215 討伐開始にゃ~


 フェンリル討伐の会議が行われている会議室に入ったわしは、北の街で有名らしいあんちゃんの紹介するギルマスに目を向ける。


 ギルマスなのに、なんであんな隅っこに座っておるんじゃ? それにゲッソリして幸が薄そうな女性じゃな。


「あにゃたが、ギルマスにゃ?」

「ボソボソ」

「にゃ~?」

「ああ。そいつは声が小さいんだ。気にしなくていい」


 ギルマスの女性が何を言っているか聞こえないので、わしが疑問の声を出すと、あんちゃんが会話に入って来た。


「そいつにゃんて、ギルマスに対して失礼じゃないかにゃ?」

「ギルマスは審査官上がりで、何を言っているかもわからないから、俺達はいまいち信用してないんだよ」

「ふ~ん。にゃんでまた、そんにゃ人がギルマスなんてやってるにゃ?」

「王女様の事件で、前ギルドマスターが不正をしていたんだ。それでクビ。変わりに、そいつがやって来たってわけだ」

「あ~。そんにゃ事あったにゃ~」

「猫が関わったことだろう……」

「ギルマスさん。ひとまずこの短刀を見てくれにゃ。あんちゃんにはハンター証にゃ」


 わしはペンダントをあんちゃんに渡すと、たもとに手を入れ、次元倉庫から女王に貰った短刀を取り出し、ギルマスの顔の前に持って行く。


「どうにゃ? 女王の紋章が入っているにゃろ? ほら、うなずいてるにゃ~」

「たしかに頷いているな……。それに、本当にB級の刻印がある……」

「それじゃあ確認は終了って事で……。いま、会議を仕切っているのは誰にゃ?」

「バーカリアンさんだ」

「ハーハッハッハ-」


 なに? 笑うところあったか? とりあえず、馬鹿は無視無視。


「領主様は来てないにゃ?」

「猫! 無視するな!!」

「あとで相手するんで、もうちょっと待ってくださいにゃ~」


 わしが無視してもバーカリアンはからんで来るので揉めていると、あんちゃんはバーカリアンを無視して説明してくれる。、


「領主様も王女様の事件でいなくなった。いまは代官様が治めているが、代官様は出兵しているらしく、その代理で息子が来ている」


 息子? ずっと気になっていた男の子の事か……。それにしても小さい。


「あの子、いくつにゃ?」

「八歳だ」

「それにゃあ、仕切る人物は……」

「バーカリアンさんしかいない」

「ハーハッハッハー」


 だから、何処に笑うところがあったんじゃ? それに、馬鹿に指揮させて失敗したところじゃろう? こいつにだけは指揮官をさせてはいけないな。……致し方無い。


「とりあえず、わしも会議に参加してもいいかにゃ?」

「話が進んでいなかったし、俺はかまわない」

「猫がか……。目立たないなら許そう」


 あんちゃんとバーカリアンから許可をもらったので、わしは次の話に移る。


「ありがとにゃ。でにゃ。きっちり役職を決めたいと思うにゃ」

「猫! それが狙いか! 大将は俺様以外、有り得ない!!」

「わしもそう思うにゃ」

「な……」

「わしはバーカリアンさんを支える、参謀の役職に就くにゃ」

「……そうか」

「で、参謀からの提案にゃ。あんちゃんを副大将に。アイをその補佐に任命するにゃ」


 わしが役職の提案をすると、あんちゃんは自分を指差す。


「俺が?」

「北の街で有名なんにゃろ? あんちゃんにゃら土地感もあるし、みんにゃも指示に従ってくれるにゃろ?」

「ああ。なんとかなると思う」


 あんちゃんは自信ありげな顔をして、副大将の任を受けてくれた。そんな中、わしが勝手に巻き込んだアイは、疑問の声を出す。


「私はなんで補佐なの?」

「大勢を指揮するにゃら、あんちゃん一人じゃ大変にゃ。敵も多いにゃら、別れて指揮する人が必要にゃ」

「そんな大勢、指揮なんて出来ないわよ」

「だから、補佐にゃ。あんちゃんが最初に指揮し、あんちゃんの命令をみんにゃに伝える役にゃ」

「それだったら……」

「あんちゃんと、アイには取り巻きを頼むにゃ」

「「わかった(わ)」」


 二人は力強く了承してくれたが、一人納得が出来ないと声を荒らげる。


「猫! 俺様の活躍の場が無いじゃないか!!」

「バーカリアンさんは、一番活躍出来るとこにゃ」

「一番?」

「フェンリルに突撃にゃ。バーカリアンさんしか出来ないにゃ」

「たしかに……」

「わしのパーティが、バーカリアンさんパーティの道を切り開き、余裕があったら後方支援するにゃ。あんちゃんとアイは、ザコの殲滅。速やかに殲滅して、フェンリル退治に協力してくれにゃ」

