬼猫みきねこ】にゃ! からの【四獣】にゃ~!!」


 わしは何も負けるのを黙って見ていたわけではない。【参鬼猫】のチャージ時間を待っていたのだ。

 わしの狭い額に白銀のアホ毛が三本ピョンッと立ってからの【四獣】。【参鬼猫】発動中という事もあり、時の賢者の【四獣】と同サイズで、威力もそれより上。

 先の押し合いで威力の削がれた【四獣】ならば、一瞬で決着がついた。


『そっちがその気なら、こっちもその気! 再び【四獣】だ~!!』


 わしにマネするなと言ったわりには、時の賢者もわしのマネ。【四獣】のおかわりで、八体の魔法生物がぶつかり合う。

 今回は互角で同時に消滅したが、次の撃ち合いでは、わしが少し勝利。また時の賢者から【四獣】が召喚されてわしの負け。すかさず【四獣】を返す。


 【四獣】のぶつかり合いで、この空間は四季が一瞬で移り変わるかのように、気温が上昇したり低下したりするのであった……



『わはははははは』


 【四獣】の押しくらべは、わしの勝利。しかし、わしがゆっくりと前進していたら、時の賢者は不敵に笑った。


『よくぞここまで近付いた。次で最後の攻撃だ』


 どうやらこの距離まで近付いたら、時の賢者は笑う設定になっていたようだ。


「じゃあ、撃つ前にタッチしようかにゃ~?」

『もう遅い!』


 モノリスはすでに、板全体に魔法陣が浮き上がっており、その魔法陣は何重にも折り重なっているように見える。


『喰らえ。【天照あまてらす】……』


 時の賢者が静かな口調で魔法名を呟くと、先程のビームとは比べ物にならない熱量の巨大な炎の球が発射された。


 やっぱこいつアホじゃないか? 20メートルクラスの獣を消し飛ばすほどの魔法なんて、この施設諸共破壊できるぞ。

 まぁ本来なら、こんなに大きな魔法じゃないんじゃろうけど……ととと、こんなこと考えている場合じゃなかった。せめてリータ達で受けられるぐらいに威力を削がないと……


 コンマの世界でわしはツッコミを入れた後、これまたコンマ単位の連続攻撃を繰り出す。


「【御雷みかずち乱舞】にゃ~!!」


 太陽のような球体【天照】に対して、わしは口から【御雷】を乱発して対抗。いくら【参鬼猫】を使って威力アップ中と言えども、【天照】を少し削れただけだ。


「【吸収魔法・球】最大出力にゃ~!!」


 残りは吸収魔法の膜と体を張って止める。


「猫又流剣術奥義……【猫時雨ねこしぐれ】にゃ~!!」


 【天照】を体だけで止められるわけもないので、奥義と言っているだけのはちゃめちゃ斬り。【天照】の中を端から端に動き、【猫撫での剣】を無茶苦茶な剣筋で振りまくる。

 もちろんそんな超高熱の球体の中で動くのだから、ダメージ必至。毛は燃え、体も焼ける。いくら全速力で動いていても斬れない炎もある。


 わしは体に走る痛みに耐えながら、約一秒間に万の切り返しを行い、億の剣撃を放ったのであった……



『わはははは。勝負あったな!』

「きゃはははは。やっとシラタマは死んだんだよ! きゃはははは」

『だが、立ったまま息絶えるとは天晴れ! お前の生涯に一片の悔い無しだ!! わはははは』


 【天照】が白い壁に衝突して完全に消えると、そこには黒焦げのわし。着流しは完全に燃え尽き、【猫撫での剣】を杖にして微動だにしなければ、時の賢者とノルンが笑っても仕方がない。


「にゃんでわしの気持ちがお前にわかるんにゃ~」

『わははは…は……は~~~??』

「きゃははは…は……は~~~??」


 そんな状態で文句を言ったら笑いが止まっても仕方がない。しかし、わしの体は満身創痍だ。


「痛いの痛いの飛んで行けにゃ~~~!!」


 わしは回復魔法の光に包まれ、数秒後には完全回復となった。


「にゃはは。さすがに死ぬかと思ったにゃ~。にゃはははは」

『化け物……』

「化け物なんだよ……」

「失礼にゃ~。ゴーレムに化け物呼ばわりされたくないにゃ~」

「ノルンちゃんだよ」


 ノルンのいつものツッコミは無視。わしはゆっくりと歩き出した。


 化け物って……マジでこいつら、誰にもクリアさせるつもりがないな。千年前はもっと威力は弱かっただろうけど、仮に百分の一でも、バーカリアンなんて蒸発する威力じゃったぞ。


