216 これがフェンリルにゃの?
北の街でのフェンリル襲来。ハンター達の戦う姿を見ながら、わしはコーヒーを飲んでまったりしていたら、リータとメイバイに怒られた。
「まぁまぁ。わし達の出番はもう少しあとにゃ。リータ達も飲むにゃ~」
「だ~か~ら~~~」
「まったくシラタマ殿は……」
「バーカリアンさん達も飲むにゃ?」
「それはコーヒーか? いただこう」
わしは本陣に残っていたバーカリアンパーティにコーヒーを振る舞う。その姿を見たリータ達は諦めたのか、席に着く。
「なかなかうまいじゃないか」
「ありがとにゃ~。そのコーヒーは……」
わしがコーヒー談議でバーカリアンと話し込んでいると、リータとメイバイが肩を掴んでゆさゆさと揺らす。
「コーヒーの話で盛り上がっていないで、これからの話をしましょうよ~」
「にゃ? わかったにゃ~」
「やっとニャー」
「いま、フェンリルは遠くにいるにゃ。だから、わし達がフェンリルに突進したところで、ザコに囲まれて辿り着くまでに時間が掛かっちゃうにゃ」
「フェンリルが動くのを待っているのですか?」
「まぁにゃ。もしくは、ザコが広がったり減ったりして、中央が薄くなるのを待っているにゃ」
わしがまったりしていた言い訳……ではなく、理由を説明すると、二人は驚いた顔をする。
「意外と考えているんだニャー」
「意外ととは、なんにゃ~!」
「ごめんニャー」
まったく……超考えてるっちゅうねん。わし一人で余裕だから、仕事の割り振りが大変なんじゃ。割り振りはあんちゃんに任せたけど……
リータ達がようやく納得してくれたので、わしはバーカリアンパーティの戦力確認をしておく。
「ところで、バーカリアンさんのパーティは、女性三人だけにゃ?」
「ああ。俺様のファンだ」
ファン? パーティじゃないのか?
「ちなみに戦闘方法は、にゃんですか?」
「全員魔法使いだ。そこらの魔法使いより強いぞ」
剣士一人に魔法使い三人って……偏り過ぎじゃろ! これは予定を狂わされてしまったな。作戦変更じゃ。
「簡単にゃ作戦を伝えておくにゃ。フェンリルまで辿り着くまでは、バーカリアンさんパーティを温存したいにゃ。これでいいかにゃ?」
「う~ん……まぁいいだろう」
「でにゃ。わしが先頭で道を切り開き、メイバイが
「「はい(ニャ)」」
「「「「わかった(わ)」」」」
リータ達もバーカリアンパーティも、いい返事をくれたところで、わしは次の作戦に移行す……
「それじゃあ……もう一杯飲もうかにゃ」
「「まだのんびりするの!?」」
リータとメイバイにツッコまれたが、わしはコーヒーをすする。でも、納得できないのかポコポコと殴られ、わしの座っている椅子が壊れた。
このままでは埋められてしまうので、バーカリアンの後ろに逃げた。だが、逃げた場所が悪く、女性三人にわしは撫でられてゴロゴロ言ってしまい、リータとメイバイだけでなく、バーカリアンが剣を抜いてかかって来る事態となった。
「にゃ!? 待つにゃ!」
「俺様のファンに手を出したんだ。問答無用!」
「リータ、メイバイ。助けてにゃ~」
「シラタマさんが悪いんです」
「浮気するから悪いニャー」
「にゃ……」
「死ね~~~!」
「にゃ~~~!」
敵はフェンリルなのに、皆、わしに飛び切りの殺気を放ち、攻撃を繰り出す。わしはひょいひょい避けて、説得するが聞く耳持たず。
そんな事をしていると時間が過ぎ、攻めるにはいい頃合いとなった。
そこでわしは、バーカリアンの斬撃を真剣肉球取り。止まったところで声を掛ける。
「そろそろ行けるにゃ。体も温まって丁度いいんじゃないかにゃ?」
「ぐ……続きは終わってからだ! 行くぞ!!」
「にゃ!? 待つにゃ! みんにゃさっき言った陣形で追いかけて来るにゃ。わしはバカを捕まえて来るにゃ~」
「「はい(ニャ)!」」
「「「わかったわ」」」
わしはそう言うと、バーカリアンを追い掛ける。バーカリアンの事をバカと呼んだが、どうやら全員、バカで通じたみたいだ。
当然、わしのほうが走るのが速いのですぐに追い付き、マントを
かなり怒っていたが、皆が追い付いて来ると、渋々陣形を組んでくれた。やっと陣形が整ったので、リータの走る速度に合わせて走り出す。
しばらく走るとわし達は、ハンター達の戦闘区域に入った。
「バカさん、頼むにゃ!」
「誰がバカさんだ!」