「おう!」

「はい!」

「むう……」


 あんちゃんとアイはいい返事をくれたが、バーカリアンは何やら難しい顔をしている。


「バーカリアンさんは、この作戦に反対なのかにゃ?」

「いや……猫にいいようにあしらわれている気がするんだよな」


 あら。主導権を奪ったのがバレたか? まぁ馬鹿だから、褒めておけばいいか。


「そんにゃ事ないにゃ。大将はドーンと構えているのが仕事にゃ。それに作戦が失敗したらわしのせい。成功したら、許可を出したバーカリアンさんの手柄にゃ。この決断は、バーカリアンさんしか出来ないにゃ」

「そうか! 俺様にしか出来ないのか。その作戦、許可しよう!」

「ありがとにゃ。では、街の外に陣を張るにゃ。ハンター達への説明は……あんちゃん、お願いにゃ~」

「ああ、わかった。行こう!」


 わし達は会議室を出て、ハンター達の前に立つ。あんちゃんは、上手うまくバーカリアンを立てて作戦の概要を説明し、アイの補佐も、皆に認められた。どうやら本当に、北の街では有名人みたいだ。


 こうしてハンターの結束は固まり、皆で街の外に陣を張るのであった。


 その陣でも、あんちゃんは指示を出し、どうみても大将はバーカリアンに見えなかったが、バーカリアンはわしが大将用に作った玉座にふんぞり返って気分が良さそうだから、近付かない。


 準備はあんちゃんとアイに任せて、わしもサボ……リータとメイバイに指示を出しに行く。


「けっこう冷えるけど、大丈夫にゃ?」

「寒いです~」

「凍えそうニャー」

「ちょっと待つにゃ」


 わしは次元倉庫から薪を取り出すと、魔法で火を点ける。それを見ていた者からも、くれくれとうるさかったから、大量の薪を出して、あとは好きなようにさせる。


「ありがとうございます」

「あったまるニャー」


 三人で火を囲むと、リータとメイバイから質問が来る。


「それにしても、シラタマさんが指揮をしないのですか?」

「てっきり大将は、シラタマ殿だと思っていたニャー」

「わしは参謀にゃ。作戦は伝えたから、わしの仕事は半分終わったにゃ」

「まさか、アイさんに仕事を押し付けたのですか?」

「違うにゃ~。適材適所にゃ~」

「それなら、大将になったらよかったニャー! シラタマ殿は、大将が一番似合っているニャー」


 いや、似合わんじゃろ? わしは猫じゃぞ? 誰が猫の指示に従う?? とりあえず、二人の期待の目が痛いから、言い訳のひとつでもしておくか。


「バーカリアンを見てみろにゃ」

「みんな働いているのにくつろいでいますね」

「偉そうニャー」

「大将ってのは、あんなもんにゃ。わしには出来ないにゃ~」

「似たようなものですよ?」

「そうニャ。よく、くつろいでるニャー!」


 わしが馬鹿と一緒じゃと? そんな事した事が……うん。ないない。あるわけない。森の中でお茶とかした事なんてない。意義申し立てるぞ!


