716 UFOの秘密にゃ~


 時のダンジョン最終フロア、時の賢者の最強魔法を受け切ったご褒美は……


「やったにゃ! UFOにゃ~! にゃっほ~~~!!」


 白銀の円盤型の物体。そこそこ大きく何人もの人間が乗り込む事が可能なので、わしは時の賢者の説明を聞く前に走り出してしまった。


 まさかのまさか……本当にUFOが実在したなんて……感動じゃ~~~!!


 わしはUFOの周りを駆け回り、下を覗いたり屋根に登って頬擦りしていたら、ノルンがパタパタと飛んで来た。


「時の賢者様の説明が途中なんだよ」


 ノルンの言葉で「ハッ」としたわしが視線をモノリスの方向に持って行ったら、UFOの下にはリータ達が集まっていた。


「にゃ……えっと……その目はやめて欲しいにゃ~?」


 リータ達の目は生温い感じ。コソコソと「お子ちゃま」みたいな事を言われては、さすがのわしも恥ずかしい。なので、UFOからそうっと降りて、リータとメイバイの足にスリスリするわしであった。



 わしは二人に両手を握られて、人間に捕まった宇宙人みたいにモノリスまで連行されたら、時の賢者の説明が始まった。


『その乗り物はパカル王墓近くに埋まっていた物を俺が発掘した物だ。UFOに見た目は酷似しているが、実はまったくの別物だ』

「にゃ、にゃんだと……」


 ぬか喜び。わしはさっきまでのテンションと打って変わって、超ガッカリ。そんなわしを、リータとメイバイがニヤニヤしながらほっぺをプニプニつつく。


『その船の名称は「天の羅摩船あまのかがみぶね」。神々がこの地に降り立つ為に使った次元船だ』

「……次、元船にゃ??」

『そう。次元船……宇宙空間を旅をして他の惑星まで行くには、何光年も掛かるのは転生者ならわかるだろう。その時を、次元を歪めて省略する事が出来る船だ』

「じゃ、じゃあ、宇宙旅行が出来るんにゃ!? それってUFOにゃろ!?」


 わしのテンションは再びマックス。リータとメイバイの顔もドヤ顔で覗き返す。


『出来る! しかし、そんなことがこの船の最大の機能ではない!!』

「にゃ~?」

『この船は、時を省略するだけでなく、次元を渡ることが出来るのだ』

「じ、次元…にゃ……」


 と、いうことは……ということか? 時の賢者が戻りたがっていた場所は、もしかして……


 わしが驚愕の表情で固まっていると、時の賢者はわしが思っている答えを告げる。


『そうだ。平行線上にある世界にも行ける。元の世界にだって帰れるのだ~~~!!』


 元の世界への帰還。転生者であるわし達ならではの発想。猫の姿に生まれ落ちてから、何度も思い描いた世界。あの便利な世界に帰れると知ったわしの目から、熱い物が流れ落ちた。


「シラタマさん。涙が……」

「もしかして、帰りたかったニャー?」


 リータとメイバイは涙に気付いて顔を覗き込んで来たので、わしは涙を袖で乱暴に拭った。


「昔はにゃ。森の中で泥水をすすっていた時は惨めにゃ気持ちになって、にゃん度も帰りたいと思ったにゃ。でも、いまはリータが居るにゃ。メイバイが居るにゃ。コリスにオニヒメ……家族が居るから、わしは幸せにゃ~」

「愛人が抜けてる」

「まぁ……そうだにゃ……」


 イサベレがちゃちゃを入れるから笑顔が曇ってしまったが、これはわしの本心だ。森から出てさっちゃんと出会い、多くの人と交友を持つようになってからは楽しくて帰ろうと思った事は一切ない。


「ま、あれだけ大きにゃ船にゃ。みんにゃでわしの世界にだって行けるにゃ~」

「あ……本当ですね! シラタマさんの世界、見てみたいです!!」

「私もニャー! いっつも言ってたビデオカメラとテレビを買いに行こうニャー!!」


 純粋に見たいリータに続き、メイバイも買い物に行きたいようなので、コリスも食べ物を買いに行きたいとのこと。オニヒメも行きたいようだけど、何を目的にしていいかわからないようだ。


 イサベレは……わしの世界の恋愛指南書を買いたいのですか。それならようやくまともな恋愛が出来そうですね……え? どんなプレイをしてるか知りたいって……それはエロ本じゃ!!