 わしは心の中で文句を言いながら進むと、時の賢者フォログラムの目の前にて止まる。


「攻撃が来ないと言うことは、もう終わりってことかにゃ?」

『そうだ。予備バッテリーも使い切り、施設を維持する魔力しか残っていない。お前の勝ちだ』

「にゃはは。潔くてよかったにゃ~。さすが、AIにゃ~」

『AI、か……お前は転生者だな。もう少し早く来てくれていたら、戻る事が出来たかもしれないのに……』

「にゃにもここで待たずとも、故郷に帰ればよかったにゃ~」

『まぁいい。勝者はさっさとモノリスに触れよ』

「あ、そういう勝負だったにゃ。それじゃあお言葉に甘えるにゃ~」


 時の賢者との会話は少し引っ掛かるところがあったが、わしはフォログラムを素通りしてモノリスの前に立った。


「はい、タッチにゃ~。にゃははは……にゃ?」


 そしてモノリスに触れた瞬間、「パンッパンッ」とクラッカーのような音が鳴り響き、上から光の花びらがパラパラと降って来た。


『コングラチュレーション』

「コングラチュレーションだよ~」


 どうやらフィナーレの演出のようだ。時の賢者も、あのうっとうしかったノルンでさえ、わしを拍手で褒め称えてくれている。


「シラタマさ~ん」

「シラタマ殿~」

「モフモフ~」

「パパ~」

「ダーリ~ン」


 さらに駆け寄って来た、リータ、メイバイ、コリス、オニヒメ、イサベレも笑顔だ。


「そっちに余波は行かなかったにゃ? 大丈夫だったにゃ??」

「シラタマさんこそ、あんな中で動いて……死んだかと思ったじゃないですか!」

「本当ニャー! 無理しすぎニャー!!」


 わしが心配したら、リータとメイバイは涙目で抱き付き、コリス達も同じような顔になってしまった。


「ゴメンにゃ~。死なない自信はあったから、ちょっと無茶しちゃったにゃ~」


 しばしリータ達にわしはスリスリして、皆が落ち着いて来たら、【天照】の余波の事を改めて聞いてみた。


「みんな一瞬死んだと思ったのですけど、シラタマさんが飛び込んで行くのが見えたので、そのあとは必死でした」


 どうやら太陽みたいな球体は、発射された時点でリータ達に走馬灯を見せたそうだ。その走馬灯のおかげで集中力が上がっていて、わしが【御雷】を撃ち込んで飛び込んだ姿を黙視できたのだろう。

 そこからは、魔力が続く限り【土壁】や【光盾】を何重にも重ねて、リータの大盾も使ってなんとか熱を耐え切ったそうだ。


「もっと威力を削げたらよかったんだけどにゃ……みんにゃ無事でよかったにゃ~」

「それはこっちのセリフですよ」

「シラタマ殿だけなら避けられたニャー」

「絶対にそんにゃことしないにゃ。でも、みんにゃを置いて、一人だけ死ぬなんてこともしないからにゃ」


 わし一人で済むのなら喜んで命を差し出してもいいのだが、皆の心配している顔を見てしまっては、もうそんな事は出来ない。

 わしは全裸のまま皆の頭を撫でたりスリスリしたり、着替えを阻止されたりしながら誓うのであった。



「さてと……船を貰って地上に戻ろうにゃ~」

「「「「「はいにゃ~」」」」」


 一通り喜んだわし達は、時の賢者とノルンの前に立つ。


「ここから移動するのかにゃ?」

『モノリスの前に整列するのだ』


 わし達がモノリスの前に並ぶと、モノリスから数メートル離れた場所までの床が円形に沈下した。そうしてわし達の視界が360度壁になるまで沈み、地下に船があるのかとぺちゃくちゃ喋っていたら、360度壁の無い空間に出た。

 しばらく皆で喋りながらキョロキョロしていると、モノリスの乗っていた床は一番下に着いたのか、完全に止まった。


「ふ、船って……アレのことにゃ??」


 モノリスとは逆側に白銀の物体が見えていたので、わしは興奮が押さえ切れない。


『そうだ。アレこそ……』

「やったにゃ! UFOにゃ~! にゃっほ~~~!!」


 時の賢者が肯定したところで、わしはカットイン。見たまんま、円盤型のUFOの出現に、わしは男の子のロマンを押さえ切れずに「ひゃっほ~!」と走り出してしまうのであった……

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