「いまはそれどころじゃないにゃ~」
「チッ……」
バーカリアンは舌打ちすると、声を張りあげる。
『中央を開けろ! これより、フェンリルに突撃する!!』
「「「「おお!!」」」」
ハンター達はバーカリアンの声に応えると、下がりながら道をあける。十分に道が開いたら、わしは風魔法を使う。
「【三日月】にゃ~!」
わしの放った三日月を模した風魔法は、10メートルもの大きさで、地上と平行に飛び、わし達の前を塞いでいた獣は真っ二つに斬られて死んでいく。
その光景を見たハンター達は、
ありゃ? ハンターも獣も、わしを見て動きが止まっておる。軽く薙ぎ払ったつもりだったんじゃが……
『おい! お前達、何をしている! 目の前の敵に集中しろ!!』
「「「「「お、おお!」」」」」
バーカリアンの言葉に、我に返ったハンター達は再び声をあげ、獣を斬り付ける。
「バカさん。ありがとにゃ~」
「バーカリアンだ! それと、その程度の魔法でナンバーワンの俺様に勝ったと思うな!」
「わかってるにゃ~」
「フンッ!」
ハンター達は自分の仕事をこなそうと、わし達の通った前線を塞ぎ、わし達はまっすぐにフェンリルに向かう。
【三日月】で開けた穴は大きかったが、しばらく走ると、徐々に穴は小さくなり、獣の牙がわし達に届く。
わしは前方に【鎌鼬】を放って道を切り開き、バーカリアンは横から来た獣の足を斬り、機動力を奪う。リータも横から獣が来れば、拳で弾き飛ばし、メイバイも後方から襲う獣の足を狙う。
こうしてわし達は速度を落とさず走り続け、フェンリルと対峙するのであった。
デカイ……10メートル以上あるな。尻尾三本の白。力は出会った頃のキョリス並み。イサベレの力の十倍もある、人間からしたらかなりの化け物。さすが伝説のフェンリルじゃ。
しかし、襲って来ていた獣もおかしいと思っていたが、やっぱりフェンリルも狼じゃなかったな……なんでダックスフンドなんじゃ!
獣もドーベルマンやら、ゴールデンレトリバー。チワワやコーギーもいたな。わりと犬好きなのに、なんて事させるんじゃ! 猫が犬好きってのもおかしな話じゃな……
「さて。一番手は誰が行くにゃ?」
「もちろん俺様だ!」
わしが振り向いて声を掛けると、バーカリアンがズイッと前に出た。
「わかったにゃ。リータとメイバイは、バカパーティを守ってやってくれにゃ」
「シラタマさんはどうするんですか?」
「わしはバカさんのアシストにゃ」
「バーカリアンだ!」
「魔法使いの人は援護よろしくにゃ~」
バーカリアンは、無視するわしへの追及を諦め、パーティメンバーである三人の女性を見る。
「お前達、いつも通りで行くぞ!」
「「「はい!」」」
バーカリアンパーティの準備が整うと、わしが音頭を取る。
「それじゃあ、行っくにゃ~!」
「おう!」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」
「な……」
「バカさん。来ないにゃら、わしがファーストアタックもらうにゃ~」
「ま、待て~~~!」
わしは盾にも使える変形トンファーを次元倉庫から取り出し、文句を言いたげなバーカリアンを置いて走り出す。バーカリアンはわしを追って走り出すが、バーカリアン以外のメンバーが「にゃ~~~!」と、言っていたのは謎だ。
盾を前に構え、走っていると犬達が道を塞ぐので、わしは変形トンファーをくるくる回し、犬達を弾き飛ばす。
そしてバーカリアンの射程範囲に入ると、バーカリアンは勝手にわしの後ろから飛び出し、最速の剣で、フェンリルの前脚を斬る。
だが、フェンリルは防御力が高いのか、バーカリアンの剣で付けた傷は浅かった。
白魔鉱に魔力を込めて切れ味を増したのに、あの程度か。これでは、バカだけではトドメを刺せないな。おっと。
バーカリアンは切れ味が信じられなかったのか、足を止めて、フェンリルの前脚に何度も剣を振るうが、そこをフェンリルの逆の前脚が襲う。
わしはバーカリアンとフェンリルの間に立ち、変形トンファーを盾にして、ガッシリと受ける。体重が軽いので吹っ飛ばされそうになったが、土魔法で踏ん張れる足場を作り、事なきを得た。
う~ん……何かがおかしい。ホワイトトリプルの攻撃は、この程度の威力なのか? これでは実力の半分も出ていない。手加減しているのか?