「そんにゃ事、した事ないにゃ~」

「「………」」

「にゃんか言ってにゃ~」

「「………」」

「し、した事あるにゃ……」


 わしの異議は無視。二人の冷たい目に負けてしまった。


「ほら」

「いつもしてるニャー」

「うぅぅ。バーカリアンと一緒にしにゃいで~~~」

「モフモフしてるから、一緒じゃないですよ」

「そうニャー。いつもかわいいニャー」

「ゴロゴロ~」


 う~ん。バーカリアンと一緒じゃないって言ってくれたけど、なんだかな~。モフモフもかわいいも、関係ない気が……



 わしが和やかに撫でられてゴロゴロしていると、アイ達がその輪に入り、撫でてくる。


「ゴロゴロ~。もう準備はいいにゃ?」

「ええ。まったく、いきなり大役を押し付けないでよね」

「ちょうど居たからにゃ。それに、他のパーティの事を知らないから、居にゃくても、アイ達を推してたにゃ」

「まぁこれが終われば、昇級ポイントが大きく入りそうね。トーケルさんも張り切って、やる事が少ないからおいしいかも」

「トーケルさんにゃ?」

「猫ちゃんが、あんちゃんって呼んでた人よ」


 そんな名前だったのか。そう言えば、誰も自己紹介していなかったな。ギルマスも少年も、名前を聞きそびれた。こっちはあとでするとして、いまは……


「尻尾で遊ぶにゃ~!」


 わしは、尻尾をいじり倒している、マリー、エレナ、ルウに怒鳴ったが、まったくやめてくれない。


「だって増えてるんですもん!」

「これを売れば……一本ちょうだい!」

「売るなんてダメよ。巨象みたいに、きっと美味しいわよ」

「売り物でも、食べ物でもないにゃ~!」

「はぁ……」

「モリーも助けてくれにゃ~」


 わしの尻尾が増えて、マリーは興味深々で握り、エレナは売り物としてつかむ。ルウに至っては、噛みやがった。

 モリーに助けを求めても助けてくれなかったので、自分で対処するしかない。伸びる魔の手は、三本の尻尾で叩き落とす。


 そうして世間話をしていると、探知魔法に賑やかな反応が引っ掛かった。


「アイ。来たにゃ!」

「え? 吹雪でよく見えないけど……猫ちゃんが言うなら本当なのね」

「本陣に行くにゃ~!」

「「「「にゃ~~~!」」」」


 気の抜けた返事の中、わし達は小走りに進み、本陣に居るバーカリアンとトーケルに、獣の群れが来た事を伝える。

 吹雪で見えない敵に、最初は半信半疑だったが、アイ達が説得をしてくれて、なんとか信じてくれた。


 まだ接触には時間があったので、バーカリアンにハンターの士気を高めるようにお願いする。バーカリアンは目立てるのが嬉しいのか、ふたつ返事で了承してくれた。


『聞け! これより獣の群れが攻めて来る。あと数分で見えるはずだ。さっきは不甲斐ない結果となったが、今回は俺様も本気を出す。フェンリルの相手は任せろ。お前達は目の前のザコに集中すればいい。俺様がフェンリルの首をあげてやる! 行くぞ!!』

「「「「「「おおおお!!」」」」」」


 バーカリアンの言葉に、ハンター達は大声で応える。皆が持ち場に移動し、戦闘準備が整った数分後、吹雪の中を、うっすらと獣の群の影が見えて来た。

 その影を確認したトーケルは、ハンター達に指示を飛ばす。


『遠距離攻撃部隊、準備しろ! 引き付けて一斉射撃するぞ!』

「「「「「おお!」」」」」

『まだだぞ~……』


 トーケルは距離を測り、声を溜める。そして、獣が肉眼で確認でき、かつ、遠距離攻撃が可能になると……


『放て~~~!』


 トーケルの声で、一斉に弓矢や魔法が放たれる。


「キャン!」「キャワンッ」「ガー!」


 遠距離攻撃を喰らった獣は、悲鳴をあげて倒れていく。ハンターからの遠距離攻撃は何度も放たれるが、数が多い。物量で接近されてしまった。


『遠距離攻撃はここまでだ! 皆、得物を持て! 近距離攻撃に移るぞ! 一匹も街に入れるな! 突撃~~~!!』

「「「「「おおおお!!」」」」」


 ハンター達はトーケルの声に呼応し、各々得物を抜いて獣に突撃する。激しい乱戦となるが、士気の高いハンターが押している。


 そうして前線が横に長くなると、トーケルはアイを見る。


「それじゃあ、アイ。俺は右翼を指揮する。アイは左翼を頼む。死ぬなよ」

「ええ。トーケルさんも死なないでね」

「行くぞ!」

「「「おう!」」」

「行くわよ!」

「「「「はい!」」」」


 トーケルとアイは、各々のパーティに声を掛けると、左右に分かれて本陣から駆けて行くのであった。



 その頃、わしはと言うと……


「またコーヒーなんて飲んで~!」

「みんな戦ってるんだから、真面目にやるニャー!」


 コーヒーを飲みながらまったりしていたら、リータとメイバイに怒られていた。

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