 わし達が盛り上がっていると、蚊帳の外に置かれていた時の賢者が申し訳なさそうに話に入って来る。


『盛り上がっているところすまないが、そうは上手くいかないぞ』

「にゃんで~??」

『世界を渡るには、この世界を管理するスサノオノミコトから渡航券をいただかないとならないからだ。俺はこれを貰えなかったから、転生者のお前を待っていたんだ。なのに、遅すぎる……』


 なんか急にへこんだな。つまり、時の賢者は、渡航券を貰えるような転生者が現れるのを待っていたってことか。だからあんな転生者向けのメッセージを各地に書いていたんじゃな……ん? なんかおかしくない??

 時の賢者ってスサノオみずからスカウトしたと聞いていたのに、どうして渡航券は貰えないんじゃ? 魔法書やらこの時代にそぐわない時計やら渡していたのに……


「てか、にゃんで渡航券が貰えないんにゃ?」

『それはスリーサイズだ』

「お前までスリーサイズとか言うにゃ! 男にゃろ!!」


 時の賢者までノルンと同じような返しをするので、わしもキレてしまうのだ。


『冗談のわからない奴だな。本当は「裏手記」に書かれている』

「え~! 手記は12巻で終わりじゃにゃいの~?」

『裏も全12巻。次元船を手に入れた者へのスペシャルアイテムとして、最終フロアをクリアしたら一冊ずつ手に入るのだ』

「え~! またやること増えたにゃ~。てか、魔法書の13巻と揃えろにゃ~」

『ちゃんと計算しろ。魔法書の残りは、あと12巻だろう』

「シラタマは計算が出来ないほど脳がツルツルなんだよ」

「ノルンちゃんは黙ってろにゃ~」


 時の賢者と喋っているのに、ノルンがわしの事を愚弄するので腹が立つ。


『さらに、全てをコンプリートしたあなたには、禁書とスペシャルプレゼントがあるぞ~?』

「それはお得にゃ~……って、一回で終わらせてくれにゃ~」


 わしのノリッコミは却下。時の賢者はふざけていたくせに、違う話に変えやがる。


『次元船の使い方は禁書に書いてあるのだが、少しだけ内部の説明をしておこう』

「にゃ! 乗れるにゃ!? にゃっほ~~~!!」


 時の賢者が気になる事を言っていたが、それよりもわしは次元船も気になるので、嬉しくって飛び跳ねてしまう。


「チョロ過ぎるんだよ」

「「「「「うんうん」」」」」


 ノルンに何か言われて皆に頷かれていたが、わしはピョンピョン跳ねて次元船に向かっていたので気付かないのであったとさ。



 次元船には一人だけ先に到着してしまったので、皆を待つ間、簡単な調査。わしは白銀の円盤を触ったり魔力視の魔法を使ってよく見たりしていた。


 神々の乗り物か……どうりで色が白銀のわけじゃ。三種の神器と同じ色じゃわい。やっぱりこの世界、神様の落とし物が何個もあるんじゃないか?

 この漢文に何が書かれているかわかれば、どんな魔法が使われているかわかるんじゃけどな~……三種の神器ですら無理ゲーなのに、それより多いなんて不可能じゃろう。それなのに時の賢者は解読したのかな? どんだけ天才やねん。