「くっ! た、助かった……」
「そんにゃのいいにゃ。バカさんの攻撃はあまり効いてにゃいけど、どうするにゃ?」
「フッ。まだまだこれからだ」
いや、どうするか聞いておるんじゃ。
「ファン達、頼んだぞ!!」
「「「はいは~い」」」
だから、どうするんじゃ!
わしの心配を他所に、バーカリアンの攻撃は、フェンリルに通じ始める。バーカリアンパーティが魔法で補助を行ったからだ。
ゾーエはバーカリアンの剣に炎の付加魔法を使い、ロレッタがバーカリアンに肉体強化魔法を重ね掛け。カルメンが風魔法で牽制しつつ、空中にバーカリアンの足場を作る。
皆の協力を受けたバーカリアンは空中を駆け、フェンリルの胴体や頭に炎の剣を振り下ろす。その都度、フェンリルから小さな悲鳴が聞こえる事となった。
なるほど。魔法使いの三人は、全てバカの補助に徹しておるのか。いまのバカならイサベレに匹敵する……いや、上をいっておるな。
いまはリータとメイバイが三人娘を守っているからいいものを、いつもはどうしておるんじゃろう? その時々に役割が変わるのかな?
しかし、フェンリルの動きがおかしい。何かに縛られているみたいに動きが鈍い。それに攻撃魔法すら使って来ない。どうなっておるんじゃ?
何か様子がおかしいが、ここはラッキーと思って、わしもバカを援護するか。
わしは空中を駆けるバーカリアンを援護すべく、右手の得物を【白猫刀】に持ち替え、下から攻撃を喰らわせる。
フェンリルもわしの攻撃のほうがきついのか、わしに標準を合わせて、バーカリアンの攻撃を無防備に受けていく。
ん? いま、何か見えた気が……
わしはフェンリルの攻撃を
線? うっすらと光の線が見える。吹雪で途中までしか見えないが、かなり先まで伸びているのか? 気になる……
わしが光の線を目で追い、フェンリルの攻撃を避けていると、バーカリアンが空から降って来た。
「はぁはぁ……」
「どうしたにゃ?」
「少し休憩だ」
「にゃら、ファンのところでザコを相手してるにゃ。リータとメイバイを呼んで来てにゃ~」
「……わかった。俺様が戻るまで持たせろよ!」
「オッケーにゃ」
バーカリアンは疲れたみたいなので、リータとメイバイに変わってもらう。わしが一人でフェンリルの攻撃を捌いていると、リータが大きな声を発する。
「シラタマさ~~~ん!」
「ちょっと待ってるにゃ~~~!」
「は~~~い!」
「【大風玉】にゃ!」
わしが風魔法で作った大きな風の玉を喰らったフェンリルは、押し込まれ、わしとの距離が大きく開く。その隙に、わしはリータとメイバイのそばに駆け寄る。
「お待たせにゃ~」
「私達を呼んでどうしたニャー?」
「バカは疲れたみたいにゃ。だから、わし達で時間稼ぎするにゃ」
「いいですけど、シラタマさんが倒したら早いんじゃないですか?」
「今日はバカに花を持たせてやろうにゃ。そろそろ、群れの数も減って、アイ達も来そうにゃ」
「そんな事しなくていいニャー。手柄はシラタマ殿が持って行くニャー!」
「そんにゃこと言うにゃ。わし一人で倒すより、みんにゃで倒した方が、みんにゃ倒した実感が持てるにゃろ」
「そうですけど……」
二人はどうしてもわしを活躍させたいようなので、話を少し逸らす。
「それに気になる事があるにゃ」
「気になる事ニャ?」
「にゃ! フェンリルがそろそろ戻って来そうにゃ。その事はあとで話すにゃ」
「はい」
「わかったニャ」
「とりあえず、わしは引き付け役をやるから、二人で後ろ脚を一本潰してくれにゃ」
「フェンリル相手に、私達で出来ますか?」
まぁ心配じゃろうな。じゃが、わしは出来ない事は言わん。
「わしの渡した魔道具は温存してたにゃろ? それを使って攻撃すれば、おそらくいけるにゃ」
「そうですか……でしたら、頑張ります!」
「私もシラタマ殿を信じて頑張るニャー!」
二人の顔が戦士の顔に変わると、わしは大きな声を出す。
「行っくにゃ~!」
「「にゃ~~~!」」
こうして、気の抜けた返事を受け、わし達の戦闘は続くのであった。
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