 てか、こんなデカイ物にビッシリ漢文が浮かんでいるから、見てるだけで頭が爆発しそうじゃ。


「頭なんて抱えてどうかしましたか?」


 わしがウンウン唸っていたら、リータが頭を優しく撫でてくれたので、さっきまで調べていた事を発表。やはり難し過ぎるので、皆はあまり聞いてくれなかった。


「こっちだよ~」


 わし達が喋っていたらノルンに呼ばれたので、円盤の正面か裏かもわからない場所に移動した。


「にゃ? ノルンちゃんだけにゃ??」

「時の賢者様はあの位置から動けないから、説明はノルンちゃんの役目なんだよ」

「ふ~ん……ま、元々フォログラムにゃし、どうせノルンちゃんのマイクから音を拾って盗み聞きしてるだろうから、この場に居る必要はにゃいか」

「スリーサイズだよ。それじゃあ説明するんだよ~」


 ノルンの説明は、まずは入口から。まったく意味のわからない言葉をノルンが唱えると、円盤の下部の一部が音も無く開いて階段が現れた。


「にゃんだ~。光線が出て中に入れるんじゃないんにゃ~」

「その機能も付いてるんだよ。でも、機内からしか使えないんだよ」

「マジにゃ!? にゃっほ~!!」

「アホ面してないで中に入るんだよ」


 ノルンに馬鹿にされても、わしは興奮しているので気にもならない。ノルンに言われるままに次元船の中へと入った。


「中も白銀一色だにゃ~。外は見えないにゃ?」

「この船の操作には、全て呪文が必要なんだよ。こんなふうにだよ」


 ノルンがパタパタと飛んで四角い板に乗り、またしても意味のわからない言葉を発すると、白銀だった壁が360度透明になって外の景色となった。

 空の上でやったら絶景なのだろうが、如何いかんせん、外は白魔鉱の壁のせいで真っ白。全員いまいちな感想を言っていたら、ノルンは新しい呪文を唱えた。


「お~。森の中に居るようだにゃ」

「内装も自由に変えられるんだよ」


 壁や天井や床が木や草だらけの映像になったと思ったら、ノルンが何度か呪文を唱えて、海や日本庭園も見せてくれた。さらには、テーブルや椅子を出す呪文もあって出してくれたので、各々座って談笑する。


「にゃるほどにゃ~。これにゃら長旅になっても飽きないにゃ~。てか、さっきからノルンちゃんはそこから動かないけど、にゃんか意味があるにゃ?」

「これに触れていないと、内部の機能が一部しか使えないんだよ」

「コントロールパネルみたいにゃ物にゃんだ。あっちの壁に色が変わってない四角い膨らみがあるけど、それも同じかにゃ?」

「その通りなんだよ。でも、船の操縦はここからしか出来ないんだよ」

「へ~。ちょっと浮き上がらせてにゃ~」


 わしのお願いに、ノルンは首を横に振る。


「それは無理なんだよ」

「にゃんで~?」

「シラタマ達が暴れたせいでエネルギー不足なんだよ」

「にゃ? にゃんでわし達が関係してるにゃ??」

「時の賢者様が言ってたの、もう忘れてるんだよ。予備バッテリーも使い切ったと言ってたんだよ」


 予備バッテリー? ……あ、最終フロアクリア時にそんな事を言っておったな。つまり、わし達のダンジョン攻略のせいで、ピラミッドに貯めた魔力では足りなくなって、次元船に貯めていた魔力を使ったということか。

 となると、この次元船も魔力が動力源なんじゃな。そう言えば、三種の神器は魔力が底無しだったんじゃから、次元船も同じ機能を付けておいてくれてもいいのにな。ま、貯めればいい話か。


「これって、どうやって魔力を補充するにゃ?」

「自然に回復する機能は付いてるけど、魔力濃度の高い場所に置いておくほうが早く回復するんだよ」

「ふ~ん……ちにゃみに、満タンになるまでにゃん時間掛かるにゃ?」

「いまはすっからかんだから、およそ十年だよ」


 じゅっ……わしの聞き間違いか??


「いま、にゃん時間って言ったにゃ??」

「時間じゃないんだよ。年だよ。十年だよ」

「じゅっ……十年にゃ!? いますぐ乗れにゃいの!?」

「そう言ってるんだよ。シラタマ達があんなにモンスターを壊すから悪いんだよ」

「そっちのせいにゃろ~~~!!」


 たしかにモンスターを壊しまくったのはわし達なのだが、さじ加減ってものがあると思う。超ハードモードや予備バッテリーを使う事を決めたのは、ピラミッドの機能だ。

 どう考えても設定がおかしいのに、そのせいで次元船がいますぐ使えないので、わしは夢を打ち砕かれた気分になるのであったとさ。

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